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選挙は「落とすための手続」でもある…参院選の仕組み

選挙は当選させたい候補者を当選させるための手続であるだけでなく、落選させたい候補者を落選させるための手続でもあります。そして、参議院議員通常選挙で有権者が賢明に票の力を行使するためには、参議院議員通常選挙の仕組みを、簡単でも良いので抑えておくことが必要です。本稿では三連休の中日(なかび)となった参院選、期日前投票も含め、改めてその仕組みを振り返っておきたいと思います。

選挙情勢分析は当ウェブサイトにて取り扱いません

参院選を控え、ニューズ・ポータルサイトなどを眺めていると、「XX党が惨敗の勢い」だ、「●●党が躍進の勢いだ」、といったものが目につきます。やはり、人々の関心が高いという証拠なのでしょう。

ただ、連日当ウェブサイトにてお伝えしている通り、当ウェブサイトでは選挙前の論評にはかなり気を遣っており、直接に選挙情勢に関する話題を取り上げることについては、とりあえずは控えたいと考えております。

こうした話題を取り上げること自体が、現在進行中の選挙で当ウェブサイトとして特定候補・特定政党をの当選ないし落選を推進していることにもつながりかねないからですが、それだけではありません。当ウェブサイトでは、「政治活動」ではなく、あくまでも「政治経済評論」の枠内にとどめたいと考えているからです。

実際、(これもあくまでも著者自身の感想ですが)ネット上で定評のあるサイトや論者は、多くの場合、持論よりも客観的な証拠と観察に重きを置いているフシがあります。信頼のおける議論で評価が高い韓国観察者の鈴置高史氏なども、その典型例でしょう。

また、個人的に信頼していた某ネット番組なども、「地上波が取り上げない話題を積極的に踏み込む」、「さまざまな立場のゲストが多角的な視点から政治経済を斬る」、といったスタンスでありながらも、「あとは有権者の評価に委ねる」といった姿勢が素晴らしかったと思います。

某ネット番組、特定政党に肩入れし過ぎてませんか?

さて、最初にちょっとだけ余談です。

その某ネット番組に関しては、ここ数日の選挙関連の報道については、ちょっとこの「論評」から逸脱してしまっているフシがあります。特定の選挙区の情勢を伝えるとともに、片方の政党が敗北することが、まるで「有権者の意思」であるかのように報じてしまっているからです。

これだと、政治報道の中立性が不十分だとして批判されている某地上波の番組と、やっていることが大して変わりません。

いや、もちろん、政治番組が必ずしも党派性を出してはならない、という話でもないと個人的には思います。

地上波の場合は放送法第4条第1項において、①公安や善良な風俗を害しない、②政治的に公平である、③報道は事実を曲げない、④できるだけ多角的に論点を明らかにする、といった内容を放送することが義務付けられています。

放送法第4条第1項

放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

一 公安及び善良な風俗を害しないこと。

二 政治的に公平であること。

三 報道は事実をまげないですること。

四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

日本の地上波各局がこの①~④を守っているかどうかは別の議論ですが(というか、①~④の規定は形骸化しているフシがあります)、ネット番組の場合は上記の①~④について守る必要すらありませんし、基本的に自由に番組を作ってもまったく問題ありません。

ただ、せっかく「報道番組」を名乗るならば、特定の党派の当選や落選に影響を与えようとするのではなく、できるだ客観的に、「なぜその政党が支持されている(されていない)のか」の背景を、その選挙区固有の事情まで含めて明らかにするような報道があるとありがたいと思う次第です。

その某ネット番組の報道内容自体を取り上げてしまうと、それは当ウェブサイトにて特定政党の候補者の当落について間接的に取り扱ってしまうことになるため、具体的な内容を紹介することはできませんが、なんだか非常に残念だと思ったのはここだけの話です。

参院選では2枚の投票用紙を使い分ける

さて、脱線はこのくらいにして、本題です。

参議院議員通常選挙については、現時点の報道や世論調査などに加え、前回(2022年)と前々回(2019年)の選挙結果をベースに、個人的に当落予測などを立てているのですが、これについては20日(日)夜8時までは公表しない予定です。

ただ、その際の「ロジック」そのものについては述べても問題ないと思われます。

参議院議員通常選挙においては、有権者は2枚の投票用紙を受け取ります。

1枚目は、選挙区の候補者の氏名を書く投票用紙。

2枚目は、比例代表の候補者の氏名か政党名を書く投票用紙です。

このうち選挙区に関しては、全国47都道府県をひとつの選挙区とするという方式が取られていたのですが、人口などの理由もあり、現在、選挙区の数は45個です。鳥取県と島根県、徳島県と高知県が、それぞれ「合区」だからです。

複数区の場合は有権者の意思が反映されやすい

また、選挙区は都道府県単位であるためか、どうしても人口に応じて当選者の数が変わってくるという特徴があります。

最も人口の多い東京都の場合、定数は12人であり、このうち3年ごとに6人ずつが改選されます(※ただし、今回に限定していえば当選者は7人で、7番目の得票で当選した人は任期が6年ではなく3年です)。

また、ほかにも北海道(改選3)、茨城県(改選2)、埼玉県(改選4)、千葉県(改選3)、神奈川県(改選4)、静岡県(改選2)、愛知県(改選4)、京都府(改選2)、大阪府(改選4)、兵庫県(改選3)、広島県(改選2)、福岡県(改選3)が、それぞれ複数区です。

これらの複数区の改選数は合計して42議席であり、これに改選1議席の「一人区」32議席を足した74議席が選挙区で争われます。

この点、あなたがお住いの地域が複数区の場合は、わりと自由に、さまざまな選択肢から候補を選ぶことができるかもしれません。

たとえば東京都の場合だと、今回は32人が立候補しているそうですが、この32人のなかから上位6人が任期6年の参議院議員として、7番目が任期3年の参議院議員として、それぞれ当選します。そして上位6人に入ってしまえば、当選者という意味ではまったく同じです。

このため、少数政党であっても比較的選挙区で当選しやすいという特徴があり、極端な話、1000万人少々の有権者のなかで60~70万票くらい固められれば、議席はほぼ確実に手に入ります(投票率が60%前後である、という前提のうえで、ですが)。

いずれにせよ、複数人が当選する複数区の場合は、有権者の多様な意思が当選者の顔ぶれというかたちで反映されやすいことは間違いありません。

死票が多く出る一人区は大政党などに有利

しかし、あなたがお住いの地域が一人区の場合は、その選挙区で当選できるのはたった1人、ということです。このため、衆院選の小選挙区と似たような状況が生じます。大政党(自民党化立憲民主党)、あるいは野党で一本化した場合はその野党候補による一騎打ちとなりやすく、死票も多く出てきます。

立候補者が2人、投票者総数が100万1人であった場合、A候補が50万1票を得れば、B候補は50万票を得たにもかかわらず敗北しますし、50万票が死票化します。もしあなたが「負けた50万票」の側だった場合は、あなたの意見は選挙区では通らなかった、ということです。

こうした死票が多いという特徴から、参院の一人区、あるいは衆院の小選挙区の場合は「民意を正確に汲み取るという点で問題がある」などと指摘する人もいるのですが、ただ、こうした小選挙区制度を採用する民主主義国家も多く、いわば、政権交代が生じやすい仕組みである、という言い方もできるでしょう。

いずれにせよ、選挙区ではあなたがお住まいの地域によって、あなたの意見の通りやすさがずいぶんと異なるのです。

比例代表は「非拘束名簿式」に注意

さて、選挙区に対し、残り50議席が比例代表に配分されているのですが、この比例代表も「非拘束名簿式」という、ちょっと癖のある選挙制度です。

これは、有権者としては政党名(たとえば「XX党」)で投票しても良く、あるいは候補者名(たとえばそのXX党から出馬している「A山B夫」)で投票しても良い、という仕組みで、この場合はどちらで投票したとしても、その票はX党にカウントされます。

ただ、X党の名簿には「特定枠」を除いて順序が指定されておらず、実際の当選順位は個人名による投票数で決まります。つまり、同じX党から出馬している候補者同士で当選順序を争う、という格好です。

もしもあなたがX党をそこまで支持しているわけではないにせよ、A山B夫を強く支持しているのであれば、比例票は「X党」という政党名ではなく、A山B夫という「候補者名」で投票すれば良い、という投票行動が成り立ちます。

あなたと同じようにA山B夫を支持している有権者が多ければ、X党の比例名簿でA山B夫が上位に入りますし、もしもA山B夫がX党全体で3位に入り、X党に10議席配分された場合は、A山B夫はX党の「参院比例枠」のなかでも「序列3位」(?)で当選できるわけです。

予想外の候補を当選させてしまうという欠点も!

ただ、この非拘束式には欠点もあります。

それは、あなたの1票が、あなたの望まない候補の当選につながる恐れがあることです。

たとえばあなたがせっかくA山B夫に投票したとしても、X党が獲得した票数が3議席しかなく、A山B夫がX党内で4番目の票しか獲得できなければ、A山B夫は落選します。しかし、あなたが「A山B夫」と書いた票はX党にカウントされます。

ということは、あなたの票が、間接的にはX党の他の候補を当選させるのに使われてしまう、というわけです。

当ウェブサイトにて繰り返し伝えている通り、もしあなたに支持する政党があったとしても、その政党があなたにとってどうにも容認できないC田D子という候補を比例に立ててきた場合、あなた自身が比例で「A山B夫」とうっかり書いてしまうと、A山B夫は当選できず、結果的にC田D子が当選する、といった事態も発生します。

つまり、あなた自身がA山B夫を信任したはずなのに、その票はX党にカウントされたうえで、間接的にはX党の他の候補を当選させるのに使われてしまう、というわけです。

これが、非拘束式の特徴です。

選挙というものは、結局のところ、「最も当選させたい人」を当選させるための手続であるだけでなく、「最も落選させたい人」を落選させるための手続です。

ですので、もしもあなたに「C田D子だけは絶対に落選させたい」という気持ちがあり、その気持ちが「A山B夫を当選させたい」という気持ちに勝った場合は、あなたは躊躇なく、X党以外で最もあなたの考え方に近い政党または候補者に比例票を投じるべきでしょう。

その一方で、「C田D子が当選してしまうかもしれない」けれども「そのリスクを冒してでも絶対にA山B夫を当選させたい」と思っているのだとすれば、あなたは勇気をもって、A山B夫に投票しなければなりません。たとえそれがC田D子の当選につながるとしても、です。

三連休の中日は期日前投票も活用して!

なお、今回の参議院議員通常選挙は三連休の中日(なかび)である20日に行われますが、これは法令の要請に加え、「投票日は日曜日とする」という慣例に従ったものであり、政府・与党関係者が意図的に投票率を下げるためにこの日を選んだというわけではありません。

ただ、連休の中日だと、投票し辛いことも事実でしょう。

そこで、期日前投票を活用することもおすすめポイントのひとつです。

期日前投票は基本的に投票日前日までの毎日午前8時30分から午後8時の時間(※ただし、投票可能な日付や時間はお住いの自治体によって、投票所により異なることがあります)受け付けており、当日投票所に行けない人が利用できる仕組みです。

一部の報道によると、今回の選挙では13日時点で有権者全体の約1割が期日前投票を利用していて、前回・2022年参院選と比べても期日前投票の人数が増えているようですが、これは投票日が三連休の中日だからなのか、それとも今回の参院選に関心が高いからなのかはよくわかりません。

しかし、多くの人が期日前投票を利用していることは間違いなく、最終的な投票率が何%程度になるのかは、興味深いところだと思う次第です。

いずれにせよ、くどいようですが、選挙は「当選させるための手続」であると同時に「落選させるための手続」でもあります。

投票したい候補がいる方は絶対に選挙に行ってください。

また、積極的に投票したい候補がいなくても、落選させたいという候補がいるのならば、やはり同様に、絶対に選挙に行ってください。落選させたい候補以外の最もマシな候補にあなたの貴重な1票を投じてください。

当ウェブサイトより、心の底からお願い申し上げたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • 期日前投票してきました。
    自分自身、自民党の岩盤支持層と自負していましたが、さすがにもう無理です。

    当選してほしい方が数名いるので悩みましたねー。
    日曜日の開票速報が楽しみです。

    • 手取りを増やす機会を、参議院議員風情が潰したことで潮目が変わったと思っています。
      自分の中では、宮沢洋一氏が自民党を超逆風に追いやった筆頭戦犯と思っています。
      それを御せない石破首相は言わずもがなです。

  • 某党は期日前投票に組織票の動員をかけているそうだ
    情勢調査で優位が示されれば、死票を恐れ投票当日の出足が鈍るだろう
    そんなアナウンス効果に期待してという策謀なんだろうなあ
    にもかかわらず、期日前投票で逆転や接戦が生じているという(笑)
    たぶん当日までにロシアの弾薬のごとく組織票は枯渇しているのでは?
    だとすれば、私たちの一票が大切な重みをもつことになる
    投票所に行きましょう

  • 某党執行部を落とす為の選挙と心を固めています。噂では結果に関わらず居座るつもりらしいですから。

  • 期日前投票、してきました。
    正直、迷いました。
    それにしても……石破総理、もう黙っていて腹案でも考えていてください。

  • 過日「オールドメディアが日本人ファーストを掲げる政党にネガキャンを仕掛けるのは茶番ではないのか?」とコメントした者ですが、その根拠は「日本人ファーストと具体的に言わずとも、日本の国益優先を主張する新興保守政党」をメディアが何故か叩かないからです。こちらの方が党首の数々の問題発言や党の一般人に対するスラップ訴訟など、ネガキャンのネタには事欠かないにもかかわらず、です(勿論前者にも多少落ち度はありますが)。何よりも前者が親露、反ワクなのが気になりますが、メディアはこれらをネガキャンのネタにはしていません。前者が本当に保守政党なのか疑わしいと私は思うのですが。これら二点がネガキャンの根拠になってない時点で「この政党をわざと叩いて有権者の同情を誘っているのでは?」と勘ぐってしまいます。オールドメディアが自分達の信用が若年層間で低いのを逆手にとってかの政党と裏で手を組んで…」というのだ私の推論ですが、考え過ぎでしょうか?でも私はかの政党が保守政党とはとても思えません

  • 過半数を割っても石破首相が続投を目論んでいるとの予想があります。投票に行かないという中途半端な行為では石破首相らが生き延びる可能性があります。石橋(石破氏)を叩いて壊し、新しい橋を作って渡るしかないのではないでしょうか。

  • 石破さんはすごいですね
    若い人に選挙で色々と変わることを示して選挙の投票率も上げることもできますし、選挙後、辞任後しても総裁選も今までの流れではだめとわかったので、若返り自民党の昔ながらの既得権益を崩していくきっかけを作っていくことにもなると思います
    もし辞任しないで頑張ればいよいよ不信任が出て衆議院解散でもっと自民党が叩き壊されることになると思いますし投票率はさらに上がるでしょう
    そのために物価が上がってもなかなか対策をせず、無茶なウソなこと言ったり自分を貶めてまでやって嫌われてくれてます
    石破さんはすごいです