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    Categories: 金融

数百兆円の国債増発にも耐えられる日本経済「真の姿」

日銀が27日に発表した資金循環統計の最新データによると、2025年3月末時点で、わが国は家計金融資産が2195兆円、対外投融資が1607兆円、外貨準備が190兆円で外国に対する純資産が517兆円にも達していたことが明らかとなりました。おりしも当ウェブサイトでは年金国債を発行し、厚年を廃止すべきだ、などと提唱しているわけですが、資金循環構造に照らせば、わが国が追加で数百兆円レベルの国債を発行したところで、債券市場がビクとも動かないことについては指摘しておく価値があると思う次第です。

参院選にあたっての当ウェブサイトの運営方針

来月20日に投開票を迎える参議院議員通常選挙の告示日が、7月3日に迫ってきました。もう来週以降、完全に選挙戦に突入する格好です。

この点、インターネット上の選挙活動は(一定の制約はありますが)基本的に自由であるとされているため、本来ならば選挙期間中でもウェブ評論に制約はなく、極端な話、当ウェブサイトが特定政党・候補者を応援したり、落選させようとしたりすることも可能であるはずです。

ただ、著者自身、選挙は厳密に公正に実施されるべきであるとする立場をとっており、また、当ウェブサイトでは平素より、特定政党への投票・不投票を公然と呼び掛けることは控えたいと考えています(それが完璧に実践できているかどうかはべつですが)。

したがって、「とりわけ選挙期間中については、特定政党に直接的に言及するようなコンテンツの掲載はできるだけ控える」という方針については、今回の選挙においても維持したいと思います(というか、普段から読者の皆様に、「XX党に投票してください」と呼び掛けているつもりはありませんが…)。

年金改革の第一歩は厚生年金廃止と払い戻し

ただし、その反面、当ウェブサイトが読者の皆様に対し、特定政党への投票を呼び掛けるものとならない範囲においては、選挙期間中であっても通常と同様の評論を行っていきたいと考えており(※これは、昨年衆院選期間中も同様でした)、読者の皆様方が選挙権を行使する際の参考となれれば幸いと存じます。

こうしたなかで、昨日の『【参院選直前】年金という国営ネズミ講をどう変えるか』では、現在のわが国の年金制度が実質破綻状態にあり、とりわけ高額の保険料を負担している人にとってはもらえる年金額が異常に少ないという特徴があります(その具体的な計算は昨日の記事をご参照ください)。

これについて、著者自身が申しあげたいことはシンプルです。

「年金を『保険』と言い張るなら、今すぐ賦課方式ではなく積立方式にせよ」、です。

つまり、年金を積立方式に変えたうえで、厚生年金、国民年金と大きく2つに分かれている年金制度を一本化し、厚生年金という制度自体を廃止したうえで年金積立金を整理・解散し、厚生年金加入者に対しては過去に支払った保険料のうち「二階部分」を返済・返還するのです。

ちなみに返還する際は、残念ながら利息部分については諦めてもらう必要があるかもしれませんが、厚生年金加入者が過去に支払わされた金額の大きさを考えると、この部分については将来の給付を保証するのではなく、その分を厚生年金加入者に返済させるのが筋でしょう。

国年は積立方式で金額も任意制にしては?

そのうえで、国民年金は完全に積立方式とし、国が一定の利回り(たとえば3%とか、5%とか)を保証したうえで、国民年金基金の運用利回りがその一定利回りを下回ったときのみ、国が税金で不足分を補填する、といった仕組みが考えられます。

その際、支払うべき保険料についても、現在の国民年金は約17,500円で固定されていますが(※月額400円の付加保険料の納付も可能)、これについても各人が任意で決定できる仕組みを導入してはいかがでしょうか。

たとえば20歳から59歳まで40年間年金保険料を支払った場合、国が約束する利回りが3%だったならば、月額保険料が現行の17,500円なら65歳以降の年金受給額は月額102,566円・年額1,230,793円、保険料が5万円なら年金は月額293,046円、年額3,516,551円です。

将来の生活に不安があるという人は自発的に多額の保険料を支払い、また、自分自身で資産形成する自信があるという人は最低の掛け金のみを支払う、といった仕組みを導入し、それにより、自分自身の将来を自分自身で決定し得る、といった、より自己責任に近い制度を作るべきだと思う次第です。

(※何ならiDeCoなどの制度をさらに拡充し、金融資産に運用する際の非課税枠をさらに増やす、といった政策的配慮があっても良いかもしれません。)

最新統計から見るわが国の資金循環構造

ただ、その際、当ウェブサイトでは「厚生年金加入者に積立金を払い戻すに際し、不足があれば国債を発行してはどうか」、と申し上げたのですが、こんなことを述べると「とんでもない!」、「いまの日本の『国の借金』はGDPの2倍を超えている!」、などと黄色い声で激怒する人もいるでしょう。

某著名ウェブ評論サイトの編集長の方などがその典型例でしょう(ちなみにこの方は、山手線の駅名を関した怪しい自称会計士をXでブロックしているようですが、そのわりにこの怪しい自称会計士のポストは同サイトにて頻繁に引用されているようですね。どうでも良い話ですが)。

しかし、現実問題として、現在の日本には国債を発行する余力が十分に残されています。

これについて参考になるとしたら、日銀が27日に公表した資金循環統計です。

これを資産・負債に分解したものが次の図表1です。

図表1 2025年3月末時点・我が国の資金循環構造

(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)

「国の借金はGDPの2倍」は適切な考えではない

いかがでしょうか。

よく「国の借金はGDPの2倍以上だ」、といった言説を目にしますが、この資金循環統計データを見る限りでは、「中央政府」の金融負債は1209兆円と、報じられる「国の借金」の額よりも少なめです。

その理由は簡単で、財政投融資が中央政府とはべつの経済主体として集計されているためであり、また、財政投融資は基本的に公的金融機関に位置付けられ、負債には「裏付け」となる資産(貸付金など)が存在しています。

また、政府部門にも190兆円に達する外貨準備を筆頭にさまざまな資産がありますし、社会保障基金にも381兆円という巨額の資金が運用されていることなどを踏まえると、「国の借金」という概念で政府負債をグロスで見るのは適切ではありません。

いずれにせよ、「日本は国の借金がたくさんあるからこれ以上国債の発行もできないし減税もできない」といった主張が、資金循環統計から確認できるわが国の資金循環構造に照らし、明らかな間違いであることについては、改めて指摘しておいて良いでしょう。

国債の9割弱は国内で安定消化されている

なお、「改めて指摘」という観点からは、日本国債の安定消化についてもコメントしておきましょう。

現在、日本国債の発行残高は時価ベースで約1191兆円と、ついに「1200兆円」の大台を割り込んでしまっているのですが、このうち全体の約9割弱が国内の投資主体によって保有されています(図表2)。

図表2 主体別国債保有残高(2025年3月末時点)
保有主体 金額 保有割合
中央銀行 547兆円 45.96%
預金取扱機関 142兆円 11.93%
保険・年金基金 213兆円 17.88%
社会保障基金 64兆円 5.38%
海外 138兆円 11.62%
その他 86兆円 7.23%
合計 1191兆円 100.00%

(【出所】日銀資金循環統計データをもとに作成。ただし「金額」は国債、財投債、国庫短期証券の合計額)

昨今の、とくに超長期ゾーンを中心とした日本国債利回りの急騰は、日本銀行の国債保有減額などを嫌気した動きが大きいと考えられ、現実には9割近くが日本国内の投資家により安定的に消化されているという実態が浮かび上がるのです。

あと数百兆円の国債発行は問題なく可能

どこかの国の政権与党の幹事長が以前、「減税したら日本政府の信用が低下して海外からおカネを調達できなくなる」、とする趣旨の発言をしていましたが(『森山氏がまた失言…外貨準備でも深く信頼される日本円』等参照)、こうした発言自体、この人物が資金循環構造すら理解していないことの証拠でしょう。

いずれにせよ、現在の自民党が経済オンチ・金融オンチのオールド左翼的な政治家によって支配されてしまっているフシがあるのは非常に残念ですが、少なくとも資金循環構造からみて、日本が国債の安定消化に支障を来す状況にないことは明らかです。

それどころかむしろ、あと数百兆円レベルで国債を増発しても、日本の債券市場はおそらおくビクともしませんし、まずは年金国債を発行し、厚年廃止と積立方式移行という制度改正を早期に実行することが求められるのではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (13)

  • 資金循環から見てまだまだ国内で新規国債を消化できる余裕があるのは事実でしょう。

    ただし「消化できる余裕」があるのと実際に消化する、つまり「購入したい」というのは別問題ではないか。「もうお腹いっぱい」と言ってる経済主体が現れ始めて長期債では応札倍率が下がり始めているという。

    結局のところ金利で調整されることになる。(金利が上がる)

    財務省が出してる例のグラフ。財務省が言いたいのは棒グラフを使って「こ~んなに国債残高が積みあがってる」だけど、私は利払い費に注目したい。

    平成2年ごろ(35年前)に比べて現在の国債残高は6-7倍なのに利払い費は現在の方が低い。

    これは金利の低い時に国債を大量発行したということ。(結果的にみればいい時期に発行した)これからは金利が上がることになる。くれぐれも国家予算の三分の一が利払いなどという事態にはならないようにしてもらいたい。

  • 年金は払い始めてからもらい終わるまで60年。

    デフレの時代が続いたせいかもしれないが「インフレはない」という前提で考えてないか?
    40年間毎月17500円払って国が3%保証して65歳から月102,566円。

    一見おいしい話のように見えるが年2%のインフレが40年続くと物価は2.2倍。

    月にもらう102,566円の実質価値は46,620円になってしまう。

    現在の物価上昇率は3%台、黒田前総裁が目指してたのは2%の物価上昇。

  • 国債がだせるなら100兆円分の国債発行で一時的に消費税を0%、景気刺激すれば、実質GDPは2%以上伸びる可能性大。特に高額商品(住宅や車など)が動けば、法人税や所得税が増えて財源確保も可能。
    実質賃金はこの5年で6%下がっており、それを取り戻すまでの数年間は政策を続けるべき。金利が上がっても年金も一緒に増やせるし、積立金も運用益で伸ばせるなら、社会保障費の伸びも抑えられるかもしれない。
    景気が本当に回復して全世代に人手不足が広がれば、福祉の負担感も軽く感じられるようになる。
    とにかく今必要なのは「名目GDP」ではなく「実質GDP」の押し上げ。
    国だけが豊かになっても、実質的に生活が良くならなければ意味がない。今こそ、数字ではなく“実感ある景気回復”を。

    • 最近、スーパーで税別価格を見て買おうと思って手を出しても税込み価格の小さな文字を見て止める事が多くなりました。この物価高で本当に10%って思うより大きな税ですよ。

  • 伝家の宝刀。
    存在する事に意義があり、使う事は無いのが有るべき姿でしょう。
    武術の世界だけでなく、核兵器なども似たようなものかと考えます。
    国債発行余地については、金融の世界において似たようなものではないか?という気もします。
    発行する余地があることと実際に発行することにはかなり大きな隔たりがある、というのが業界関係者のコモンセンスという気がするのですが。
    はて、如何なものなのでしょうか?

  • >ちなみに返還する際は、残念ながら利息部分については諦めてもらう必要があるかもしれませんが、

    これは途方もない身勝手でアンフェアな主張だと理解していますか?

    現役世代が積み立て方式で元本だけでなく利息部分も自分の年金原資に出来るようにするために、年金世代は元本(から既に支給済みの年金総額を差し引いたもの)だけで我慢しなさい、その世代も積み立て方式であれば得られた筈の利息を放棄させるべきだ、と主張しているのだと御自分で理解していますか?

    >厚生年金加入者が過去に支払わされた金額の大きさを考えると、この部分については将来の給付を保証するのではなく、その分を厚生年金加入者に返済させるのが筋でしょう。

    これも年金世代に利息は返さず元本しか返金しないことを正当化する理由にはなりませんね。

    何故ならば、元本から既に支払い済の年金額を差し引いて返金すると主張しておられましたよね。でしたらば、既に支払わされた金額がどれほど大きくても、それは返金される元本の総額から差し引かれるのですから、既に支給済みの年金総額が厚生年金のために天引きされた総額を未だ超えてはいない世代の年金受給者にとっては、利息を支払って貰えない理由として全く合理性はありません。

    一国の株式市場の規模(時価総額)の拡大の度合いとその国の経済規模の拡大の度合いとは長期的に見ればほぼ一致する、つまり特定の銘柄や短期間の株式の値動きという株式価格のミクロな動きには必ずしも合理性があるとは限らないが、市場規模の長期的な動きは国家の経済発展を映す鏡だという意味で合理性があると言われます。

    これに従えば、日本の株式市場の時価総額が与えられた一定の期間にどれほど増加したかは、その期間の日本の経済規模を拡大させたかを反映しており、後者はその期間に現役世代として年金を天引されて働いていた人々の頑張りの結果です。

    ですから、新宿会計士様の主張されるような「年金のために払わされたお金は積み立てとして払った本人の年金に充当されるべきだ」というロジックに従うならば、現在既に年金受給者になっている人々が支払ったお金に付いた筈の日本の経済発展の結果としての時価総額の拡大という果実は、彼らの努力の結果なのですから、彼らの物として返還されねばなりません。

    そのためにどれほど莫大な国債発行が必要であろうとも、それは、いきなり積立方式にルールを変えることのコストに過ぎないのですよ。そして、その国債は、積立方式に変更することで大きなメリットを得る現在や未来の現役世代が死に物狂いで働いて、80年代までと同様に日本経済を拡大することでチャラにすれば良いだけの話ですし、それが出来なければ未来のどこかの時点で日本経済が破綻するだけの話で、それは今後の現役世代の自己責任に過ぎません。

    積立方式にいきなり変更することによるメリットは欲しいがデメリットは嫌だ、という身勝手でアンフェアなロジックは通用しませんよ。

    • あなたの主張、途方もなく頓珍漢でアンフェアな主張だと理解していますか?

      >現役世代が積み立て方式で元本だけでなく利息部分も自分の年金原資に出来るようにするために、年金世代は元本(から既に支給済みの年金総額を差し引いたもの)だけで我慢しなさい、その世代も積み立て方式であれば得られた筈の利息を放棄させるべきだ、と主張しているのだと御自分で理解していますか?

      現在の賦課方式だとその利息すらもらえないんですが?

      前提条件が誤っているので以下あなたの議論は一顧だにする価値がありません。他人を偉そうに舌鋒鋭くののしる前に、あなたはこれまでのコメンテーターから指摘された様々な主張の誤りについて、一度でも真摯に向き合ったことがあるんですか?

      • 失礼なことを言って挑発しなくても議論できるんですけどねー。
        喧嘩腰がデフォルトの人って結構います。

        「勝ちたいんや!」(星野仙一)

      • >現在の賦課方式だとその利息すらもらえないんですが?

        だから日本の経済成長分という利息を付けて返せば良いだけの話ですよ。

        私は現行の現役世代が前の世代への年金支給を負担する方法が優れているとか維持すべきだとは一言も主張していません。

        そして利息付き返金のほうが現在および未来の現役世代にとって負担が大きいとなれば現状のずっと運用されて来たアンフェアな方法に甘んじるか(何しろ、現在の年金世代はより以前の世代…その少なからずは年金導入の時点で定年(当時は55歳定年)かそれに近い年齢だったので年金の負担金を殆ど払っていない…への年金支給を負担して来た訳ですから)、あるいは知恵を絞りに絞って別のよりフェアな解決策を探し求めるしかない訳です。

        あるいは現役世代がかつての高度成長時代の日本人のように死に物狂いで働いて、日本をどんどん経済成長させれば良いのですよ。そうすれば賃金と物価とが共に上がることで、国債残高という日本政府の借金の実質的な規模はどんどん減ります。

        また現役世代が子供を大量に生み育てれば、年金を負担してくれる次世代が増えますよ。

        どちらも現在および将来の現役世代がかつての日本のように一致団結してやろうとすれば可能になることです。

        幸い、AIによって事務系ホワイトカラーは殆ど不要になります。つまり文系学卒になるメリットはほぼゼロになるので、文系人間は莫大な教育費を浪費して大卒になる必要はありません。そういう意味では今後の現役世代は過去の現役世代に比べて子育てでの教育費負担がずっと軽くなることはほぼ確実です。

        勿論、文系頭の子供だけれど(単なる見栄のために)三流私大でも何でもよいから大卒にしようとする親には今まで通り多額の教育費負担が待っていますが、それは時代の流れにそぐわない無意味な事業に投資する人が損をするという自業自得の一例に過ぎない。