本格的なSNS時代を迎えるなかで、政党も政治家も、SNS対応を誤ると「炎上」するというリスクがますます高まっています。SNSで「炎上」するからには、多くの場合、ちゃんとした理由があるのであり、その理由をきちんと認識し、しっかりと分析することで政策に反映させていくという努力を、今後はひとつひとつの政党・政治家がしっかりと行わなければなりません。それができる政党・政治家が生き延び、そうでない政党・政治家は今後、SNS時代の選挙に耐えられずに順次落選していくだけの話です。
SNSの社会的影響力の急上昇
当ウェブサイトではこのところ何度となく指摘していますが、おそらく若年層・中年層を中心に、昨今、インターネット―――とりわけSNS―――の社会的な影響力が急上昇しています。
わかりやすいのが、『情報通信白書』などにも転載されている、総務省がほぼ毎年公表しているメディアの利用時間に関する調査です。
「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」の公表
―――2025/06/27付 総務省ウェブサイトより
これは東京経済大学コミュニケーション学部の北村智教授、東京大学の橋元良明名誉教授、青山学院大学総合文化政策学部の河井大介助教との共同研究形式で(著者が確認した限りは)少なくとも2013年以降毎年公表されているものです。
これによると2013年時点だとどの年代においてもネット利用時間はテレビ(リアルタイム、録画)、新聞、ラジオの合計利用時間を下回っていましたが(図表1)、2024年時点だとオールドメディアの利用時間が急減し、40代以下ではすべてネット利用時間と逆転されてしまっています(図表2)。
図表1 平日の年代別メディア利用時間(2013年)
図表2 平日の年代別メディア利用時間(2024年)
(【注記】なお、元データによると2023年分までは「全年代」は13~69歳までのものを意味していたが、2024年分以降はこれに70代を加えた数値が「全年代」として計上されているため、グラフ上は両者を峻別している)
テレビはすでに高齢者の娯楽:影響力消滅は時間の問題
いかがでしょうか。
すでに10代から60代までの平均値で見て、ネット利用時間がオールドメディア利用時間を完全に上回っていますし、60代もネット利用時間が近年、急速に増えていて、テレビ利用時間とネット利用時間が逆転するのも時間の問題かもしれません。
そして、テレビなどのオールドメディアは「不動の70代」により支えられており、若年層からは相手にされていないことがよくわかります。
著者自身は、普段使用するメディアと投票行動は密接にリンクしているとする仮説を持っているのですが、実際にメディアが実施した世論調査で見ても、自民党や立憲民主党などに投票している層は高齢者に極端に偏っていることが知られています(『オールドメディアと高齢層…「取り残される」投票行動』等参照)。
わかりやすいのが先日の参院選における東京都の得票状況でしょう。
東京都(定数6議席)では国民民主党が2議席、自民党と公明党と参政党と日本共産党が1議席ずつ獲得し、これとは別に参院選と同時に実施された任期3年の補選枠の7位に立憲民主党が滑り込んでいます。
若者と高齢者で投票行動が全く異なる
ところが、NNNウェブサイトに掲載されている『zero選挙出口調査』の東京選挙区データによれば、年代により投票行動が大きく異なっていたことが判明しています。
たとえば「18~19歳」の括りだと、国民民主党の2氏が「ワン・ツー・フィニッシュ」で上位を独占し、日本保守党が3位、参政党が4位、5番目に日本共産党、6番目が立憲民主党の塩村あやか氏、そして7位に滑り込んだのが無所属の平野雨龍氏でした(図表3)。
図表3 2025年参院選出口調査・東京選挙区(18~19歳・敬称略)
| 候補者名 | 所属 | 得票率 |
| 1位:奥村 祥大 | 国民 | 16.1% |
| 2位:牛田 茉友 | 国民 | 14.5% |
| 3位:小坂 英二 | 保守 | 8.0% |
| 3位:さ や | 参政 | 8.0% |
| 5位:吉良 佳子 | 共産 | 7.2% |
| 6位:塩村 あやか | 立民 | 6.4% |
| 6位:平野 雨龍 | 無所 | 6.4% |
(【出所】『zero選挙出口調査』データをもとに作成)
そして、現実にはトップ当選だった自民党の鈴木大地氏は、10代に限れば立憲民主党の奥村政佳氏と並ぶ9位でした。つまり、仮に選挙が10代の有権者だけで実施されていたならば、自民党は東京選挙区で1議席も獲得できなかったのです。
これに対し、70代以上については、この10代とはまったく違う投票行動をとったようです(図表4)。
図表4 2025年参院選出口調査・東京選挙区(70以上・敬称略)
| 候補者名 | 所属 | 得票率 |
| 1位:鈴木 大地 | 自民 | 17.5% |
| 2位:吉良 佳子 | 共産 | 13.8% |
| 3位:川村 雄大 | 公明 | 10.1% |
| 4位:塩村 あやか | 立民 | 9.8% |
| 5位:武見 敬三 | 自民 | 9.7% |
| 6位:奥村 政佳 | 立民 | 8.1% |
| 7位:さ や | 参政 | 5.1% |
(【出所】『zero選挙出口調査』データをもとに作成)
これによると圧倒的な支持を得たのは自民の鈴木大地氏で、10代だと9番目の支持しか得られなかった鈴木氏が、70歳以上の高齢者層だと17.5%もの人から支持されているのです。
また、共産党のほかに公明党も上位に入っており、自民党は鈴木氏以外にももう1名が、立憲民主党も2名がそれぞれ当選し、参政党のさや氏は7位に滑り込んでいた、という計算です。
なんとも鮮烈ですね。
自民、立民などでSNSが課題に?
いずれにせよ、70代以上は典型的な「テレビ層」であり、テレビなどオールドメディアが報じた内容を鵜呑みに信じて投票する人たちが多い、というのが著者自身の現時点における仮説ですが(この仮説はかなりの程度正しいと思います)、話はそれだけではありません。
こうした「テレビ層」の人たちは、おそらく今後数回の国政選挙で順次、影響力を喪失していくでしょう。
そもそも60代においてもネット利用時間が急増しているのに加えて、現在70歳以上の人たちも、おそらくその半数前後が今後10年のうちに「選挙権を失う」からです(なぜ「選挙権を失う」のかについては敢えて述べませんが)。
こうしたなかで、少し気になったのが、こんな話題です。
自公・立民、参院選総括「SNS強化」に限界 公約是非の評価乏しく
―――2025年8月3日 19:30付 日本経済新聞電子版より
日経の記事によると、自民党や立憲民主党、公明党などが参院選を総括するにあたり、SNSでの発信の在り方の改善策を検討する、といった方向性を打ち出しているのだとか。
本末転倒と言わざるを得ません。
選挙権を行使するにあたり、とりわけ若年層は新聞・テレビよりもSNSを重視することはほぼ間違いないと考えられますが、何もしないで名前を連呼する、減税を求める有権者の意見をポピュリスト呼ばわりする、といった行動をとっていれば、SNSは逆効果となります。
とある候補者の「炎上案件」
選挙期間中ということもあり、当ウェブサイトでは紹介しませんでしたが、実際に参院選の投票直前にはとある候補が次のように話す内容がSNSで拡散されたことが知られています。
「年金の保険料を上げるな、保険料は絶対に上げるな、それから消費税はゼロにしろ、そういうのをひとつひとつ、ただ叫んでいるだけ。それによって実際に人口の減少に対応して、どうやって社会の活力を作るのか、経済の成長を継続させるのか。こういう意見がまったくないんですよ」。
「たとえSNSのようなメディアが出てきたとしても、この国の民主主義をしっかりと守り抜くという覚悟が本当に必要です」。
あくまでも個人的な感想ですが、本当にこの候補はSNSを舐め腐っているようにしか見えませんし、また、「落選すべくして落選した」というのが正直なところではないかと思います。
この際、各政党の皆さんにお伝えしておきたいのですが、正直、SNS対策をしてもあまり意味はありません。
政治家の皆さん、政党の皆さんは、普段からのSNSを通じた情報発信が大切なのであり、また、せっかくSNSを使っているのならば、インフルエンサーと呼ばれる人たちが何を発信しているのかを情報収集・分析し、政策に活かしていくべきではないでしょうか。
ちなみに山手線の駅名を関した怪しい自称会計士の場合も、いくつかの政党の国会・地方議会議員(または元職や立候補予定者など)の方々からフォローしていただいているようですが、そうであったとしても、批判すべきところは遠慮なく批判させていただいています。
なかには、著者自身がとある政党を批判したところ、その政党所属の国会議員からフォローを解除されることもあるのですが、それらについては正直、勝手にすれば良いと思います。
しかし、SNSで「炎上」するからには、多くの場合、ちゃんとした理由があるのであり、その理由をきちんと認識し、しっかりと分析することで政策に反映させていくという努力を、今後はひとつひとつの政党・政治家がしっかりと行わなければなりません。
それができる政党・政治家が生き延び、そうでない政党・政治家は今後、SNS時代の選挙に耐えられずに順次落選していく―――。
そういう時代がすぐそこまで来ていることを、改めて指摘しておきたいと思う次第です。
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時には訴えられるレベルの反ワクデマをSNSで飛ばして炎上を繰り返している野党議員がいますが、明らかにSNSの使い方を間違えているのに、何故しぶとく生き延びているのでしょうか?
SNSを駆使すれば、組織力のない(選挙)候補でも、組織力のある候補と選挙戦を戦うことが可能であるとすれば、今後は組織力のある(SNSを使いこなせない)候補が、どうやってSNSを駆使する候補と戦うかが課題になるのではないでしょうか。
70代に支えられる与党とのことですが、私は71ですが、テレビも新聞も見なくなって15年以上経ちます。私の知人、友人、後輩(60代)も殆どOLD MEDIAは見ていません。まあ、皆さんどちらかというと中道右派という感じですが、年齢というより職種に依存するほうが大きいのかな?という気がします。どうも、個人的な意見ですが、技術系の人間よりも文科系の人のほうが左向きの人が多く、OLD MEDIAが好きなような気がします。あくまでも私見ですが。
私も直感的には思うところもいろいろあります。
6月頃にこんな興味深い記事がありました。
東大教員に学術会議に対する見解を問うたところ、文系と理系で傾向がくっきり分かれたそうです。
https://shinjukuacc.com/20250607-00/#comment-360283
https://shinjukuacc.com/20250614-00/#comment-360685
この手の話でいつも付け加える一言を忘れていました。
あくまで傾向であって個人のことは別だと思います。
私は68です。文系ですが新聞は取った事はありません。新宿会計士氏を読んでからはテレビも見ません。兄は一流大学の理系ですが、石破と同じ"韓国がいいと言うまで謝る"と言っています。縁を切りました。
良い大学出た方の方が柔軟性がない様に感じます。私は四流大学出身なので相手の意見を聞いてから考えます。
SNSの醍醐味は、相互発信を駆使した「意思の疎通」にあります。(ブロック厳禁)
成果が出ない党のは、「そう仰る・ネットワーク・システム」なんですよね。(上意下達)
・・。
昨日よりSNSに上がっている話題ー
「広島の平和記念式典で石破は居眠りをした……か?」
https://mainichi.jp/articles/20250806/k00/00m/010/312000c
石破氏の居眠りは、先日の自民党の集会や国会審議中等しばしば目撃されており、問題視されてきました。にもかかわらず、反省する様子もありません。
そこで気になるのが、石破氏は睡眠時無呼吸症候群を患っているのではとの疑い。これは、主に肥満によって首の周りに脂肪がつくことが原因となる“閉塞性睡眠時無呼(OSA)”と、脳や神経などの病気が原因となる“中枢性睡眠時無呼吸(CSA)”に分けられるそうです。
自民党幹部をはじめ諸有識者からの助言・勧告を蹴散らして総理続投を主張されるならば、是非ともご自身の健康状態をチェックされてはいかがでしょう。世界の首脳が集まる会議で居眠りをされては、我々日本人はたまったもんではありません。
「社会の活力を作り経済の成長を継続させる意見」が「消費税ゼロ」のつもりでおりました。当該議員様にとっては、私のような小市民の意見など意見というに値しないのでしょう。
一体どこの……と思ったら所謂大物議員だったでござる。サクっと調べても1月の(結構ツッコミ所多々な)代表質問に於いてすでにSNSを敵視していたようで。キャスター出身となるとさもありなんといったところでしょうか。
そういや黙ってりゃ良いのにまた別の大物様も「暫定税率下げたいなら財源示せ」とかやってましたねぇ。これは社会の活力・経済成長に資するご意見という事なのでしょうか。
「財源を示せ」
という開き直りも、聞き飽きましたよねえ。
高橋洋一さんの言い分では、そういうマヌケな役人には
「総合調整しろ!」
(予算内に収まるように他を削れ)
と政治家から指示をすればよいだけ。
調整に汗をかくのは役人の仕事、とのことですね。
でも役人は意地悪だから、総合調整しろ!と言ってきた議員の地元への予算だけ先に削ったり、陰険陰湿な仕返しをするかもしれませんな。
>政治家の皆さん、政党の皆さんは、普段からのSNSを通じた情報発信が大切なのであり、
SNSは拡声器じゃなく鏡。地が出ます。
地が出ていい人困る人いろいろいると思いますが、お取り扱いにはくれぐれもご注意のほどを。
間違ってもバ○発見器に検出されませぬよう。