昭和や平成なかば頃までは飲酒運転が横行していましたが、危険運転致死傷罪などの新設や飲酒運転の厳罰化の流れを受け、こうした事故が激減しました。こうした事例からは、規制を適正化すれば事故は減らせることがわかります。ただ、こうした飲酒運転の撲滅という事例と比べると、最近道路に横行している電動キックボードやモペッドなどの問題は深刻化しつつあります。
目次
都内某所で乱暴運転の自動車
東京都内などの都市部を歩いていると、思いもかけず、歩行者にとって危ない場所を通ることがあります。
著者自身もそうです。
先日、さる用事があって都内某所に出掛けたのですが、そのときに小学生が明らかに速度超過のミニバンと接触しそうになり、そのミニバンがけたたましくクラクションを鳴らし、運転手が窓から顔を出して小学生に対して怒鳴りつけて走り去ったのを目撃しました。
著者自身から見て、少なくとも小学生の側に過失はないと思われますし、むしろ狭い道を結構な速度で走っていたのはそのミニバンの側であるように見えたので、こうした危険運転を警察に通報してやりたい、などと一瞬思ったことは事実です。
これが近所であれば、自動車のナンバーがわからなくても事業所名がわかるため、事後的にでも警察や小学校に通報するなどできるのかもしれません。
ただ、残念ながら著者自身はそのとき徒歩だったのに加え、普段あまり訪れない場所で土地勘もなく、咄嗟にその自動車を追いかけることはできませんでしたし、その自動車が所属しているであろう事業所の名称なども確認することができませんでた。
また、その小学生に怪我がなく無事だったため、この「無法自動車」を追及することはあきらめたのですが、それにしても腹の立つ話です。
交通の安全をどう確保するか
狭い道をかっ飛ばす自動車やモペッド、キックボード
こうした「歩くだけで危険な箇所」は、とくに都内だと大変に多く、初めて出かける場所だと勝手がわからないため、歩行者としては注意が必要ではありますが(とくに小さい子供を連れているときはなおさらです)、勝手を知っているはずの近所でも、やはり細心の注意を払う必要があるという場所があります。
都内などで暮らしていると、「近所に危なっかしい場所がある」、という点に心当たりがあるという方も多いと思いますが。著者自身の近所の事例でいえば少なくとも2箇所あります。どちらも道が狭くて歩行者が多いにもかかわらず、自動車がやたらとスピードを出しているという地点です。
うち1箇所は生活道路と幹線道路が交わる点で、幹線道路側は日中から自動車の通行量が大変に多く、その一方で、生活道路側は歩車共用の非常に狭い道です。そして、スーパーマーケットや保育園、医院、薬局、公園といった生活に必須の施設に行くためには、この狭い道を通るしかありません。
また、もう1箇所はわりと大規模な公園に接する側道で、近所の小学校の通学路でもありますが、こちらも「抜け道」として使用されているためか、非常に狭いわりには自動車の通行量が大変に多く、しかも「速度制限20㎞」と表示されているにも関わらずビュンビュンと飛ばしていく車が多くて閉口します。
しかも、最近だとここに電動キックボードや「モペッド」(電動モーター付き自転車)などが縦横無尽に走っているのですが、そのうち悲惨な事故でも起こるのではないかと思うとハラハラしますし、本当に危なっかしくて見てられません。
日本は私権が強い国?でも仕方がない
なぜこんな狭くて危ない道が放置されているのか―――。
そこには、さまざまな事情があります。
とりわけ都内だと道路を拡張するにしても用地買収のコストは高くなりますし、また、幹線道路を延伸するともなれば、ほんの100メートルを開通させるために、それこそ20年、30年という途方もない時間を要することもあるのです。
一部識者からは、「わが国では土地の所有者の私権が強すぎるのではないか」、「道路建設など公共の利益のためならある程度私権を制限すべきではないか」などと指摘されることもあるのですが、ただ、それが行き過ぎると中国のようにある日いきなり立ち退かされるという社会が実現する可能性もあります。
いずれにせよ、その「私権が強い」日本、とりわけ大都市部などで道路網を充実させるにはとてつもない努力が必要であり、その意味で、いったん出来上がってしまった大都市の改造は本当に大変な話です。
飲酒死亡事故件数は激減した!
ただ、交通政策としてみると、法令によりある程度防げる事故も多いように思えます。
たとえば、昭和時代や平成時代前半までは、飲酒運転などの罰則は今ほど強くありませんでした。このため、正月などに酒を飲んで運転する輩が後を絶たなかったのが実情ですし、また、飲酒による悲惨な事故などがときどき発生していたことも事実です。
しかし、法制度が改められ、「危険運転致死傷罪」が2001年12月に施行されたのを皮切りに飲酒運転が徐々に厳罰化されたこともあってか、飲酒運転死亡事故件数に関する警察庁のデータ(図表1)でもわかるとおり、2000年で1276件に達していた件数が、2024年は140件にまで減少しました。、
図表1 一般原付以上運転者(第1当事者)の飲酒死亡事故件数の推移
(【出所】警察庁ウェブサイトデータをもとに作成)
すなわち、飲酒運転などに関する悲惨な事故は、法制度の厳罰化などによって劇的に減らせたわけです(ゼロ件にならないのは歯がゆいところですが)。
飲酒運転には厳しい罰則が!
ちなみに現在の法制度では、飲酒運転には厳しい行政処分と罰則が待っています(図表2)。
図表2 飲酒運転に関する行政処分と罰則
| 状態 | 定義 | 行政処分 | 刑事罰 |
| 酒酔い運転 | アルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれがある状態 | 基礎点数 35点 免許取消 欠格期間3年 | 5年以下の懲役 または 100万円以下の罰金 |
| 酒気帯び運転 | 呼気中アルコール濃度0.25mg/l 以上 | 基礎点数 25点 免許取消 欠格期間2年 | 3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金 |
| 酒気帯び運転 | 呼気中アルコール濃度0.15mg/l 以上 0.25mg/l 未満 | 基礎点数 13点 免許停止 期間90日 | 3年以下の懲役 または 50万円以下の罰金 |
(【出所】警察庁ウェブサイト『みんなで守る「飲酒運転を絶対にしない、させない」』を参考に作成)
なかなかに厳しい罰則です。
しかし、同ページによると飲酒運転による死亡事故率は飲酒なしの場合と比べて約7.4倍に膨らんでいること(図表3)を考慮に入れれば、こうした厳罰化も必要な措置だといえるのではないでしょうか。
図表3 死亡事故率比較(令和6年)
(【出所】警察庁ウェブサイト『みんなで守る「飲酒運転を絶対にしない、させない」』)
新たなモビリティと課題
自転車は車道走行義務がある
もっとも、こうした文脈で理解に苦しむのは、新たなモビリティの危険性を、警察・行政当局などが放置しているフシがあることです。
ひと昔前だと、私たちの社会の一般常識では、自転車は歩行者と同じようなものだとみなされていたフシがあります。
著者自身も若かりし頃、自転車で東京・市谷付近の車道を走っていたら、ミニパトロールカーの婦警さんから「自転車は歩道を走ってください」と叱られ、「あれ?道路交通法って自転車は軽車両の扱いじゃなかったっけ?」と疑問に思いつつも、その場では指示に従い、狭い歩道に移ったことがありました。
ただ、いちおうちゃんとした規定を述べておくと、自転車は道路交通法上の「軽車両」に該当し、基本は車道を走行する義務があります(すなわち、この婦警の「自転車は車道を走るな、歩道を走れ」とする指示は法令に違反していたのです)。
この点、街中では自転車で歩道を走行している人はたくさんいるのですが、これについてはどう考えれば良いのでしょうか?
じつは、歩道を自転車が走行して良いのは、たとえば次のようなケースに限られます。
- 歩道に「普通自転車歩道通行可」の標識(図表4)などがある場合
- 運転者が13歳未満の子供、70歳以上の高齢者、体が不自由な人などである場合
- 車道を走行するのが危険と認められるなどの場合
図表4 普通自動車歩道通行可
このため、自転車を運転する人は、道路交通法の交通ルールをちゃんと知っておくことが必要であり、たとえば歩道をかっ飛ばしてはなりませんし、ましてや信号無視は絶対にしてはなりません。
それなのに、冒頭で述べた「生活道路と幹線道路が交わる横断歩道」では、太い幹線道路側を走る自転車が赤信号を無視して交差点に進入し、生活道路側から幹線道路に設けられた横断歩道を渡り始めた歩行者と衝突しそうになるケースは頻繁に目にします。
モペッドに電動キックボード
これに加えて最近の自転車は性能が上昇しているためでしょうか、見た目は「自転車」なのに自動車やバイクなどと並走できるほどの速度で走っている事例も見かけますし、歩行者が横断歩道を渡ろうとしたら、こうした自転車が信号を無視して交差点に突っ込んでくるなどのトラブルも多発しています。
さらに、東京都内などで頻繁に見かけるのが、電動キックボードです。
端的にいえば、これらのキックボード、多くの場合は運転マナーが大変に悪く、そしてときとして違法性が極めて強いのです。
著者自身が良く目撃する事例だけでも、たとえば▼道路の右側を逆走、▼信号無視、▼2人乗り、といったものがありますが、これらキックボードの危険運転事例はXなどでも報告されています。
法的な位置づけを整理してみた
さまざまな技術が発展し、電動の便利な乗り物が出現することは悪い話ではありませんが、ただ、それと同時にそれらの新たな乗り物が人々の交通安全の阻害要因になっては困ります。
いずれにせよ、ここで自転車やキックボードなどをざっと分類すると、こんな具合です。
自転車
道路交通法上は「軽車両」の扱い。免許なしで運転可能、ヘルメット着用は「努力義務」。基本的には車道走行義務があるが(1)普通自転車通行可能標識がある場合(2)車道を安全に走行することができない場合(3)運転者が①13歳未満、②70歳以上、③障害者―――などの場合は歩道走行可
電動アシスト付き自転車
いわゆるバッテリー付きの自転車。時速24㎞以上になるとアシスト機能が働かなくなるなどの厳格な要件を満たしているものについては、道路交通法上は免許なしで走行することが可能となるなど、自転車とまったく同じく軽車両の扱い
電動キックボード(最高時速6㎞までの場合)
時速6㎞以下でしか走行できない場合、「特例特定小型原動機付自転車」に該当し、16歳以上であれば運転免許不要で運転できるほか、「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識が設置されている場合には歩道走行が可能(標識がない場合に歩道走行はできない)
電動キックボード(最高時速20㎞までの場合)
時速20㎞でしか走行できない場合、「特定小型原動機付自転車」に該当し、16歳以上であれば運転免許不要で運転可能。ただし、20㎞モードで歩道を走行することはできない
モペッド(ペダル付き原動機付自転車)
バッテリー付き自転車のうち、電動アシスト自転車の要件を満たさないもの。時速20㎞までしか出せなければ「電動キックボード」に準じて「特定小型原付自転車」に該当することもあるが、市販されているモペッドの多くはこの基準を満たさず、道路交通法上は「原動機付自転車」(俗にいう「原チャリ」)となる
これらを図表化すると、こんな具合です(図表5)。
図表5 自転車等のモビリティの法的な位置づけ等
| 区分 | 法的な扱い | 免許の要否 | 通行区分 |
| 自転車 | 軽車両(自転車) | 不要 | 車道/歩道 |
| 電動アシスト自転車 | 軽車両(自転車) | 不要 | 車道/歩道 |
| 電動キックボード(6㎞) | 特例特定小型原動機付自転車 | 不要 | 車道/歩道 |
| 電動キックボード(20㎞) | 特定小型原動機付自転車 | 不要 | 車道 |
| 20㎞以上で走れるモペッド | 原動機付自転車 | 要 | 車道 |
(【出所】法令等を参考に作成)
無法地帯と化す東京の歩道
東京の街を歩いていると、最近、これらのモビリティが猛スピードで、歩道上の歩行者を縫うように走っていたり、車道の左車線を逆走していたり、信号を無視して突っ切っていったり、スマホを眺めながら運転していたり、酷い場合は大人同士が2人乗りをしていたり、と、まさに無法地帯の様相を呈しています。
当たり前でしょう。
運転免許証なしに乗れてしまうわけですから、運転免許証を持っていない(≒道路交通法規に通じていない)者たちが大挙してこれらのモビリティを使用している可能性があるからです。
著者自身が以前からしばしば提唱している通り、少なくとも電動キックボードのうち、20㎞程度の速度が出るケースについては免許を必須にするとともに、ヘルメットの着用などを義務化すべきです。
また、モペッドは多くの場合、現在の法制度で、すでに「原動機付自転車」、つまりナンバープレートを付けたうえで運転免許証を取得しなければ運転できないはずですが、ナンバープレートがないものも大変に多く、警察当局による厳格な取り締まりの強化が必要です。
ただ、電動アシスト自転車についても、とくに若い高校生などが運転すれば結構な速度が出ますが、こうした自転車についても、最低限、道路交通法などのルールは知っておくべきでしょう。
だからこそ、少なくとも16歳以上については、運転免許証でなくても良いにせよ、自転車安全講習を受講することを義務付け、その講習の受講済み証がなければ電動キックボードや電動アシスト自転車の運転をしてはならない、という制度が必要ではないでしょうか。
この自転車安全講習は学校教育のなかで、たとえば中学3年生を対象に実施する、といったことが考えられますし、また、今年からマイナ免許証が始まったことを受け、マイナンバーカードにかかる受講済み証の情報を書き込んでも良いのではないかと思います。
いずれにせよ、飲酒運転は厳罰化などの規制適正化により激減させることができたわけですから、道路の安全も規制の適正化により確保すべきではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
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「キックボードへの規制は、国家の個人への介入である」と言い出す進歩的(?)メディアが、出てくるでしょう。もっとも、ある日突然、「キックボードを規制しないのは、政府の怠慢である」と言い出すかもしれませんが。
宅配便某のリヤカー牽きながら走っとる電動アシスト自転車、リヤカー牽いとる時点で『普通自転車』の要件から外れとる筈やと思うやけど、歩道爆走すんのヤメよホンマに
まーポリさんも成績にならんのかスルーしよるし
車道逆走してくる自転車やら『一方通行(自転車除く)』で右側爆走してくんのもえーかげんにせえよ日本は軽車両も左側通行やゾ
はぁ…
基本的に、日本では
「働くクルマには寛容」
郵政や新聞配達カブは天下御免で歩道でも一方通行逆走でも、オトガメ無し。
交通安全週間のイジワル摘発も、貨物車や二種免許は見て見ぬフリ。
私用でヤンチャするのと違って、プロが生活をかけてお仕事してるのだから、そういう運用で構わない、と僕は思ってます。
不法滞在外国人の違法積載なんかは、ビシバシやればよいのですが、なぜか埼玉県警は寛容ですな。
不思議。
超働くパトカーや消防車に不寛容な『ジュシンリョー』というのもありまして....
これに関しては菅元総理の負の遺産ですね。
道路交通法を学ぶ機会が免許取得時しか無い事が問題の根のように感じます。
一般的に法律というものは、遵守が絶対で「知らなかったでは済まない」もののはずなのに、完全な知悉はほとんど不可能で求められていない。問題にあたったときに調べるで済むものも多いが、道路交通法は外を出歩く時点で関与することになる。
考えてみたら、道交法に限らず、義務教育で「法律の内容を覚える」という過程はちょっと記憶にありません。交通安全教室はよく覚えていますし、噛み砕いたルールとしての教育や、一般常識としての周知、配慮思い遣りの教育といったもので、ほとんどのものが通用するということでしょうが、キックボード問題などのように突如として現れた例外や不慣れに対しては脆弱だなぁと。
本文のように自転車安全講習は義務化で良いのではないかと思いますし、もっと踏み込んで「道交法講習」にコストを割く価値はあるのではないかと思います。なんなら免許取得は費用と実技試験を求め、座学・筆記試験は不要になるくらいまで。
どこがアウトなのかが知られていれば、違法・脱法的な乗り物がそもそも製造の前にダメだと判断されたり、購入者が違反かもと判断して見送るようになったり、世に出てしまっても今よりは安全に運行される……かもしれません。
「他国では禁止された」の理屈、グリホサートなんかでよく聞くんですが、本件については静かですねぇ。電動キックボードは実際に危険で規制は事実、グリホサートは実際には安全で禁止は半ばデマなんですが。
殆どの人が、自動車免許の更新時に交通安全協会への寄付をしますので、交通安全協会の職員が学校などに出向いて指導をするのが良い思います。
ところであのお金は何に使われているのでしょうかね。
また、第三者による監査は行われているのでしょうか?
私も、「交通安全運動や事故遺族への支援が主な使途」との説明で少額なのもあり、特に気にせず支払っていましたが、どうも警察等からの天下り先であったり、使途の内訳がイメージされる活動費よりも給与(退職金)分が多いというような話が出てから、9割近かった加入率が4割以下に激減しているそうで。本来の活動として寄付増額などせずきっちり仕事してもらうか、同様の問題が起きないであろう別の機関、方法でやった方が良いのかもしれません。
誤解であるならばその方が良いですが……公金チューチューなどと言われるものが糾されていく現状、じきに取り沙汰されるかもしれませんね。
ワイ昔住んでた県で交通安全協会に寄付拒否したら窓口のおねいさんから
チッ
っていわれたw
30年くらい前に、大型二輪の免許がようやく公認教習所で取得できるようになり、ちょうどそのころにバイク免許とりました。(普通二輪とって大型二輪へ)
そのころは、安全性の担保を盾に、免許制度を含めた改正を警察や行政がなかなか動かなかったのですが、結局、大型主体の海外メーカー(ハーレーやBMWなど)の外圧に屈するような感じで制度改正になりました。
最近の小型モビリティの普及や規制緩和の速さ、行政の対応の緩さをみると・・・何やってんだか・・・と思います。大型二輪のときは何だったのかと。
いちバイク乗りとしては、あんなもんはバイク同様に免許+ヘルメット+ナンバー取得が必須です。タイヤ小さいので不安定で怖くて乗ろうとも思いません。