「税金を払っている人には2万円、税金を払っていない人には4万円を差し上げますから、どうか選挙で勝たせてください」。そんな声が聞こえてきた気がしました。連日取り上げている与党の参院選公約のバラマキ案を巡って、住民税非課税世帯への給付をさらに厚くするとする報道が出てきました。これが事実かどうかはわかりませんが、そうだとしたら、なんとも支離滅裂です。高所得者は高額の税金を取られているわけですから、取り過ぎた税を還元するなら高所得者に厚く還元するのが筋だからです。
目次
減税反対派の言い分を更新
なぜか労組や新聞や野党が減税に反対する国
当ウェブサイトではこれまで何度も取り上げてきた通り、わが国には頑なに減税を拒絶する勢力がいます。
その勢力の中心にいるのはおそらく財務省を中心とする官僚機構や自民党の(旧)宏池会を中心とするメンバーですが、それだけではありません。最近だと一部野党や労組、さらには左派系の新聞社など、一般には弱者・労働者の見方であるはずの勢力からも、減税反対の意見が出てきたりします。
なんだか、不思議ですね。
通常、労働組合やメディアなどは労働者の味方として、労働者の生活に大きな負担をもたらしているはずの税金―――とりわけ、消費税―――の減税を求めるのが筋でしょうし、加えて高すぎる社保負担を軽減するように要求するのが筋でしょう。
なぜ、日本の労組や一部メディア、あるいは特定野党などは、減税を求めないのでしょうか?社保の軽減を求めないのでしょうか?
本当に謎です。
減税反対派の支離滅裂な言い分を更新しておく
さて、当ウェブサイトではこれまで、「減税反対派の支離滅裂な言い分の例」を集めてきたのですが、ちょっと最近、冗長になってきたので、改めて列挙しておくと、こんな具合に整理できるのではないかと思います。
減税反対派の主張の例
- ①国の借金はGDPの倍で1人1千万円
- ②国の借金は全額税金で返す必要がある
- ③日本の財政は毎年赤字で危機的な状況
- ④減税するなら複雑なシステム変更必要
- ⑤一旦減税したら再び上げるのが難しい
- ⑥減税は苦労して増税した先人達に失礼
- ⑦減税で買い控えが発生し不景気になる
- ⑧著名経済学者らが減税に反対している
©新宿会計士の政治経済評論
…。
どれも正直、頭が痛くなるような代物ばかりです。
どれも減税できない理由になっていない
これらのうち、①の「国の借金がGDPの倍で国民1人あたり1000万円を超えている」などの言い分については、企業会計や金融の初歩的知識があれば虚偽であるとバレます。そもそも自国通貨建ての公的債務の引受可能性はその国の資金供給量に依存するからです。
同様に、②の「国の借金は全額税金で返す必要がある」に関しては、公的債務はべつに全額を増税で返済しなければならないわけではなく、歳出削減や国有資産の売却、あるいは経済成長を伴ったインフレなど、「返済」する方法はほかにいくらでも存在します。
さらに③の「日本の財政は毎年赤字で危機的な状況」に関しては、ほぼ毎年のように一般会計で巨額の剰余金を計上している現状(『財源論者に不都合な事実…来年度税収見通しは過去最高』等参照)を踏まえると、明らかな虚偽の主張と断じて良いでしょう。
なお、④の「減税するなら複雑なシステム変更必要」などの言い分は、増税するときにはほとんど出てこないというのもなかなかに強烈です。
「消費税の減税をしたければレジシステムの書き換えが必要だ」だの、「所得税の減税をしたければ給与計算システムの変更が必要だ」だのと主張していた御仁が、先日衆院で可決された年金保険料の引き上げに対してはダンマリを決め込んでいるというのも不思議でなりません。
年金保険料の値上げこそ、標準報酬月額のテーブルの変更を伴うため、「複雑な制度変更」とやらが必要な気がするのですが…。
不思議ですね(笑)
まともに相手するのもバカらしい言い分
なお、⑤~⑧については、正直、まともに相手をするのもバカらしい言い分ばかりです。
たとえば「⑤一旦減税したら再び上げるのが難しい」や「⑥減税は苦労して増税した先人達に失礼」は完全に増税する側の屁理屈ですし(税金を支払わされる国民の側にとっては関係ない論法です)、「⑦減税で買い控えが発生し不景気になる」に至っては完全に経済理論を読み間違えています。
さらに「⑧著名経済学者らが減税に反対している」に関しては、そう主張する人たちが定義する「著名な経済学者」らが財務省系の御用学者など、経済学の世界ではむしろスタンダードから著しく逸脱している者たちであることを忘れてはなりません。
減税すべきなのにカネを配る与党
「減税できない」は間違い:現実には減税できるし減税すべき
いずれにせよ、上記①~⑧に関しては、どれも減税できない理由ではないのです。
というよりも、逆に次のA~Eのような要因を踏まえると、「減税できない理由」よりも「減税できる理由」、あるいは「減税しなければならない理由」の方が十分にありそうです。
(A)税の取り過ぎ
現在の日本ではほぼ毎年のように税収が上振れしており、一般会計では巨額の剰余金が発生してしまっている。そもそも現在の日本では税を取り過ぎているのである。
(B)歳出削減
歳入が足りないと言い張るならば歳入に見合う水準にまで歳出を削減する必要がある。とくに高齢者が医療機関を受診する際の窓口負担を現役層と同じく一律3割に引き上げるだけで保険財政はずいぶんと改善すると見込まれる。
(C)資産売却
歳入が足りないと言い張るならば歳出を賄うために不要な政府資産を売却する必要がある。とくに200兆円近くに迫る外為特会や100兆円前後の財政投融資、さらには100兆円前後の天下り関連法人の整理・縮小、民営化が必要である。
(D)国債発行
歳入が足りない場合、国債発行を検討すべきである。とくに資金循環構造上、日本経済は恒常的に国内資産が国内負債を超過しており(2024年12月末時点では542兆円の黒字)、数百兆円レベルで国債を増発する余力を持っている。
(E)経済成長
国債はそもそも全額を税金で返す必要などないし、経済成長することで国債の債務負担は軽減される。公的債務残高が1200兆円だったとしても、名目GDPが600兆円から1200兆円に倍増すれば、債務残高GDP比率は勝手に100%に落ちる。成長率3%なら20年あまりでGDPは倍増する。
減税に否定的な石破政権
ただし、残念ながら現在の政権が減税に踏み切る可能性は、極めて低いと断じざるを得ません。
先ほど列挙した「減税反対派の主張」も、とりわけ④~⑦あたりは、現在の政権関係者らの発言からも拾ったものだからです。
その典型例が、石破茂首相ご本人でしょう。
その石破首相は今年2月、国民民主党の浅野哲衆議院議員の質問に対し、「税収増をお返しできる状況にない」と述べました。
減税巡り石破首相「税収増をお返しできる状況にない」
―――2025/02/04 12:00付 当ウェブサイトより
この発言は、税収が上振れしているにも関わらず、石破茂政権としては絶対に減税をしない、という強い意思表示のようなものではないでしょうか(少なくとも著者自身はそう受け取りました)。
しかも石破首相は最近、日本の財政状態をギリシャになぞらえ、日本の財政は「ギリシャより悪い」などと述べたりしています(『石破氏トンデモ発言「日本の財政はギリシャより悪い」』等参照)が、こうした発言を行っているのは石破首相だけではありません。
『森山氏がまた失言…外貨準備でも深く信頼される日本円』などでも触れたとおり、森山裕・自民党幹事長あたりも、極めて不正確な認識に基づき、財政に対する誤認に基づくと思われる内容を繰り返し発言していたりもします。
まさに経済オンチそのものです。
ギリシャより悪いはずの日本で「現金給付」
ただ、それよりももっと驚く話題があるとしたら、昨日の『財政状態がギリシャ並みのはずの日本で現金給付案浮上』でも触れた、「給付金」という構想かもしれません。
自民、物価高で給付検討 参院選公約、税収増還元
―――2025/06/09 17:13付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】
現金1人数万円給付、自民が参院選で公約に…「所得5割増」「GDP1000兆円」目標も
―――2025/06/10 05:02付 読売新聞オンラインより
物価高対策の給付案 自民参院幹事長「現金給付が望ましい。手取り増えれば景気も刺激」
―――2025/06/10 14:34付 Yahoo!ニュースより【産経新聞配信】
自民参院選公約、1人数万円の給付金明記へ=関係者
―――2025年6月10日16:35 GMT+9付 ロイターより
昨日触れたものよりも情報源を増やしていますが、これらは自民党が参院選の公約でひとりあたり数万円の給付金を掲げる、というものです。税収の上振れで参院選に向けた有権者買収なのだとしたら、本当に悪質です。
カネを配るよりそもそもカネを取るな、という話ではないかと思うのですが…。
ただ、それ以上に強烈なのは、石破首相ご本人が4ヵ月前におっしゃった「税収増をお返しする状況にない」なる発言と、今回の行動が、見事に矛盾しまくっている点ではないでしょうか。
しかも、これらのうち読売が報じた記事には、こんなくだりもあります。
「財源は税収の上振れ分を活用する方向だ。所得制限を設けるかどうかは今後詰める。所得制限を付けない場合は、受け取りを辞退できるようにする案も出ている」。
この期に及んで所得制限を検討しているのだとしたら、本当に、わけがわかりません。
朝日新聞は「ひとり2万円、非課税世帯は4万円」と報じる
ただ、本稿で触れておきたいのは、朝日新聞が11日、「独自」と銘打って報じた、こんな記事です。
全国民に2万円、住民税非課税世帯に2万円上乗せ 与党の給付案判明
―――2025年6月11日 17時18分付 朝日新聞デジタル日本語版より
これによると所得制限は設けず、全国民を対象に1人あたり現金2万円を給付することとし、さらに「住民税非課税世帯に対し2万円を上乗せする」、というのが、朝日新聞に対し「複数の政権幹部」が明らかにした与党案なのだそうです。
「税金を払っている人には2万円、税金を払っていない人には4万円を差し上げますから、どうか選挙で勝たせてください」。
石破茂執行部による、そんな声が聞こえてくる気がします。
あるいはこれこそバラマキのポピュリズムの極致に思えてなりません。
もちろんこの記事、政府内で本当にそのような案が検討されているという意味なのか、それとも単なる観測気球なのかはわかりませんが、事実だとしたら、なんとも意味がよくわかりません。高所得者は高額の税金を取られているわけですから、取り過ぎた税を還元するなら高所得者に厚く還元するのが筋だからです。
また、「住民税非課税世帯」は「貧しい人たち」とは限りません。65歳以上の高齢世帯などの場合だと、住民税非課税世帯に該当するケースが多く、そしてこうした高齢世帯のなかには潤沢な金融資産を保有している、といったケースもあるでしょう。
なんとも奇妙な話でもあります。
国民の行動が大事
ただ、結局のところ、これも私たち国民が次回以降の選挙で、どういう意思表示をしていくかが大きなポイントでもあります。この国の主権者は私たち国民なわけですから、国民の意思こそが最も重要、というわけです。
いずれにせよ、その最初の試金石が来月訪れるわけですから、当ウェブサイトの読者の皆様も、どうかご自身の判断において、賢明な投票行動を取られることを強くお願い申し上げたいと思う次第です。
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1 2 3 次へ »>取り過ぎた税を返すのになぜ低所得世帯を優遇するのか
社会の多数をなす中間層を弱める政策としか言いようがないです。
ネットに流れる「働いたら負け」を助長することになりかねないと思います。
国民の義務とされる「納税」「勤労」の意欲を削げば社会の衰退、国力の弱体化が進んでしまうことを危惧します。
国会議員の皆様には、今一度「代議士」という言葉の意味を深く考えてほしいものです。
マスゴミもバカですね。減税をして景気を刺激しましょう!って記事にすれば国民の多くが新聞社が声を上げたとして多少かも知れませんがユーザーが戻る可能性もありますし、
そもそも景気が回復すればやめた新聞を再び取ってくれるチャンスかも知れないのに。
どうして政府や罪務省に配慮するんでしょうね。
馬鹿なマスゴミにとって国民はお客様ではないのでしょう。官僚、政治家の要望通りに世論誘導して分前を貰う。コレが日本マスゴミの本質でしょう。マスゴミにとって国民は食い物であり、家畜です。利権を与えてくれる官僚に尻尾を振る。最早誰も必要としてない新聞に未だに生活必需品として財政優遇が行われる。マスゴミが国民の敵、官僚の手先である証拠です。
住民税非課税世帯のうち75%は年金生活世帯とのこと。
バラマキ政策が高齢者優遇なのは明白。
その一方で、投票所に行っても年寄りだらけで若い人が本当に居ない。
住民税課税されている現役世代の皆さん、是非何がなんでも投票に行きましょう!
当方、住民税非課税世帯で年金生活世帯です
本来は、低所得年金受給者の年金額の底上げをやらないといけません。
物価上昇3%であるとき年金受給額は1.9%です。高額年金受給者も低所得受給者も同じ率でしかもらえないので、生活困窮者の対策が何もない。これは年金制度が悪いからで、年金改革をするのが正しい。
しかし、今の自民党・厚労省官僚は何もしない。財務省が後ろで操っているからです。
追伸:
住民税非課税世帯の年金受給世帯というのは、団塊の世代が多いです。当時はそこそこ5~600万円の年収はあったがいざ受給する時期には年金のインフレ状態で物価にスライドされなかった。ゆえに非課税世帯が増えてしまった。
これからの人は、もっとひどい年金受給になると思う。
これは、新宿会計士さんもよく理解していますね。
「石破君、頑張って国民の所得を上げてくれたまえ」
「いや安倍君、国民を貧しいままにおいた方が票が取れるんだ」
「どうだ、明るくなったろう。心の優しいカネ撒き代議士を気取りたいわけだな」
俺は給付金より岸田や石破の生首貰う方が嬉しいな。毎日石投げてやる。
「どうだい、米が安くなって国民は喜んでいる。
これが石破政権の実力なんだよ、安倍君」
以前から不可解に思っているのですが、
選挙の際、酒や料理を振る舞ったり、あるいは団扇やらを配ると買収だと騒ぎになるのに
露骨な票の買収にしか見えない、税金を使った選挙前のバラマキが
許されてるのは何故なのか?
与党ならなんでもアリなんでしょうか?
とはいえ結局は、それでもなお自公へ投票し、その行為を肯定する有権者と
更には白票や棄権など馬鹿な行為をする有権者が絶えない為でしょうね。
厚生労働省が毎年行っている調査レポートの一部を抜粋します。
2023(令和5)年 国民生活基礎調査の概況
II 各種世帯の所得等の状況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa23/dl/03.pdf
これを見ると以下のような結果です。
世帯収入の最頻値は100〜200万円
中央値は405万円
平均値は524万円
平均値以下世帯数は62%
所得300万円以下が36%
さて、政治家は当選する為には、有権者から投票してもらわなければなりません。
この様な所得分布図を眺めれば、票田は400万円、更に踏み込んで300万円以下をターゲットとしてマーケティング活動するのは必然と言えるのでしょう。
この市場はかつては左派政党のものでしたが、現在の石破内閣は与党内左派勢力。同じ票田を左派野党と奪い合う構図です。
同じマーケットに商売敵がいればマーケティング活動が激化するのも必然のことでしょう。
で、厚生労働省などの霞が関官僚はそういった状況に乗じて、政治家に擦り寄り我が意を注入、実現を図る、という構図と理解しています。
この辺りは多数決で当選が決まる議会制民主主義の本質的課題であるが上手い解決策もないのでしょう。
追記です。
図8で示すように、所得800万円以上というのはマイノリティです。
構成割合は20%、偏差値でいうと60弱。1000万円以上は12%、60強ぐらい。後回しにされるのはこれが原因でしょう。
図9は年齢層別の平均所得分布ですが、29歳以下世帯は340万円、70歳以上が381万円となっています。彼らが「社会的弱者」として左派政党の市場となっているのでしょう。
前者がれいわ新選組、後者は立憲民主党や共産党の支持基盤となっていることが推察されます。
このあいだ40年国債の入札が不調(考えていたほど応募がなかった)というニュースがあった。
40年前の1億円の借金を今の1億円で返済できるというのがすごい。
これからインフレになりそうなことを考えたらなかなか買えないのではないか。
それでも利率は3%台で決まったそうだ。
国債残高を個人向けの40年国債にして利率5%で売り出せばかなり売れそうな気がする。インフレは怖いけど1000万円の国債に毎年50万円の利子がつく。相続税免除などという特典をつければかなり売れるんじゃないかな?
消費税という益税は組織票確保のために死守せねばならん
国民はナマイキになるから豊かにしてはならん
金を持たせれば、政府発表、NHK、ネット工作など信用しなくなる
生活必需品の米などで窮々とさせて
余計なことを考えないようにさせておけばよろしい、ねばねば
SNS は使用禁止されなくてはならぬ。
新聞 TV 以外の情報入手手段を国民に持たせてはならない。
なぜならば自由言論こそ政府と与党の立場を危うくする強大勢力であるからだ。
新聞社よ今こそ SNS を攻撃せよ。SNS を黙らせる役割こそ新聞社の存続意義だ。
減税はダメで給付はOKという納得できる理由をこれまで聞いたことかない。
なんで「お返しできる状況にない」という前言を撤回したのか、石破執行部には説明責任がある。
矛盾をつくとボロが出そうなのに、野党やマスコミはなんでそれをやらないのか。
石破政権の方が彼等の都合がいいのでしょう。不信任案も見送りだそうで。
それは重税で経済成長をムダに阻害しているからでは。
今般の減税拒否給付ブチ上げ、論理破綻明らかなれど突いてきたオールドメディアてどの程度在るンやろか?