東京都の中古マンション価格が高止まりしている、とする話題は以前から当ウェブサイトにおいてしばしば取り上げてきたとおりですが、ここに来て、東京都内(とりわけ都心部)の賃貸マンションの賃料も上昇し始めているようです。不動産価格と不動産賃料はいわば表裏一体の関係にあること、供給力不足から新築マンションの建設が滞る可能性があることなどを踏まえると、東京都内の現在の不動産価格は必ずしもバブルとは言い切れないのかもしれません。
目次
都心部の中古マンション価格、どう見るか?
少し前の『東京都心部中心に中古マンション価格の上昇傾向が続く』では、公益財団法人東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が毎月公表している統計レポートのデータをもとに、東京都心部などを中心に、依然として中古マンション価格が高止まりしているという話題を取り上げました。
簡単に振り返っておくと、都心3区(千代田区、港区、中央区)や城東地区(江東区、墨田区、台東区、江戸川区など)、城西地区(新宿区、渋谷区、杉並区、中野区)などでは中古マンション価格が前年同月比で10%以上、地点によっては30%近く上昇。
ただ、これらの地区を除けば首都圏のマンション価格の上昇にも一服感が生じており、東京都多摩地区、あるいは埼玉県、千葉県、神奈川県といった東京周辺部などの場合、地区によってはむしろ価格が下落に転じている、といった状況です。
ちなみに東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県における中古マンション市況については図表1のとおりです。
図表1-1 中古マンション成約状況(東京都)
図表1-2 中古マンション成約状況(埼玉県)
図表1-3 中古マンション成約状況(千葉都)
図表1-4 中古マンション成約状況(神奈川県)
不動産価格高止まりの要因は?
これは、不動産投資家という立場の人にとっては判断が難しいところです。
巷間では、とくに東京中心部の不動産価格上昇は中国人などの外国人投資家が主導しているものであり、なかばバブル的なものではないか、といった見方も生じているほどです(一部政治家が最近、しきりに「外国人による不動産取得を規制せよ」、などと言い出しているのも、これと関連しているのかもしれません)。
ただ、著者自身としては、もちろん、都心部のマンション価格上昇はややバブルめいているという懸念を持っている反面、とりわけ利便性が高い東京都心部では、マンション価格はなかなか下がらないとも考えています。
その理由の最たるものが、供給力不足です。
現時点での著者自身のイメージで申し上げるならば、東京を含めた首都圏、あるいはそれ以外の全国各地で現在、不動産物件を建設するコストが急騰しているフシがあるのです。
ウクライナ戦争などを受けた世界的な資材価格の上昇もさることながら、とにかく労働者の確保が難しいという状況にあり、現場で働ける人の人件費が急騰しているのに加え、コストを負担しても建物自体を建てられる職人がいないのが現状ではないでしょうか。
これについては現時点で確たるデータとしてはまだお示しできませんが、少なくとも複数の不動産業者や投資ファンド関係者などからそのような話が耳に入ってきますし、また、都心部を歩くと「建築計画」の看板が立ったままの空き地を見かけることも増えています。
想像するに、都心部の価格上昇はやや投機的な動きも入っていますが、とりわけ建築業界を中心とする「絶対的な供給力不足」という意味では、日本の不動産価格は今後、とりわけ利便性が高い地域を中心に高止まりする可能性が高いのではないかと思うのです。
では賃貸市場はどうなっているのか
さて、前述の通り、東日本レインズは不動産の売買物件に関する成約データなどを毎月公表しているのですが、これとは別に本稿ではもうひとつ紹介しておきたい話題があります。
それは、東日本レインズが3ヵ月に1回公表している、『首都圏賃貸取引動向』、つまり賃貸マンションや賃貸アパートに関するデータです。その最新版(2025年4~6月期)が東日本レインズのウェブサイト『マーケットデータ2025年』のページに公開されていました。ファイル自体はPDF形式で閲覧可能です。
なお、データは「賃貸マンション」と「賃貸アパート」の種類別に集計されているのですが、残念ながら「マンション」と「アパート」の違いについて、その定義に関する記述が見つけられず、著者自身には両者の違いがよくわかりません。
著者自身の勝手なイメージとしては、昭和時代にマンガ家が集住していた「トキワ荘」のような木造の集合住宅がアパートで、鉄筋コンクリート造りでエレベーターなどがついている集合住宅がマンション、などと思っていますが、東日本レインズのウェブサイト上、両者の違いが明確に説明されているページは見当たりません。
著者自身は以前、2003年頃からのデータをすべて入力していたファイルを作成しているのですが、その一方で、厳密な定義もわからないのにアパートとマンションを分けて論じるのには個人的に強い抵抗感があるため、本稿ではとりあえず「マンション」についてのみ、データを紹介したいと思います。
首都圏全体で総じて値上がり傾向
過去データなどに基づいて賃貸物件の動向を調べてみると、少なくとも東京23区に関しては賃料、平米単価ともに過去最高額を更新。首都圏全体に関しても総じて値上がり傾向にあるようです。まずは、前年同月比の状況を確認しておきましょう(図表2)。
図表2 首都圏のマンション賃貸動向(平米単価)
| 地区 | 2025年6月 | 2024年6月 | 増減 |
| 東京23区 | 3705円/㎡ | 3493円/㎡ | +212円/㎡(+6.07%) |
| 東京都他 | 2304円/㎡ | 2174円/㎡ | +130円/㎡(+5.98%) |
| 埼玉県 | 2005円/㎡ | 1903円/㎡ | +102円/㎡(+5.36%) |
| 千葉県 | 2216円/㎡ | 2030円/㎡ | +186円/㎡(+9.16%) |
| 横浜・川崎 | 2661円/㎡ | 2578円/㎡ | +83円/㎡(+3.22%) |
| 神奈川県他 | 2060円/㎡ | 1910円/㎡ | +150円/㎡(+7.85%) |
(【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構『レインズデータライブラリー』データをもとに作成)。
これで見ると、東京23区は1年前と比べ約6%上昇し、平米単価は3705円/㎡であり、平米単価が単純に物件の広さと比例するわけではありませんが、機械的にあてはめたら、20平米の物件だと1年前に69,860円で借りられたのが、現在だと74,100円でに上昇している格好です。
東京23区内(とくに都心)の賃貸物件価格は上昇中
続いて、平米単価などについて、東京23区に関してグラフ化しておくと、図表3のような具合です。
図表3 賃貸物件(東京23区・マンション)
(【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構『レインズデータライブラリー』データをもとに作成)。
これで見ると、賃貸価格は2008年ごろにいちどピークを付け、その後は長らく伸びずに低迷していた格好ですが、2023年ごろから明らかに伸び始め、賃料、平米単価ともに過去最高水準に来ました。
とくに都心に近いいくつかの区では、平米単価が史上最高となっていることがわかります(図表4)。
図表4-1 賃貸物件(中央区・マンション)
図表4-2 賃貸物件(港区・マンション)
図表4-3 賃貸物件(新宿区・マンション)
図表4-4 賃貸物件(渋谷区・マンション)
では、東京のマンション賃料は今後、どこまで伸びるのでしょうか。
これについて確たることはいえませんが、ひとつのヒントがあるとしたら、中古マンションの物件価格が上がり続けていることでしょう(図表1再掲)。
図表1-1(再掲) 中古マンション成約状況(東京都)
(【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構『レインズデータライブラリー』データをもとに作成)。
中古マンションの売買価格(成約ベース)はこのところ一本調子で伸び続けており(2020年頃に一時的に落ち込んでいるのはコロナ禍の関係でしょう)、むしろ不動産価格が賃料に対しバブル気味の状況にあるといえる状況でもあります。
賃料が徐々に取引価格に追い付いてきた
ちなみに著者自身の持論を述べておくと、不動産の価格と賃料は、お互いに依存する関係にあります。
というのも、不動産(とくに賃貸物件・収益物件)のオーナーにとっては、自分がその物件を購入するために投資した金額が何年で回収できるかが大きな関心事だからです。
もしも賃料水準が大して伸びていないのに物件価格だけが上がっていけば、不動産投資家にとっては、新規に不動産を取得しても、その収益率が悪化するということを意味しており、そうなると不動産を買うよりも他の資産(たとえば株式などの金融資産)に投資する方が効率的になるかもしれません。
図表2と図表3を見比べてみると、明らかに物件価格が賃料水準に先行して上昇しており、このことから不動産物件が買われ過ぎている(たとえば賃料よりも値上がり益を期待する「投機家」の資金がかなり不動産市場に流入している可能性が示唆される)、というわけです。
このため、やはり不動産市場(とくに東京都心部)は明らかなバブル状態であり、バブルが破裂するのも時間の問題だ、といった説が説得力を帯びてきます。
ただ、その一方で、ここに来て賃料がジリジリ上がり始めているという事実は、不動産価格に賃料が追いつき始めている、という証拠かもしれません。もしも不動産賃料がどんどんと上がっていくような状況になれば、現在の高い不動産価格も収益性の観点から説明がつく状態になります。
とくに先ほど述べた「建設業界の人材不足」仮説が正しかったとすれば、賃料はまだまだ上がる可能性があり、したがって、(東京都心などは若干過熱気味であるにせよ)価格上昇が出遅れている城北、城南地区なども含め、不動産価格にはまだ上昇余地がある、という見方も成り立つところです。
住宅コストの上昇は生活の不安要因に!
もっとも、不動産をこれから買いたいという人や、現在賃貸物件に暮らしているという人は、不動産の価格や賃料の上昇はなんとも気になる話題であることも間違いありません。とりわけ東京都心部だと、家族4人で住める最低の広さ(約50平米)の物件が「億ション」状態となっています。庶民には手が出ません。
しかも賃料水準もこれに合わせて今後、急速に上がっていくのだとすれば、庶民にとっては東京都心部などの便利な場所に暮らすことは非常に難しい、ということになりそうです。
年収500万円前後の人が、会社負担分と合わせてその3分の1前後の金額に相当する社会保険料・税金を支払わされている現状を考えると、住宅ローンないし家賃にこれ以上支払うことは困難であり、その意味で、東京などの中心部から日本人家庭の姿が消える、といった将来は懸念されるところです。
あくまでも個人的な考えですが、その処方箋は「(所得制限付きの)安価な公営住宅の拡大」などでは決してなく、税・社保の軽減などを通じた可処分所得の拡大、日本人地主などから多額の税を取り立てる相続・贈与税などの問題税制の改廃などに踏み込む必要があると思うのですが、いかがでしょうか?
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大手デベ系の不動産ファンドも積極的に買っているようで、売り手は、中小ビルオーナー。相続発生前にEXITしているようです。また、不動産ファンドの商流に乗っている企業も活況です。サブコンとか、ビル管理とか。このマーケットは、しばらく続きそう。ビルの個人所有は、少なくなりそうです。
BOJのREITドカ買いがなくなっても上がり続けるこの市場
じっと手を見る
いつも敬服して拝読させていただいています。不動産価格高止まりの一因になるのかどうか。こんな事例がありました。区分所有法の建替決議を得るために、ターゲットとするマンションの購入を行っている事業会社がありました。マンションのスクイーズアウトを狙っているようです。マンションの建替は、住宅ローンの返済が終わったばかりの所有者に再度のローンを強いることになります。マンションを手放し売ろうとしますが、建替が目前の案件に買い手はつきません。この所有者は、マンションの地上げをする事業者に安くマンションを売るしかなくなります。地上げの事業者は、建替を実施して、戸数が増えたマンションを高値で売りさばく仕組みのようです。このような事例が横行しているのかどうか。区分所有は、問題がありますが、マンションスクイーズアウトを狙った買い手が価格を釣りあげている可能性があります。いつの間にか自宅のマンションが買い占められ、売らなかったマンション所有者が市価の2から3割で買い叩かれるというのは、厳しいと思います。建替のために再度ローンをする気にもなれないですし。自宅のマンションの買い占めは、要注意です。狙っている事業者は、多いと思います。