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【数字で見る】中国と徐々に距離を置き始めた日本企業

中国で日本人男性がスパイ容疑で起訴されていた問題で、先日、懲役3年6ヵ月という有罪判決が下されましたが、これを受け日系企業では「結局どんな行為が問題になったのかが明らかにならない限り、中国で安心してビジネスはできない」といった声が上がっているようです。ただ、「日中関係は重要だ」とする言説がそもそも正しいのかどうかに関してはまた別問題ですし、現実にヒト・モノ・カネの往来状況を調べてみると、じつは日本企業が徐々に中国と距離を置き始めているという実態も浮かび上がります。

日本の企業社会で高まる対中不安

日本人に有罪判決…高まる不安の声

すでに報じられている通り、アステラス製薬の従業員である日本人男性が中国でスパイ罪に問われ、起訴されていた問題で、先日、懲役3年6ヵ月という有罪判決が下されました。これを受けて、時事通信が16日、「日系企業からは不安の声が上がっている」とする記事を配信しています。

中国進出の日本企業に高まる不安 「問題行為、説明を」―スパイ罪で実刑判決

―――2025年07月16日21時13分付 時事通信より

時事通信はこの有罪判決を巡り、「問題とされた具体的な行為は不明なまま」と指摘したうえで、北京に駐在する日系メーカー幹部のこんな発言を紹介しています。

結局どんな行為が問題になったのか。そこが明らかにならない限り、中国で安心してビジネスはできない」。

この意見は、まったくそのとおりでしょう。

法的リスクや日本人児童への襲撃事件

日本では年々、企業経営には社会的な説明責任等を求められるようになりつつありますし、おかしな判決を下すような国に従業員を派遣すること自体が大きなリーガル・リスク(訴訟リスクなど)を発生させることにもつながりかねません。

まともな企業であれば、法的リスクがクリアにならない限り、なかなか新規に駐在員を派遣するのも難しいでしょうし、実際、時事通信の記事にはこんな記述もあります。

日本では中国への赴任希望者も減少。『後任が見つからず帰任できない』(日系商社)といった悲鳴も上がる」。

法的リスクがある国への赴任希望が減るのも、当たり前の話ではないでしょうか。

そのうえ、中国といえば日本人の児童などが襲撃される事件も相次いでいますので、企業駐在員として赴任する場合も、(想像するに)多くの人は家族連れではなく単身赴任を選ばざるを得ないのではないでしょうか。

「日中関係は重要!中国との友好を!」の詭弁

ただ、こうした「中国リスク」について言及するならば、政治家やメディア関係者らのなかにはときどき、こんな主張を述べる人がいます。

日中関係は日本にとっても大変に重要であり、いくら中国が嫌いだからといって、中国との関係を遮断しようものなら、日本にも経済的なダメージが発生する。したがって、中国との友好関係は最優先で継続しなければならない」。

この言い分、詭弁です。

前段の、「日中関係が日本にとっても大変に重要だ」とするくだりについては、ある意味で現実を冷徹に見つめたうえでの評価としては部分的に正しいものかもしれませんが、しかし、だからといってそれが必ずしも後段部分につながるものではありません。

すなわち、いくら現時点の日中関係が(経済的に見て)日本にとって重要だからといっても、中国との関係を継続することが中・長期的な日本の国益にならないならば、中国との友好関係を「最優先で継続しなければならない」、という結論にはならないからです。

すなわち、「いまの日中関係が深い」という点が事実だとしても、「今後も日本が積極的に日中関係を深めていくべきだ」という結論にはなりませんし、「いまの日中関係がお互いにとって重要だ」、という命題が事実だとしても、理論上は「今後、日中関係を薄める方向に努力すべきだ」、という結論が妥当かもしれないからです。

どうして「日中の関係が深い」から「今後も日中関係を深めるべき」という結論になるのでしょうか。

意味がわかりません。

ヒト・モノ・カネの往来状況は?

日本を訪れる中国人、日本に暮らす中国人は増えているが…

もっとも、ふと冷静になって考えてみると、この「日中関係は日本にとっても大事だ」、は、果たして事実関係として、正しいのでしょうか。

ここで、迷ったら必ず事実関係を確認するというのは、ウェブ評論活動における基本的な事項です。

具体的には、「ヒト・モノ・カネ」という具体的な「数字」で確認するのです。

日中関係が重要であれば、ヒト、モノ、カネの相互往来がすべてにおいて非常に多いはずであり、まずはその部分でしっかりと関係を確認してみようじゃないか、というのがあるべきアプローチではないでしょうか。

最初に「ヒトの往来」です(図表1)。

図表1 日中間の「ヒトの往来」
比較項目 具体的な数値 全体の割合
訪日中国人(2025年1月~6月) 4,718,250人 訪日外国人全体(21,518,103人)の21.93%
訪中日本人 データなし 不明
中国に在住する日本人(2024年10月) 97,538人 在外日本人全体(1,293,097人)の7.54%
日本に在住する中国人(2024年12月) 873,286人 在留外国人全体(3,768,977人)の23.17%

(【出所】日本政府観光局、外務省、法務省データをもとに作成)

まず、中国から日本にやってくる人は、非常に多いというのが実情です。

短期的な往来に関していえば、日本政府観光局(JNTO)が公表しているデータによると、中国から日本にやってきた人は、今年上半期で約472万人であり、これは韓国(4,783,455人)に次いで2番目に多く、訪日外国人全体(21,518,103人)の2割強を占めています。

また、法務省データによると、日本に在住している中国人は2024年12月時点で873,286人であり、これは在留外国人全体(3,768,977人)の23.17%にも達し、1位です。2位のベトナム(634,361人)、3位の韓国(409,238人)と比べても圧倒しています。

このことから、中国人にとっては観光旅行先としても、永住先としても、日本を好んでいるのではないか、といった仮説が成り立つゆえんでもあります(もっとも、日本にやって来る中国人が多い理由は、単純に中国の人口が多いからだ、といった解釈も成り立つかもしれませんが…)。

中国に長期滞在する日本人は年々減少

ところが、日本の側からのデータを見ると、そうでもありません。

まず、短期の旅行として中国を訪れた日本人の人数については、データそのものがないのでよくわかりまませんが(中国側が2016年頃にデータの公表を打ち切ったため)、その一方で日本の外務省が調査した滞在者数によれば、中国滞在者が年々減っています(図表2)。

図表2 中国に在留する日本人

(【出所】外務省・2025年1月20日付『海外在留邦人数調査統計』データをもとに作成)

なんとも象徴的な図表です。

中国在留日本人は2012年の150,399人をピークに減り続け、ついに2024年は10万人の大台を割り込んだからです(しかも、おそらく外務省のこのデータは香港在住者22,877人を含んでいるものと考えられ、中国本土在留者数は上記グラフのものよりもさらに少ないと考えられます)。

近隣国との関係が浅い日本

ちなみに日本人の在留先のトップは米国で、その人数は約41.3万人に達しており、2023年に3位だった豪州が2024年には2位に上昇しているほか、カナダ、タイ、英国なども日本人の滞在先の上位に入ってきています(図表3)。

図表3 海外在留日本人(2024年10月1日時点)
国・地域 合計 永住者 長期滞在者
1位:米国 413,380 230,378 183,002
2位:オーストラリア 104,141 64,070 40,071
3位:中国 97,538 5,992 91,546
4位:カナダ 77,294 52,457 24,837
5位:タイ 70,421 2,554 67,867
6位:英国 64,066 29,449 34,617
7位:ブラジル 46,577 42,017 4,560
8位:ドイツ 43,513 18,738 24,775
9位:韓国 43,064 16,631 26,433
10位:フランス 37,056 15,585 21,471
その他 296,515 96,856 199,659
合計 1,293,565 574,727 718,838

(【出所】外務省・2025年1月20日付『海外在留邦人数調査統計』データをもとに作成)

また、隣国の韓国は2023年と比べ順位をひとつ下げて9位、台湾はランク外の12位です。

中国も韓国も台湾も日本に近い地域なのに、

中国は最大規模の貿易相手国だが…

その一方、日中間の「モノの往来」は相変わらず盛んです(図表4)。

図表4 日中間の「モノの往来」
比較項目 具体的な数値 全体の割合
対中輸出額(2025年1月~5月) 7兆3959億円 日本の輸出額全体(44兆1996億円)の16.73%
対中輸入額(2025年1月~5月) 10兆7827億円 日本の輸入額全体(46兆5685億円)の23.15%
対中貿易額(2025年1月~5月) 18兆1786億円 日本の貿易額全体(90兆7681億円)の20.03%
対中貿易収支(2025年1月~5月) 3兆3868億円の赤字 日本の貿易収支全体は2兆3689億円の赤字

(【出所】財務省税関『普通貿易統計』データをもとに作成)

これによると日中貿易(※2025年1月~5月の5ヵ月間累計値)は、日本からみた輸出が7兆3959億円で米国向け(8兆6053億円)に次いで2番目であり、また、日本からみた輸入は10兆7827億円で2位の米国(5兆1426億円)を突き放して圧倒的なトップです。

ただし、日本は中国に対し、5ヵ月間累計で3兆3868億円の貿易赤字を計上しており、逆にいえば、中国から見た日本は上得意先だ、ということでもありますし、また、日本から中国への輸出品は半導体製造装置などの産業の基幹製品が多いことにも注意が必要でしょう。

貿易構造から見たら、「日本にとって中国が必要」というのはその通りですが、むしろ「中国にとって日本が必要」、という側面の方が大きいのです。

台湾が3位、韓国が4位など…順位も変動

なお、貿易高(輸出+輸入)に関していえば、圧倒的トップが中国ですが、2番目が米国、そして3番目が台湾です(図表5)。いつの間にか韓国は4位に下がり、また、資源国である豪州は5位、UAEは7位、などとなっています。

図表5 貿易高(2025年1月~5月累計)
相手国 金額 割合
1位:中国 18兆1786億円 20.05%
2位:米国 13兆7479億円 15.17%
3位:台湾 5兆1020億円 5.63%
4位:韓国 4兆7735億円 5.27%
5位:豪州 3兆7641億円 4.15%
6位:タイ 3兆2349億円 3.57%
7位:UAE 2兆9438億円 3.25%
8位:ベトナム 2兆9254億円 3.23%
9位:ドイツ 2兆4892億円 2.75%
10位:香港 2兆4338億円 2.68%
その他 31兆0603億円 34.26%
合計 90兆6535億円 100.00%

(【出所】財務省税関『普通貿易統計』データをもとに作成)

カネの面では薄い日中のつながり

さて、そのうえで重要なのは、「カネの面でのつながり」でしょう(図表6)。

図表6 日中間の「カネの往来」
比較項目 具体的な数値 全体の割合
邦銀の対中国際与信(2024年12月) 828億ドル 邦銀の対外与信総額(5兆1334億ドル)の1.61%
中国の銀行の対日国際与信(2024年6月) データなし 外銀の対日与信総額は1兆2501億ドル
日本企業の対中直接投資残高(円建て)(2024年12月) 19兆9881億円 日本の対外直接投資全体(331兆0137億円)の6.04%
日本企業の対中直接投資残高(ドル建て)(2023年12月) 1358億ドル 日本の対外直接投資全体(2兆1357億ドル)の6.36%
中国企業の対日直接投資残高(2023年12月) 81億ドル 日本の対内直接投資全体(3506億ドル)の2.31%

(【出所】国際決済銀行、財務省、JETRO)

データによっては若干古いものも紛れており、また、項目によってはデータがないものもありますが、ただ、カネの面で見ると、日中間のつながりは隣国同士とは思えないほどに希薄です。

たとえば、邦銀の対外与信に関していえば、2024年12月末時点において中国向け与信は828億ドルで、邦銀の対外与信全体(5兆1334億ドル)から見たら1.61%であり、これは上から11番目に過ぎません。

また、直接投資に関していえば、2024年は中国向けが19兆9881億円で、これは日本企業の対外直接投資全体(331兆0137億円)の6.04%で、米国、オランダに次ぐ3番目ではあるものの、中国が占めるシェアは徐々に下がってきているのが実情です。

(なお、国際与信や対外直接投資に関していえば、統計上、中国と香港は別物として集計されているため、香港まで含めたら中国に対する融資・投資が邦銀の対外与信や日本企業の対外投資全体に占めるシェアは上記より多少は上がります。)

「日中関係は深い」は本当か

こうした状況を踏まえると、全般的に中国が日本にとって重要な相手国であることは間違いないにせよ、現実の統計データからは、(とくに「ヒト」と「カネ」の面においては)日本が徐々に中国からの足抜けを図っているように見えてなりません。

とりわけ中国在住者が(おそらくは香港在住者も含めて)10万人を割り込んだことは、日本企業の動向を読むうえで重要な変化です。日中間は貿易も多く、在中邦人がゼロになるということは考え辛いところですが、それでもリスク削減という観点からは、日本企業が中国との関わり方を再考するのは当然のことでもあります。

さらには、金融面でのつながりの薄さは驚異的ですらありますし、日中両国が隣国同士であり、かつ、アジアを代表する経済大国同士であるという事情を踏まえれば、やはり邦銀や日本企業が中国向けや香港向けの与信や投資を敢えて抑制しているという姿が浮かび上がります。

いずれにせよ、「日中関係は大事だ」、などといくら口先で述べたとしても、現実の日本企業の動きがそうなっていない以上は、あまり説得力がないようにも思えるのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • トランプ大統領の一挙手一投足にまで「民主主義の危機だ!」と一々噛み付くのなら、中国と断交するぐらいの強硬意見を主張しないと筋が通りませんよ、オールドメディアの方々。

  • 多分、大阪や和歌山は中国との関係が深いんでしょうね。
    今週末が楽しみです。

  • >貿易構造から見たら、「日本にとって中国が必要」というのはその通りですが、むしろ「中国にとって日本が必要」、という側面の方が大きい

    キーデバイスを有する日本企業には、「中国でなければ!」って理由が無いんですものね。
    「『モノを作るためのモノ(中間素材等)』を作るための原材料」さえ依存しなければですね。
    ・・・・・
    Q.「日中関係は深い」は本当か?
    A.『日中関係は不快』なのかとも
    ・・。

    • ジャイアントからレッサーへ
      空き家になった白浜のパンダ舎には明日からレッサーパンダが登場します。きっと TV は騒ぐはず。

  • 欧米メディアに比べると日本のオールドメディアは中国経済オワコンネタ報道がかなり少ないんだそうです。
    景気後退も人口減少も進行中。著名企業の破綻の噂もひっきりなし。肝心の土地バブルの不良債権処理も全く進まないようで。だれも責任を取らない病だそうです。打つ手なし(あるけど打てない)。

    >中国との友好関係は最優先で継続しなければならない

    友好至上でやった結果、外交安保上の中国の脅威化を招いたわけなのでね。「少しは頭使え」と言いたくなります。

    習近平の後釜の位置にいたけれども数年前に排除されていた共青団の胡春華、復権の兆しと報じられており、習近平体制も盤石と言うわけじゃないようです。外交は多少穏健化するんでしょうか。さすがの習政権も経済無策が効いたかもですね。

    • 中国間貿易に過度に依存していたドイツ経済の不調が、日欧報道基調の相違に現れているのかも?と思いました。
      傾倒していた中国貿易&中国経済不調&露宇戦で天然ガス輸入大打撃&過度な脱原発政策&EV失速&米国関税政策。。。
      何でこうなった?という論調が日本以上に強いのでしょう。

      • それもあるかと思いますがどちらかというと、遠い欧州より日本の方が遙かに近い隣国で、世界第二の経済大国で、しかも「隣国と仲良く」などと宣うオールドメディアが中国の経済実態のことを扱いたがらないのには、隠された意図があるのだろうと(だいたいわかるけど)、そっちに意識がいってしまいます。
        国内の外国人問題を扱わなかったり、偏向報道したりすることと同根だろうと勘ぐってます。

  • 日中友好という名称(看板)に私始めとして善良なる日本国民は騙されてきたのではないかと思う。
    日中友好を標榜する、議員団体、経済団体があるが、その実14億という莫大なニラを刈り取る力を持つ中国共産党とのつながり、私的権益を継続して追求するのが真の目的なのだったんだ、当時自分の眼が腐っていのだなと。
    新聞、NHKは一昔前に解約したのでこれらオールドメディアの中国に関する報道は目にしていない(yahooニュース等除く)が、中国人自身が上海、深圳、東莞など名だたる工業発展都市が荒廃する、安宿の支払すらできない求職者が道路で多数寝ている今現在の動画をアップしている。ショッピングモールや商店街の人通りの少なさ、空き店舗ばかりの状況も多い。
    不透明な法執行は最近に始まったことではないから、そのことを理解しながらも広大な市場に目をくらませられていた企業がようやく、安価な労働力が潤沢に手に入れられるにもかかわらず撤退しているのは14億という人口がウソで、不動産バブルがはじけ、内需不振の中国の損切をはじめたからでしょう。

  • 中国進出を推進した政府や経団連は末端従業員が中共に捕まっても見て見ぬふりするから急いで脱出して欲しい。

    • クリリン様

      至急脱出が要ることは、おっしゃるとおりです。
      でも、「見て見ぬふり」というよりは、国会で選択的夫婦別姓(実は、親子別姓強制)での公聴会での経団連事務局員の発言に照らすと、経団連は、人質として差し出しているのではと疑ってしまいます。

  • 最近聞いた話(企業幹部からで信憑性は高い)
    ペロブスカイト太陽電池を中国から購入し日本で窓に加工し日本製として売り出す計画が進行中
    企業は売れれば(儲ければ)国がどうなっても良い。ということ
    東京都はペロブスカイトに補助金100%と言ってましたがこれを知っていたような
    どこまで中国へ金を流したいんだ

  • ご指摘のとおりと私も思います。
    日本マスコミ・メディアはご指摘のような親中親左バイアス。
    独マスコミ・メディアは親中を煽っていたのを誤魔化すため被害者コスプレバイアスなのでしょう。

    • 変なところに載ってしまいました。
      元雑用係さまに対する返答です。