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    Categories: 金融

邦銀が十年近く連続で国際与信額トップ=国際決済銀行

当ウェブサイトで最近、ほぼ四半期ごとに取り上げている話題が、国際与信統計(CBS)に関するデータです。現地時間7月31日に公表された直近データによると、2025年3月末時点で見て、(最終リスクベースで)邦銀の国際与信は39四半期連続で世界最大だったことが判明しました。ただし、CBS自体は中国発の国際与信などのデータが欠落しているなど、統計としての限界もあります。

今回も出てきたCBS(国際与信)データ

当ウェブサイトで最近、おおむね3ヵ月に1回以上の頻度で取り上げる話題が、国際決済銀行(BIS)が3ヵ月ごとに公表している『国際与信統計』、あるいは『CBS』と呼ばれる統計データです。

当ウェブサイトを長らくご覧の方であれば、英語の “Consolidated Banking Statistics” 、そしてそれを略した『CBS』という単語をときどき見かけることにお気づきでしょう。これは、国境を越えた資金の貸し借りの状況を統一的な尺度で統計化したものです。

CBSは世界の最大31の国・地域に本店を持つ銀行の国際的な与信状況を集計しており、いわば、これら31の国・地域からどこの国に資金が向かっているかを統一的に把握することができるため、大変に有用性が高いものです(そして、この31ヵ国・地域のことを、CBSでは「報告国」と呼びます)。

CBSの限界を知ったうえでうまく活用する

ただし、このCBSについてはいくつかの難点もあります。

この31の「報告国」に中国やロシアが含まれていない

⇒とくに世界第2位の経済大国とされる中国からどこの国に対しどれだけの与信がなされているのかを知ることができない

この31の「報告国」にケイマン諸島が含まれていない

⇒世界から巨額の与信を集めていて、邦銀にとっても関係が非常に深いケイマン諸島から資金がどこの国・地域に向かっているのかを知ることができない

この31の「報告国」のすべてが統計を出しているとは限らない

⇒報告国に含まれているにも関わらず、データの一部または全部が存在しない国・地域がある(例:香港、シンガポールなど)

このため、「報告国」から世界各国に流れている金額についてはCBSによりある程度集計することができるのですが、「報告国」以外の国から世界各国に流れている金額については、CBSを使って調べることはできません。

CBSだけだと、国際的な資金の流れを十分に解明することはできないのです。

以上の限界はあるものの、基本的にCBSの「報告国」には、(中国やオフショアを除くと)国際的な金融市場における存在感が大きい国ばかりであり、したがって、CBSによって国際与信の状況を、かなりの程度、正確に知ることができます。

日本は約10年連続して世界最大の債権国に!

早速ですが、現地時間7月31日付でBISが公表したCBSの最新データ(2025年3月末時点のもの)をもとに、「債権国の一覧」を作成してみましょう(図表1)。

図表1 最終リスクベース・債権【債権国側】(全報告国集計・2025年3月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:日本 5兆3597億ドル 15.30%
2位:米国 4兆8817億ドル 13.93%
3位:英国 4兆8040億ドル 13.71%
4位:フランス 4兆0137億ドル 11.45%
5位:カナダ 2兆8597億ドル 8.16%
6位:スペイン 2兆3451億ドル 6.69%
7位:ドイツ 2兆0197億ドル 5.76%
8位:オランダ 1兆7180億ドル 4.90%
9位:イタリア 1兆0563億ドル 3.01%
10位:スイス 9033億ドル 2.58%
その他 5兆0796億ドル 14.50%
報告国合計 35兆0408億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

2025年3月末時点における国際与信総額は35兆0408億ドルで、これはCBSの過去のデータで見て最大です。そして、そのなかでも最大の債権国が、なんとわが日本です。日本の銀行は単独で5兆3597億ドルもの資金を海外向けの投融資に充てているのです。

ちなみにCBSで日本が世界最大の債権国となるのは、2015年9月以来、じつに39四半期(≒約10年)連続のことであり、2番目が米国、3番目が英国で、それぞれギリギリ5兆ドルに届かないにせよ、日本に続いて世界最大規模の債権国であることがわかります。

上位にEU・ユーロ圏が続くのは統計の性質上当然

一方で、4位のフランス、6位のスペイン、7位のドイツ、8位のオランダ、9位のイタリアは、いずれも欧州連合(EU)加盟国かつユーロ加盟国です。おそらくこれらの国々が国際与信統計で上位に入る理由のひとつは、ユーロ圏内の与信がそれなりに多いことが原因であろうと推察されます。

つまり、上位にEU、ユーロ圏などが続くのは、統計の性質(おもに先進国しかデータを出していない、EU内では経済・金融市場が進んでいる、など)から考えて当然のことでもあるのです。

また、カナダやスイスのように、経済規模が比較的小さいわりに金融大国、という事例もあります。5位のカナダは隣国である米国向け、10位のスイスも近隣のユーロ圏諸国向けの与信がそれなりに多いことがランクインの理由ではないでしょうか。

なお、「世界第2位の経済大国」であるはずの中国が与信国トップテンに入ってきていませんが、その理由は冒頭でも指摘したとおり、中国自体が「報告国」に入っていないためです。中国から外国への貸付額がどの程度あるのかについては、正直、CBSのデータで知ることはできません。

このため、中国というデータが入ってきたときに、正直、どの程度の存在感があるのかは知りたいところです。

ただし、金融市場に関するさまざまな推計資料、あるいは後述する「債務国側のデータ」などから判断するに、中国発の国際与信額は、図表1のトップテンに入る可能性はあるにせよ、邦銀などと比べれば、そこまでのプレゼンスはないのかもしれません(といっても、このあたりは憶測の域を出ませんが…)。

債務国側は米国が圧倒的存在感

さて、おカネを「貸す側」のランキングはよくわかったのですが、次に気になるのが、おカネを「借りる側」のランキングでしょう。これを図表化しておくと、図表2の通りです。

図表2 最終リスクベース・債権【債務国側】(全世界分・2025年3月末時点・上位10ヵ国)
債務国 債務額 構成割合
1位:米国 9兆5297億ドル 27.20%
2位:英国 2兆3036億ドル 6.57%
3位:ケイマン諸島 1兆8192億ドル 5.19%
4位:ドイツ 1兆7707億ドル 5.05%
5位:フランス 1兆6679億ドル 4.76%
6位:日本 1兆3221億ドル 3.77%
7位:イタリア 9249億ドル 2.64%
8位:ルクセンブルク 8488億ドル 2.42%
9位:中国 8371億ドル 2.39%
10位:香港 8286億ドル 2.36%
その他 13兆1881億ドル 37.64%
合計 35兆0408億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

なんとも興味深い図表です。

合計欄が35兆0408億ドルで図表1と一致しているのは同じデータを債権国側と債務国側から見ているからですが、それはともかくとして、債務国側で目に付くのが米国の圧倒的な存在感でしょう。米国だけでこの35兆0408億ドルのうちの27%に相当する9兆5297億ドルを借りているのです。

外国から投資資金を集めるのが上手な国と見るべきか、それとも米ドルという「基軸通貨」の強みと見るべきかはともかく、全世界からの国際与信の4分の1強という資金を集めているというのも印象的です。

ケイマン諸島は米日からカネを借りる

また、米国ほどではないにせよ、世界中からおカネを集めている国が英国とケイマン諸島です。

このうち英国は歴史的にオフショア金融センターである香港とのつながりが深く、また、英国はアジア向け(とくに香港、中国、シンガポール、インドなど)に対する融資の出し手でもあります。そんな英国は世界中からおカネを借りる立場でもある、というのは興味深いところでしょう。

ただ、ケイマン諸島については、借入額はたしかに巨額ですが、ケイマン向けの与信の出所は、大半が米国か日本であり、この2ヵ国だけでケイマン向け与信の約8割近くを占めています。想像するに、ケイマンSPCを使った投資スキームに、日本の機関投資家がかなり投資しているのではないでしょうか。

また、4位以降はドイツ(4位)、フランス(5位)、イタリア(7位)、ルクセンブルク(8位)などユーロ圏諸国の顔ぶれも目立ちますが、これは図表1で見た債権国側のデータでもユーロ圏諸国が顔を出していたのと同じ理由に基づくものでしょう。

ただ、世界最大の債権国だったはずの日本は債務国側では6位で、外国から借りている金額も1兆3221億ドルと、「1兆ドル」の大台は超えているものの、邦銀の債権の金額と比べると債務の額はいかにも少ないように思えます。

もちろん、東京市場がアジアでは香港やシンガポールと並ぶ金融ハブであることは間違いないものの、CBSのデータ上は、日本はおカネを借りる側よりも貸す側で圧倒的な存在感を持っていることは間違いないといえるでしょう。

また、債務国側では9位に中国、10位に香港がそれぞれランクインしていますが、とりわけ中国が「世界第2位の経済大国」とされていることを踏まえると、やはりこの金額はまだまだ少ないといわざるを得ません。

あるいは、世界各国の銀行としても、中国を投融資先と見るのはリスクが高いと認識しているのかもしれませんが…。

北朝鮮向け与信は3765万ドル、ロシア向けは往時のほぼ半額

ちなみに債務国の中でも個人的に気になるのは北朝鮮やロシア、ウクライナといった諸国です。

このうち北朝鮮については債権国側のデータが少なく、図表1や図表2のような体裁の図表はうまく作れないのですが、データによれば2025年3月末時点で「報告国」からの借入額は3765万ドル、うちフランスが400万ドル、アイルランドが2.2万ドル(それ以外は不明)とのことです。

ただ、北朝鮮の場合、西側諸国の銀行からカネを借りるより、自分自身で「ドル紙幣」(?)を印刷したり、保険金詐欺を行ったり、あるいは暗号資産を盗み出したりするなどが主要な産業なのではないか、などと思う次第です。

その一方、ロシアに関しては西側諸国からの借入額が、いまや535億ドルにまで減少しています(図表3)。

図表3 最終リスクベース・債権【債権国側】(債務国:ロシア・2025年3月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:米国 186億ドル 34.81%
2位:オーストリア 133億ドル 24.97%
3位:日本 41億ドル 7.71%
4位:フランス 34億ドル 6.40%
5位:ドイツ 13億ドル 2.42%
6位:韓国 9.6億ドル 1.79%
7位:トルコ 1.6億ドル 0.30%
8位:英国 1.4億ドル 0.26%
9位:スペイン 7708万ドル 0.14%
10位:台湾 4400万ドル 0.08%
その他 113億ドル 21.12%
報告国合計 535億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

ロシアによるウクライナ侵攻直前の報告国からロシアへの投融資額は1052億ドルでしたので、半分近くに減った計算ですし、また、日本はロシアに41億ドルを貸し付けていることになってはいるものの、これらについては現時点で償却・引当済みであろうと考えられます。

ウクライナ向け与信は124億ドルでほとんど増えていない

その一方でウクライナに対する報告国全体からの貸付・投融資は、2021年12月末時点の116億ドルに対し、今年3月末時点で124億ドルであり、融資はほとんど増えていないことがわかります。

この点、仮にこのウクライナ戦争が侵略国であるロシアの敗北に終わり、ロシアの外貨準備やロシア領に眠る天然資源を原資にウクライナ戦後復興が行われるならば、外国の金融機関はウクライナに対し、それなりの額の投融資を実行する、との観測があることも間違いありません。

とりわけ世界最大規模の債権国である日本に対し、ウクライナは多くを期待しているのではないでしょうか。

ただ、金融という世界から見れば、おカネを借りる側にはかなりのガバナンスが必要であり、ウクライナに復興資金を入れるに際しては、金融機関の健全性規制との整合性がかなり大きな問題となるのではないか、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (2)

  • まさかの80兆円、アメリカに贈与という合意を簡単にしてしまうようでは、それぞれの金融機関が頑張っても水泡に帰すということですかね。

  • 皮肉なモノの見方をせれば、
    「黒字=未回収債権」

    寿司屋が出前する。
    つけといて。あいよ。(債権が増える)
    つけといて。あいよ。(債権がまた増える)

    決算日が来て払ってくれたならばよし。
    もし払ってくれなかったら?

    貿易黒字って要するに、
    「日本の労働対価を、未回収」
    という意味ですわな。

    戦後80年間もTOYOTAやSONYをせっせと作ってせっせと貢いで、対価としてジョージワシントンの肖像が印刷してある紙切れを渡されて、そろそろブツに換金しようかな~と思ったら、

    ニクソンショック
    オイルショック
    プラザ合意
    リーマンショック

    と、紙切れの交換レートを何度も何度もガタガタに変更されて、それでもまだ積み上がってゆく紙切れに対して、

    「関税&80兆円もってこい!」
    と来ましたわ。

    やれやれだぜ。