例の高校野球の「SNS炎上事件」を巡って、いくつか気になる動きが出てきているようです。というのも、メディアや政治家らのなかには、事件の本質を「SNSによる誹謗中傷」と断じているのではないかと思えるケースもあるからです。しかし、改めて指摘しておくと、同校の事例は「暴行事件」がSNSの炎上を生んだのであって、その逆ではありません。
目次
高校野球について取り上げるスタンス
少し前から当ウェブサイトでは、広島県の広陵高等学校野球部における集団暴行事件を取り上げることが増えています。というのも、同校の事例がこのSNS社会における「炎上」の典型的な事案に思えてならないからです。
といっても、当ウェブサイトでは事件の概要について、『高校野球「出場辞退」に見る…SNS時代のリスク管理』と『SNSで炎上する原因は「世間が隠蔽を許さないから」』で小出しに紹介しているのみであり、まだ包括的には説明していません。
これにはいくつかの理由があるのですが、その最たるものは、「観察者」としての立場を守ることにあります。
本件について、当ウェブサイトとしては同校及び事件にかかわったと噂される関係者を、実名を挙げてあげつらうつもりはなく、ましてや私的に制裁するつもりもありません。できるだけ中立的・客観的な立場から、この「SNS炎上事件」を「社会現象」としてとらえようと考えているに過ぎないのです。
もしSNSなどで指摘されている事件が事実だったとして、そしてそれらが刑法に触れるようなものだったとしたとして、それを捜査し断罪するのは司直の役割であり、私たち私人の役割ではありません。
こうした目的もあり、当ウェブサイトでは暴行事件への関与が噂される関係者の実名を挙げることは極力控えていますし、また、これについては読者の皆様にもご協力いただきたいと思います。具体的には読者コメント欄においても、たとえば次のように個人名を特定するような趣旨の書き込みは控えてください。
(例)「XX(実名)はXX君に対し殴るけるの暴行を加えたうえ、XX(非常に下品な行為)を要求するなどのいじめを行った。絶対に許してはならない」。
いずれにせよ、現時点においては、同校自身が8月6日時点で公表した発表文(ただしアクセスが殺到しているためか、しばしば閲覧が困難となっている点にご注意ください)以上のことは、「それらが行われた」という前提で学校側を断罪するかのように書き込むのは適切ではありません。
こうした理由もあり、当ウェブサイトで事件の概要を逐一まとめることは極力控えてきた、という事情があるのです。
SNS炎上の本質は「隠蔽や矮小化を許さぬ世間」
ただし、当ウェブサイトごときがそのように努力をしたとしても、あまり学校を守ることには役立ちません。すでに世間の圧倒的多数の人々はSNSで流通している情報をベースに、問題をある程度は把握しているからです。
それでは、世間がこの問題に強い関心を持っているのは、いったいなぜなのか―――。
これについては『SNSで炎上する原因は「世間が隠蔽を許さないから」』でも紹介した、未来調達研究所の坂口孝則氏が12日付で『東洋経済オンライン』に配信した次の記事で、きわめて本質的なことが指摘されています。
「発言が被害者ヅラ」「謝罪の言葉はないのか」と批判殺到…。広陵高校「校長の逆ギレ会見」が招く“最大の危機”
―――2025/08/12 17:31付 Yahoo!ニュースより【東洋経済ONLINE配信】
坂口氏の指摘は、これです。
「世間がもっとも許さないのは、不正行為そのものより、なんとか隠そうとする態度なのだろう。3月に『厳重注意』になった暴力事件は、その時点では大会出場を揺るがす問題にならなかった。SNSで隠蔽疑惑が告発されたあとだった」。
おそらく、さまざまな指摘の中で、これが最も腑に落ちるものです。
すなわち、世間が強く怒っているポイントは、第一義的には高校野球の現場における暴行事件(あるいは疑惑)ですが、最も強く怒っているポイントはそこだけではありません。学校、あるいは学校に加えて高野連などを含めた主催者やメディアが、事件の隠蔽ないし矮小化に終始しているフシがあることです。
出場辞退後も増える記事―――人々の関心強まる
実際、インターネット空間を調べてみると、広陵高校の暴行事件を取り上げた記事は、どんどんと出てきています。あたかもSNSの「炎上」を後追いするかのごとく、同校による甲子園出場辞退宣言以降、むしろ増えているフシがあるのです。
これは興味深い現象と言わざるを得ません。
こうした文脈で取り上げておきたいのが、この記事です。
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
―――2025/08/15 11:15付 Yahoo!ニュースより【NEWSポストセブン配信】
これは本件を巡る、ノンフィクションライター・柳川悠二氏が『NEWSポストセブン』に15日付で寄稿した、かなり詳細なレポートです。
記事によると柳川氏は高校野球選手権大会が開幕する直前の8月1日、つまりまだ本件がネットなどで炎上し始めるより前の時点で、「被害者」とされる生徒(記事では「A君」と表記されています)の父親に会って話を聞いていたのだそうです。
記事に書かれている内容は、時系列を含めて私たちがSNSなどで目にするものとほぼ一致しており、あまり新たな情報はありませんが、それでも(当ウェブサイトでは書けないような内容も含め)「被害者」側から見た事件の内容をひととおり把握・理解することはできます。
不可解な高校側の対応
ただし冒頭でもお伝えしたとおり、当ウェブサイトは「事件」を「現象」として捉えることに努めたいと考えているため、「誰が」「いつ」「何をやった」という「事件そのもの」について詳しく記述するつもりはありません。もしも事件について詳しく知りたい方は、リンク先記事などで直接ご確認ください。
ここで注目しておきたいのが、柳川氏の記事にある、こんな指摘です。
「指導者は問題が起きた時に適切に対処する手腕が求められ、隠蔽したり、実力のあるメンバーを厚遇するような対応をしてしまえば、それ以外の生徒や保護者から大きな反発を受ける。今回のケースもそれに該当するのではないだろうか」。
文体で末尾が「~ではないだろうか」で終わっていることからもわかるとおり、あくまでも現時点においては「被害者」とされる生徒やその保護者の説明と、学校側の説明が食い違っているため、なかなか断定することが難しい状況にあると考えられます。
しかし、現時点の学校による説明だけでも暴行事件が発生したことは明らかであり、それにもかかわらず当初は同校は甲子園への出場を決定し、SNSでの批判が強まるや、1回戦が終わってから出場辞退を発表したのです。
しかも出場辞退の理由として同校は、「SNS上で部員の顔写真が拡散され、寮の爆破予告が投稿されているほか、生徒が登下校中に中傷を受けている」ことをうけ、「生徒、教職員、地域の方々の人命を守ることを最優先する」、と説明しました。
やはり、「暴行事件が主因で出場を辞退した」のではなく、あくまで「SNSにおける誹謗中傷」「寮の爆破予告」が、学校側が主張している出場辞退の直接の理由だ、ということです。
この齟齬は重要です。
文科相の本質を見誤った発言
実際、いくつかのメディアはSNSにおける同校に対する誹謗中傷を問題視するかの報道を行っているようですが、こうしたなかでさらに理解に苦しむ話題があるとしたら、これかもしれません。
産経ニュースによると、阿部俊子文部科学相は15日の閣議後記者会見で、次のように発言したそうです。
「暴力行為はあってはならないが、無関係の生徒や関係者の方々が誹謗中傷にさらされることも決してあってはならない」。
大変に違和感を覚える発言です。
SNSで無関係な生徒や関係者が誹謗中傷を受けてはならないことは間違いありませんが、そもそもSNSで何も根拠なしに同校への批判が始まったわけではありません。暴力行為があって、SNSがそれに反発しているのです。
この前後関係を、阿部文科相は無視していないでしょうか。
あえて発言するとしたら、次のように述べているべきだったのではないでしょうか。
「無関係の生徒や関係者の方々が誹謗中傷にさらされることはあってはならないが、暴力行為も決してあってはならない」。
因果関係がおかしい!
このあたり、報道関係者や政府関係者に、かなり深刻な事実誤認があります。
同校がSNSで炎上していることは間違いありませんが、根拠なしにこうした炎上が発生したわけではなく、あくまで原因が存在しているからです。つまり、因果関係がおかしいのです。
もちろん、先ほども指摘したとおり、SNSでの書き込みには危ういものもありますが(その典型例が生徒の実名や写真などを挙げたうえで犯罪者呼ばわりすることなどですが、このような書き込みについては慎重であるべきでしょう)、その一方で学校や高野連などの誠意ある説明を求める意見も多数あります。
つまり、「原因」があって、その結果、SNSで炎上しているのであって、SNSの炎上は「結果」に過ぎません。
この因果関係を見誤るべきではありません。
このように考えていくと、一部メディアや一部政治家に蔓延する「SNS規制待望論」のようなものは、見ていて危ないものです。
くどいようですが、「世間」は不祥事そのものに対してよりも、不祥事を隠蔽したり、矮小化したり、ごまかしたりすることを極端に嫌います。ここでいう「世間」がSNSを通じて可視化されるようになったに過ぎません。
したがって、SNS規制を始めようとしたら、それは必ず、規制を掛けようとする者に跳ね返っていきます。
SNS炎上は組織存亡の危機に直結する可能性
想像するに、SNSで評判が悪くなると、組織自体が存続できなくなる時代に突入しつつあります。
たとえばそのスポーツ自体に対するイメージが悪化していけば、将来的に競技人口が激減していく可能性がありますし、メディアがSNS規制論などを唱えれば、メディア自体が新卒学生らに就職先として忌避されるかもしれませんし、また、スポンサーが離れていくかもしれません。
これを敷衍(ふえん)するならば、SNSで評判が悪い組織に関しては、やはり理由があると言わざるを得ません。
たとえば「国の借金」論などのインチキ経済理論を編み出し、あたかも日本が財政危機であるかのごとき印象をばら撒いている財務省の場合、(あくまでも著者自身の想像ですが)トップ大学のトップクラスの学生からは職場として完全に忌避され、むしろ深く軽蔑されている存在になり果てている可能性があります。
現実問題として、SNSはそれ自体が意思を持つ存在ではなく、単純に「世間」、あるいは「国民世論」を可視化させる存在に過ぎません。
SNSを悪者にするのはたしかに楽ですが、それをやってしまうと、「国民世論」を悪者にすることにもつながりかねません。
そのことを勘違いすると、どんな組織もこのSNS時代を生き延びることはできないと思うのですが、いかがでしょうか?
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歴史は直視されないといけません。
報道機関と政府が結託して、日本社会を誘導した過去があったではありませんか。大衆扇動の役回りを敏感に検知するのは身に覚えがあるからと勘繰られてもしょうがない。
マスコミによるSNS批判が加速したのは、
コミュニティーノートが実装された頃から。
トレンドを「捏造(つく)る場」として利用してたのに、
トレンドが「発生(つく)られる場」と化したのだもの。
日本でも選挙を SNS が歪めるようになった。ほとんどヒステリックに NHK が記事を乱発するようになって、国会議員が身の危険を感じ、報道機関と省庁を動員して封殺に乗り出した(今ここ)英国スターマー政権の動き、逆効果を生んでいますね。
(SNSの炎上に限りませんが)SNS炎上の結果は、誰が見ても分かりますが、原因は、人によって(感情かもしれませんが)違うのでしょう。
いつも楽しみに拝読しております。
国がSNSを規制するということ、実名・顔晒しや爆破予告は論外としても、やり方によっては国民の言論の自由や表現の自由を奪おうとする弾圧行為ですよね。ここは権力の監視役を自認するオールドメディアの方々の出番ですので、大々的反対キャンペーンを期待したいところです。
バラされたくないことを日常的にしている権力者たちは、SNS規制のキャンペーンに余念がない。
旧ツイッターのタイムライン。マスクCEO就任後大きく路線変更したことへの恨みつらみ、マスコミ・メディアの方々などの皆さま方、さぞかし大きいものがあることでしょう。
これはSNSのアルゴリズム実装次第で世論形成が大きく変動しうることを証明した社会実験であったと思っています。
私がSNSで気になるのは、軽い気持ちで参加する「集団イジメ」です。
自分は安全な場にいて弱者をいたぶる。
このストレスフルな現世に於いて、この行為はお手軽なストレス発散、レジャーになっている、そのツールとしてSNSの投稿を活用しているであろうという事です。
これは無くなって欲しい。切に思います。
モラルだけでは難しいでしょう。
何らかの機能実装ができると良いなぁと思っています。
>国民世論を可視化
大きなプラットフォームや個人情報と紐付く場合では確かにそうですし、そうでない場では匿名性ゆえの「本音」が出せるという点も大きいと思います。
日本人が戦争の肯定など絶対してはならないという空気の中でも、ネットであれば「戦争に備えるくらいは必要だ」と言える。
唯一の被爆国だから絶対に核兵器は認めてなならないという空気の中でも、ネットであれば「核の抑止は現実的には否定しようがない」と言える。※
原発は無い方が良いよねと圧されても、ネットであれば「とっとと原発稼働しないと経済にも悪影響」と言える。
「これからは多様性!LGBTQ+IAkjぱjmぎfsjg(後略)!!!」と言いふらされていても、ネットであれば「いい加減にしろよバカじゃないのか」と言える。
逆にロシアの行為は認められないと騒がれている中で「これからはBRICs!ロシアが覇権!
ウクライナ応援団乙!」とかも言えちゃうようですが。
トランプ大統領の登場や参政党の躍進なども、マスメディアからの情報では「大誤算」とまで言える事件だったのに対し、ネットでの感覚でなら「まぁそうなるよね」くらいは(是非は別として)予測ができましたし。
そういえば「たくさんのネット署名がとかいってこんなのどうせ数人のネトウヨが~」とか現実逃避していた著名人がいらっしゃいましたが。SNSの声は無法にして「本音」であることを、"問題組織"の皆様方におかれましては、ちょっと気に留めておいた方が宜しいのではないかと思う次第です。
※広島市長の式典挨拶は個人的に「論理飛躍の出鱈目」とまで評しています。称賛が尽きませんが、あのくらいでないと絶対に広島で市長にはなれないのだろうなとの邪推もしています。本音。でも表じゃこんなこと言えないッスね。
SNSの普及で思い起こすのは「万機公論に決すべし」という言葉です。
関係者が内輪の論理で勝手に物事を進めることができる時代が終わろうとしているのかも知れませんね。
SNSが旧態依然とした体質の組織にはなめくじに塩となることを期待しています。
自民党さんもそろそろ本気を出して出直さないと大変な事になると思うのですが。
一昔前前、まだ海外旅行が珍しかった頃、テレビで時々海外旅行でのトラブルの事例なんかを紹介してましたけど、そこでよか言われたのは、
日本の常識は、海外では非常識だから気をつけましょうでした。
日本を高校野球界、世界を世間に言い換えると、今回の騒ぎの件は説明できるかと思います。
SNSはそれをわかりやすく広めただけです。
なのでこれからお子さんに野球をやらせたい親御さんはお気を付けください、
トランプ報道もボロクソですが、直接戦争を避けようとしているのですよ。
憲法9条を死守したところで、アメリカが参戦したら日本だって巻き添えをくらいます。
>Zelensky and the Europeans have and continue to insist on “security guarantees” for Ukraine with a “U.S. backstop.” In other words, they want U.S. troops stationed in Ukraine. Over the last few months, Trump has been a little inconsistent on this issue, but he’s largely taken a noncommittal position that leans more in the direction that Europeans should be protecting Europe.
https://thenewamerican.com/world-news/europe/europeans-visit-trump-to-counter-putin-effect/
>ロシアは「5年以内」にNATOを攻撃、第三次世界大戦を見据え軍備増強する欧州
https://forbesjapan.com/articles/detail/81032
第三次世界大戦懸念があります。
テレビの多チャンネルも含めて、記者クラブメディアの特権はどうにかした方がいいです。
日本人が現状認識出来なくなる恐れがあります。
裏金問題(事件)も同じですね
自民も岸田石破は仲間の裏金は問題にしていない(選挙で党公認)
野党も裏金と一瞬報じられたがその後の記事は無し
私は与野党関係なく裏金は有る。と思っています
でもそれ以上に仕事(国の為)をしていればある程度は良いのかな。
ここでも大問題はメデアの報道にあります。特にNHKは野党の裏金は報道しない
バランスよく報道していれば野党だって少しは緊張感を持って勉強するだろうに
結果として国民はマスゴミと言う言葉を使い政治家(与野党含め)を軽く見てしまう
マスコミ含め報道と教育の問題が浮かび上がるんです