自民党は本日、参院選惨敗の総括を行い、それを午後の両院議員総会に報告したうえで、今月8日に臨時総裁選を実施するかどうかを判断するための手続に入るとみられます。参院選に敗北した直後にさっさと辞意表明しておけばよかったものを、石破首相が居座ったため、ここまで手続が伸びてしまった格好です。石破首相の態度は醜悪ですが、それだけではありません。すでに政治空白も生じているなど、実害も出ているからです。しかも総括に「解党的出直し」が明記されるとの報道もあります。
目次
慣例上、自ら身を引くのが自民党総裁のあるべき姿
石破茂首相が率いる自民党が国政選挙に2回連続して敗北したにも関わらず、その石破首相が辞めずに居座っている問題で、自民党内が事実上の「石破下ろし」でまとまるかどうかが注目されます。
これについては以前の『【仮説】総理経験者との面談は「最後通牒」だったのか』などでも触れたとおり、そもそも日本の政治は、法律や規則などで明文化されている部分もある一方で、次のように、明文化されていない慣習、あるいは「紳士協定的なルール」がいくつかあることを思い出しておく必要があります。
- 国会では議会第1党(または最大与党)が議長を、議会第2党(または最大野党)が副議長を出すことが慣例となっている
- 慣例的に国会の質問時間は野党の方が長く、与党の方が短い。また、野党に与えられた質問時間は最大野党が各野党に配分することが慣例となっている
- 在職中の国会議員が死去した場合、その議員と対立する立場にある議員などが追悼演説を行うことが多い
とくに歴代の自民党総裁は、選挙で敗北した場合には辞任しているケースが多く、2009年8月に行われた衆議院議員総選挙で自民党が地滑り的な惨敗を喫した際に、麻生太郎総理大臣が早々に敗北を認め、「自分に責任がある」と宣言して辞任したケースがわかりやすいでしょう。
麻生首相が敗北宣言、「責任を取らなければならない」-衆院選
―――2009年8月30日 22:25付 Bloombergより
また、選挙で負けても直ちに辞任しなかった例としては、その2年前、2007年参院選で自民党が敗北した際に、安倍晋三総理大臣が引責辞任しなかったことが挙げられますが、これは参院選が一般に政権選択選挙ではないためです(※ただし安倍総理は選挙から2ヵ月後に持病悪化を理由として辞任しています)。
石破首相の姿勢は醜悪なだけでなく、実害も生じている
こうした慣習・慣行的なルールは、国会の中だけではありません。与野党の党首は自身が率いる政党が選挙で大きく負けた場合には自ら身を引く、という暗黙のルールもそれでしょう。2021年衆院選では立憲民主党代表の枝野幸男代表(当時)が党代表を辞任しています。
しかし、今回の石破首相のケースは、明らかに異常です。
2024年10月の衆院選でも負け、25年7月の参院選でも負け、何ならその間の6月の東京都議選を筆頭にいくつかの地方選挙でも負け続けているわけです。
もちろん、安倍総理や麻生総理の事例、あるいは枝野氏の事例などと単純に比べられるものではありませんが、歴代自民党総裁の潔いふるまいに照らすならば、やはり首相(=自民党総裁)の椅子にしがみつく姿は醜悪です。
ただ、「醜悪」なだけではありません。
石破首相の居座りにより、すでにさまざまな政治日程に影響も出ていますし、なにより多くの国民が待ち望んでいる減税などの経済対策の議論は、自民党内では、ほぼまったくといって良いほど進んでいません。
野党が現在、ガソリン税の減税(暫定税率廃止)などを主導し、それらを自民党に突き付けていることは間違いないにせよ、自民党内から減税メニューが提示されることは期待しづらいところです(宮沢洋一税調会長にその能力があるとも思えません)。
個人的には「野党」も一括りにできるものではないと思いますし、残念ながら野党も(とくに一部政党は)実務能力が十分とは言い難いなかで、年内の減税は望み薄、といったところでしょう。経済的な恩恵が得られないとなれば、若年層を中心に、国民の自民党に対する不信はさらに募り、取り返しがつかなくなります。
だからこそ、石破首相は自民党を再生させたいと願うなら、潔く身を引き、後任に託すのが使命だったのであり、それをやらない時点で私利私欲の塊であり、国政を私物化しているのとまったく同じです。
党則第6条第4項とフルスペック総裁選
ただ、いくら石破首相を恨んだとしても、残念ながら自民党の党則上、総裁を無理やり辞めさせるという直接的な規定(いわゆるリコール条項)は存在しません。
いわば、自民党総裁は、辞めるべき事象(選挙で惨敗した、汚職事件が発生した、など)に際しては自ら身を引くという「紳士協定」で運営されてきた職であり、石破首相自身がこの慣例を破って居座ることを選択した以上は、もうこの紳士協定は通用しません。
もっとも、間接的にではありますが、石破首相を無理やり辞めさせる方法は、ないではありません。それが党則第6条第4項です。
自由民主党党則第6条第4項
総裁の任期満了前に、党所属の国会議員及び都道府県支部連合会代表各一名の総数の過半数の要求があったときは、総裁が任期中に欠けた場合の総裁を公選する選挙の例により、総裁の選挙を行う。
この党則第6条第4項の条件に照らすと、国会議員(衆195人+参100人)と都道府県連会長(47人)の合計(342人)の過半数(=172人)以上が臨時総裁選の実施を要求した場合は、総裁が欠けた時の例(自民党党則第6条第2項)に従い総裁選が行われます。
自由民主党党則第6条第1項
総裁は、別に定める総裁公選規程により公選する。
自由民主党党則第6条第2項
総裁が任期中に欠けた場合には、原則として、前項の規定により後任の総裁を公選する。ただし、特に緊急を要するときは、党大会に代わる両院議員総会においてその後任を選任することができる。
余談ですが、同第6条第2項によれば、後任総裁は両院議員総会だけで(つまり党員投票なしに)決定することもできますが、全国の自民党員からすれば、高市早苗氏が昨年の総裁選で党員票トップだったという事実をないがしろにされるのは面白くない話でしょう。
臨時総裁選の前提としての参院選総括
さて、この第6条第4項に話を戻しましょう。
この条文、もう少し正確にいえば、「現職総裁を直接に辞めさせるための規定」ではなく、あくまでも「臨時で総裁選を実施させるための規定」ですので、極端な話、現総裁である石破氏自身がこの臨時総裁選に出馬したって構いません(国会議員の推薦人が20人が集まれば、ですが)。
つまり、いったん自民党内で再度総裁選を実施するという手続を踏んだうえで、それでも石破氏が党総裁に再選されれば、石破氏は大手を振って自民党総裁としての職務に邁進すれば良いだけの話です(石破再選はあり得ない話だと思いますが…)。
あるいは自民党が党として、第6条第4項の発動を回避する、という可能性も(かなり低いですが)ゼロではありません。この場合も石破氏は任期いっぱい、自民党総裁として在任すれば良いのです(自民党が分裂し、不信任案が通ってしまう可能性もありますが)。
もちろん、くどいようですが、この第6条第4項の規定を発動せず、石破氏自身がみずから身を引くのが最も自然です。しかし、ここまで石破首相が話を引っ張ってしまった以上、まずは自民党が自ら、臨時総裁選を行うかどうかを判断する手続きを実施せざるを得ないでしょう。
ただし、その前提として、2日、つまり本日、参院選総括委員会で選挙の大敗を巡る報告書のとりまとめが行われることを踏まえておく必要があります。
総裁選前倒し、手続き開始へ 自民、2日に参院選総括
―――2025年09月01日19時33分付 時事通信より
自民党、両院議員総会で参院選総括へ 森山裕幹事長の去就焦点
―――2025年9月2日 5:00付 日本経済新聞電子版より
「石破首相は他人の腹で切腹する天才」
これについては本日中に内容が明らかになるでしょうから、公表された総括を読んで、なにか興味深い点があれば別途取り上げるかもしれませんが、それにしても驚きます。本来、自民党大敗の責任を論じるならば、それは「石破」の二文字で済むからです。
参院選から1ヵ月半も経って、この「二文字」をどう盛り込まないかを検討していたというのならば、呆れるほかありませんが、ただ、この「総括」を巡っても、なかなかに強烈な話題が出てきました。
共同通信が2日午前9時前に配信した記事によれば、この自民党の総括には「解党的出直し」なる文言が明記されるのだそうです。
党のトップである総裁が自ら辞めずに居座るのに、党の方には「解党的出直し」を要求する―――。
なんだか、強烈ですね。
SNSでは石破首相を「他人の腹で切腹する天才」と評した人がいましたが、言い得て妙です。報道が事実なら、「他人の腹で切腹する石破流の真骨頂」といったところでしょうか。
自業自得の石破首相、無様な解任劇の回避は困難か
さて、報道等から想像する、本日の流れは次の通りです。
- 午前…参院選総括委員会で選挙の大敗を巡る報告書を取りまとめ
- 午後…両院議員総会を開催、臨時総裁選の是非を問う党内手続開始
- 夕刻…森山裕幹事長が自身の進退を表明
そのうえで、臨時総裁選の是非を問う手続を8日に実施することとし、臨時総裁選の実施に賛同する議員の氏名が公表される旨も了承されるのだと思います。
この点、『氏名公表は完全に逆効果?むしろ総裁選の可能性上昇か』などでも指摘したとおり、「氏名を公表するぞ」、「政務三役は(臨時総裁選に賛成するなら)辞任してから署名しろ」、などの(首相官邸周辺からと思われる)圧力は、むしろ逆効果だった可能性が高そうです。
「総裁選に賛成した議員は氏名が公表される」ということは、「氏名が公表されていない議員は総裁選に反対したか、態度を保留した」ということを意味するため、そのような議員はおそらくSNSで強烈な落選キャンペーンを受けることになるからです。
こうした落選キャンペーンを気にしないのは、確固たる地盤がある議員か、SNSと無関係な支持層を持っている議員か、あるいは「次」がない「上がり」議員であるかのいずれかでしょう。
いずれにせよ、時間が経てば経つほど、状況は石破首相らに不利に働いています。このままでいくと、石破首相は引きずり降ろされることになり、自民党史上初の臨時総裁選により無様に解任された首相として歴史に名を刻むことになるでしょう。
「名誉ある撤退」のチャンスは何度もあったのに、それを無視して居座りを決め込んだ石破首相の浅知恵がなせる業であり、まさに自業自得そのものというのが妥当ではないかと思う次第です。
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1 2 次へ »日本人の美徳とされた潔さとか、清廉潔白とかとは程遠いですね。
今の日本国や、日本の政治の醜悪さを体現し、象徴する存在が石破総理ではないでしょうか。グダグダと何も決められず、無駄に会合だけ繰り返し時間だけ浪費する、まさに日本にふさわしい政府だと思います。これが今の日本の現実。
>グダグダと何も決められず、無駄に会合だけ繰り返し時間だけ浪費する< 最早どっかの野党第一党と大差ないですね。
今の状況から、かつての福島の原発事故発生時の政府の対応を思い出してしまうのは、私だけ?
グダグダしている様子は、「小田原評定」と言えるかもしれません。
今の状況で他国に攻め込まれてきたら、きっと「自衛隊がだらしないから」と言い逃れしそう。
解党的見直しと言うなら、もう石破自民党と国民政党に分裂した方が良いね。
昔、奇妙な行者が広島地方岸に居られ、弟子に跡をとらせようとした。
【行者】石には万物が宿る神聖なる力が込められており、光を放つまで「産み」の苦しみを味わった。今回免許皆伝を与えるので、まず3年精進しなさい。
【弟子】10か月間好き放題に暮らし、とうとう石は中から破れてしまった。
【行者】今度は「膿」の苦しみが…
次は膿ですか。そもそも石破さんは消去法で選ばれたような・・・。
膿を出し切った後の人材はいるのでしょうか?
乞うご期待。m(__)m
「しかるべき時に判断」
叱る:相手が何か問題のある行動をしたり、ミスをしてしまったときに注意やアドバイスをすること。
究極の他責主義者かな、ぼくちゃんは悪くない。
石破総理て去年の衆議院選挙大敗を受けて辞任してたら、ある意味歴史に名を残せたのに。
ただ、今も醜く地位にしがみついてるさまは、常人が出来ない事をやってるという意味ではある意味歴史に名を残してると言えるのかも。
どちらがより良い名の残しかたかと言われたら、衆議院選挙の時の方がキレイだしインパクトもあったかも。
それに2回目もあったかもです。
まぁ石破総理に未来を予想出来る能力があればこんな事にはならなかったけど。
>>「しかるべき時期に責任を判断するが、まず国民の皆さん方がしてほしいと思っていることに全力を尽くす」
石破氏は総理総裁を辞する気は微塵もないようで、さぁ、総裁選前倒し派の次の手はいかに。
・両院議員総会
石破「 責任から逃れることなくしかるべき時にきちんとした決断をする」
続投宣言しましたね。
『しかるべき時』とは任期満了の3年後の事でしょう。
ヨーダに似て来たようだ、付け耳を生やせば、外見だけはなおのこと。
この事態を招いた189人のうち、主犯格の宏池会は無役、そして去年の総裁選まで時計の針を戻して、兎に角一刻も早く政策実行できる体制になってほしい。勿論、繰り上げ金メダルの総裁のもと189人以外の議員を役職につけて。