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    Categories: 金融

日本は9年半連続して「世界最大の債権国」=与信統計

国際決済銀行(BIS)が3ヵ月に1回作成している『国際与信統計』(CBS)によると、日本は2015年9月末以来、じつに38四半期(!)連続して世界最大の債権国であることが判明しました。ただし、日本の銀行からの近隣国(中国、香港、韓国、台湾、ロシア、北朝鮮)向けの貸出金は決して多いとはいえず、金融という世界では近隣国との関係が非常に薄いという実態が垣間見えます。

国際与信統計(CBS)とは?

当ウェブサイトでは定例的に確認しているデータというものがいくつかあるのですが、そのひとつが、銀行の国際与信、すなわち国境を越えたおカネの貸付に関する統計です。

俗に「中央銀行の中央銀行」とも称される組織が国際決済銀行(BIS)ですが、このBISが3ヵ月に1度公表しているのが『国際与信統計』と呼ばれる統計で、英語の “Consolidated Banking Statictics” を略して『CBS』と呼ばれることもあります。

この国際与信統計(CBS)、なにが便利かといえば、「所在地ベース」と「最終リスクベース」に分けて、ある国の銀行からほかの国に対する与信状況を把握することができる、という点です。

ここで「最終リスクベース」は、与信リスクの最終的な所在を把握するうえで大変重要な考え方です。

たとえば日本に本店がある銀行のニューヨーク支店がフランスに本店がある自動車会社のロンドン支店におカネを貸したとすると、おカネはニューヨークからロンドンに動いているため、「所在地ベース」だと米国から英国におカネが流れたことになります。

しかし、おカネを貸しているのは日本の銀行であり、おカネを借りているのはフランスの自動車会社ですので、もしこのフランスの自動車会社がおカネを返せなくなった場合、損をするのは日本の銀行です。このため、「最終的なリスクの所在」という意味では、「日本→フランス」、と見るのが正しいのです。

CBSには限界もある…中国などのデータがない!

ただし、このCBSには限界もあります。

非常に残念なことに、全世界のすべての国がデータをBISに提供しているわけではないのです。

たとえば米国、英国、日本、欧州連合(EU)主要加盟国(ドイツ、フランス、イタリアなど)といった主要国はデータをBISに提供しており(これらを「報告国」といいます)、データとしては最大31ヵ国・地域分あるとされます(ただし香港のように「報告国」でありながら実質的にデータが欠落しているという事例もあります)。

しかし、最近、比較的経済規模が大きくなり、国際与信もそれなりに大きくなってきている大きくなってきたはずの中国、その中国に1997年に返還された国際金融ハブの香港、世界的なオフショア金融センターであるケイマン諸島などからの対外与信データはCBSでは確認できません。

また、ウクライナへの侵略戦争の当事者でもあるロシア、日本人拉致事件などを発生させた北朝鮮なども、国際与信データをBISに報告しておらず、したがって、これらの国からどこの国に資金が流れているかについても知ることは困難です。

ただし、「報告国」側のデータをもとに、これらの国々が外国からいくらおカネを借りているかを(不完全ながらも)知ることはできます。

たとえば、中国の金融機関が日本や米国、その他の国・地域にいくらおカネを貸しているかを知ることはできませんが、「報告国」の金融機関が中国に対し、いくらおカネを貸しているかを知ることはできるのです。

日本は38四半期連続で世界最大の債権国に!

以上の前提を踏まえたうえで、さっそく、BISが先月末までに公表した最新データ(2024年12月末基準)の与信データを確認していきましょう(本稿では基本的に「最終リスクベース」を紹介します)。

まずは債権国側のデータです(図表1)。

図表1 最終リスクベース・債権【債権国側】(全報告国集計・2024年12月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:日本 5兆1334億ドル 15.82%
2位:英国 4兆5586億ドル 14.05%
3位:米国 3兆9929億ドル 12.31%
4位:フランス 3兆6333億ドル 11.20%
5位:カナダ 2兆8360億ドル 8.74%
6位:スペイン 2兆2106億ドル 6.81%
7位:ドイツ 1兆8487億ドル 5.70%
8位:オランダ 1兆5884億ドル 4.90%
9位:イタリア 9849億ドル 3.04%
10位:スイス 8808億ドル 2.71%
その他 4兆7757億ドル 14.72%
報告国合計 32兆4434億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

これによると2024年12月末時点における国際与信総額は32兆4434億ドルに達していますが、世界最大の債権国は、なんとわが日本です。ちなみに日本がCBSで世界最大の債権国となるのは、2015年9月以来、38四半期(約9年半)連続のことです。

その額、じつに5兆1334億ドルで、これを2024年12月末時点の為替レート(1ドル=157.21円)で換算すれば約807兆円(!)に達します。

すなわち、日本の民間金融機関は、名目GDPを大きく上回る金額を外国に貸し付けているわけであり、小段ですが、日本国内に投融資先があれば、最大でこの807兆円が日本に戻ってくる(かもしれない)、ということでもあります。

普段当ウェブサイトで「資金循環統計上、少なく見積もって300~500兆円は国債を増発する余力が現在の日本経済にはある」と指摘させていただいていますが、CBSというほかの統計で見ても、こうした考えがあながちピント外れではないことがわかると思います。

日本以外は欧米諸国が中心

ただし、1位こそわが日本ですが、2位以下は基本的に欧米諸国で占められており、とくに2位の英国、3位の米国は金融大国としても知られています(余談ですが5位にカナダが入っているのは隣国・米国に対する融資が多いためです)。

うちEU諸国は5ヵ国含まれており(4位のフランス、6位のスペイン、7位のドイツ、8位のオランダ、9位のイタリア)、非EU圏ながらも周囲をEUに囲まれているスイスが10位に着けているなど、やはり国際与信の世界では欧州諸国が上位にランクインしていることがわかります。

ただ、EU圏諸国の場合はEU圏内の相互融資で国際与信が水増しされているという側面があります。とりわけ10位以内の5ヵ国はすべて共通通貨・ユーロを採用しており、これらの国において同じ通貨圏内の与信を「国際与信」に含めるのは若干ミスリーディングな気もしないではありません。

債務国側では米国が圧倒的存在感

それはともかく、続いて債務国側についても確認しておきましょう(図表2)。

図表2 最終リスクベース・債権【債務国側】(全世界分・2024年12月末時点・上位10ヵ国)
債務国 債務額 構成割合
1位:米国 8兆9584億ドル 27.61%
2位:英国 2兆1866億ドル 6.74%
3位:ドイツ 1兆5805億ドル 4.87%
4位:フランス 1兆4573億ドル 4.49%
5位:ケイマン諸島 1兆4527億ドル 4.48%
6位:日本 1兆1896億ドル 3.67%
7位:イタリア 8528億ドル 2.63%
8位:香港 8479億ドル 2.61%
9位:中国 8395億ドル 2.59%
10位:ルクセンブルク 7743億ドル 2.39%
その他 12兆3037億ドル 37.92%
合計 32兆4434億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

図表2も末尾の合計額が32兆4434億ドルで図表1の合計額と一致していることが確認できます(図表1と図表2は、同じデータを債権国側と債務国側で集計したものであるため、両者が一致するのは当然といえば当然ですが)。

ただし、債務国側の圧倒的なトップは米国です。米国だけで世界の国際与信総額の27.61%を占めていることがわかります。

また、上位10位圏内には日米欧各国と並び、カリブ海に浮かぶオフショア金融センターであるケイマン諸島が5位に入っていますし、CBSの与信国側に出てこなかった香港が8位、中国が9位にそれぞれ登場していることがわかります。

いずれにせよ、CBSからは▼日本が世界最大の債権国であること、▼米国が世界最大の債務国であること、▼ケイマン諸島が外国から1兆4527億ドルというおカネを集めていること、▼香港や中国も債務国側としてみると意外と存在感があること―――などが判明します。

近隣6ヵ国はどこからおカネを借りているのか

では、個別国についてはどうなっているのでしょうか。

意外な話ですが、日本の近隣諸国、とりわけ中国、韓国、台湾、香港、ロシア、北朝鮮については、日本は最大の貸し手ではありません。これを図表3で確認しておきましょう。

図表3-1 最終リスクベース・債権【債権国側】(債務国:中国・2024年12月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:英国 2521億ドル 30.03%
2位:米国 1331億ドル 15.86%
3位:日本 828億ドル 9.87%
4位:フランス 542億ドル 6.45%
5位:台湾 499億ドル 5.95%
6位:韓国 269億ドル 3.20%
7位:豪州 213億ドル 2.54%
8位:ドイツ 170億ドル 2.03%
9位:カナダ 64億ドル 0.77%
10位:スペイン 58億ドル 0.69%
その他 1899億ドル 22.62%
報告国合計 8395億ドル 100.00%
図表3-2 最終リスクベース・債権【債権国側】(債務国:香港・2024年12月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:英国 4897億ドル 57.75%
2位:米国 783億ドル 9.23%
3位:日本 431億ドル 5.08%
4位:フランス 297億ドル 3.51%
5位:台湾 221億ドル 2.60%
6位:オランダ 167億ドル 1.97%
7位:スイス 154億ドル 1.81%
8位:豪州 119億ドル 1.41%
9位:韓国 93億ドル 1.10%
10位:スペイン 75億ドル 0.88%
その他 1243億ドル 14.66%
報告国合計 8479億ドル 100.00%
図表3-3 最終リスクベース・債権【債権国側】(債務国:韓国・2024年12月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:米国 945億ドル 25.59%
2位:英国 858億ドル 23.25%
3位:日本 453億ドル 12.26%
4位:フランス 441億ドル 11.94%
5位:ドイツ 207億ドル 5.61%
6位:台湾 203億ドル 5.50%
7位:豪州 75億ドル 2.02%
8位:カナダ 24億ドル 0.65%
9位:スペイン 23億ドル 0.62%
10位:ベルギー 12億ドル 0.32%
その他 451億ドル 12.22%
報告国合計 3691億ドル 100.00%
図表3-4 最終リスクベース・債権【債権国側】(債務国:台湾・2024年12月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:米国 732億ドル 30.83%
2位:英国 503億ドル 21.16%
3位:日本 286億ドル 12.02%
4位:フランス 201億ドル 8.45%
5位:豪州 88億ドル 3.72%
6位:スペイン 31億ドル 1.32%
7位:カナダ 28億ドル 1.18%
8位:ドイツ 18億ドル 0.74%
9位:韓国 17億ドル 0.73%
10位:オーストリア 1.2億ドル 0.05%
その他 470億ドル 19.78%
報告国合計 2376億ドル 100.00%
図表3-5 最終リスクベース・債権【債権国側】(債務国:ロシア・2024年12月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:米国 146億ドル 31.77%
2位:オーストリア 116億ドル 25.30%
3位:日本 45億ドル 9.80%
4位:フランス 33億ドル 7.14%
5位:ドイツ 12億ドル 2.56%
6位:韓国 12億ドル 2.55%
7位:トルコ 2.4億ドル 0.52%
8位:英国 1.4億ドル 0.31%
9位:スペイン 7518万ドル 0.16%
10位:ギリシャ 4101万ドル 0.09%
その他 91億ドル 19.80%
報告国合計 460億ドル 100.00%
図表3-6 最終リスクベース・債権【債権国側】(債務国:北朝鮮・2024年12月末時点・上位2ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:フランス 100万ドル 9.06%
2位:アイルランド 2万ドル 0.20%
内訳不明 1002万ドル 90.74%
報告国合計 1104万ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

どの国も日本は「最大の債権国」に非ず

中国、香港の2ヵ国については英・米・日の順で、韓国・台湾の2ヵ国については米・英・日の順で、それぞれ与信額が多いのですが、これら4ヵ国についてはどれも日本がトップではないというのが興味深いところです。

また、日本の対外与信が5兆1334億ドルに達しているにもかかわらず、近隣国向けは極端に少なく、中国向けの828億ドルは1.61%、韓国向けの453億ドルは0.88%、香港向けの431億ドルは0.84%、台湾向けの286億ドルは0.56%に過ぎません。

さらに、ロシア向けは、日本が3番目の債権国ではありますが、ロシアのウクライナ侵攻以降、日本はロシア向け与信を一貫して減らしており、また3メガバンクは2022年3月期決算時点で対ロシア与信の償却引当金が完了しているため、邦銀の現在の対ロシア債権は事実上ほぼゼロに等しいと考えて良いでしょう。

ちなみに北朝鮮向けは「報告国」全体で1104万ドルですが、統計から確認できるデータではフランスが100万ドル、アイルランドが2万ドルであり、残りの内訳はわかりません(邦銀による貸付はおそらくゼロであろうと想像できますが…)。

ただし、冒頭でも指摘したとおり、CBSには中国を債権国とするデータがありません。

そして、中国には金融安定理事会(FSB)から「大き過ぎて潰せない銀行」(G-SIBs)に選定された銀行がいくつか存在するため、中国がロシア、北朝鮮、シリアなどに対し、いくらカネを貸しているのかについては知りたいところでもあります。

残念ながらCBSと同程度の精度でそれを知ることはできませんが、これもBIS統計の限界です。

しかしながら、少なくともロシアと北朝鮮は西側諸国という資金源をほぼ断たれていることだけは間違いないといえるでしょう。

やはりカネの世界に関する統計からは、「日本の金融機関が『信頼に値する』『地政学的に安全だ』と評価している国」が垣間見えると思うのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (3)

  • 毎度、ばかばかしいお話を。
    ○○(好きな国名をいれてください):「軍事力の裏付けのない経済力は無意味」
    「経済力の裏付けのない軍事力も、長期的には無意味」でもあるのでは。

  • 近隣には投資に値する国がない、若しくは優先度が低い国であるという事やろうね
    ギャンブルなら有りかもしれないが、継続的長期的にと考えるとそうなるだろうな、と

  • 「ビタ一文まけてやらん」という借り手も居たみたいですので、世界最大の債権国という地位も手放しでは喜べないようで....