なんと、石破茂首相が居座るそうです。昨日は自民党で両院議員懇談会が行われ、予定を大幅に超過したものの、懇談会後の会見で石破氏は続投を明言。しかし、これに対し笹川博義農林水産副大臣側は両院議員総会開催を求めた議員3分の1以上の署名を29日以降にも提出する構えを示したのだとか。ただ、党総裁を交代させるなら、両院議員総会ではなく、「党則第6条第4項」の手続がおそらく必要です。これは、党所属議員らの過半数の要求で臨時に総裁選を実施することができるとする規定です。
目次
居座り首相の大きなリスク
なんと石破首相まさかの居座り
昨日の『茂木氏「3アウトでケジメ必要」…西村氏もケジメ要求』などを含め、当ウェブサイトにてしばしば取り上げている通り、自民党総裁でもある石破茂首相が果たして辞任するかどうかについては、おそらく多くの有権者が高い関心を払っている論点のひとつではないかと思います。
ただ、結論からいえば、昨日行われた自民党の両院議員懇談会では、石破首相は辞任を拒否し、続投する意向を示したそうです。懇談会自体は午後3時半に始まり、予定を大幅に超過して午後8時過ぎに終わったようなのですが、懇談会後の石破首相の発言を動画サイトで確認すると、こんな具合です。
- ほとんどの方からご発言があり、いろんな意見があった
- これらをよく踏まえて今後適切に判断をして参りたい
- (現時点で続投方針に変わりはないか、との記者の質問に対し)ございません
要するに、辞任拒否です。
これには、おそらく発言を聞いた少なくない国民が、心から驚いたのではないでしょうか。
石破首相だと政権運営が早晩行き詰まる
この点、「参院選で負けたら辞任しなければならない」という法律はありませんし、べつに自民党の党則でも「国政選挙に負けたら総裁は身を引け」、「3回連続選挙で負けたら辞任しろ」、なんてことは、いっさい書かれていません。
しかし、昨年秋の衆院選、今年6月の東京都議選、今月の参院選と、石破首相が率いる自民党が3回連続して大敗を喫したことなどを踏まえると、おそらくもう有権者の審判は下ったのではないかと、個人的には思いますし、また、それに同意する人も多いのではないかと思います。
問題はそれだけではありません。今回の参院選については、現実問題として、石破首相の政権運営が行き詰まるという問題をもたらしているという点も、また、重要な事実です。
衆参両院で自公が過半数割れ
まず、衆院でも参院でも、自民党は連立パートナーである公明党と合わせて過半数を確保していません。このため、予算案を通すにしても、法案を通すにしても、都度、どこかの野党と協議するしかありませんし、極端な話、野党が一致団結すれば、自公の承認なしに法案を通すことができてしまうのです。
現に今年6月の「ガソリン暫定税率廃止法案」は、自公の反対にもかかわらず、野党側の賛成多数で衆院を通過しましたし、当時は参院側で自公が握っていた過半数を現在は失っているため、野党が当時と同じことを今やれば、参院側でも可決されてしまいます。
当然、それらの法案が良いか悪いかは別として、「政府・与党側が想定していないような法案がバンバン通る」といった状態が実現すれば、それだけで国内政治は大混乱に陥ります。
結局のところ、衆参双方で過半数を喪失したという時点で、実務的に政権運営が極めて困難になったということであり、早晩、内閣は立ち行かなくなるのです。
自民党側の対抗措置あれこれ
両院議員総会が開かれる可能性が高まった
では、自民党側はこのまま黙って政権運営が行き詰まるのを、指をくわえてみているつもりでしょうか?
これについては両院議員懇談会後の各議員の動きにも注目点があります。
たとえば笹川博義農林水産副大臣は昨日、懇談会後に記者会見に応じ、両院議員総会開催を求める署名を29日以降にも提出する意向を示したそうです(おそらく提出先は、両院議員総会会長でもある有村治子参議院議員でしょう)。
つまり、28日の両院議員懇談会の場で石破氏があくまでも続投に拘り、辞任に応じなかったことを受け、自民党の有志議員は今後、石破氏を総裁の座から強制的に引きずりおろす手続に移行するのではないか、という動きが読めます。
両院議員総会での総裁解任は(おそらく)不可能
ただし、ここでひとつ、留意点があります。
両院議員総会は一部報道等では「総裁を解任する手段のひとつ」と位置付けられているフシがあるのですが、先週の『石破総裁解任の2つのアプローチ』などでも指摘したとおり、当ウェブサイトとしては、自民党の党則を読む限り、両院議員総会に総裁解任権があるのかは不明、という立場を取っています。
自民党党則第33条第1項には、こんな規定があります。
自由民主党党則第33条第1項
両院議員総会は、党の運営及び国会活動に関する特に重要な事項を審議決定するものとし、特に緊急を要する事項に関しては、両院議員総会の決定をもって党大会の議決に代えることができる。ただし、党大会の議決に代える場合は、構成員の三分の二以上の出席がなければ審議決定することができない。
この党則の規定を読むと、「党の運営」と「国会活動」における「特に重要な事項」を決定することができるうえ、「特に緊急を要する事項」に関しては両院議員総会の決定を党大会の議決に代えることができる、などと規定されています(ただし同第2項において事後的に党大会の承認が必要です)。
ただ、くどいようですが、この両院議員総会で決定できるとされる「党の運営<中略>における特に重要な事項」に「総裁の解任」が含まれている、とまで解釈するには、ちょっと無理があるように思えてなりません。
以前から当ウェブサイトにて述べている通り、両院議員総会にできるのは、せいぜい「党総裁に対する辞任勧告」くらいであって、総裁を辞めさせるためには(これも以前から当ウェブサイトにて指摘している)「党則第6条第4項の手続」を発動するしかないのではないでしょうか。
自民党参議院議員・滝波宏文氏のXポスト
したがって、「自民党総裁を解任するための手続」は「党則第33条第1項に定める両院議員総会」ではなく、「党則第6条第4項に定める臨時総裁選」ではないか、とするのが現時点での著者の見解であり、この理解が正しければ、今から両院議員総会を開いたとしても、正直、あまり意味がない気がします。
自由民主党党則第6条第4項
総裁の任期満了前に、党所属の国会議員及び都道府県支部連合会代表各一名の総数の過半数の要求があったときは、総裁が任期中に欠けた場合の総裁を公選する選挙の例により、総裁の選挙を行う。
そして、この「両院議員総会での総裁解任はできない」とする解釈は、あながち間違ったものではない可能性も出てきました。これについて参考になるのが、同党所属の滝波宏文参議院議員が発した、こんな内容のXへの投稿です。
実際、滝波氏によると、昨日の懇談会で、両院議員総会長の事務方から「第33条(両院議員総会)の決定では(党総裁の)失職を決めることはできない」と説明されたそうです。ということは、党総裁を辞めさせるためには、やはり第6条第4項の手続が必要なのでしょう。
総裁選実施確定ならおそらく石破氏は失職する
では、その具体的な要件は、どうでしょうか。
この第6条第4項手続は、第33条第1項(両院議員総会)の「3分の2の賛成」などと比べ、要件が大きく異なっており、党所属の国会議員全員と各都道府県連代表の総数の過半数が要求しなければ総裁選を実施することができません。
ただ、この規定が発動された場合は、べつに党大会の承認がなくても、確実に自民党総裁選が実施されますし、極端な話、国会議員20人という推薦人を集めることができなければ、現職の石破茂氏だって総裁選に出馬すらできず失職が確定します。
もちろん、推薦人が集まれば、石破首相の総裁選への出馬自体は可能ですが、さすがにここに来て再選するのはかなり難しいでしょう。
この第6条第4項が発動される場合は「総裁が任期中に欠けた場合の総裁公選」のルール、つまり党則第6条第2項が準用されますので、「特に緊急を要するとき」は「党大会に代わる両院議員総会」においてその後任を選任することができるとされます。
自由民主党党則第6条第2項
総裁が任期中に欠けた場合には、原則として、前項の規定により後任の総裁を公選する。ただし、特に緊急を要するときは、党大会に代わる両院議員総会においてその後任を選任することができる。
最短で告示日から6日後に投票した事例もある
では、具体的に必要な期間は、いったいどの程度でしょうか。
『総裁公選規程』第8条第1項によれば、選挙自体は総裁の任期満了の1ヵ月前までに、党本部管理委員会が決定・公表しなければならないとされていますが、「総裁が任期中に欠けたことにより臨時の総裁選を行う場合」に関しては、これが「1ヵ月前までに」、ではなく、「速やかに」、とあります。
総裁公選規程第8条第1項
総裁選挙の施行期日は、総裁の任期満了の一か月前までに(総裁が任期中に欠けたことにより臨時の総裁選挙を行う場合にあっては、速やかに)、党本部管理委員会が総務会の議を経てこれを決定し、公表するものとする。
ということは、「党則第6条第4項」が発動される場合、総裁選は「速やかに」行われる、ということです。
ただし、規程第8条第3項によると、総裁選の告示は「投票日の12日前までに」行う必要があると規定されています。
総裁公選規程第8条第3項
総裁選挙の告示は、党所属国会議員の投票(以下「議員投票」という)の投票日の十二日前までにしなければならない。
ということは、告示してから投票日までは、逆算してどんなに早くても12日以上の日程が必要であり、仮にその「告示日」が8月1日(金)であれば、投票日は最短でもその12日後である8月13日(水)以降である必要があります。さすがに今週中に告示、というスケジュールにも、かなりの無理があります。
しかし、過去にはこの告示から投票日までの期間が短縮された事例もあります。
たとえば2020年8月28日(金)に安倍晋三総理大臣が潰瘍性大腸炎悪化による辞意を表明したときは、自民党総裁選が9月8日(火)に告示され、「党大会に代わる両院議員総会」がその6日後の9月14日(月)に開催されています。
このときは告示から投票までの期間が規程に定める12日ではなく、なぜ6日しかなかったのかについて、党則・党規程上の明確な根拠についてはよくわかりませんが、もしかすると「党大会に代わる両院議員総会」で総裁を引きずりおろす場合は、告示から投票までの期間の短縮ができるのかもしれません。
次のリスクは「首相を辞めないこと」
いずれにせよ、「石破下ろし」をするためには、両院議員総会だけでなく、総裁選実施に向けた「国会議員と都道府県連会長」の過半数の動議がおそらく必要であり、今後の最初の注目点は、この過半数が集まるかどうかではないかと思います。
また、過半数が集まった場合には総裁選が実施されますが、20人以上の推薦人を集めた候補者が何人出てくるかが次の注目点であり、さらにもっと無視できないのが、石破氏以外が新総裁に選ばれた場合に、石破氏が素直に首相の座を降りるかどうか、です。
場合によっては、石破氏がすでに自民党総裁でなくなってしまっているにも関わらず、かたくなに内閣総辞職を拒絶し、自民党(と公明党)が石破茂内閣から閣僚を引き上げたうえで臨時国会の開会を要求し、内閣不信任決議案を提出する、といった展開も考えられなくはありません。
ただ、不信任案を出したところで、自公両党は過半数を割っていますし、他の野党が賛同しなければ不信任案自体が通らない、といった事態も生じますし、石破氏が立憲民主党に電撃移籍し、立民などの支持を得て首相の座に留まる、といった可能性も皆無ではありません(可能性は物凄く低いとは思いますが…)。
「首相が変わらないのに政権交代」という椿事を、もしかしたら私たちは目撃することができるかもしれないのです。
こうした泥沼が予想されるなか、もし自民党が混乱をおそれて石破氏を引きずりおろす手続を諦めたら、どうなるでしょうか。
この場合、自民党にとって最も恐れるべきは、早期解散総選挙が実現した場合に、石破総裁の下で選挙を戦い、昨年衆院選に始まる「3度目の大敗北」を喫することです(6月の都議選を含めたら「4度目の大敗北」でしょうか?)。
このように考えたら、大混乱を覚悟のうえで、自民党はもう石破総裁を引きずりおろすしか方法が残されていないように思えるのですが、いかがでしょうか?
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1 2 3 4 次へ »これで特定都道府県の不買運動とかにならないのは日本人の大人しさ故か。
鹿児島はサツマイモとか焼酎とか。鳥取は…砂丘?
ここに来てマスコミ各社も石破総理は辞めなくていいと強引に誘導する世論調査を出してきましたね。
参院選で民意が示されて10日もたたないのに、辞めろという意見と辞めないでいいという意見が拮抗しているそうです。
戦後の政治史を知っていれば、国政選挙に連敗して続投した自民党総裁はかって一人もいなかったと解るはずですが、だれが辞めなくていいと回答しているのでしょうか?過去の経緯を知らない若者世代かな(失礼)?
森山幹事長は両院議員懇談会で多数議員に辞任を迫られる一方で、世論は続投を求める声も少なくないと「永田町と世論に温度差があるのは面白い現象だ」と嘯きましたが、こういうのをマッチポンプというのでしょう。
そもそも世論調査てのがウソかと。
ナマデータを出したり第三者で検証できる形で背景情報をだしたり、したことないですから。
質問は恣意的かつ誘導的。
質問相手は偏りまくり。
とりま世論調査を装ったメディアの
「願望」
と割りきって取り扱う情報ですね。
>戦後の政治史を知っていれば、国政選挙に連敗して続投した自民党総裁は
>かって一人もいなかったと解るはずですが、だれが辞めなくていいと
>回答しているのでしょうか?
いや、それは全然どうでもいい事でしょ。
自民党内の慣習でしかないのだから。
石破氏が最初の一人になるというだけで。
自民重鎮「事ここに至っては、自らのケジメを考えなさい。」
石破総理「辞任せよという話は無かったので続投する。」
マスコミ「石破総理は自身でケジメをつけるべきだと思いますか?」
回答者 「そりゃそうだろ!」
マスコミ「辞めなければならないとは回答されなかったので続投です。」
こんなとこじゃないですかね……
石破氏って、かなり精神力が強そうですので、自民党総裁を辞めたとしても、総理大臣は辞めない気がします。
10数年前、国難で「これで1年寿命が延びた。」と言った首相がいたとか。
今回はどう見ても、そんなことすら思っていないように見える。
5回の挑戦で、あの鋼のメンタルが鍛えられたのか。呆れを通り越し妙な関心を示してしまう。
懸念なのは、「『”かもしれない” おじさんに』騙される ”カモ” 」かもしれない自民議員。
石破政権の振り出した約束手形は、もれなく空手形(時を稼ぐだけの方便)。信用ゼロです。
彼には、「曖昧さを排除した(解釈の余地のない)ケジメのレジメ」を突き付けることですね。
執行部の面々は、保身のための翻意を厭わない「ふつうのひと(不通の人)たち」だもの・・。
石破総理のなかでは「自分の総理続投には、国民の支持がある」ということになっているのでしょう。(もし、そうなら、参議院選挙で議席を減らすことはなかったはずですが)
蛇足ですが、「政治的課題解決のために、政治的空白を作ってはならない」と言うのなら、どんな時でも(大きい小さいは別にして)政治的課題はあるのですから、いつでも、どうやっても政治的空白は避けられないのではないでしょうか。
毎度、ばかばかしいお話を。
石破総理:「日本人ファーストの勢力を結集して新党をつくる」
まさか。
更新ありがとうございます。
左派系のメディアやノイジーマイノリティ達には応援されていますね。その一事だけで、石破さんに続けてもらうのは日本の為にならないことをが、分かりやすくなっています。
まあ、それ以前から、岸田さん以降の首相には早く辞めてもらえればと、個人的に思っていましたが。
次こそは高市さんを希望します。最近自民以外に投票していましたが、高市さんが総理になってくれれば、自民とチームみらいにしか投票しなくなるかもしれません。
そう思ってるんやけど、維新が強い地域の近くに住んどりますんで、立憲らへんとかち合うんやったら、維新に入れるかもしれへんどすえ。
因みに京言葉は親戚が使いますが、自分は南の端のあたりなので、普通に標準関西弁です。w
>【石破を守る岸田の闇!?】なぜ岸田は石破を守るのか!?【7/26ウィークエンドライブ③】山口敬之×長尾×西村幸祐
https://www.youtube.com/watch?v=n7_oGVe3-Os
民主主義の否定。これは流石に受け入れられない。
懇談会で、石破氏は「国家、国民に対して決して政治空白を生むことがないように責任を果たしていきたい」と述べたそうな。また、懇談会後の記者の質問に続投しましたと返答。
その「ヤメナイッ!」「続投するぅー!」が、すでに政治空白を生んでるですけどねぇ。首相の座にしがみつく "醜い姿" "醜い生き様" をどこまで続けるのでしょう。
最初は眉唾物と思ってましたが、戦後80年談話を発表して歴史に名を残したいって本当に思ってるのかも。