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石破氏巡る「TICAD花道論」

石破茂首相は選挙に負けても居座っていますが、それでも退陣は不可避です。すでに有権者は2回の選挙で石破政権にNOを突き付けているからであり、現実問題、衆参両院で過半数を割っているからです。一部メディアは「石破続投」を望む有権者が多数、などとする世論調査結果を発表していますが、これについては年齢補正すると結果は真逆になるとの指摘も出てきています。こうしたなか、石破首相が20日に開幕するTICAD9で「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」なるものを表明する方針を固めたとする報道も出てきました。自分で辞めない石破氏を巡っては、「TICAD花道論」がせめてもの情け、といったところでしょうか。

居座る石破首相に党則第6条第4項がヒットするか?

選挙で負けても辞めずに居座る石破茂首相―――。

参院選からもうすぐ1ヵ月が経過しますが、昨年秋の衆院選とあわせて自公両党がすでに衆参両院で過半数割れしている状況にあるにも関わらず、また、(おそらくは)自民党内の多くの議員らが辞任を要求しているにも関わらず、いまだに辞める気配がありません。

これについては『有村氏の采配で総裁選可能性高まるも…瀬戸際の自民党』などでも述べたとおり、先週の両院議員総会の方針などに基づき、現時点においては自民党の党則第6条第4項に従い、臨時総裁選を行うかどうかを調査する段階に入っているようです。

自由民主党党則第6条第4項

総裁の任期満了前に、党所属の国会議員及び都道府県支部連合会代表各一名の総数の過半数の要求があったときは、総裁が任期中に欠けた場合の総裁を公選する選挙の例により、総裁の選挙を行う。

石破首相を降ろさないと自民党が終わる

このあたり、現時点において第6条第4項の条件を満たすかどうかについては、よくわかりません。

一部の情報などによれば、「党所属の国会議員(衆院195人+参院100人)」+「各都道府県連会長(47人)」の合計342人の過半数である172人は少なくとも臨時総裁選に賛成するのではないか、などとする観測もあるようですが、これについてはお盆の時期という事情もあり、まだよくわからないのです。

しかし、『居座る石破氏を臨時総裁選で降ろさないと自民は終わる』で指摘しましたが、自民党国会議員や各都道府県連会長が「合理的に判断するならば」、現在の石破体制では国政も停滞する上に選挙でも戦えないため、総裁を更迭する以外の選択肢はありません。

(※ただし、現在の自民党は、昨年秋の総裁選で189人が石破茂氏に投票してしまうほどに劣化した政党でもありますから、自民党内で石破下ろしの動きが広まらずに「石破続投」となってしまう可能性も否定できないのがなんとも恐ろしいところですが…。)

NHK調査では石破続投「賛成」が「反対」上回る

こうしたなかで波乱要因があるとしたら、メディアの動きかもしれません。

石破辞任やむなし→高市回避からの小泉推しの動きも?』でも紹介したとおり、一部メディアは「世論調査を行ったら石破政権の支持率が高かった」などと報じたり、あるいは「石破(氏)が辞めても後任に高市(氏)」が就くことは認められない」などと主張したりしているからです。

とりわけNHKは12日付で、石破内閣の支持率がいきなり7ポイントも上がったと報じました。

石破内閣「支持」7ポイント上がり38%「不支持」45% 世論調査

―――2025年8月12日 19時00分付 NHK NEWS WEBより

選挙で惨敗しているのに支持率が上がるというのも極めて不自然ですが、それ以上に印象的なのが、こんな記述です。

石破総理大臣が参議院選挙の敗北後、続投の意向を示していることへの賛否をたずねたところ、『賛成』が49%、『反対』が40%

要するに、石破氏続投に対し「賛成」が「反対」を上回っている、ということなのです。

年齢補正を行っていないNHK…補正すると結果は真逆に!

ただし、そもそもこのNHKの調査自体が信頼できるのかどうかという点もさることながら、このNHKの報道を巡っては、弁護士で日本公共利益研究所主任研究員でもある楊井人文氏が、さらに非常に重要な指摘を行っています。

楊井氏によると、総務省『第50回衆議院議員総選挙年齢別投票者数調』では有権者の年代構成は18~39歳が26.8%、40代が16.4%、50代が17.9%…、などとなっているにも関わらず、NHK調査の母集団に含まれている割合はそれぞれ10.9%、11.3%、14.0%であると指摘します。

楊井氏の指摘(左が有権者構成割合、右がNHK調査年齢構成)
  • 18〜39歳:26.8%vs10.9%
  • 40〜49歳:16.4%vs11.3%
  • 50〜59歳:17.9%vs14.0%
  • 60〜69歳:15.1%vs19.1%
  • 70〜79歳:10.8%vs22.3%
  • 80歳以上:13.0%vs17.9%

これに対し、60歳以上は有権者構成で見て38.9%に過ぎませんが、NHKの世論調査の年齢構成では60代以上が6割近くを占めています。

すなわち、現実の有権者の構成とはまったく異なる母集団をもとに世論調査結果を単純集計しているわけですが、これについて楊井氏は別ポストで、「年齢補正後では『石破続投』に対する賛否は反対が多数になる」と指摘しているのです。

現実問題として石破政権は機能しない

このあたり、NHKという「国民から選ばれたわけでもないのに勝手に『公共放送』を名乗って『受信料』という名の事実上の税金をかき集めている集団」が勝手に実施した世論調査で「有権者の多くが『石破続投』を支持している」などといわれても困惑するところではあります。

ただ、メディアがなにを言おうが、現実問題として、石破政権ではもう政治を動かすことはできません。

衆参両院で過半数割れしているため、予算も法案もストレートに通すことはできないこと。

石破政権のままで選挙に突入したら自民党が惨敗することがほぼ確実であること。

そしてなにより、国民の多くがすでに石破政権を信任していないことが明らかであること。

(どうでも良い話ですが、世論調査よりも確実に正確な世論は、選挙結果です。)

主権者たる私たち日本国民が総意として自公衆参過半数割れという決定を下したのですから、石破首相は本来、それに従って辞めるべきであり、もし石破首相が首相の座にしがみつき、自民党もそれをよしとするなら、おそらく有権者は次のステップとして、自民党の議席を下野する程度には減らしに行くでしょう。

しかも、自民党が惨敗することで議席を伸ばすのは、最大野党である立憲民主党ではないかもしれません。

「手取りを増やす」などを公約に掲げる国民民主党であったり、「日本人ファースト」などを掲げる参政党であったり、あるいはその他の保守的・リフレ派的な公約を掲げる新興政党であったりするかもしれないのです。

(※余談ですが、著者自身は国民民主党や参政党といった政党が公約を守るかどうか、あるいはそれ以前に政治団体としての基本的な技能が備わっているかどうかについては慎重に判断すべきだと考えているクチです。)

TICAD花道論が自然

いずれにせよ、石破政権はもうもたない、というのが個人的な感覚ではあるのですが、こうしたなかで取り上げておくべき話題のひとつがあるとすれば、これかもしれません。

石破首相、新経済圏構想表明へ インド・中東・アフリカと連携 TICAD、20日開幕

―――2025/08/14 07:07付 Yahoo!ニュースより【時事通信配信】

時事通信によると、複数の関係者が13日、石破首相が今月20日に横浜市で開幕金する第9回アフリカ開発会議(TICAD9)で「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」なるものを表明する方針を固めたと明らかにしたのだそうです。

もう先行きが長くない石破政権にとっての最後の「花道」でしょうか?

もともと日本とユーラシア大陸南部を結ぶ「自由と繁栄の弧」構想は麻生太郎総理大臣が第一次安倍政権時代に外相を務めていたころに提唱した概念であり、これを故・安倍晋三総理大臣が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」に発展させたという経緯があります。

また、安倍総理がこのFOIPを当時のドナルド・J・トランプ米大統領(2025年1月に大統領に再任)やインド、豪州などとも共有し、菅義偉総理大臣のころに日米豪印「クアッド」首脳会談に結実しているのです(岸田文雄前首相は安倍、菅両総理の功績を引き継いだだけ、という言い方もできるかもしれません)。

また、「BRICS」がアフリカ諸国との関係強化を狙うなかで、日本が主導する形で「自由・民主主義陣営」がアフリカ諸国の取り込みを図ることは有意義でもあります。

ただし、具体的にその「インド洋・アフリカ経済圏」とやらを提唱したとしても、それを何らかの会議体などに結実させる力は、すでに石破首相には残されていません。

いちばん懸念すべきは、概念を提唱するだけ提唱して実現しないというパターンですが(※この場合、アフリカ諸国などを深く落胆させることにつながりかねません)、こうした状態を避けたければ、やはり「TICAD花道論」が最も自然ではないでしょうか。

つまり、自分から辞めない石破氏に対し、「TICAD花道」が「せめてもの情け」、という格好です(有権者のひとりとしてはこの手の「情け」すら腹立たしいところですが…)。

いずれにせよくどいようですが、自民党が再起を図るのであれば、臨時総裁選の早期実施と石破首相の早期退陣以外に道はありません。もちろん、「維新と組む」などの方法で延命を図るという選択肢もないわけではありませんが、さすがに無理があります。

盆明けの自民党の動きには注目する必要がありそうです。

新宿会計士:

View Comments (25)

  • 年齢補正を行っていないのでNHKの世論調査は信用できない、ということでしょうか。だとすると、またNHKの権威(?)が損なわれたことになります。(NHKもSNSでNHK世論調査が検証され、それが拡散されるとは考えていなかったのでしょう)
    ついですが
    毎度、ばかばかしいお話を。
    石破総理:「TICADでの合意を確実に実行するために、総理を続投する」
    ありそうだな。
    蛇足ですが、レームダック化した石破総理の会議に、各国が本気で参加するでしょうか。まあ、次期総理候補に会うために、日本に来るかもしれませんが。

    • NHKは、公共放送を名乗っている以上、「NHK世論調査で、年齢補正を行っていない」という一国民からの指摘に答える義務があるのではないでしょうか。

    • そのポストのコメントにはNHKは年齢補正して公表している旨のものがありました。

      なんとなく補正していない気がしますが、年齢補正している、していないはどうしてわかるのでしょうか。NHKのWEBサイトを見ても何も記載されていません。

  • まー“武士の情け”的なアレヤコレヤが理解出来る御仁ならば、
    『衆院選で負けて少数与党に陥らせ』
    『参院選で負けて少数与党に陥らせ』
    『それら2つの国政選挙の間に首都の議会選挙にも大敗』
    どれかひとつでも最低限“進退伺い”2つ以上なら即“総裁位返上”しよるでショ
    知らんけど
    シッカシこのままウダウダ引き延ばしてナシクズシに“『石破ー野田』非公式負け組連合”をコロがすツモリやろうかナ??
    知らんけど

  • 「石破君、拉致問題で渡朝して「女、女」と言ってた君が、今更空襲被害者補償かい?」
    「安倍君、延命に利用できるものは何でも利用しなきゃね」

  • 野党戦略としては、石破居座りが正しいのですが、あからさまにやり過ぎると 石破応援団にみえて逆にヘイトを集める結果になるかも。
    野党は自分とこの党利党略のために石破をのさばらしとくみたいな恨みは買うべきでないです。
    ここまでくると、石破VS自民党じゃなく石破VS国民となり 石破を居座り続けさすのは国益に反します。

  • 何回も選挙に勝った安倍首相に対して→
    「アベ独裁を許さない」
    「民意を無視するな」
    「日本を戦争できる国にする気か」
    「憲法守れ」
    「アベ=ヒトラー」

    何回も選挙に負けた石破首相に対して→
    「辞める必要ない」
    「首のすげ替えで済ませる気か」
    「石破だけのせいじゃない、裏金議員こそが戦犯」
    「石破降ろしを画策してるのは裏金議員」
    「そもそも負けてない、第一党は維持してる」

    フシギダナー()

    • まー“無能な敵将”には「ナルベク長居してもらいたい」とでも云云ませうか…さような心理が駄々漏れな観すナ
      知らんけど

    • 今こそ「イシバ独裁を許さない」(そう言えばイシバってアジ見た事ない)が必要ではないだろうか。

  • 更新ありがとうございます。電卓で手計算ですが、追試を兼ね続投の賛否に年代別有権者数の割合をかけてみました。計算ミスがあればご容赦下さい。

    【続投に賛成】
    0.27×0.268
    +0.38×0.164
    +0.47×0.179
    +0.53×0.151
    +0.58×0.108
    +0.63×0.13
    =0.44338 → 約44%

    【続投に反対】
    0.65×0.268
    +0.56×0.164
    +0.48×0.179
    +0.40×0.151
    +0.32×0.108
    +0.28×0.13
    =0.48332 → 約48%

    となり、与えられた値が真ならば、
    【続投に賛成】は、約44%
    【続投に反対】は、約48%
    となります。
    ゆえに、楊井様の提示は、数値が真であれば、正しい。

    会計士様は、たいてい元データも示してくださるので、検証ができます。NHKは、世論の誘導でもしたかったのでしょうかね。単純な総計で狙いどおりの結果が出たので、そのまま公表してしまったのかもですが 。

  • 成る程、納得!
    この世論調査が自分の周りと真逆でしたからね。自分が還暦過ぎてますが、流石に石破内閣は支持できませんでしたからね。
    年齢補正ですね、
    しかし、もはや石破内閣支持層は思考停止してるのかなぁ

  • 医療保健の分野で標準化死亡比という考えがありまして、地域間を比較する際に、自治体ごとに年齢構成や高齢化率が異なりますので、その年齢調整をして同一の比率だったと仮定して、疾病ごとの死亡率を求めるものです。
    当たり前ですが、年齢と疾病発症〜死亡に強い相関があることが前提となってます。
    政治関連のアンケートも年代間の傾向の違いは明らかなわけですから、取得した回答結果を全国の年代構成に合わせて調整する必要があると、普通の人なら思うはずなんですが、要は普通のことが普通にできない人たちの仕事なんですよね。

  • 花道論なんて甘い事を言ったら、総裁任期まで居座ろうとするよこの男は。

  • 二回の国政選挙で負けて(少なくとも自ら決めた勝敗ラインを割って)も辞任しないということは、選挙結果軽視以外に解釈のしようがない。
    石破総理は自分のお仲間を国民と称して、国民に支持されている! 国民を裏切らない! と言ってるようにしか思えないし、マスコミ報道は世代間で分断を生むだけ。
    ほんと実感として団塊世代はまだテレビのこと信用してる率が高いからやっかい。

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