時事通信が最新世論調査をもとに、石破茂体制における「青木率」、つまり「内閣支持率+自民党支持率」が50%を大幅に下回る38.1%だったとして、参院選で大敗した2007年の45.4%と比べて「はるかに厳しい状況にある」と論じる記事を掲載しています。自公両党が参院選で改選後過半数を割り込む可能性はどの程度なのでしょうか。
目次
今夏の参院選は「2007年以来の大敗」か?
今夏の参院選、大方の予測だと7月3日に公示され、22日に投開票が行われるとみられているそうですが、この参院選を巡り、一部では「(自民党が大敗した)2007年参院選の再来となるであろう」、などと予想する向きもあります。
こうした見方の典型例が、時事通信が23日に配信した、こんな記事かもしれません。
石破自民、2007年以上の逆風 「青木率」4割切る◇時事通信5月世論調査【解説委員室から】
―――2025年05月23日15時30分付 時事通信より
これは時事通信の解説委員長である高橋正光氏が執筆した記事で、時事通信の5月の世論調査(後述)から計算した「青木率」が4割を割り込むなか、石破茂首相が率いる自民党が2007年の参院選大敗当時以上の逆風にさらされている、などと指摘する記事です。
ちなみに「青木率」は、「参院自民党で絶大な影響力を誇った青木幹雄元議員会長が、『内閣と自民党の支持率を足した数字が5割を切ると、政権は早晩行き詰まる』と唱えたことに由来する」比率のことで、2007年の青木率は45.4%(内訳は内閣支持率25.7%、自民支持率19.7%)だったのだそうです。
これに対し、現在の青木率は、なんと38.1%(内訳は内閣支持率20.9%、自民支持率17.2%)。
もともと時事通信の調査では、内閣支持率や自民党支持率が厳しめに出る、という傾向がありますが(私見)、それにしても30%台は衝撃です。
高橋氏はこれについて、こう指摘します。
「石破政権は、第1次安倍政権よりはるかに厳しい状況にあることが分かる」。
当時といまの大きな違い
自公は過半数割れ?カギ握る32の一人区
ちなみに記事自体は「会員限定記事」であるため、本稿ではこれ以上の詳細は引用しませんが、時事通信の「青木率」で見る限りは、自公両党が過半数割れを起こす可能性はそれなりに高そうに見えてしまいます。
(※余談ですが、現時点では時事通信の「会員限定記事」はメールアドレスなどの会員登録さえすれば無料で閲覧できるようですので、ご興味がある方は是非、会員登録のうえで読んでみてください。また、会員登録方法の詳細は時事通信ウェブサイトでご確認ください)。
2007年の参院選当時、自公両党は合計46議席しか獲得できなかったのですが、今回の選挙でも、もし50議席を下回る議席しか獲得できなかった場合は、公明党と合わせても選挙後に参院で過半数を維持することはできません。
もっとも、当ウェブサイトでは以前からしばしば指摘してきた通り、著者自身、参院選で自公両党が過半数を割り込む可能性はゼロではないにせよ、(「辛うじて」ではあるにせよ)自公が過半数を維持する可能性も十分にあると見ています。
その理由は簡単で、全国で32ある一人区では、自民党が依然として一強状態にあると考えられるからです。
民主党が圧勝した当時の状況
まず、事実確認をしておきましょう。
2007年参院選では自民党は37議席しか獲得できず、これに対し最大野党である民主党は自民党を大幅に上回る60議席を獲得して改選議席数では第1党となりました。
2007年参院選
- 民主党…60議席(選挙区40+比例代表20)
- 自民党…37議席(選挙区23+比例代表14)
(【出所】総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』をもとに集計)
ちなみに民主党は2年後の2009年衆院選で308議席と、自民党の3倍近い議席を獲得するという地滑り的圧勝を達成しています。
2009年衆院選
- 民主党…308議席(選挙区221+比例代表87)
- 自民党…119議席(選挙区64+比例代表55)
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果』をもとに集計)
つまり、自民党は故・安倍晋三総理大臣の「第一次内閣」時代の2007年に行われた参院選で大敗した勢いで、続いて2009年に麻生太郎総理大臣による解散総選挙に伴い行われた衆議院議員総選挙でも地滑り的な大敗を喫している、ということでしょう。
どちらの選挙でも、「第1党」になったのは当時の最大野党である民主党だったのですが、これをもう少し詳細に見ていくと、興味深いことが見えてきます。
このうち2007年参院選では、自民党は当時29あった一人区で「6勝23敗」と大きく議席を減らしていますし、2009年衆院選では各地で「風」が吹き、自民党候補がどんどんと小選挙区で落選するという事態が生じました。
一人区や小選挙区での敗北が全体の趨勢を決めた
当然、そのときに自民党候補に各地で競り勝ったのは、当時は自民党を凌駕する勢いを見せていた最大野党・民主党であり、自民党はもちろん、参議院議員通常選挙では一人区での敗北が、衆議院議員総選挙では小選挙区での敗北が、それぞれ大きな打撃となった格好です。
しかも、2007年、2009年当時は、民主党が自民党を得票数・得票率で上回っていたことは間違いないにせよ、得票率の差は、少なくとも選挙区に関しては10ポイント未満でした(※ただし、比例代表では10ポイント以上の差がついています)。
2007年参院選の得票数と得票率(選挙区)
- 民主党…24,006,818票(40.45%)
- 自民党…18,606,193票(31.35%)
(【出所】総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』をもとに集計)
2009年衆院選の得票数と得票率(選挙区)
- 民主党…33,475,335票(47.43%)
- 自民党…27,301,982票(38.68%)
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果』をもとに集計)
得票率で大した差がないのに、選挙区における獲得議席数では、2007年が40議席対23議席と倍近い差がつき、2009年では221議席対64と、なんと3倍以上の差をつけて、それぞれ民主党が圧勝したのです。これが一人区や小選挙区の怖いところでもあります。
(※なお、参考までに2007年と2009年の比例代表における得票数と得票率で見ると、次の通り、比例では民主党が自民党に10ポイント以上の差をつけて勝利していたことがわかります。)
2007年参院選の得票数と得票率(比例代表)
- 民主党…23,256,247票(39.48%)
- 自民党…16,544,761票(28.08%)
(【出所】総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』をもとに集計)
2009年衆院選の得票数と得票率(比例代表)
- 民主党…29,844,799票(42.41%)
- 自民党…18,810,217票(26.73%)
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果』をもとに集計)
最大野党の存在感がない現在
いずれにせよ、「選挙区で当選者が1人しかいない」という選挙制度は、ちょっとした風が吹くと、一気に与野党の地位を入れ替えかねないインパクトをもたらすことがあるのです。
そして、現在のように(少なくとも著者自身が見たところ)多くの人が石破茂首相や重要閣僚(財相、外相、農相など)、あるいは自民党執行部・幹部(幹事長や税調会長など)に対しなかば公然と失望を表明する状況が長続きすれば、やはり、自公政権も決して安泰ではないのです。
ただ、それと同時にもうひとつ気付くことがあるとすれば、当時と現在の大きな違い―――、すなわち「最大野党」の存在感です。
2007年、あるいは2009年に当時の最大野党であった民主党は、当時は世論調査でも自民党を上回るほどの支持率を記録したこともありましたし、しかも選挙のたびに獲得議席数で自民党のそれを上回る現象もみられました。
ところが、これに対して現在の最大野党である立憲民主党は、残念ながら主要メディアの支持率でも自民党を上回っていませんし、昨年秋の衆院選も公示前勢力を50議席増やすなど「躍進」したことは事実ですが、それでも比較第1党の地位を容易く手に入れられるという状況にはありません。
それどころか、主要メディアの世論調査では、野党第3党である国民民主党に、支持率で追い抜かれることもほぼ常態化しているのです。
やはり強い一人区の自民
国民民主、支持率ガタ落ちという状況は確認できず
ついでにその国民民主党についても言及しておきましょう。
国民民主党といえば、いわゆる「反ワクチン活動家」などを今夏の参院選の比例で擁立したなどの事情もあり、著者自身は「支持率がガタ落ちになる可能性もある」などとして影響を注視していたのですが、現在のところ、主要メディアの調査で「支持率ガタ落ち」という状況は、観測されていません。
問題の候補の擁立が同党から発表されて以降に実施された世論調査のなかでは、共同通信のように同党の支持率が大きく落ちているケースもあるのですが(18.4%→13.2%、ただし共同通信の場合はむしろ前回が高すぎたという)、それ以外の調査では(今のところは)目立って落ちているという形跡はありません。
たとえば冒頭で紹介した、時事通信が22日に公表した5月の世論調査(実施日:16~19日)の例だと、国民民主党の支持率は前月比+0.3ポイントとなる5.7%で、自民党(17.2%、▲0.2)には及ばないにせよ、立憲民主党(4.4%、+0.6%)を引き続き上回っています。
内閣支持20.9%、最低更新 日米関税交渉「期待せず」5割超―時事世論調査
―――2025年05月22日15時22分付 時事通信より
また、参院比例の投票先については自民党が19.7%と最多であるにせよ前月比0.9ポイント低下し、国民民主党は11.2%で前月比0.6ポイント上昇するなどしているため、少なくともこの時事通信の調査結果からは、国民民主党に対する「反ワクチン」効果は確認できていないのです。
さすがに国民民主の「最大野党」は無理がある
以上より、今夏の参院選では昨秋の衆院選に続き、国民民主党がそれなりに議席を伸ばす可能性は高いでしょう。
ただ、「反ワクチン」云々は脇に置くとしても、現実問題、いくら国民民主党に追い風が吹いているとしても、同党が今夏の参院選で改選第1党の地位を獲得できるかどうかは疑わしいところです。野党の中で、全国の一人区で候補を擁立し得る体制を備えているのは、立憲民主党と日本共産党くらいなものだからです。
しかも「最大野党」である立憲民主党が国民民主党に支持率で敗北することがなかば常態化しており、その国民民主党はさすがに全国32の一人区のすべてで候補を立てられるという状況でもありませんので、やはり今夏の参院選では、自民党がかなりの強さを見せる可能性が高い、というのが現時点での分析です。
直近参院選で自民党が見せた強さ
ここでもうひとつのデータを紹介したいと思います。これが、2022年の参院選一人区の当落状況です。
今回の選挙は2019年参院選の改選であるため、2022年の当選組は今回の改選の対象外はあるのですが、やはり興味深い事実が浮かぶとしたら、野党共闘の威力です。
2019年選挙については、先日の『一人区で圧倒的な強さ誇る自民党』でも取り上げたとおり、自民党は32選挙区中22選挙区で議席を獲得している一方、落とした10議席は野党が強い長野、沖縄の2区を除くといずれも野党共闘が成立した選挙区でした。
しかし、2022年参院選では、自民党は32の一人区のうち、じつに28もの議席を制しています(占有率でいえば87.5%にも達します)。これは安倍総理暗殺という衝撃的な事件があったこともさることながら、単純に野党共闘が成立しなかった、という側面が強いのです。
2019年選挙の票数分析は前回行った通りですが、2022年に関していえば、自民党が勝利した28選挙区のうち、2位(つまり落選者)との票差が5万票以内だった選挙区は6つ(図表1)、5万票超・10万票以内だった選挙区は3つあります(図表2)。
図表1 2022年参院選一人区で自民候補が5万票以内で制した選挙区
| 選挙区 | 自民候補の得票 | 2位との票差 |
| 岩手県 | 264,422 | 22,248 |
| 秋田県 | 194,949 | 32,060 |
| 福井県 | 135,762 | 13,373 |
| 山梨県 | 183,073 | 19,333 |
| 大分県 | 228,417 | 45,159 |
| 宮崎県 | 200,565 | 49,654 |
(【出所】総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』をもとに集計)
図表2 2022年参院選一人区で自民候補が5万票超・10万票以内で制した選挙区
| 選挙区 | 自民候補の得票 | 2位との票差 |
| 福島県 | 419,701 | 99,550 |
| 新潟県 | 517,581 | 68,930 |
| 奈良県 | 256,139 | 76,015 |
(【出所】総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』をもとに集計)
風で選挙結果が変わる選挙区もあるが…
図表1に示した選挙区は、ちょっとした風が吹けば、あるいは野党共闘が成立すれば、自民党候補者が敗退する可能性がある、という事例であり、図表2に示した選挙区は、さらに大きな風が吹いた場合には自民党候補が落選する可能性がある、という事例ではないかと思います。
野党共闘が成立していないにも関わらず、2位との得票差が5万票以内だったという選挙区は、非常に危ういのですが、それでもそのような選挙区は2022年時点では6つしか存在しなかったのです。
(ちなみに岩手県と山梨県は参政党が候補を立てたほか、大分県は国民民主党と日本共産党が、宮崎県は立憲民主党と国民民主党がそれぞれ立候補しており、秋田県と福井県は無所属候補が2人で票を食い合っている状況です。)
野党共闘が成立した2019年参院選では、自民と野党の議席は22対10。
野党共闘が不成立の2022年参院選では、自民と野党の議席は28対4。
こうした状況を踏まえると、自民党にそこそこの逆風が吹いたとしても、野党共闘が成り立たず、野党がバラバラに動いているというなかで、自民党が一人区で2007年並みの敗北を喫するのかどうかはよくわかりません。少なくとも過去のデータからは、その可能性が低いことが示唆されるからです。
思えば昨秋の衆院選でも、自民は公明と合わせて過半数割れしてしまいましたが、それでも自民党は獲得議席数でトップでしたし(自民苦戦の原因は「石破自民」のセルフ制裁によるものでしょう)、おそらく今夏の参院選でも似たような状況が続くのではないでしょうか。
比例と中選挙区で苦戦か
ただし、参院選を読む難しさは、もうひとつあります。
参院選は衆院選と異なり、複数人が当選する中選挙区も13区・42議席分あるからです(32の一人区と合わせて45区しかありませんが、47の都道府県と数が合っていない理由は、鳥取県と島根県、徳島県と高知県がそれぞれ合区だからです)。
自民党はこの複数区のすべてで当選者を出しており、2019年に16議席、22年に17議席を得ています。
また、2議席を獲得している選挙区も多く、たとえば2019年は北海道、千葉県(ともに定数3)、東京都(定数6)の3選挙区で2議席ずつ獲得していますし、2022年は神奈川県(定数4)でも2議席を制しています。
おそらく今回、これらの選挙区では、自民党は1議席ずつを獲得するのが精いっぱいとなる可能性がありますし、また、自民党にとっての地盤が弱いいくつかの選挙区においては、自民党の獲得議席数がゼロとなってしまう可能性すらあります。
この場合、自民党の獲得議席は2019年の16議席から大きく後退し、8~12議席にとどまるかもしれません。そして比例代表でも獲得議席数が10~12議席程度に減少する可能性があることを踏まえると、やはり自民の獲得議席数は35~41議席、といったところが現実的な線かもしれません。
このため、「青木率」の状況が直ちに自民党の獲得議席に影響を及ぼすかどうかは微妙ではあるにせよ、結論的には自公が過半数割れする可能性は五分五分といったところです。
もちろん、選挙はしょせん水物でもあるため、自民党が思いのほか健闘する可能性もあれば、自民が思い切り惨敗する可能性もありますが…。
さて、どうなることでしょうか。
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確かに1989年や2007年自民党が参院選挙でぼろ負けしたときは、野党勢力の一人区での一本化に成功し、かつ野党に勢いがありましたが、今はそのような状況にはないですね。自公で50議席とれば、何とか自公で非改選含めて参院での過半数維持かのうです。政治評論家の田崎史郎氏は何とか行く可能性があるようなことをほのめかしていました。公明党は最低でも11とれば自民党が39でいいわけですから。自民は比例で13から14とれば選挙区35,36。複数区15全て自民党がとると仮定すれば一人区を21か22とれば与党で50前後獲得可能です。国民民主も離婚歴のあるばばあを出すよりもっとぴちぴちした若い人、弁護士や知名度の高い人を出さないと勢いが出ないですね。
農相が交代しておらず、「開き直りひょうろくもの首相」のまま突っ走っていたらと想像するに、背筋が寒くなりますが、選挙の行方は流動性をなお一層増したようです。政権はどこまで改心したのやら。
正直に申し上げれば、自民党にも当選させたい議員はおります。
然しながら、所謂「自民党」は「石破」なる人物を登場させる程度には鈍感極まりない政党になっておりますので、選択する意味すら無いのが私個人に於ける今の実情です。
翻って、国民民主党(菅野志桜里候補、山田吉彦候補)、は何が何でも当選させたいと強く思うのであります。参政党にも当選させたい議員が居ります。
選択肢を考えるならば、真っ先に落ちるのが自民党の議員であります。
石破を負けさせないと引きずり降ろせないと言うなら、少々味が微妙でも他の店を選ぶしかありませんね。流石に「悪魔とでも手を結ぶ(チャーチル)」まではしませんが
左派には、分かりやすい政党があるのが羨ましい。たとえ少数政党であっても、自分の思想とぴったり一致するところを応援できるというのはいいよなー。
一方で、今の右派には、心から支持できる政党があるだろうか?
自民党に投票すれば、石破氏のような路線にも賛成することになる。それには抵抗がある。
かといって、自民党が負ければ、さらに保守政治が行き詰まる可能性もある。
結局のところ、今回は自民党に入れようが入れまいが、保守層にとっては矛盾を抱えざるを得ない選挙になりそうだ。
そうでしょうか?保守層こそ選択肢がないが故に投票先は悩むまでもありません。比例は日本保守か参政党の泡沫政党2択。候補者は前2政党の候補がいればそこへ、超えられない壁を超えて時点で国民民主。更に絶望的な壁を超えて自民党。それ以外は敵国スパイ政党なので候補に入らない。実にシンプルで悩む必要が有りません。寧ろ左派の方が迷うと思うのですが。