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東京都心部中心に中古マンション価格の上昇傾向が続く

首都圏、とりわけ東京都内、あるいは23区内で中古マンションを買い求めるのがますます大変になりつつあります。ただ、同じ首都圏でも23区外に目を転じてみると、そこまで値上がりしていない地区、あるいは値下がりに転じた地区なども散見されます。要は、中古マンション需要も都心に集中しているようなのです。ただし、これを単純に「バブル」と決めつけて良いものかはまた別の話です。

レインズデータ

東京都の7割超が共同住宅

首都圏に暮らしている方、あるいは首都圏の住宅事情に詳しい方ならば、なんとなく想像がつくかもしれませんが、とりわけ東京都では、住宅の多くは共同住宅(マンションないしアパート)であり、「庭付き一戸建て」はそもそも供給量自体が少ないようです。

総務省が昨年9月に公表した『令和5年住宅・土地統計調査住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果』によると、住宅に占める「共同住宅」の割合は、東京都では71.6%と他道府県に比べて群を抜いて高く、必然的に、マンションやアパートなどに住んでいる人が多いことが示唆されます。

東京都内は物価が高いとされる一方、仕事も多く、また、乳幼児・小中学生などに対する医療費が無料になるなど子育て支援が充実していることもあってか、比較的最近まで人口流入が続いてきたため、東京都内のマンション価格相場は景気動向などを読むうえでも参考になるデータといえます。

レインズデータの最新報告

ところで最近、物価高に関する話題は、ニューズ・ポータルサイト等で取り上げられない日がないほどに関心が高まっているように思えます。

卵だ、コメだ、コンビニ弁当だといった食品、あるいはシャンプーだ、衣類だといったさまざまな日用雑貨はもちろん、やはり我々庶民にとって関心を持たざるを得ないのが、住宅価格です。

こうしたなか、当ウェブサイトにおいて最近、ほぼ毎月のように取り上げている話題のひとつが、公益財団法人東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が毎月公表している中古マンションに関する統計レポートのデータです。

これについては『レインズデータライブラリー』のページで入手できますが(URLの末尾の方にある4桁を変えればさまざまな年のデータを取得することが可能)、その最新版が10日、同サイトにアップロードされていました。

その前にレインズのデータを読むうえでの注意点ですが、東京23区に関しては、レインズDB上は「都心3区」に加え、「城東」「城南」「城西」「城北」の合計5つの地区に分けられており、これに23区と島嶼部を除いた地区が「多摩地区」として別途集計されています。

【凡例】東京都(島嶼部を除く)の6分類
  • 都心3区…千代田区、中央区、港区
  • 城東地区…台東区、江東区、江戸川区、墨田区、葛飾区、足立区、荒川区
  • 城南地区…品川区、大田区、目黒区、世田谷区
  • 城西地区…新宿区、渋谷区、杉並区、中野区
  • 城北地区…文京区、豊島区、北区、板橋区、練馬区
  • 多摩地区…都区部・島嶼部以外

最新の平米単価(2025年6月時点)

いくつかの不動産情報サイトなどを見ると、「都心6区」という括りもみられるようで、これは上記の都心3区(千代田、中央、港の各区)を中心に①新宿、渋谷、文京の各区を合わせたものを指す場合と、②江東、墨田、台東の各区を合わせたものを指す場合があるようです。

このうちの①のパターンを「伝統的都心6区」、②のパターンを「新都心6区」、などと表現しているサイトもあるようです(不動産業界ではこうした呼び方がスタンダードなのでしょうか?)。

ただ、本稿では基本的にこのレインズの区分をそのまま踏襲してすることとします。

さっそくですが、地区別の中古マンションの平米単価(成約ベース)とその前年比をレビューしておくと、図表1のような具合です。

図表1 地区別中古マンション平米単価(成約ベース)
地区 2025年6月 前年比 値上がり率
首都圏 83.34万円 5.39万円/㎡ 6.91%
東京都 117.01万円 13.61万円/㎡ 13.16%
都心3区 232.14万円 49.03万円/㎡ 26.78%
城東地区 95.09万円 9.59万円/㎡ 11.22%
城南地区 117.24万円 6.29万円/㎡ 5.67%
城西地区 154.48万円 18.67万円/㎡ 13.75%
城北地区 94.08万円 5.08万円/㎡ 5.71%
多摩地区 55.66万円 0.19万円/㎡ 0.34%
埼玉県 43.32万円 1.17万円/㎡ 2.78%
千葉県 36.57万円 ▲3.97万円/㎡ ▲9.79%
神奈川県 56.28万円 ▲3.07万円/㎡ ▲5.17%

(【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構『レインズデータライブラリー』データをもとに作成)

都心3区、城東、城西の伸び率が大きい

図表1を眺めてみると、東京都でマンションの平米単価が前月比+13.16%と「二桁上昇」を記録しており、これがとりわけ都心3区になると+26.78%と全体の価格を大きく押し上げている格好ですが、それだけではありません。

先ほどの「伝統的都心6区」の一部である新宿区・渋谷区を含めた城西地区も+13.75%、「新都心6区」の一部である台東区、江東区、墨田区を含んでいる城東地区についても+11.22%と、両者いずれも「二桁上昇」です。

ただし、首都圏のマンション価格を押し上げているのはおもに東京都であり、しかも都心3区、城東地区、城西地区を除くと、同じ都内でも「二桁上昇」を記録している地点はなく、さらに千葉県や神奈川県では前年比マイナスに転じていることがわかります。

すなわち、「中古マンション価格が急騰している」というのも、基本的には東京都内でもさらに都心部の話であり、同じ東京都区内でも都心部を別とすれば、少なくとも「二桁上昇」ではないことがわかります(といっても、城南、城北の各地区もそれぞれ5%台後半と、やはり上昇していることは間違いありませんが…)。

この点、都心部の不動産物件は外国人投資家らによる価格吊り上げが生じている、といった説を唱える人もいますが、実際の値動きから見れば「外国人から見て投資物件として価値がある都心部の物件が買い漁られている」、といったストーリーも、仮説としては十分に成り立つでしょう。

(※ただし、レインズのデータだけでは、このあたりを証明するには不十分ですが…。)

地区別単価

首都圏の相場は東京都の相場と類似

次に、平米単価の推移を地区別に眺めておきましょう(図表2、【出所】公益財団法人東日本不動産流通機構『レインズデータライブラリー』データをもとに作成)。

まずは、首都圏と東京都です。

図表2-1 中古マンション成約状況(首都圏)

図表2-2 中古マンション成約状況(東京都)

首都圏全体と東京都全体に関しては、動きとしてはよく似ています。

これはおそらく、首都圏全体における中古マンションの取引件数の半数以上が東京都内の物件で占められているため、東京都内の取引実勢が首都圏全体の中古マンション平米単価の形成に強い影響を与えているからではないでしょうか。

都心部は価格上昇が急ピッチ

続いて都心3区、城東地区、城西地区について確認していきましょう。やはり都心3区の価格の上昇角度は急激であり、都心3区ほどではないにせよ、城東・城西両地区もなかなかの急上昇を見せています。

図表2-3 中古マンション成約状況(東京都 都心3区)

図表2-4 中古マンション成約状況(東京都 城東地区)

図表2-5 中古マンション成約状況(東京都 城西地区)

とりわけ都心3区の急な上昇は、「不動産バブルではないか」との懸念も個人的には抱きますが、いずれにせよたった3年で倍近くにまで平米単価が上昇するというのも印象的です。

城南、城北、多摩地区の状況

しかし、東京都区内のうちの城南地区については、平米単価は上昇しているものの、東京都全体と比べれば上昇は緩やかであり、城北地区ではやや足踏み状況が見られます。また、多摩地区に関しては、マンション価格の上昇は一服した感があります。

図表2-6 中古マンション成約状況(東京都 城南地区)

図表2-7 中古マンション成約状況(東京都 城北地区)

図表2-8 中古マンション成約状況(東京都 多摩地区)

近隣3県だと下落に転じている事例も

そして、埼玉県、千葉県、神奈川県という東京都に隣接する3県に関していえば、中古マンション価格はピークを過ぎ、県によっては下落に転じている様子が確認できます。とりわけ千葉県と神奈川県においてその兆候が顕著です。

図表2-9 中古マンション成約状況(埼玉県)

図表2-10 中古マンション成約状況(千葉県)

図表2-11 中古マンション成約状況(神奈川県)

平米単価×面積

面積のめやす

次に気になるのが、現実に中古マンションを買い求める際の価格です。

上記で参照したデータはあくまでも「平米単価」であり、現実の物件はこれに広さがあります。

国土交通省の資料『住生活基本計画における「水準」について』1ページ目によると、「健康で文化的な住生活の基礎として必要不可欠な住宅の面積に関する水準」は、単身者が25平米、2人世帯が30平米、以下人数が1人増えるごとに10平米(未就学児の場合は5平米)ずつ増えるとされます。

ただし、著者自身の主観だと、単身者は25平米以下でも暮らせるとは思いますが(個人的知り合いのケースだと15平米以下の物件に暮らしていた社会人がいますし、さらに狭い10平米の物件で2人暮らしをしているというケースもあります)、やはり最低でも20平米は欲しいところではないでしょうか。

面積別価格

こうしたなかで、図表1で紹介した平米単価に単純に面積を乗じて、地区ごとの物件価格をざっと計算してみたものが、次の図表3です。

図表3-1 平米単価と広さ別の価格めやす(2025年6月分)①
地区 平米単価 20平米 40平米
首都圏 83.34万円 1667万円 3334万円
東京都 117.01万円 2340万円 4680万円
都心3区 232.14万円 4643万円 9286万円
城東地区 95.09万円 1902万円 3804万円
城南地区 117.24万円 2345万円 4690万円
城西地区 154.48万円 3090万円 6179万円
城北地区 94.08万円 1882万円 3763万円
多摩地区 55.66万円 1113万円 2226万円
埼玉県 43.32万円 866万円 1733万円
千葉県 36.57万円 731万円 1463万円
神奈川県 56.28万円 1126万円 2251万円
図表3-2 平米単価と広さ別の価格めやす(2025年5月分)②
地区 50平米 60平米 70平米
首都圏 4167万円 5000万円 5834万円
東京都 5851万円 7021万円 8191万円
都心3区 11607万円 13928万円 16250万円
城東地区 4755万円 5705万円 6656万円
城南地区 5862万円 7034万円 8207万円
城西地区 7724万円 9269万円 10814万円
城北地区 4704万円 5645万円 6586万円
多摩地区 2783万円 3340万円 3896万円
埼玉県 2166万円 2599万円 3032万円
千葉県 1829万円 2194万円 2560万円
神奈川県 2814万円 3377万円 3940万円

(【出所】東日本レインズ公表『レインズデータライブラリー』データをもとに作成。ただし価格は任意の平米数にレインズデータの平米単価を単純に乗じて求めているため、現実に成立した価格を示すとは限らない)

東京23区での暮らしはなかなかに大変

上記は平米単価と平米数だけで機械的に算出した物件価格であり、もちろん、正確な数値ではありません物件の面積が変動すると、平米単価も平均値から外れる可能性があるからです。

ただ、それと同時に上記は首都圏中古マンション価格の平均水準からそう大きく外れるものでもないでしょう。

たとえば「おひとり様」用としてメジャーな20平米程度の物件の場合も、伝統的都心6区の一部が含まれる城西地区でも3090万円する計算ですし、また、都心3区だとこれが4643万円に跳ね上がる格好です(もっとも、個人的にはこの価格、不動産売買サイトなどの価格より高すぎる気もしますが…)。

また、国土交通省基準だと4人家族に最低限必要な面積である50平米の物件の場合、首都圏平均だと4167万円ですが、東京23区だと一番安い城北地区でも4704万円、城東地区だと4755万円であり、住宅地として人気が高い城南地区だと5862万円。

伝統的都心6区の一部を含んだ城西地区だと、これが7724万円に跳ね上がる格好であり、そして都心3区の場合は、なんと1億1607万円(!)と、俗にいう「オクション」状態です。

東京23区の場合は名門校とされる学校も多く、これに加えて乳幼児や小中学生、さらに最近だと高校生まで医療費が「無償化」されているなど、子育てをしやすい場として人気があるようですが、それだけに東京都内で暮らすのも大変です。

これに加えて近年、マンションの建築資材や工賃の急騰などを受け、都内各地でマンション建設が中断している、などとする情報があります(情報源については現時点ではお示しできませんが、これについては当ウェブサイトにて紹介できる情報源が出てきた時点で詳説したいと思います)。

もしその情報が正確なものだとしたら、中古マンション価格の高止まりもちゃんと理由があるといえますし、地区によってはあながちバブルと決めつけられるものではないのかもしれません。

予告:賃貸データも!

なお、東日本レインズは売買データだけでなく賃貸に関するデータも公表しているのですが、こちらについてはデータが公表される頻度は「毎月」ではなく「四半期に1回」であり、しかも公表されるタイミングも1月、4月、7月、10月のそれぞれ後半です。

これについてはおそらく今月後半に入手できるのではないかと考えているので、データが公表され、興味深い内容が判明したら、また当ウェブサイトにて報告できると思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (2)

  • 戦後期間は高度経済成長時代を経て80年にもなる為、マンションと称する共同保有の共同住宅の中には建替えが必要な時期になってきたにもかかわらず関係者との調整困難、経済的困難により実施出来ない物件が年々早いペースで増加する事が予想されます。

    >総務省が昨年9月に公表した『令和5年住宅・土地統計調査住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果』によると、住宅に占める「共同住宅」の割合は、東京都では71.6%と他道府県に比べて群を抜いて高く、必然的に、マンションやアパートなどに住んでいる人が多いことが示唆されます

    東京都は全国どこよりも厳しくその困難に今後直面します。
    自身の周辺を鑑みてみても、住宅の輪廻が滞る事なく進行できているのは、
    一戸建て、民間アパート、公団や公社の団地といった小回りの利く或いは合意形成しやすい物件。
    一方で1960年代それに続く1970年代建造のマンションは老朽化が容赦なく進む、、、、みたいな状況。故に、東京都に建造された中古マンションは資産としての価値の維持が難しい事が周知の話しとなるのは時間の問題と思われます。東京都の中古マンションの価格上昇という現象は、一部優良物件以外は時限的事象になるように感じられます。

  • いつも楽しみに拝読しております。

    先週子供が海外留学から帰国しました。我が家は都区内の駅前マンションで、子供は留学で、生まれて初めて車がないと暮らせない環境を経験しました。自宅では生活がすべて徒歩圏内で完結し、何処へ行くにも待たずに交通機関を利用できる環境でしたので、東京の良さを再認識したようです。
    こうゆう「立地」というファクターを考えると、東京の便利な場所のマンション価格は、そんなに下がらないように思います。大規模修繕などメンテを継続することで、ニューヨークのマンハッタンみたいにできたら良いですね。