もうすぐ参院選の選挙期間に突入してしまいます。選挙期間中だからといって当ウェブサイトで取り上げる話題が大きく変わるというものでもないつもりですが、それでも選挙と密接にかかわる話題については、今のうちにたくさん取り上げておきたいと思います。こうしたなか、本稿では改めて自民党の獲得議席に関する話題とともに、自民党内のなんだかよくわからない空気をレビューしてみたいと思う次第です。
目次
自民の目標は40議席前後
いよいよ今週、参議院議員通常選挙が始まります。
予定では3日(木)に告示され、16日間の選挙期間を経て、3連休の中日(なかび)である20日(日)に投開票が行われます。前回(2022年)参院選は安倍晋三総理大臣が暗殺された直後に投開票を迎えたのですが、3年が経つのは本当にあっという間です。
参議院ウェブサイトによると、非改選議員のうち、会派別所属議員は自民党が61人(※関口昌一議長を除く)、公明党が13人の合計74人であり、議長を自民党が出していることを踏まえれば、過半数(定数248議席に対して125議席)を維持するためには自公合わせて50人当選すれば十分です。
もしも公明党が10議席以上を取ってくれるのだとすれば、自民党としては40議席もあれば、とりあえずは選挙後も過半数を維持することができます。
自民党は最近、25%程度得票を減らしている
ただ、『数字で読む「自民惨敗」の可能性』でも触れましたが、現実問題として「自公で合わせて50人」、「自民党だけで40人」という当選目標は、達成可能なのでしょうか。
これについて、昨年秋の衆院選では、自民党は小選挙区で24.46%、比例代表で26.77%、それぞれ得票を減らしていますし、東京都議選でも25.61%、得票を減らしています(図表1)。
図表1 自民党の得票の変動
| 選挙種別 | 前回と比べた得票の変動 | 増減 |
| 衆院選(小選挙区) | 2763万票→2087万票 | ▲676万票(▲24.46%) |
| 衆院選(比例代表) | 1991万票→1458万票 | ▲533万票(▲26.77%) |
| 東京都議選 | 119万票→89万票 | ▲31万票(▲25.61%) |
(【出所】衆院選データは総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』、都議選データは報道等をもとに調整)
そして、仮に今夏の参院選でも、選挙区・比例区のすべてで自民党ないし自民党公認候補が得票を一律で25%減らした場合、他の条件が2022年とまったく同一だったと仮定するならば、自民党の獲得議席は42議席と、辛うじてこの目標を達成します。
しかし、減らす票数が25%ではなく30%だったとしたら、自民党の獲得議席は36議席にとどまり、「最低40議席」という目標をクリアできないどころか、(自民がここまで大敗するということは)公明党も各地で落選者を出す可能性があり、自公が過半数割れに追い込まれる可能性が極めて濃厚です。
また、立候補者等の諸条件(※とりわけ一人区における野党共闘など)が2019年とまったく同じで、得票だけが2019年対比25%減少したときは、自民党の獲得議席は33議席に激減しますし、票が30%減少すれば、自民党の獲得議席は29議席と過去最低水準となります。
報道アナリストの新田氏は「自民45~51」を予想
これらをまとめたものが図表2ですが、それぞれの計算根拠とシミュレーション上の限界については『数字で読む「自民惨敗」の可能性』で触れています。
図表2 自民党の獲得議席数(2019年ケース)
| 一人区 | 複数区 | 比例 | 合計 | |
| 2019年・実際 | 22 | 16 | 19 | 57 |
| 2019年・25%シナリオ | 8 | 12 | 13 | 33 |
| 2019年・30%シナリオ | 7 | 10 | 12 | 29 |
| 2022年・実際 | 28 | 17 | 18 | 63 |
| 2022年・25%シナリオ | 16 | 13 | 13 | 42 |
| 2022年・30%シナリオ | 11 | 13 | 12 | 36 |
(【出所】参院選データは総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』)
これについては報道アナリストの新田哲史氏が先週、『週刊フジ』で、自民党の獲得議席については「最少45議席、最大51議席」という予想を公表しています。
参院選予測(上)小泉コメ劇場で自民低迷底打ち、山尾ショックで国民失速 参政受け皿に
―――2025/6/28 11:00付 産経ニュースより【週刊フジ配信】
上記で示した「2022年から25%減」シナリオと比べてずいぶんと自民党の獲得議席が多いという予想ですが、先日より報告している通り、当ウェブサイトでは選挙予想自体は扱わないと決めているため、この新田氏の予想が妥当かどうか、などに関してはノーコメントとさせていただきます。
(※もっとも、仮に新田氏の予測がかなり精緻なものだったとしても、実際の投開票までまだ3週間の時間があるため、有権者の態度や雰囲気次第では情勢が大きく変わる可能性もありそうですが…。)
参院選敗北で「最悪、自民は総理を出せなくなる」?
さて、選挙の公示前の貴重なタイミングということもあり、何の制約もなしに選挙に関する話題を取り上げることができるのは今のうち、ということですが、ここで取り上げておきたいのがこんな話題です。
「最悪、総理を出せなくなる」危機感広がる…“少数与党”石破政権が迎える運命の参院選 野党は連立に慎重か【edge23】
―――2025/06/29 06:02付 Yahoo!ニュースより【TBS NEWS DIG Powered by JNN配信】
TBSによると、東京都議会選挙は自民党にとっては「想定以上の大敗」であるとともに、「野党各党からも驚きをもって受け止められるほど」だった、などとしたうえで、今夏の参院選は「負ければ最悪総理を出せなくなる」という危機感が自民党内で広がっているのだそうです。
私たち一般人の多くにとっての理解に基づけば、参院選はべつに政権選択選挙ではありません(※「政権選択選挙」は衆議院議員総選挙のほうです)が、なぜ、参院選に負ければ「最悪総理を出せなくなる」というのでしょうか。
TBSはこれについて、こう述べます。
「この『50議席』を割った場合<中略>参議院でも衆議院と同じように野党との合意が必要になり、法案を通すための手間が今の2倍、3倍になる可能性がある。さらに、石破総理に対して『もうやめてください』という声も党内から上がりかねない」。
「そうなると新たな総裁選挙が行われるが、衆議院も参議院も少数与党の状況では、自民党の新総裁が自動的に新総理になるとは限らない」。
これが、「(今夏の参院選で自民党が)負けた場合には、最悪、総理を出せなくなってしまう」という危機感なのだそうです。
参院選自体は政権選択選挙ではない
このあたり、理屈のうえで見たら若干の論理の飛躍もあるような気もしますが、自民党内ではそのような危機感が広がっているということなのかもしれません。
ただし、このTBSの報道に反論するわけではありませんが、正直、仮に自民党が参院選で「敗北」した(つまり改選後獲得議席が自公で50議席を割った)としても、直ちに石破政権、あるいは自民党政権そのものが終わってしまう、というわけではありません。
少なくとも内閣総理大臣の指名は衆議院の決議が優先しますし(日本国憲法第67条第2項)、衆院側では自公が過半数を割り込んでいるとはいえ、自民党は衆院(定数465議席)のうちの196議席を占めており、依然、議会の第1党であり続けています。公明党の24議席と合わせれば220議席です。
これに対して、最大野党である立憲民主党は、昨年秋にそこそこ躍進したとはいえ、議席は148議席と自民に比べて50近く足りませんし、これに日本維新の会(38議席)、国民民主党(27議席)を足しても213議席で、自公両党の議席数よりも7議席少ない状況です。
仮にここにれいわ新選組(9議席)、日本共産党(8議席)、有志の会(4議席)、参政党、日本保守党(各3議席)が加われば、やっと240議席で過半数を超えますが、「立維国れ共有参保」という8会派が連立政権を作る可能性があるとも思えません。
つまり、野党側は一致団結すれば内閣不信任決議案や個別の法案などを通せる、というだけの話であり、自民党政権を倒して自分たちで組閣するというのは非現実的な話でもあります(想像するに、維新や国民が現在の立民と連立を組む可能性は極めて低いでしょう)。
しかも、立憲民主党が「最大野党」という状況にありながら、(出せば通るはずの)内閣不信任決議案を出さなかったという時点で、現在の状況を大きく変えたくないという意向がありありと見えてしまうのも、決して気のせいではないでしょう。
ハング・パーラメントでも政権は続く…問題は「そのあと」
もちろん、TBSの指摘通り、場合によっては自民党内から「石破下ろし」という流れが生じてくる可能性自体もゼロではありません。
しかし、自民党という組織は「いったん党内で方針が決まれば、それに(嫌々でも)従う」というところに特徴がありますので、(※それが良い、悪いという議論は脇に置くとして)党内から石破下ろしの「クーデター」が生じる可能性がどれだけあるのかは疑問です。
このように考えたら、参院選に負けたとしても、直ちに石破首相が退陣したり、あるいは自民党が下野したりする、ということが生じる可能性は非常に低いのではないでしょうか。
それよりも、参院選後も(自公両党が50議席を超える、超えないを問わず)中途半端なハング・パーラメント状態で石破政権が当面―――もっといえば、2027年9月の自民党総裁としての任期切れギリギリまで石破茂首相が―――居座る、というシナリオも、あながち非現実的なものではありません。
極端な話、野党側から内閣不信任決議案が出てこなければ、衆院は任期切れの2028年10月まで引っ張ることが可能ですし(※ただし2028年7月に参議院議員選挙を迎えます)、
この場合、怖いのが「ポスト石破時代」を迎えた後のことでしょう。
(現役層を中心とする)国民から、石破首相が嫌われまくるだけでなく、石破首相の出身母体である自民党に対しても冷ややかな目が注がれ続け、自民党総裁選で保守派が選ばれても手遅れとなり、衆院選で自民党が今度こそ第1党の地位を失ってしまう可能性はないのでしょうか。
果たして自民党内に、その危機感はあるのでしょうか。
謎は深まるばかりです。
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1 2 次へ »ひどい半年間だった。ポスト石破時代はあっさりやってくる。
ワシントンを含め周辺国は目を見開き、日本社会の変容を見つめていると思います。
とにかく
「税金とりすぎ」
という自覚がまったく無いのが、どうしようもないですね。
外野席の野次馬の妄想ですが、
「うっかり二次会を全員で予約してしまった幹事があたふたしてる」
みたいに見えますね。
みんな一次会で帰るつもりだから、そこまでの割り勘を要求してる。
だけどもう二次会はキャンセル利かないから、なんとか全員を説得して二次会分の会費を集めるしかない!
権限の範囲でベストを尽くせばよかったのに、余計な先物買いしたから冷や汗。
フットワークよくその都度やればよいのに、面倒臭いから手抜きして早め早めに予断で手配して、大火傷。
そういうのが嫌ならさっさと単年度会計をやめたらよかったんだから、自業自得か。
とにかく、103万円の壁に物価スライドを適用するかしないかの議論で、徹底的に逃げて逃げて逃げまくったのは、みんなが呆れたと思います。
>自民党という組織は「いったん党内で方針が決まれば、それに(嫌々でも)従う」というところに特徴がありますので、(※それが良い、悪いという議論は脇に置くとして)
ホントこれ。
歯痒い。
衆議院選挙の時の地元の候補者。「石破先生の指導を仰ぎ....」と自身のHPに掲載、絶望感を感じましたものです。
ふと思いついて今見たら、その辺り消えている。
謀反を起こすつもりではないのでしょうが、「風見鶏議員」としては、石破勢力と見なされる旗色は引っ込めた方が良さそうと判断した様子。
あとは「風見鶏議員」ではない有志が起つかどうかなのですが、石破一派が「ぺんぺん草も生えない」(この表現いただきました)位に自民党を破壊した後だったら手遅れ。復帰時間がかかりすぎる。何とももどかしいです。
参議院選敗北、石破退陣は彼が首相になった時からの既定路線だったと思う。新しい首相で解散だと考えていたがいまの状況では解散しても負ける。新首相でしばらく様子見かもしれない。
103万円の壁に物価スライドを適用するかどうかの議論は、多くの人々を困惑させた。参議院選の敗北や石破氏の退陣は、ある程度予想されていた流れだった。新首相が就任しても、現状では解散総選挙を行っても勝てる見込みは薄い。しばらくは新首相の動向を注視する必要があるだろう。今後の政治情勢はどのように展開していくのだろうか? German news in Russian (новости Германии)— quirky, bold, and hypnotically captivating. Like a telegram from a parallel Europe. Care to take a peek?
>参院選自体は政権選択選挙ではない
>「予算案が通らない時には解散総選挙は当然選択肢にある」
「政権選択選挙だから」という言い方は実質ではなく「ケジメ」的な意味合いが強い印象を持っています。実質的には、政権選択の総選挙で過半数を割ったとしてもコウモリ外交で乗り切る手段がないわけでもないですし(現状そうだし)。
今の自民執行部は、前回総選挙での負けに続けて参院選で負けたとしても「予算案が通らないという実害が出ない限りは居座る」という表明をしたんだろうなーと思いました。
ケジメ的な概念はハナから持ってない。(それを認めたら即退陣しなきゃならなくなる)
ところで、選挙期間が近づくと、twitter上は候補者や政党のデジタルタトゥー(黒歴史)が乱舞します。今回もご多分に漏れず。
「浅○真○ちゃんは彼氏作って(以下略)」とか、「NISAで集まった金で国産SNS投資」とか。選挙前にいろいろ思い出させてくれていいですね。
候補者や政党の主張のポジティブな面に注目すべきで、ネガティブな面は重箱の隅をつつく的なイメージももたれがちです。でも選挙は人物を選ぶ白紙委任の面もあるので、条件次第では何かをしでかす可能性を見ておくことは大事なことと思います。民主党政権の記憶もありますしね。
投票は悩ましいですね。
陰謀論者は各党そろい踏みで差は無し。
「減税だったら何でもいい」とは思いませんけど、与野党どこもかしこも政府支出の増大を志向するばかりで(給付金を配る、補助金制度を作る、役所を作る)。口先で減税と言っててもその先の増税がセットで付いてきそうです。
物価上昇と賃金上昇の好循環を明確に目指している政党もほとんど無い。
昨年以降日本の内需の減退が明らかで、このまま金融引き締めを続け、加えて増税なんてしちゃえば景気の好循環実現やその先の出生率の上昇転化は遙かに先送りとなる気がします。各党にそういう危機感は感じられません。シュリンクした暗い未来しか見えません。
まあそんな中で、怪しいとは思いつつも政府支出の削減や減税を正面から取り上げる政党、マクロ経済を理解する政党に票を入れることになるのかなーとおぼろげながらに思います。
社会保障改革がテーマになる選挙はいつになることやら・・・
「なんでこんな政党(或いは候補者)に票を入れなきゃいけないんだよ!クソ!」
投票時はこんなことを言いながら、投票箱に投票用紙を投げ込むんだろうなーとイメージしてます。(笑)
以上、そこら辺の中年の主張でした。
「石破君、米価高騰は米国米輸入の前振りかい?」
「しーっ、安倍君、米国米は自動車税との相殺だが、それは参院選の後だ」
あ、これ、ブラック過ぎてジョークになっていないです。
参院選挙後のぶちこわし大混乱(昔の吉本 TV 番組風の)に備えて、誰でもいいから気に入らない相手を殴りに行く準備をしておかないと。うっぷん晴らしのチャンスです。
タバコの値段3倍くらいにすれば税収は増えて、喫煙者は減って、病人は減って、健保の負担も幾分かるなる。
やればいいのに。3倍にするとオーストラリアと同じくらい。
重税に関する議論に水差してしまうが、
OESD加盟38か国中、日本は個人所得税23位 法人税7位
消費税は29位 資産課税12位
これをみると日本は先進国(OECD)の中では個人には低く、法人には高く課税、そのかわり相続税はしっかりとるということか。
社保コミの国民負担率で比べンと片手落ちちゃうけ?
知らんけど
24位だってさ。
大量の国債発行のおかげでしょう。
前総理と現総理や取り巻きが居座ってる限りに野党に転落しようが自民党には絶対入れない。
「消費税を何としても守り抜く」って何ですか。国民やその生活を守り抜くのが政治家の仕事でしょう。とっとと財務族OBとして議員辞めてくれと。