テレビは高齢者の娯楽となりつつあることが、より一層明らかになってきました。総務省ウェブサイトに先月27日付で公表された『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』と題した報告によると、60代と70代を別とすれば、すでにほぼすべての年代でネットの利用時間がテレビの視聴時間を上回っており、しかも年々、その差は拡大する傾向にあります。
目次
今年も出てきたメディア利用時間調査
当ウェブサイトでほぼ毎年「定点観測」しているデータはいくつかあるのですが、その中でもとりわけ興味深いのが、総務省ウェブサイトに毎年公表され、『情報通信白書』にも転載されている「メディアの利用時間」に関する調査です。
『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』と題した調査で、東京経済大学コミュニケーション学部の北村智教授、東京大学の橋元良明名誉教授、青山学院大学総合文化政策学部の河井大介助教との共同研究形式で(著者が確認した限りは)少なくとも2013年以降毎年公表されています。
その最新版(令和7年度=2025年度)が先月末ごろ、総務省ウェブサイトにて公開されていました。
「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」の公表
―――2025/06/27付 総務省ウェブサイトより
なお、従来の調査は13歳から69歳までを対象に実施されていましたが、今回の報告からは13歳から79歳までを対象に実施されているため、一部でデータが昨年までのものとうまくつながらなくなっています。というのも、70代の数値を含めたことで、「全年代」の数値が全般的に大きく変動しているからです。
テレビ視聴時間が極端に長い70代
さっそくデータで確認すると、図表1のような具合です。
図表1 平日の年代別メディア利用時間(2024年)※70代までを含めたもの
(【出所】『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』をもとに作成。ただし元データでは、2023年以前は10~60代平均が「全年代」と表記され、2024年以降は10~70代平均が「全年代」と表記されている)
いかがでしょうか。
このグラフからわかることは、高齢者になればなるほどテレビを長時間視聴し、ネットをあまり使用していないこと、そして「全年代」に70代のデータを混ぜると、それだけでテレビの平均視聴時間が30分以上伸びること、でしょう。70代のテレビ視聴時間が極端に長いからです。
いずれにせよ、テレビが事実上、完全に高齢層の娯楽と化していて、若年層・中年層などからほとんど見向きもされていないことがわかります。
テレビ視聴時間などは減少する傾向にある
なお、図表1とまったく同じグラフを2023年についても作成しておくと、図表2のような具合です。
図表2 平日の年代別メディア利用時間(2023年)※70代までを含めたもの
(【出所】『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』をもとに作成。ただし元データでは、2023年以前は10~60代平均が「全年代」と表記され、2024年以降は10~70代平均が「全年代」と表記されている)
これもまた極端でわかりやすい図表です。
高齢層になればなるほど情報源がテレビに偏重し、若年層になればなるほどテレビがまったく見られていない、ということだからです。
ただ、図表1と図表2を見比べたときに気づく点があるとしたら、ネット利用時間が(年による多少の変動はあれど)傾向として少しずつジリジリと増えている、ということでしょう。
たとえば50代の媒体別利用時間を集計してみると、図表3のとおり、たった1年でもテレビ視聴時間がゴリゴリ削られていることがわかります。
図表3 平日の50代の媒体別利用時間
| 媒体 | 2023年 | 2024年 | 増減 |
| TV | 163.2分 | 159.0分 | ▲4.2分(▲2.57%) |
| TV(録画) | 21.2分 | 16.5分 | ▲4.7分(▲22.17%) |
| ネット | 173.8分 | 181.0分 | +7.2分(+4.14%) |
| 新聞 | 7.6分 | 6.3分 | ▲1.3分(▲17.11%) |
| ラジオ | 8.6分 | 13.0分 | +4.4分(+51.16%) |
(【出所】『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』および過去の総務省『情報通信白書』をもとに作成)
若年層ほどテレビを見なくなっているが…60代も!?
じつは、昨年(2024年公表値、つまり2023年)の時点で、50代において史上初めてテレビ視聴時間をネット利用時間が上回ったのですが、今年(2025年公表値、つまり2024年)においてはテレビの「リアルタイム」「録画」を合計した時間数をネット利用時間が上回りました。
すでに40代は2020年時点で、30代は2019年時点で、20代は2013年時点で、10代は2014年時点で、それぞれネット利用時間がテレビ視聴時間を上回っているのですが、この「ネット>TV」が次第に高年層にも浸透していることが明らかでしょう。
しかし、60代に関していえば、テレビ視聴時間が30分短縮され、ネット利用時間が17.6分伸びていますが、それでも依然として「TV<ネット」となっていることが確認できます(図表4)。
図表4 平日の60代の媒体別利用時間
| 媒体 | 2023年 | 2024年 | 増減 |
| TV | 257.0分 | 226.7分 | ▲30.3分(▲11.79%) |
| TV(録画) | 13.1分 | 37.2分 | +24.1分(+183.97%) |
| ネット | 133.7分 | 151.3分 | +17.6分(+13.16%) |
| 新聞 | 15.9分 | 14.8分 | ▲1.1分(▲6.92%) |
| ラジオ | 15.2分 | 18.0分 | +2.8分(+18.42%) |
(【出所】『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』および過去の総務省『情報通信白書』をもとに作成)
テレビ視聴時間がなかなか減らない70代
その一方、70代に関してはなかなかに強烈で、2023年、24年ともにテレビ視聴時間が300分を超えていることがわかります(図表5)。
図表5 平日の70代の媒体別利用時間
| 媒体 | 2023年 | 2024年 | 増減 |
| TV | 304.6分 | 310.7分 | +6.1分(+2.00%) |
| TV(録画) | 28.6分 | 32.8分 | +4.2分(+14.69%) |
| ネット | 69.2分 | 72.4分 | +3.2分(+4.62%) |
| 新聞 | 30.1分 | 30.5分 | +0.4分(+1.33%) |
| ラジオ | 20.2分 | 23.4分 | +3.2分(+15.84%) |
(【出所】『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』および過去の総務省『情報通信白書』をもとに作成)
政党支持率調査などを行うと、高年齢層ほど「ネット政党」の支持率が低く、既存政党の支持率が高いことを思い出しておくと、テレビ視聴者層とそうでない層で投票行動が大きく異なっているという仮説は、きわめて信頼性が高いものであるように思えます。
大きく3つの傾向がある
なお、著者自身が現時点で保持している最も古いデータ(2013年)と最も新しいデータ(2024年)を比較したものが図表6です。
図表6-1 平日の年代別メディア利用時間(2013年)
図表6-2 平日の年代別メディア利用時間(2024年)
(【出所】『情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書』や『情報通信白書』等をもとに作成。なお、元データによると2023年分までは「全年代」は13~69歳までのものを意味していたが、2024年分以降はこれに70代を加えた数値が「全年代」として計上されている。ただし、本グラフにおいては「全年代」は2023年以前の定義によっている)
いずれにせよ、メディア利用時間には、大きく次のような3つの傾向があるといえるでしょう。
- 若年層ほどテレビ、新聞、ラジオといったオールドメディアを見ず、インターネットを見る
- 高年層ほどインターネットを見ず、テレビ、新聞、ラジオといったオールドメディアを見る
- (70代を除き)どの年代においても年が経つほどにネットの利用時間が増えていく
もちろん、この調査にはいくつかの留意点があることも事実です。
たとえば、「10代」は13歳以降のことを指しているため、小学生や未就学児などのテレビ視聴時間はこのデータからはわかりませんし、同様に80歳以降の高齢者のテレビ視聴動向などについてもよくわかりません(その意味でテレビが「高齢者の娯楽」と断言して良いのか、という問題は残ります)。
ただ、こうした限界を別とすれば、やはり社会の中核を占める勤労層などが、少なくとも平日においては、テレビ(や新聞)よりもインターネット利用に多くの時間を割いていることは明らかです。
現時点においてもすでに、「視聴時間」という観点からは、テレビなどオールドメディアの社会的影響力は急速に小さくなりつつあるわけですが、トレンドとしてみれば、こうした傾向は今後も続く可能性が非常に高いといえるのではないかと思う次第です。
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300分、つまり5時間。ちょっと家事や買い物、通院で平均1日5時間として合計10時間。
残りお風呂やら何だかんだで2時間として合計12時間。あとは寝る時間。って風に想像すると、5時間というのは、ダイニングテーブルの椅子に座っている時間、ということかなぁと。
音が無いのも味気無いので惰性でスイッチオン。
BGMならぬBGVなのでしょうねぇ。
テレビ局は「TVは高齢者の娯楽である」と割り切るのでしょうか。
いつも楽しみに拝読しております。
石破首相か68歳、森山幹事長が80歳、政権の閣僚平均年齢は63歳とのこと。もしかしたら今のトンチンカンな現状認識は、官僚だけでなくテレビから得た情報で出来上がっているのかもしれませんね。
都市和尚様
石破首相の成年と同じ1957年の生まれの政治家には、岸田前首相、野田元首相、岩屋外相、中谷防衛相もいます。類は友を呼んだのでしょうか。
誤字失礼しました。
誤「成年」、正「生年」
Net利用が何を指すのかわからないがヒントになる数字がある。
2023年で最もNet利用が多いのが20代280時間、次が10代250時間、30代180時間。
2013年に10代だった人は2023年には全員20代になっているはずだが利用時間が100時間から280時間程度に激増。
他の年代も10年の間にNet利用時間は増えてはいるが2013年に10代だった人ほどではない。
私の仮説は、この10代~20代のNet利用の増加というのはNet環境が良くなり、Net環境でやるゲーム利用が増えたためではないかということ。うちの高校生の孫はほうっておくと1日中ゲームをやっている。Netでつながった仲間数人とだべりながら対戦しているのだ。
私も同じ観点で見てました。
10年前の20代~60代は、10年後にだいたい100分前後増えている。ネットの浸透効果だろうと思います。
10年前の10代が10年後に激増しているのは、学校時代に管理抑制されていた環境から独立し、タガが外れて「大人買い」みたいな状態になってるんじゃないかと思いましたが。
独身でヒマだろうし。
以前と違い、定額でダウンロード無制限のネット環境になってきていますから、コストを気にせずに利用できることが一因でしょう。
読売が本日午後2時に公開した記事はオールドメディアの金切り声
https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/20250701-OYT1T50158/
▼分かり易さの危険
『近年、SNSが選挙に与える影響は強まり、参政党だけでなく各党が主張の拡散を競っている。(中略)
『短時間の切り抜き動画や、X(旧ツイッター)での短文の投稿は、ふだん政治の情報にあまり接しない人にもわかりやすい反面、過激な主張や正確性を欠いた情報が拡散されやすい。アルゴリズムによって自分が好む投稿ばかりが表示される「フィルターバブル」の問題が有識者から指摘されている。SNSなどで似た考えの人たちばかりが集まり、意見が極端な方向に偏ってしまう「エコーチェンバー」の危険性もはらむ』
新聞紙面を通じた「これっぽちの文字数」で社会の動きを総括できるとそう考えてきた新聞産業は、「ちょぴっとだけ文章を超える圧倒的な情報流」に取り残されるほかない。
新聞 TV がエコーチャンバー装置でなくてなんでしょうか。
1.ちっぽけな情報切り取りと誇張
2.新聞編集部という名前のフィルターバブル
気に入らないネット情報を封殺削除しようとやっきになっているが、天につばきするようなもので、徒労以外のなにものでもないでしょう。
そういえばNHK
こんな工作やっておる
「友人に“選挙フェイク”を拡散してしまった」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250630/k10014834241000.html
「分かり易さの危険」については、記事のほかの著述と同様に一理あって、虚偽でも決めつけてもない。
しかし「分かり易く説明します」と自らの価値正当性のセールス文句として耳に TACO ができるほど力説してきた「実績と経緯」があるのは、新聞 TV のほうではありませんか。
ネット動画や SNS 投稿が「切り抜き・まとめ・分かり易さ」を謳っているのは、オールドメディアへの「あてこすり」と気が付かないのでしょう。
「ひとえに」は当方には難しくて読めませんでした。
新聞 TV は独裁者の登場をことさら強調するが、それは鏡に映った自分たちの姿にほかならない。キツネは穴のにおいをかぎ分ける(詐欺師は同業者がピンと分かる)そうではありませんか。
(違いところに入りました。元雑用係さまへのフォローでした)
陰謀論政党が支持を伸ばす状況はいかがなものかとは思いますが、それに対する対策は偏に陰謀論的主張への指摘・批判・反論を公論で重ねることであって、決して、少数者が情報流を独占して世論を誘導するような「マスコミ回帰」ではないと思います。
先祖返りはご免です。
はにわファクトリー 様
ご紹介された記事を拝見しました。
記事のまとめの『「わかりやすさ」の危険』の見出しの部分、
本当は『「伝わりやすさ」によって新聞 TVが、
新しい技術によって置いてけぼりになる危険』ととらえました。
>> オールドメディアの金切り声:
「もてない男が、身近なイケメンの悪口をわざわざ周りに言いふらす」
ような 「あの感覚」を思い出しました・・・。
>最新データで読む「高齢者の娯楽」となりつつあるTV
その最たる象徴とも言えるのがBSでしょうね。
地上波放送とはひと味違った番組を提供すればいいのですが、一応そういう番組は存在はするものの、短時間の番組しかなく、多く割かれているのは、嘗て地上波で放送されていた時代劇や2時間ドラマの再放送、そして特定の国のドラマばかりです。
あと目立つのが、テレビショッピングと昭和時代を懐かしむ番組が矢鱈と多い事です。
加えてBSテレビ東京については、地上波のテレビ東京のネットワーク局が少ない為、バラエティ番組などの再放送も多いですしね。
CMについても高齢者向けのものが多いですし、矢鱈と通販のCMが多いのも特徴ですね。
そもそも、ネットも衛星放送も無かった時代の 「視聴率30%≒日本人の30%が、その時間にその番組を見ている」 なんていう状況の方が異常だったわけで、衛星放送によるテレビの多チャンネル化が始まった時から 「一つ一つのチャンネルの視聴率は下がる」 というのは、わかりきっていた事です。
テレビの多チャンネル化によって、日本以外の国では新規参入が起こり、さまざまなジャンルの専門チャンネルが生まれたりしたけど、日本では総務省が、BSの免許もNHKや民放の東京キー局に優先して交付しました。癒着による新規参入妨害です。
「ぐぬぬ・・・せっかく寡占状態は維持したのに、ネットのせいで・・・ネットさえ無ければ・・・」 というのが、今のテレビ業界の気持ちでしょうか。