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日本語の使い方がおかしい石破氏

選挙で負けているのに辞めない石破茂首相―――。こんな石破首相を巡って気づくことがあるとしたら、そのひとつは、彼の日本語の使い方がおかしい、という点かもしれません。石破首相は8日の両院議員総会の冒頭で、「引き続き日本国に責任を持つ」と述べたそうですが、これも変です。選挙で負けて衆参両院で過半数を割っているわけですから、「責任」は「持つ」ものではなく「取る」ものではないでしょうか?

「党則第6条第4項に拠らざるを得ない」が正解だった

両院議員総会で「第6条第4項手続」確認方針が決まる』などでも取り上げたとおり、自民党では現在、臨時総裁選が開かれる可能性が生じています。

自民党の党則第6条第4項では、現職総裁の任期が満了する前であっても、党所属の国会議員と各都道府県連会長の合計の過半数が要求すれば、総裁選が実施されることが規定されています。

自由民主党党則第6条第4項

総裁の任期満了前に、党所属の国会議員及び都道府県支部連合会代表各一名の総数の過半数の要求があったときは、総裁が任期中に欠けた場合の総裁を公選する選挙の例により、総裁の選挙を行う。

この党則第6条第4項の存在については、当ウェブサイトではかなり早いタイミングで指摘していたと思います。

実際、参院選の投票が締め切られた直後の7月20日午後8時に公表した『もし自民惨敗でも石破氏を総裁に選んだ議員の自業自得』という予定稿のなかで、「おそらく総裁を解任するためにはこの条項を使用する必要があるのではないか」、という趣旨のことを述べています。

といってもこの条文は「総裁解任」のための規定ではなく、あくまで「臨時総裁選実施」のための規定ですので、当ウェブサイトのこの文章は若干不正確ではありますが、それでも「石破氏が辞任を拒否したら臨時総裁選で辞めさせるしかない」とする当ウェブサイトの見立て自体は正確だったようです。

低いハードルすら乗り越えられなかった石破自民

参院選からもう3週間が経つのに石破氏はいまだに自民党総裁(そして首相)の地位に居座っており、みずから辞める気配はありません。

これがどれほど異常かという点については、以前の『【仮説】総理経験者との面談は「最後通牒」だったのか』などでも触れた、「日本の政治的指導者は慣行ないし紳士協定に従って動いてきた」という点を思い出しておくとわかりやすいでしょう。

多くの場合、自民党などの大政党の指導者は、選挙でみずから設定した勝敗ラインを割り込んだら辞任します。

自民党が設定した勝敗ラインは「自公合わせて50議席」というもので、改選前議席数やこれまでの選挙での自民党の獲得議席数と比べればずいぶんと甘く、ずいぶんと低いハードルではありましたが、それでもこれを自分たちでハードルとして設定した以上、それを乗り越えられなかったら敗北です。

しかも、(無所属などを除けば)結果的には獲得議席は47議席(自民39、公明8)に留まったわけですから、「50議席以下」ですので、常識的には「敗北」です。道義的に考えて、石破首相を含めた自民党現執行部が引責辞任すべき筋合いのものです。

ただし、過去には参院選で敗北しても引責辞任しなかった総裁もいます。

2007年参院選で自民党が37議席しか獲得できずに惨敗したときは、当時の総裁だった安倍晋三総理大臣はすぐには辞任しませんでした。一般に参院選は政権選択選挙ではないとされますが、安倍総理はあくまでも政権を継続しようとしたのです。

こうした先例に従えば、石破首相が辞めないことがそこまで咎められる話なのか、という疑問が浮かぶのも当然の話でしょう。あるいは石破首相が辞めないことを批判している人は、安倍総理が辞めなかったときも同じように批判したのか、という反論を加えたくなるかもしれません。

選挙に弱い石破首相、衆参両院で過半数割れ

しかし、ここでもうひとつ考慮しておかねばならないのは、石破首相が選挙で負けるのはこれが初めてではない、という点でしょう。

昨年9月の総裁選を制し、自民党総裁と首相に就任した石破氏は、さっそくに衆院の解散に踏み切ったのですが、そこで盛大にズッコケて、自民党はまさかの過半数割れに追い込まれました。「政治とカネの問題」を、みずから蒸し返したことが原因でしょう(※著者私見)。

この衆院選の敗北と合わせ、現在、自民党は公明党と合わせても衆参双方で過半数を失っているのです。

これが、2007年のときとの最大の違いでしょう。

(※余談ですが、「石破氏が選挙に弱いのではないか」、という意味では、6月の都議選で自民党が惨敗しているという点も参考になるかもしれません。都議選はあくまでも地方選ではありますが、東京都は日本最大の自治体であるため、自民党にとっても極めて重要な選挙だったはずですが…。)

そして、この「石破氏が選挙に弱い」という実績は、それだけで自民党にとっては石破氏に辞めてもらわなければならない理由でもあります。

というのも、おそらくそこそこ高い確率で、さほど遠くない未来に衆院解散総選挙が実施されるためです。

そもそも石破政権のままの状態で通常国会が召集されたとしても、自公は衆参双方で過半数を失っているため、政権側が予算や法案を通したりすることが難しく、早晩、国会運営に行き詰まってしまいます。

政策協力?連立拡大?解散?全部無理です

こうした局面を打開するためには、自公側としては①昨年のように、政策に応じて騙し騙し他党との連携を模索する、②連立を拡大する、③衆院を解散して有権者の信を問う、のいずれかしか選択肢がありませんが、少なくとも①、②については困難です。

令和7年度予算案については国民民主党、日本維新の会の双方を手玉に取るような交渉を行い、とくに国民民主党とは「3党幹事長合意」まで取り交わしておきながら、その内容は現時点に至るまで実現しないなど、約束を破ってしまいました。

想像するに、少なくとも国民民主党が自公両党(というよりも「石破政権」)に対し協力する可能性は非常に低く、自公に手を貸すとしたら維新くらいしか考えられませんが、その維新も前原誠司氏が共同代表を辞してしまったため、自公に協力するかどうかは非常に微妙です。

このため、国民、維新両党が政権運営に協力しなければ、自公側は事実上、ほぼ政権運営ができなくなってしまう可能性が高いのです。

また、解散総選挙をするにしても、選挙に極端に弱い石破体制のままだと自公側には壊滅する未来しか見えません。

自然に考えて、自民党内では石破総裁を引きずり降ろさなければならない理由があるのです(※もっとも、今回の党則第6条第4項の臨時総裁選が不成立となれば、それはそれで自民党の選択ですので、部外者の立場としてはこれ以上同党に申し上げることはありませんが…)。

私心の塊が「私心持たず」

いずれにせよ、自然に考えて、石破首相はもうこれ以上政権運営をすることはできません。

ただ、石破首相といえば参院選後に、「私心を持たず、将来のために身を滅してやる」などと述べたことが知られています。

石破茂首相「私心持たず将来のため身を滅する」 NHK番組出演

―――2025年7月26日 20:06付 日本経済新聞電子版より

石破氏がなぜ、ここまでの状況で政権にしがみついているのかについては定かではありませんが、一説によると、8月15日(ないし9月2日)に、内閣総理大臣としての地位に基づいて自身の「戦後80年談話」を出すためではないかとの指摘もあります。

もしそうだとしたら、まさに「私心の塊」そのものでしょう。

ただ、石破氏の発言などを丹念に追いかけていくと、やはりこの人物、日本語の使い方がおかしいのではないかとしか考えられない局面が多々あることに気づきます。

「責任」の使い方がおかしい

その一例が、「責任」です。

たとえば8月8日の両院議員総会でも石破首相は冒頭で、「引き続きこの日本国に責任を持つ」と述べています。

自民党、総裁選の前倒し検討 所属議員らの賛否問う手続きへ

―――2025年8月8日 14:45付 日本経済新聞電子版より

石破総理「引き続き日本国に責任を持つ」自民・両院議員総会

―――2025/08/08 18:16付 Yahoo!ニュースより【ABEMA TIMES配信】

この「責任を持つ」という表現、なかなかに難解です。日本語では、「責任を」、と来れば、「取る」という動詞が対応するケースが多いように思えるからです(著者私見)。

選挙で負けた以上、いわば、有権者からは「お前じゃダメだ」と宣告されたのと同じようなものですから、潔く責任を取って辞めるのがスジでもあります。

しかし、『石破首相が居座りたければ自公維連立くらいしかない?』などでも取り上げたとおり、石破氏は「首都直下型地震や南海トラフ、自然災害、史上最も厳しい安保情勢」といった諸情勢に照らし、政治空白を作らないために辞任せず続投する、と述べていることを忘れてはなりません。

これも奇妙です。

いつ来るかわからない自然災害に備えるため、と言い始めたら、いったん首相に就任したら辞められない、という理屈になりかねませんし、有権者の信を得ていない首相の下で大災害が発生すること自体が大きなリスクでもあるからです。

ここからは自民党の問題…まだ佳境ですらない

少し厳しい言い方かもしれませんが、石破首相はやはり、「引き際」に関する判断を、完全に誤ってしまったといえますが、これは有権者の信を得ていない首相に居座られる有権者の側にとっても迷惑であるとともに、石破首相の政治家としてのキャリアの終焉を意味するのではないでしょうか。

ただ、それ以上に注目しておきたいのは、石破首相の「おかしな日本語」から垣間見えるのは、「間違っても首相に選んではならなかった」禁忌を選んでしまったという自民党の重過失です。

このように考えると、ここから先はもう自民党の問題です。

自ら身を引くことを拒絶し続けてきた石破首相を、まずは自民党が辞めさせることができるかどうか、そして石破首相の後任に少しでもマシな総裁を選ぶことができるかどうか―――。

自民党にとっての試練は、まだ佳境を迎えてすらいないのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (32)

  • 日本語の使い方がおかしいのではなく
    言葉を使う目的がおかしいのです。
    言葉は相手に自分の考えや主張、思いを伝える道具です。
    彼はその場の状況において一見正論と思える耳障りの使い方がおかしいのではなく
    言葉を使う目的がおかしいのです。
    言葉は相手に自分の考えや思いを伝える道具にすぎません。
    彼はその場の状況において一見正論と思える巧言を弄しているだけでの事です、そこに自分の主張や思いはありません。
    要は蓮舫ってることです。

    • すみません、日本語がおかしものを投稿してしまいました。
      4行目から6行目迄ダブってしまいました。

    • > 要は蓮舫ってることです
      どちらかと言うと、李在明の方が近い気がする

  • >まだ佳境ですらない
    しかし、これからは、自民党の問題ですらないのでは?
    自民党内の権力闘争(コップの中の嵐)だと捉えることができるのだろうか?
    党のトップたる総裁をやめさせようとするグループと、総裁を守ろうとするグループの闘争で、その結果がどのようになろうとも、その後、ノーサイドだよねとか言って収まるのだろうか(有権者がどのように判断するか)?
    かつて石破氏が総裁に「やめろ」と言って党を追い出されたように、双方、覚悟を持っている(持たざるを得ないことに気づく)だろう。
    経過を見ていると、貴サイトご指摘の党則第6条第4項に両院議員総会で、ようやっとたどり着いたところを見ると、それまでは、パフォーマンス・ガス抜きしてたというような甘い反石破派で、覚悟は、今現在は持っていなさそう。

  • 須藤元気氏や山尾志桜里氏を公認して国民の非難にさらされた結果、国民民主党は山尾氏の公認を取り下げて何とか参院選に勝つことができました。これを自民党に当てはめるとどうでしょうか。
    石破総理とそれを支持した多数の議員はいまだ自民党内で健在であり、たとえ高市氏が総裁に選ばれても彼らの公認を取り消すようなことは不可能です。
    総選挙の比例は政党名を書くしかありませんが、「自民党」と書いた場合に石破支持者の当選をアシストする確率は相当高いと言わざるを得ず、そのような場合、有権者は石破支持者(緊縮派)が絶対組めない「国民民主党」や「参政党」に投票して彼らの勢力を伸ばそうと考えても不思議ではありません。
    現状ではかつて積み上げてきた自民党への国民の信頼は大きく損なわれており、たとえ総裁を高市氏に交代しても直ぐには回復不可能ではないでしょうか。

  • 目指す高見の違いでしょうか?

    歴代総理⇒政権を執る
    石破総理⇒政権を取る

    まさに、「総理の椅子に居座る!」のが彼の本懐。
    言行不一致は、自分ファーストの為せる業(わざ)。
    ・・・・・

    (彼には通じない)
    麻生:いつまで、総理に居座るんだ!
    石破:え?総理の椅子・・割らないよ!
    ・・。

  • 再度総裁選に立候補して、はたして20人の推薦人が集まるのか?。

    観てみたい!、再総裁選ー>新総裁誕生ー>それでも首相は辞めない、からの

    内閣一部大臣の辞職ー>石破さんの大臣兼務

    新内閣のひな壇写真は、スカスカ。

    • (あえてこの表現で)他派閥に推薦人の名義貸しを依頼するとして
      自派閥と森山派の他に話を聞いてくれそうなのは ‥ 岸田派くらい?
      また岸田派か! いい加減にしてほしいわもう! 貸しそうなのがまたなー

  • なんの政策も持ってない立憲も
    内閣不信任案出して存在感示す絶好のチャンスだが
    野田グダも石破ネバと同等の存在
    どちらも共にジリ貧党だ
    構成議員たちあせるばかり
    トップが腐ればみな腐る

  • かなり昔から石破議員とK国社会との類似性を何となく感じていました。
    K国の大統領は熾烈な大統領選挙を制すると前大統領やその親族など関係者を牢獄に放り込んだりすることで社会的更には自発的に生物的に始末する事が多いことを鈴置さんが指摘していますが、その辺のAll or Nothing心情まで類似しているのでは?と思ってしまいました。
    自民党総裁や首相の座を降りたら俺は社会的だけでなく生物的に終わる。そう本気で思っていても不思議はない気がします。

    • でも、実際総理を辞めたら社会的には終わりそうですね。
      自業自得ですが。
      もしかしたら、それぐらいは理解出来てるから辞めないのかも。
      衆院選で辞めてたら良かったのに。
      多分、実力を過大評価して 自分が総理で実力をみせたら支持率爆上がりだと考えて居座り続けたのかも。
      そういう夜郎自大なとこも、あの国のメンタリティに似てるかも。

  • それにしても自民党189名の国会議員はとんでもない人物を総裁にしたもんですね。因みに、先の総裁選の石破さん推薦人は下記の方々だそうです。多分、今でも、この方々は石破さんを自民党総裁、日本国総理大臣にとって、余人をもって代えがたいとっても相応しい人物だ‼️と、心底思っておられるのでしょうか?はてさて、この連中にどう責任を取らせますかね?比例の議員さんも4割ほどいらっしゃいますが、選挙区、比例区ともに、選挙にめちゃくちゃ強かった安倍元総理のおかげて当選された方も多いのではないでしょうか?と、思ってしまいました。この連中、恩を仇で返しまくった極悪人と言ってしまったら言い過ぎになってしまいます。かね?

    <私に言わせりゃおろかな推薦人>
    【衆院】★岩屋毅(無派閥、大分3)、赤沢亮正(無派閥、鳥取2)、泉田裕彦(無派閥、比例北陸信越)、伊東良孝(二階派、北海道7)、小里泰弘(無派閥、比例九州)、門山宏哲(無派閥、比例南関東)、平将明(無派閥、東京4)、橘慶一郎(無派閥、富山3)、田所嘉徳(無派閥、比例北関東)、谷公一(二階派、兵庫5)、冨樫博之(無派閥、秋田1)、長島昭久(二階派、比例東京)、細野豪志(二階派、静岡5)、村上誠一郎(無派閥、愛媛2)、八木哲也(無派閥、愛知11)、保岡宏武(無派閥、比例九州)
    【参院】青木一彦(茂木派、鳥取・島根)、藤井一博(無派閥、比例)、舞立昇治(無派閥、鳥取・島根)、山田俊男(森山派、比例)

    • ふと思ったのですが、あの189人も悪いけど、推薦人を貸し出したやつも悪いのでは?
      絶対に総理になれないとたかをくくったにしても、推薦人さえいなければ、総裁選にさえ出れなかったのに。

  • 日本語の使い方の問題もあるのかもしれませんが、アメリカに80兆円贈与する合意をしたのであれば、頭がおかしいでしょう。投資ですと言ってごまかそうとしていますが、政府保証をつけた瞬間に、全責任が日本となり国民の税金が投入されるということです。とっとと合意を破棄して関税交渉をやり直さないと大変なことになります。自民党。

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