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都内マンション価格にテレワーク禁止のダブルパンチか

当ウェブサイトではしばしば首都圏の中古マンション価格は相変わらず高止まりしており、とりわけ都心部では(地区によっては)家族で暮らせる物件の平均価格が1億円前後に達しているようです。こうしたなか、ふと目についたのが、一部企業でテレワークを制限する動きが広がっていることです。かつてコロナ禍などで東京都心などを出てリモートワーク前提で家賃が安い地方に移住する動きが広まったことがありましたが、これが逆転するとなると、なかなかに厳しい現実が待っているのかもしれません。

東日本レインズのデータ

当ウェブサイトでは最近、ほぼ毎月のように紹介しているデータがあります。

それが、公益財団法人東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が毎月公表している、首都圏の中古マンション市況に関するレポートです。

じつは8月分、つまり2025年7月分のデータについてはすでに8月上旬ごろまでに公表されていたのですが、その結果についてはさらにその前の月の『東京都心部中心に中古マンション価格の上昇傾向が続く』でも取り上げた「マンション価格は高止まり傾向にある」という結論を大きく変えるものではありませんでした。

こうした事情もあり、先月については、このレインズデータを取り上げていなかったわけです。

ただ、少し遅れてしまいましたが、先月取り上げなかった8月公表分データをざっとレビューしておきましょう。

まずは、首都圏全体、東京都(およびその地区別分類)、埼玉・千葉・神奈川3県のそれぞれに関する中古マンションの平米単価、前年同月(2024年7月)比、前月(2025年6月)比を計算しておくと、図表1のとおりです。

図表1 地区別中古マンション平米単価(成約ベース)
地区 2025年7月 前年同月比 前月比
首都圏 85.47万円 +6.50万円(+8.23%) +2.13万円(+2.56%)
東京都 119.67万円 +12.76万円(+11.94%) +2.66万円(+2.27%)
都心3区 237.02万円 +36.98万円(+18.49%) +4.88万円(+2.10%)
城東地区 96.82万円 +9.14万円(+10.42%) +1.73万円(+1.82%)
城南地区 123万円 +10.86万円(+9.68%) +5.76万円(+4.91%)
城西地区 142.26万円 +3.70万円(+2.67%) ▲12.22万円(▲7.91%)
城北地区 103.49万円 +11.72万円(+12.77%) +9.41万円(+10.00%)
多摩地区 52.9万円 ▲2.89万円(▲5.18%) ▲2.76万円(▲4.96%)
埼玉県 43.51万円 ▲0.65万円(▲1.47%) +0.19万円(+0.44%)
千葉県 41.4万円 +0.68万円(+1.67%) +4.83万円(+13.21%)
神奈川県 59.66万円 +2.03万円(+3.52%) +3.38万円(+6.01%)

(【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構『レインズデータライブラリー』データをもとに作成)

とりわけ都心部に近い箇所で中古マンション価格が上昇中

東日本レインズのレポートには、平米単価以外にも、成約件数や専有面積の平均値、平均価格などが掲載されているのですが、本稿ではとりあえず平米単価のみを取り上げています。ただ、平米単価だけでも、傾向をつかむうえでは十分でしょう。

この図表から判明するのは、東京都内、とりわけ都心部ではマンション価格の上昇(あるいは高騰)が続いている一方、それ以外の地域でも、地区によってはマンション価格はじわじわと上昇し続けているという状況です。

レインズの定義上の「都心3区」とは「千代田区、中央区、港区」だそうですが、この3区に関しては、平米単価は237.02万円/㎡であり(※ちなみにこれは2025年5月に続き過去2番目の高さです)、前年同月比で18.49%も上昇しています。

単純に平米単価を当てはめたら、(一般には単身者用とされる)20平米前後の物件を取得するのに必要な資金は4740万円であり、同棲用、あるいは夫婦2人用とされる40平米の物件だと9481万円(!)と、1億円近くが吹き飛ぶ計算です。最低限のファミリー物件だと1億円を超えてしまいます。

また、「都心部」といえば、ほかにも新宿区・渋谷区などを含めることがありますが、新宿区や渋谷区が含まれる「城西」だと平米単価は142.26万円と「都心3区」に続いて高く、前月比では8%弱の価格下落ですが、前年同月比では3%弱の上昇です。

この点、城西地区は若干価格が落ち着いているかにも見えるものの、中古マンションは個別性が強いため、一時要因で上昇率が鈍化することはあり得ますし、城西以外の東京23区はいずれも前年比10%前後かそれ以上上昇しているため、城西地区のマンション価格が落ち着いたとは結論付けられません。

都心部の中古マンション、なかなか手が届かない状況に?

いずれにせよ、平米単価を単純にあてはめて平米ごとの成約価格を試算すると、図表2のとおり、とりわけ都心部は庶民にはなかなか手が届かない価格であることがわかります。

図表2-1 首都圏中古マンション価格試算(2025年7月)
地区 20平米 30平米 40平米
首都圏 1709万円 2564万円 3419万円
東京都 2393万円 3590万円 4787万円
都心3区 4740万円 7111万円 9481万円
城東地区 1936万円 2905万円 3873万円
城南地区 2460万円 3690万円 4920万円
城西地区 2845万円 4268万円 5690万円
城北地区 2070万円 3105万円 4140万円
多摩地区 1058万円 1587万円 2116万円
埼玉県 870万円 1305万円 1740万円
千葉県 828万円 1242万円 1656万円
神奈川県 1193万円 1790万円 2386万円
図表2-2 首都圏中古マンション価格試算(2025年7月)
地区 50平米 60平米 70平米
首都圏 4274万円 5128万円 5983万円
東京都 5984万円 7180万円 8377万円
都心3区 1億1851万円 1億4221万円 1億6591万円
城東地区 4841万円 5809万円 6777万円
城南地区 6150万円 7380万円 8610万円
城西地区 7113万円 8536万円 9958万円
城北地区 5175万円 6209万円 7244万円
多摩地区 2645万円 3174万円 3703万円
埼玉県 2176万円 2611万円 3046万円
千葉県 2070万円 2484万円 2898万円
神奈川県 2983万円 3580万円 4176万円

(【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構『レインズデータライブラリー』の成約データの平米単価をもとに試算。ただし価格は任意の平米数にレインズデータの平米単価を単純に乗じて求めているため、現実に成立した価格を示すとは限らない)

都心3区で子育てをしたければ、物件取得費用だけで、それこそ1億円以上かかる―――。

正直、この少子高齢化社会で、将来的に物件が余る可能性が指摘されるなかで、さすがに現実のデータを見ると、これは資産バブル状態ではないか、といった気がしなくもありません。

バブルなのか?でも賃料水準も上がってきた

ただ、報道等によれば、中国人を筆頭に、外国人の投機資金がかなり東京の不動産市場に流入しているとのうわさも耳にしますし、また、(これは著者自身がさる筋から掴んでいる情報ですが)建設を請け負う主体の労働力が不足しており、新築物件の供給が滞っているなどの事情もあるようです。

このため、現在の状況が「明らかな資産バブル」といえるのかどうかについては微妙です。

これに加えて注目しておく価値があるのが、賃料水準です。

先月の『都心中心に東京都内のマンション賃料が過去最高水準に』でも取り上げたとおり、同じく東日本レインズが公表している賃料データによれば、とりわけ都心を中心に、東京23区内の賃貸物件価格が上昇に転じているのです。

(※なお、物件売買データと異なり、賃料データについては公表されるのが3ヵ月に1回であるため、リアルタイムで賃料を把握することができない、という難点はあります。また、おそらく次回データは10月に公表されるのだと思います。)

賃料水準が上昇し始めてきたという事実は、現在の物件価格がバブルとは言い切れないということの裏付けでもあり、いずれにせよ、東京都内で暮らす際の「家賃」という最も大きな支出項目のコストが上昇していることは間違いないといえるでしょう。

フルリモート巡り一部会社で労使衝突も?

さて、こうしたなかでひとつ気になる話題があるとしたら、これかもしれません。

日経電子版が先月23日に配信した記事によれば、フルリモート、あるいはテレワークの在り方を巡って、一部の会社で労使の衝突が生じているのだそうです。

日経が挙げるのはLINEヤフーで、同社はかつて「無制限のテレワーク」が可能となる働き方を導入し、全国どこでも働けるという「テレワーク先進企業」だったのですが、今年4月以降は従業員に対し、所属部署に応じて週1回ないし月1回の出勤を要求。

26年4月以降は全従業員に対して週3日程度の出社も求める方針、などとしており、これに労組側が反発しているとのことです。

日経記事ではそれ以外にもいくつかの会社の事例が取り上げられていて、経営者側ではフルリモートによる組織力やイノベーション力の低下を懸念する一方で、働き手側は依然として多くの人がテレワーク継続を強く希望している、などとしているのですが、これについては難しいところです。

正直、フルリモートにしてしまうと、従業員同士がお互いに顔を合わせることもありません。オフィスでふとした雑談から生まれるアイデア、イノベーションなどが仕事のヒントになったりすることもあることを思い出しておくと、これはたしかに組織力の低下を招きかねません。

ただ、不動産市況との関連でいえば、都心部の不動産価格や賃料水準が上昇しているときに、フルリモートを禁止することが、東京に拠点を置く企業の従業員の側にとっては思わぬリスクとなりかねない、という点は気になります。

いまさら東京に戻れない人はどうすれば良いのか

実際のところ、コロナ禍を機に多くの企業が導入したリモートワークに合わせて、たとえば東京都心部などに暮らしていた人たちのなかには、広い土地、のびのびした環境を求めて東京都外に転居してしまい、いまさら東京都心部に戻れない、というケースもあるのではないでしょうか。

もちろん、週1回程度の出勤であれば、居住地によっては東京に「通勤」できなくはないでしょう。

たとえば東京都内の会社に勤めている人でも、千葉県の木更津あたりなら、東京湾を横切るアクアラインを使えば東京都心まで1時間半~2時間程度でたどり着けます(高速バスなどを使うようです)。

また、温泉などがある保養地として人気が高い静岡県熱海市あたりなら在来線で2時間半~3時間ですし、新しいLRTが開業するなど「暮らしやすい」と評判の栃木県宇都宮市あたりなら在来線で3時間程度で東京都心部に至ることが可能です。

JR東日本の路線の多くはグリーン車を設けているため、自腹でグリーン料金を支払えば、快適に座って移動できる(かもしれない)し、帰路は電車内でプチ晩酌をしても良いかもしれません。

しかし、日経の記事にある「週3日程度」ともなれば、やはり、東京都内から離れた地点に自宅を写してしまった人が、東京都内の会社に通勤するのは非現実的です(社によっては新幹線通勤のコストを負担してくれるケースもあるようですが、そんな会社は正直、あまり多くないでしょう)。

このように考えていくと、テレワークには「テレワーク廃止リスク」もある、ということを、きちんと認識しておかねばならないのかもしれませんね。

新宿会計士:

View Comments (2)

  • 相互主義により、資本移動の自由をもう少し制限出来れば。
    媚中政権では無理ですが、次旧宮沢派をどこまで抑え込められるか。
    今回、オールドメディアへの怒りが炙り出されたことは収穫。

    参政党や保守党の成長に期待したいな。