放っておけば政府のサイズは膨張していく
アニメ、マンガ、ゲームといったコンテンツ・ビジネスといえば、これまで政府の庇護下になかったにも関わらず、大いに発展し、日本に少なくない外貨収入をもたらしてくれています。ただ、このコンテンツ・ビジネスに対し、補助金を交付すべきだ、などと主張する政治家が出てきたようです。現にうまくいっているビジネスに首を突っ込むのは、典型的な「タックス・イーター」の発想です。「減税するなら財源示せ」という前に、税の使途が適正であるかを検証しなくてはなりません。
予算が決まれば自動的におカネが降って来る
著者自身が今まで民間人として仕事をしてきた人間であるからでしょうか、役所関係者などと話をしていると、やはり話がかみ合わないと思うことが多々あります。
役所の人たちは、法律や条例などが決まれば、その法律ないし条例に従って仕事をすれば良いのですが、私たち民間人の場合だと、そういうわけにはいきません。
たとえば、飲食店を経営している人たちだと、法律で食品衛生基準が厳格化されれば、法令違反とならないためにはその新しい食品衛生基準を守るように対応しなければなりませんが、そのためのコストは基本的に自分たちで捻出する必要があります。
これに対し、役所の人たちは、新しい制度ができ、その制度に対応するための予算が(国会や地方議会などで)可決されれば、その可決された予算に対応した事業費が自動的に降って来ます(もちろん、多くの場合、その原資は私たち国民が払う税金です)。
パーキンソンの法則とは?
つまり、役所の人たちは、法律や条例(とくに予算措置を伴うもの)がいったん可決されると、それらをあたかも既得権であるかのごとく扱うため、放っておけば役所のサイズは勝手に大きくなるのですが、これは「パーキンソンの法則」として知られています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社『パーキンソンの法則』によると、これは英国の歴史・政治学者であるシリル・ノースコート・パーキンソン(1909~93)が提唱したもので、次の2つの法則から成り立っているそうです。
- 第一法則:「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」
- 第二法則:「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」
第一法則は「公務員の数は仕事の有無や軽重に関わらず一定割合で膨張し続ける」というものであり、もうひとつの第二法則は、わかりやすくいえば「役所の支出は割り当てられた予算を全額使い切るまで膨張し続ける」、というものです。
実際、役所の論理にドップリと浸かっている者たちの発想は、まさに「タックス・イーター」そのものであり、売上高を伸ばそうと必死になって努力している民間人の立場からすれば、まるでおカネが天から降って来るかのごとき発想に眩暈を覚えることもあります。
「コンテンツ・ビジネスに補助金を」
さて、こうしたなかで、この「タックス・イーター」の発想がよくわかる文章がありました。とある著名な政治家が先日、自身のXを更新し、こんな趣旨のことを言い出したようです(大意を変更しない範囲で表現は微妙に変えてあります)。
ゲーム、マンガ、アニメ、音楽、映画などのコンテンツ産業は自動車産業に次ぐ大きな産業であり、日本の「稼ぐ力」にとって欠くことのできない存在です。この先の成長のためにも、現場や処遇の改善、権利を守る取り組み、また他国に負けないための資金援助などをはじめとする官民連携の強化が必要です。
…。
「他国に負けないための資金援助などをはじめとする官民連携」、ですか。
いろいろとツッコミどころが多いポストです。
もちろん、これらが「自動車産業に次ぐ大きな産業」といえるかどうかについては微妙ではあるにせよ、わが国にとってコンテンツ・ビジネスが重要であることは間違いありません。
財務省が公表している国際収支統計などで確認すると、たしかに「知的財産権等使用料」は2004年3月期前後から一貫して黒字ではあり(図表1)、旅行収支と合わせてもサービス収支の赤字を解消するという状況ではないにせよ、サービス収支の改善には寄与しています。
図表1 経常収支・主な内訳(サービス収支)
(【出所】財務省『国際収支状況』統計表一覧データをもとに作成)
金融所得の黒字で稼ぐ国
その一方で、経常収支全体で見ると、また違った姿が浮かび上がります。
2011年の東日本大震災以降、当時の民主党政権が超法規措置的に原発をなかば強引に止めたことの影響もあってか、貿易収支はサービス収支と並んで赤字基調が続いていますが、その貿易・サービス収支の赤字を大きく上回る黒字をもたらしているのが、第一次所得収支です(図表2)。
図表2 経常収支・主な内訳
(【出所】財務省『国際収支状況』統計表一覧データをもとに作成)
この点、「知的財産権等使用料」にはコンテンツ・ビジネスだけでなく、いわゆる特許権の使用料なども含まれるため、経常収支統計だけでは正確なコンテンツ・ビジネスの規模は明らかではありませんが、決して無視できる存在ではないことも間違いありません。
こうした統計的事実に照らし合わせるならば、現在の日本は莫大な金融資産の海外運用(金融事業)に加え、自動車産業や半導体製造装置といった「モノを作るためのモノ」の輸出、そして知的財産権で稼ぐビジネスモデルにシフトしているといえます。
(※余談ですが、観光業もそれなりに伸びているものの、やはり労働力不足が今後深刻化すると見込まれるなか、わが国において積極的に伸ばしていくべき産業分野が観光業なのかどうかに関しては、著者自身は大いに疑問を覚えている次第です。)
補助金ビジネス
ただ、それ以上に重要なことがあるとしたら、政府による介入が望ましいかどうか、という論点ではないでしょうか。
そもそも論として、マンガ、アニメ、ゲームといった日本のコンテンツ・ビジネスが世界の人々を魅了していることはどうやら間違いない話ではあるものの、それと同時にこれらのビジネスがこれまで政府の庇護(ひご)なしに発展してきたことを忘れてはなりません。
今まで政府の保護などがなかったなかで、ここまで巨額の外貨を稼ぐ産業にまで成長したコンテンツ・ビジネスに、政府がいまさら「補助金」などを出すことに、いったいどういう効果があるのでしょうか?
なんだか、よくわかりません。非常に当たり前の話ですが、補助金でコンテンツは成長しないからです。
なにより、現に政府の支援なしにうまく回っているビジネスに対し、補助金というかたちで首を突っ込もうとする姿勢は、典型的な「タックス・イーター」の発想ではないでしょうか。
そして、この手の「タックス・イーター」の発想は、「自分たちが政治の立場から民間企業を支援すれば、民間企業がさらに成長するはずだ」、といった、なにやらよくわからない信念のようなものがありそうです。
税の使途の適正化などが必要
いずれにせよ、税金や社会保険料が異常に高い今日のわが国においては、「減税を要求するなら財源を示せ」、ではなく、普段から申し上げている通り、次のような論点を検討することが必要です。
(A)税の取り過ぎ
現在の日本ではほぼ毎年のように税収が上振れしており、一般会計では巨額の剰余金が発生してしまっている。そもそも現在の日本では税を取り過ぎているのであり、これを納税者に返還するのが筋である。
(B)歳出削減
歳入が足りないと言い張るならば歳入に見合う水準にまで歳出を削減する必要がある。とくに高齢者が医療機関を受診する際の窓口負担を現役層と同じく一律3割に引き上げるだけで保険財政はずいぶんと改善するし、一般会計からの社会保障費の支出を抑制することが可能。
(C)資産売却
歳入が足りないと言い張るならば歳出を賄うために不要な政府資産を売却する必要がある。とくに200兆円近くに迫る外為特会や100兆円前後の財政投融資、さらには100兆円前後の天下り関連法人の整理・縮小、民営化が必要である。これだけで400兆円前後の財政改善が見込まれる。
(D)国債発行
歳入が足りない場合、国債発行を検討すべきである。とくに資金循環構造上、日本経済は恒常的に国内資産が国内負債を超過しており(2024年12月末時点では542兆円の黒字)、数百兆円レベルで国債を増発する余力を持っている。
(E)経済成長
国債はそもそも全額を税金で返す必要などないし、経済成長することで国債の債務負担は軽減される。公的債務残高が1200兆円だったとしても、名目GDPが600兆円から1200兆円に倍増すれば、債務残高GDP比率は勝手に100%に落ちる。成長率3%なら20年あまりでGDPは倍増する。
もちろん、歳出についても経済成長のために必要なものは削減すべきではありませんが(たとえば交通インフラなど)、その反面、効果があるのかどうかよくわからない事業(いわゆる結婚補助金など)については税金を投じてまで継続すべきなのかどうかは議論すべきでしょう。
インターネットの社会的影響力が高まるとともに、「税の使途の適正化」に加え、こうした財政全般に関する議論が深まることを期待したいと思う次第です。
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1 2 次へ »またクールジャパンとかやるのでしょうか?
財源はコンテンツ強化拠出金を保険料に追加?
ばらまき増税メガネとか言われそう…
タックスイーターか。立憲が提唱してる多文化共生庁ができたら更に税金が使われて足りない、もっと必要だってなって増税の悪循環に陥りそう。
今、経産省が中心になって中小企業向け補助金が目白押しです。恐らく取りすぎた税金を財務省が振り分けているんでしょうね。しかも自民党の意向に沿うように賃金の引き上げが補助金を受けるための条件だそうです。
どこまで行っても増税しか言わないのは、こういう仕組みなのですね。そして助成金はわが自民、公明党のおかげで賃金アップも我々のおかげと思いこますんですね。
やはり形を変えてのバラ撒きをやめるつもりは無いんですね。
生意気な。(笑)
まず余計な利権に手を突っ込む前に、国が過去に補助金で活性化を企図した業界の現在のビフォーアフターを追跡検証すべき。
感覚的には全滅じゃないかな。
どれも活況どころか悪化してるかと。
せめてポジティブ表現するとしても、終末期患者の最期の痛みをやわらげる効果くらいかな。
(そもそも、それを目的とした予算ではないからやはりダメなんすけど)
アニメや漫画は大くくりにして
サブカルチャー
と呼ばれてます。主流でも権威でもない。
だからこそ好き放題に才能が百花繚乱に咲き誇れる。
かつての浮世絵などの元禄町人文化みたいな。
お上が手出し口出しするのは、
うるせー寄ってくんな!ですね。
出版不況とか言われながらKADOKAWAや集英社なんかは過去最高益を次々に更新してます。
お上が寄ってくると、業績好調が一転して役人文化のNISSANみたいになりますよ、きっと。
エンガチョの一択。
補助金、もらう方の立場からすればタダじゃない。税金かかる。
収入に計上すればその年の所得として、固定資産を安く買えば低い減価償却費(つまり高い利益)として耐用年数を通じて。
それを上回るベネフィットがあればウィンウィンじゃないの。
この手のコンテンツを伸ばしたいのならば「邪魔をしない」ことが何より重要です。補助金を設定し、補助金目当ての輩を誘引し、おカタい規制規則に縛られた画一的なコンテンツを量産した先には、数ばかり増えて低質な作品の量産が待っています。
-以下めっちゃ早口-
ゲーム業界は近年、多様性"利権"屋に牛耳られて、大変な質の低下を招きました。ある作品は続編で突如主人公の整った顔立ちが崩れレズビアンになり、その整合性を取るためかストーリー展開まで影響を受け。ある作品では歴史を扱ったもので考証に自信と謳いながら全く資料で確定できない設定を盛り込み室町日本を舞台に黒人主人公をねじこみユーザーにも喧嘩を売りながら爆死、ある作品では登場人物から「外見的な美しさ」を排除され高い予算を注ぎ込んだもののシンプルに不評。どれもこれも、突如表れたコンサルや圧力によってコンテンツ内容をさしおいて多様性を「不自然に強制的に」ねじ込んだ結果でした。(ちなみに新規IPにも関わらず、そんなコンサルどもを完全無視してキャラを美しくセンシティブに描いた作品は大好評でしたというオチ付き。)
強制的に男性白人・女性黒人・ゲイヒスパニック・レズアジアンで4人PTを組まされる冒険ゲームや、小太りして男性を好み下品なジョークを一切発しない怪盗3世のアニメだの、少なくとも私はそんなとってつけた「属性設定」で作品を遊びたい・視たいとは思いません。
それでも補助金を出すのであれば、背後に何も存在せぬ新しい才能が資金不足により埋もれてしまう状況を後腐れなく支える、というような事業であってほしいものです。
ただこれだと「他国に負けない産業育成!」などという、全体数値、規模を気にした謳い文句にはなりませんね。このあたりの視点・感覚がオヤクショの限界という気がします。
当然税投入となれば「正しさ」が厳しく問われ始めるでしょうね。
いやー、もうブス同士のキスシーンは見たくないです。
非参考資料:
弥助やないかい!
https://youtu.be/gLxQJPq8OJI
>補助金でコンテンツは成長しない
その通りですね。
補助金の数だけ「ぶら下る組織」が現れる。
彼らの存在は、業界の成長に寄与しない。
*政府の口利きは要しても補助金は要らないのかもですね。
補助金をだすために外郭団体をつくり、官僚が天下りする、というお決まりのパターンを狙っているのかもしれませんね。
(国民から奪った自分の懐は痛まない)金はある。
その金は余さず使わなけれならない。
その金を使った方が自分自身の評価につながる。
無理矢理でも金を使うからにはそれらしい理由が必要だ。
いつもベンチマークしている中韓は国プロでコンテンツ産業に投資しているようだ。
これだ! これなら予算がつくに違いない。
専門官か課長補佐か誰かに提案書を書かせよう。
って光景がアタマに浮かびました。
パーキンソン氏は、役人の行動原理にあてはめて具体的な事例やデータも分析しているが、仕事一般や日常生活についてもいえることなので、「パーキンソンの法則」を意識した見直しは定期的にしたほうがよい。
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-19697.html
https://www.m-keiei.jp/musashinocolumn/parkinson
アホな経営者は、知的財産権を守る取り組みをコストとしか思っていないので、安易にコストカットに走ってしまう。研究開発、特許・商標の出願、著作権の保護などにお金がまわるように、減税で景気をよくしていただきたい。
「財源」を考えたら、補助金とか余計なお世話としかいいようがない。民間企業より官僚の方が、お金の使い方に先見の明があるとか、思い上がりも甚だしい。
某大臣が、自身の正当性主張のために公金中抜きリスト公開してて久々に笑いました。
惜しむらくは財務省が抜けてるところでしょうか。もしかして身内でポッケナイナイなのかもしれませんが。