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ホームドア設置で考える未来のワンマン運転や無人運転

東京の地下鉄だとホームドアの設置率は90%を超えており、一部駅ではドア設置が難しい事例もあるものの、こうしたドア設置は順調に進んでいるようです。ただ、ホームドア設置の大きな効果は事故防止ですが、それだけではありません。長い編成の列車も、車掌を乗せず、運転手1人で運行できる時代が到来しつつあるのです。さらに突き詰めていけば、鉄道も新交通システムみたいに完全無人運転が可能となるかもしれません。

ホームドア、今どうなってるのか?

先日、とある地下鉄路線を利用していてふと気づいたのですが、東京都内の地下鉄は、ずいぶんとホームドアが増えました。東京、大阪などの都市部に暮らしている人のなかには、最近、鉄道駅に「ホームドア」が増えた、と実感する方も多いのではないかと思います。

内閣府ウェブサイト『令和4年交通安全白書』(ウェブ版)のトピックス『駅ホームにおける安全対策について』によると、ホームドアは駅の転落事故などを防止するなどの目的で、「バリアフリー法」に基づく基本方針に沿って、数値目標を伴い設置が進んでいるものだそうです。

これについて国土交通省『ホームドアの設置状況(令和5年度末現在)』のページに設置されている『ホームドア設置駅数(番線数)の推移』(図表1)によると、同基本方針に従い令和7年末までに鉄道駅全体の3000番線でホームドアを設置することが目標として掲げられており、順調に増えているのだそうです。

図表1 ホームドア設置駅数(番線数)の推移

(【出所】国土交通省『ホームドアの設置状況(令和5年度末現在)』)

東京の地下鉄はドア設置率100%の路線が増えてきた

また、その具体的な駅名については、国土交通省ウェブサイトの同じページに置かれたエクセルファイルで確認することができるのですが、これをざっと調べたところ、少なくとも東京の主要地下鉄路線では、ホームドアの設置がかなり進んでいることがわかります(図表2)。

図表2 東京の主要地下鉄路線におけるホームドア設置駅数(令和5年度末)
路線と駅数 設置駅数 設置率
銀座線(19駅) 19駅 100.00%
丸ノ内線(28駅) 28駅 100.00%
日比谷線(22駅) 22駅 100.00%
東西線(23駅) 12駅 52.17%
千代田線(20駅) 20駅 100.00%
有楽町線(24駅) 24駅 100.00%
半蔵門線(14駅) 11駅 78.57%
南北線(19駅) 19駅 100.00%
副都心線(16駅) 16駅 100.00%
浅草線(20駅) 20駅 100.00%
新宿線(21駅) 21駅 100.00%
三田線(27駅) 27駅 100.00%
大江戸線(38駅) 38駅 100.00%
計13路線(291駅) 277駅 95.19%

(【出所】路線別駅数は東京地下鉄株式会社『東京メトロ 路線・駅の情報』、東京都交通局『都営地下鉄駅基本情報(Excelファイル)』、ホームドア設置駅数は国土交通省『ホームドアの設置状況(令和5年度末現在)』をもとに調査)

ドア設置が困難でも…さまざまな工夫が続いている

東京メトロや都営地下鉄の公式サイトから、東京の地下鉄は合計13路線・291駅あるのですが(※一部の駅は複数路線で共有しているため、乗換案内などと駅数が合わない可能性があります)、これらのなかでホームドアは277駅に設置されており、全体の設置率は95.19%です。

なお、2023年度末時点で設置率が100%ではない路線は東西線と半蔵門線ですが、これらについては現時点までにホームドアの設置がもう少し進んでおり、現時点でホームドアがない駅はもう少し減っています(具体的な駅名は東京メトロ『ホームドア未整備駅一覧(2025年5月24日現在)』参照)。

ただ、首都圏に関しては私鉄やJRなどのホームドア設置は地下鉄ほどには進んでおらず、また、冒頭で挙げた内閣府ウェブサイトによると、ホームドアの設置には時間も費用も掛かることに加え、駅ホームの構造などの要因で整備が難しいホームもあるなどの課題もあります。

(※意外ですが世界最大の乗降客数を誇るとされる新宿駅の山手線のホームドアはまだ設置されていないそうです。)

こうしたことから、ホームドアによらない転落防止策が検討されているほか、ホームドア自体もロープ式などコスト面での優位性を追求したものが出現し始めるなど、課題への対処の取り組みが進んでいるようです。

ワンマン運転で先行する東京メトロ

さて、こうしたなかで気になるのが、ワンマン運転です。

冷静に考えてみたら、鉄道は20メートル長の車両を8両、10両など連結して運行するわけですから、大変に効率が良い輸送手段ですが、それと同時に編成が長ければ長いほど、出発時などの安全確認は大変に重要です。

これまでの都市鉄道の「常識」とは、車掌が最後尾の車両で扉の開閉や車内放送、安全確認などを行い、運転手は運転に集中する、というものでしたが、これも鉄道の編成が長く、運転手が運転しながらこれらの業務を行うには無理がある、といった認識があったのではないでしょうか。

ところが、2000年に全線開業した東京メトロ南北線の場合は、ワンマン運転が実装されました。同路線は当初から大規模なホームドアを備え、ワンマン運転(というよりも全線での自動運転)を行っていることでも知られています。

また、東京メトロで運行をワンマン化を実施した事例はほかにもあり、たとえば南北線以外にも丸ノ内線、副都心線などに加え、その他の路線でも一部でワンマン運転を実施しています。上記で見たとおり、東京メトロの路線の多くはホームドアが設置されており、それだけでかなり、安全確認の助けとなります。

そして、ホームドアの設置はたしかに高額の投資を要しますが、その結果として長い編成の列車を運転手が1人で運行できるようにするともなれば、各鉄道事業者にとっては大変なコスト削減が実現できます。

JR東日本は3月のダイヤ改正で南武線をワンマン化

そして、こうしたワンマン化の動きは、さらに拡大しつつあるようです。

昨年11月、JR東日本がひとつのプレス・リリースを出しました。

首都圏主要線区でワンマン運転を実施します

―――2024年11月6日付 JR東日本ニュースより

これによると同社は人手不足や従業員の就労意識の変化などに対応し、首都圏主要線区で2030年頃までにワンマン運転を実施する計画を立てており、手始めに2025年春から南武線のワンマン運転を実施する、などと述べています。

実際、南武線は今年3月15日のダイヤ改正でワンマン化が実現したようですが、先ほど取り上げた国土交通省のファイルでは、2023年度末時点でまだすべての駅でのホームドア設置は完了していませんでした。ということは、おそらくワンマン化に間に合うよう急ピッチで全線へのドア設置を行ったのでしょう。

また、調べたところ、現在までのところワンマン化に伴う大事故の発生などの話題はなく、どうやらとりあえず順調に運行されているようです。

典型的な「資本への投資」

ただ、JR東日本の取り組み自体は先進的といえますが、これなど経済学でいうところの「資本投資をすれば労働投入が減っても生産性の向上が継続する」という法則の体現であるといえるのではないでしょうか。

現在の日本が猛烈な速度で生産年齢人口の減少に直面するなか、ホームドア設置により車掌なしでの運行を容易にする、というのは、典型的な設備投資です。

東京メトロ南北線のような「自動運転」だけでなく、さらに進んで、いくつかの都市で走っている新交通システムのような「完全無人運転」というものがさらに広がっていくかもしれません。AIなどの技術も進歩していることですし、かなり長い編成の鉄道が完全無人でかつ安全に運行されれば、生産性も上がりそうです。

そういえば、某ファミリーレストランだと、最近は猫型ロボットがお料理を運んでくれますし、某大手スーパーや大手コンビニチェーン店では完全セルフレジもずいぶんと増えてきましたが(個人的にはもうすっかり慣れました)、これも生産年齢人口の減少に合わせて社会の変革が進んでいる証拠でもあります。

個人的な予想だと、少なくとも公認会計士が担ってきた会計監査などもそのうちAI化されそうな気がしますし、そうなると、サムライ業など真っ先に要らなくなるのかもしれない、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (7)

  • 考えてみれば、決まった時間に決まった路線を走る電車の方が、自動車よりも完全無人化に適しているのではないでしょうか。問題があるとしたら、事故の時の対応ぐらいでしょうか。(電車に監視カメラでものせますか)

  • 人の生死に関わるようなアプリケーションの社会実験や実装は圧倒的に中国のような専制主義国家が有利です。
    なので、今後の成り行きが心配ではあります...。

  • シャンソンに『地下鉄の切符きり』と言う曲があります。朝から晩まで大量の乗客を改札しながら一日中立って居る仕事の悲哀みたいな歌詞(日本語歌詞だけ?)でした。そう言う仕事が20世紀には必要でした。今や切符入鋏や切符受取はほぼ自動化されました。
    今後ますます様々な職種の鉄道職員が不要になる気がします

  • 京都市は、多すぎる観光客による乗客積み残しが問題になっていますが、輸送効率が大変悪い市バスから燃料電池かバッテリーで動くLRTの4両連結にすれば、市民も観光客も移動がとても楽になると思いますし、交通渋滞の緩和にも効果的だと思います。
    また、自動運転が可能になれば生産性向上でLRTの敷設費用も回収できるのではないかと思います。
    新しい事には何でも反対の大学の先生や京都仏教会などの声が大き過ぎるのが問題ですが。

    • ほんの半世紀前まで京都では路面電車が走っていました。
      今の路線バス同様、渋滞に巻き込まれて定時運行できないシロモノでした。
      まずはバス専用レーンを試してみて、それでも乗客を積み残すようなら路面電車。
      もちろん線路上に自動車が侵入できないよう、物理的に隔離しないと前世紀の二の舞になります。

  • 農協の会計ですが、やはり不透明な部分があるようですね。

    https://www.bus.nihon-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/04/KAWANO_Katsunori_2021-90-4.pdf

    >コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治家・農水省・JA農協の歪んだ関係

    https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2025/04/546022.php

    >ついに「農協崩壊」がはじまった…農林中金「1兆5000億円の巨大赤字」報道が示す"JAと農業"の歪んだ関係

    >農協マネーを外国債投資で溶かした根本原因

    https://cigs.canon/article/20240712_8208.html

  • 平常運転時なら ワンマンでも 問題ないでしょう。
    車内で大騒ぎする奴や刃物振り回す奴を誰が通報、制圧できるのでしょうか。迷惑行為に対しては 車内秩序を保つ権限のある車掌、社員以外対応は 無理でしょう。
    また 事故発生時や車両の異常を運転手だけで対応できるのか疑問。
    各種監視機器があるとは思いますが、先日の山手線の架線事故。 パンタグラフの異常に気が付いたのは車掌。それでも昼ちかくまで 架線修復のため運休。
    人材の節約には 失うものも多い。