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無駄なスペースの削除で年金負担の「見える化」が必要

年金制度に大変大きな問題点があるとしたら、とりわけ現役の高所得者にとっては負担額が無駄に重い反面、給付がそのわりに低いことにあります。そして、その副次的な問題点として、負担と受益の関係が「見えない」ことにあります。ということは、たとえば『ねんきん定期便』のレイアウトを修正したうえで、実際の年金負担額を「見える化」することが、年金改革の第一歩ではないでしょうか?

日本の年金制度が抱える少なくとも3つの問題点

当ウェブサイトが考える「年金制度の3つの問題点」は、少なくとも次の3点を意味します。

年金制度の3つの問題点
  • ①積立方式ではなく賦課方式であること
  • ②「所得再分配」という性格があること
  • ③現役層の高齢層への仕送りであること

そして、これらの問題点の一端が示されているのが、『ねんきん定期便』です。

これについて、『ねんきん定期便の実態から見える年金「3つの問題点」』では、日本年金機構が年金加入者らに送り付けている『ねんきん定期便』と題する書面について、取り上げました。

漢字の「年金」ではなくひらがなの「ねんきん」を使うあたり、個人的には強い違和感しか覚えませんが、それだけではありません。この『ねんきん定期便』の金額欄に、厚生年金の場合は支払った保険料の総額が記載されず、そのうちの「本人負担分」しか明示されていないという問題点があるのです。

年金保険料は上がり続けている!

なぜ、そのような問題点があるのか―――。

想像するに、もしも本人負担分だけでなく、雇用主負担分も含めて明示されてしまうと、年金制度が明らかに不平等な仕組みであることに気付く人が増えてしまうからではないでしょうか。あるいは、単純に日本年金機構が、「本人が支払った金額」のデータしか持っていないからなのでしょうか?

謎は深まるばかりです。

なお、少しだけ余談ですが、現在の保険料率(後述の「子ども・子育て拠出金」を除く)は18.3%で、2003年4月にいちど料率が引き下げられています(図表1)。

図表1 第1種厚生年金保険料

(【出所】日本年金機構『厚生年金保険料率の変遷』をもとに作成)

ただ、これについていちおう補足しておくと、これは2003年4月より「総報酬制」が導入されたためであり、毎月の給与だけでなく、賞与に対しても同じ保険料が徴収されるようになったからです。これについて、年間賞与を月額の4ヵ月分と仮定した場合で調整した実質負担率を計算すると、図表2のとおりです。

図表2 第1種厚生年金保険料(賞与調整済みベース)

(【出所】日本年金機構『厚生年金保険料率の変遷』をもとに作成。2003年3月以前の分については0.75を乗じる調整を加えている)

これだけ料率を引き上げておきながら、依然として「年金保険料が足りない」とは、なかなかに意味がわかりません。

文章による注記ではなく「金額」を書け!

余談はさておき、同記事でも指摘したとおり、最近の『ねんきん定期便』では、こんな具合に注記が入っています。

厚生年金保険料は、被保険者と事業主が折半して負担することとされています。『ねんきん定期便』ではご本人の納付実績として被保険者負担分の保険料納付額を記載しており、お手持ちの給与明細等に記載されている保険料額で確認ができます。このほか、事業主も同額を負担しています。

画像イメージは次の通りです(図表3)。

図表3 『ねんきん定期便』の『これまでの保険料納付額(累計額)』

(【出所】当ウェブサイトにて加工)

ここで赤枠で示した部分が、さきほど転記した注記です。

この文章を読んで、「私が払った保険料と会社が払った保険料の合計はXX円だ!」、と即答できる人が世の中にどれほどいるのかはよくわかりません(少なくとも著者自身はそのような暗算は苦手です)。いちいち電卓を叩かないと自分の負担額がよくわからない、ということです。

しかも、この記述も、厳密にはミスリーディングです。現実に雇用主が負担しているのは厚年保険料だけではないからです。現実には、厚年保険料に合わせて「子ども・子育て拠出金」(※現在の料率は0.36%)が事業主から取り上げられているからです。

村上ゆかり氏情報によると…?

なんだか、いろいろと意味がわかりません。

それはともかく、山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士が同記事の公表に先立ち、日曜日、自身のXに投稿した内容を巡り、参院会派「NHKから国民を守る党」の浜田聡参議院議員の秘書である村上ゆかり氏が、興味深い内容をポストしています。

村上氏によると、金額が記載されていない理由について、厚労省の担当者からは「記載する欄が足りないので文章での注釈となった」という説明があったのだそうですが、それでも「金額の記載はできそうな気がする」と述べています(※村上様、情報のご提供、大変ありがとうございました)。

そのスペースを削除すれば良いのでは?

まったくそのとおりでしょう。

というのも、『ねんきん定期便』を見ると、無駄に大きな図表があり、この部分を削除すれば十分に場所の捻出は可能だからです(図表4)。

図表4 削除すべき無駄な部分(赤枠部分)

(【出所】日本年金機構ひな形を加工)

これについては、是非とも政治主導で国会において法律を作り、日本年金機構に対して記載を命じるべきです。

そのうえで、ついでに①本人と雇用主が合わせて支払った年金保険料と「子ども・子育て拠出金」の総額、②現在の保険料水準が続けば得られるであろう年金額、③平均寿命まで生きた場合の生涯年金総額、④③÷①の倍率、を明示することを義務付けるべきでしょう。

いずれにせよ、現在の年金制度は、加入者の負担額と受け取れる額のバランスがまったく取れていない(※とくに現役の高所得者層は無駄に負担が重いわりに給付が薄い)という問題を抱えているわけですが、その大きな問題点のひとつが、「見えないこと」にあると思います。

だからこそ、現在の年金制度が経済的に見て、実質的に破綻しているという問題点もさることながら、これらについてはひとつずつ「見える化」していく努力が必要だと思うのですが、いかがでしょうか?

新宿会計士:

View Comments (11)

  • 役人の説明・答弁は言い訳にしか見えないよね。(政治家も)
    何のための言い訳なのかバレているのに、見苦しいというか何というか……

    ひとつ嘘を付くと、嘘で嘘を塗り固めないといけなくなる。
    これと同じような言い訳の連鎖がさらに見苦しい。

    あっ、でも悪の根源をバラそうとすると消される実績があるから出来ないのか……

  • ねんきん定期便の書面を Google Workspace に書き写して、各フィールドの意味と含意を解説するページを立ち上げ、それと連動して役所の言い分、関連国内報道を別ページで取り上げ、次いで私見異見を述べる改革案を論じるようにすれば、ネット使いの高齢者層にほどよく刺さって、井戸端会議で物議のネタになるやも知れません。

  • (ねんきん定期便に限らず)余計な事(?)を書くスペースを潰すために、削除すべきスペースを、あえて作っているのでないでしょうか。

  • きっと、一階部分に対する国庫負担額(50%)*と二階部分に対する会社負担額(50%)をも併せて総記すれば、”ねんきん” が保険の体を為さぬ様が露呈してしまうからなんでしょうね。

    *厚生年金法
    第八十条 国庫は、毎年度、厚生年金保険の実施者たる政府が負担する基礎年金拠出金の額の二分の一に相当する額を負担する。

    ・・・・・

    建前:年金は賦課方式。現役勤労者からの おもいやりだ!
    実態:年金は負荷方式。現役勤労者への重い槍(オモイヤリ)だ!
    ・・。

  • ねんきん定期便ができた経緯は「消えた年金」問題。

    年金機構側で把握している加入記録と自分の支払い(=自分が加入していると考えている期間、保険料)が合致しているかをみるのが1番の目的。
    そのためには本人にとって唯一の支払いの証拠である給与明細に出ている金額と突き合せができることが重要。ねんきん定期便の別紙には加入期間中の標準報酬額、標準賞与額、納付額が出ている。40年加入なら480か月分がでている。

    私の疑問は雇用主は同額を負担している「はず」だがそうでない場合はどうするのか。
    つい2-3年前までコロナを理由に社会保険料の納付を猶予する制度があったね。それ以前でも社会保険料の踏み倒し事例は多い。

    • 雇用主が社会保険料を踏み倒しているケース、たくさんあるのではと疑っています。
      これはすなわち企業が数字を偽って不正経理をしていることを意味する。事務所に踏み込んで数字をはっきりさせると、売り上げ粉飾なり・架空支払いなりの隠匿工作があからさまになる可能性は大です。

  • 「欄が足りない」って言い訳になってない。厚労省の悪意すら感じます。

    >厚労省の方からは記載する欄が足りないのでテキストで注釈となったと伺いましたが、金額記載できそうな気がします。

    浜田聡事務所は、質問主意書や役所への問い合わせを頻繁に行っていますが、直接解決にはつながらなくても少しずつ「外堀を埋める」ことになっていると思います。
    一議員としてできることを精力的に継続していると思いますが、こんな地道な作業をしてくれる議員も必要なのだろうなーと思います。
    扱う問題が多様なので、作業を横から見ているだけでその議員の主義主張もわかってきます。ネット時代の議員です。
    次はN党ではなく自前の党で選挙に出るようです。
    「自治労と自治労連から国民を守る党」だったっけか。

  • 『民は之に由らしむべし之を知らしむべからず』
    企業にはやたらにディスクロージャーとかガラス張りとか説明責任を要求しますが、役所の隠蔽体質は孔子の時代とあまり変わっていないのでしょう。
    これからSNSで、役所の隠し事が次々と白日のもとに晒されていく事を期待しています。