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定時帰宅でトンデモ呼ばわりされた時代は過去のものに

昭和は過去になりにけり。社会常識は時代の変化とともに移ろうものです。こうしたなかで、少し前までであれば、会社で定時に退社しようとすると「トンデモ新入社員」だの「非常識」だのと批判されていたことも事実です。著者自身はタイムマネジメントができずいつまでもダラダラと会社に残る者は決してビジネスマンとして評価できないと考えている人間ですが、こうしたなか、9年前の記事を読むと、なかなかに強烈でもあります。

社会常識は変化する:新聞、テレビの事例

私たちが暮らす社会も、意外と変化が激しいもので、たった10年少々で社会の風景がガラリと変わってしまうこともよくあります。当ウェブサイトでよく取り上げるテーマに近いところでいえば、新聞を読んだり、テレビを見たりする習慣が急速に廃れていることがその典型例かもしれません。

ほんの10年少々前までであれば、職場でも学校でも、「昨日のXXテレビのXXという番組、見た?」、「今朝のXX新聞に掲載されていたXXという記事、読んだ?」といった具合に、新聞やテレビの話題が普通に人々の間で議論にのぼっていました。

あるいは、通勤電車内でも大きな新聞を器用に折りたたんで読む人もたくさん見かけました。著者自身も通勤電車内で新聞を読むせいで、毎朝、手がインクで汚れていたことをふと思い出すこともあります。

ただ、このところは「新聞がこう報じたから」、「テレビがこんな番組を流したから」、といった具合に、新聞・テレビ発の情報が人々の話題を独占することは少なくなりつつあるように思えます(例外といえばNHKが最近流した財務省のプロパガンダに騙される人がいることくらいでしょうか?)。

実際、データで見ても、新聞、テレビの影響力が(高齢層などを除き)急落していることは明らかです。図表1図表2に示すとおり、近年では若年層を中心に、新聞の購読時間やテレビ視聴時間が激減していることが、総務省の委託調査からでも明らかです。

図表1 年代別メディア利用時間(平日、2013年)

図表2 年代別メディア利用時間(平日、2023年)

(【出所】図表1、図表2ともに過年度の総務省『情報通信白書』を参考に作成)

新聞、テレビといった身近な情報媒体ですらこういう状況なのですから、働き方であったり、職場の意識であったり、といったものが大きく変わっていくのも、ある意味では当然のことかもしれません。

「おんなでありながら よく がんばってくれた」

新聞、テレビといった、当時としては社会的影響力が大変大きかった媒体ですら、現在は衰亡の危機に瀕しているわけですから、それ以外のさまざまな領域、とりわけ人々の意識などに関しても大きく変化することは間違いありません。

たとえば男女の意識に関しても、この30年あまりで大きく変化したのではないでしょうか。

株式会社エニックス(現・株式会社スクウェア・エニックス)が1990年2月に発売したゲームソフトといえば『ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち』ですが、この作品でラスボスを倒すと、世界を統べる全知全能の龍の神「マスタードラゴン」氏が女性キャラクターであるアリーナさんに対し、こう話しかけるシーンがあります。

アリーナよ。そなたも おんなでありながら よく がんばってくれた」。

現代社会でこれを口にすると、おそらく炎上することは間違いありませんが、少なくともこれが発売された1990年の時点でいえば、当時は女性が活躍することは、「女でありながらよく頑張ってくれた」と絶賛されることであり、この手の発言に違和感はなかった、ということでしょう。

なお、ファミコン関連でいえば、1988年4月に発売され、2021年5月にSwith版でリメイク・発売された『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』なども、作品が作られた1980年代における社会常識を知らなければ戸惑うことが多々あります。

たとえば主人公の探偵が事件捜査の依頼主の屋敷の固定電話に勝手に出たりするシーンや、来客・面会中にタバコを吸ったりするシーンが出てくるのですが、これらもこの令和時代だとかなり違和感のある行為であるため、この『ファミコン探偵クラブ』も「昭和時代の時代劇」と考えた方が良いのかもしれませんね。

働き方もずいぶんと変わった

さて、「社会の意識の変化」に話を戻しましょう。

現代の日本社会では人口縮小が発生し始めており、働き手不足が顕在化しつつあることを思い出しておく必要もあるかもしれません。全国各地で有効求人倍率が1倍を超えて高止まりするなか、さまざまな職場では「人手が足りない」などと悲鳴が上がっているのです。

これについては個人的に、「時代も変わったものだ」と思います。

著者自身が若かったころは、就職活動も学生が企業に出かけ、「雇ってもらう」というスタンスでしたし、就職したばかりのころは、新人は上司や先輩のデスクのあたりにいって、「何かお手伝いをすることはありませんか?」、「何か仕事をもらえませんか?」とお願いするのが一般的でした。

それをやらない人は職場で「あいつは積極性がない」などと烙印(らくいん)を押されることもありましたし、また、(会社によっては)社長や役員らが「お前たちの代わりなどいくらでもいる」などと公言することもしばしば見られた現象です。

したがって、新人たるものは仕事がなくても会社に残り、社内で上司や先輩から仕事を振ってもらい、それらをこなすことで業務経験を積み、成長していくというのが定石のようなものでしたし、先輩のタバコの煙を我慢しながら(※)仕事をもらいに行ったり、先輩と飲みに行ったりしながら仲良くなるのが当然だったのです。

(※余談ですが、いまとなっては信じられない話ですが、昔は多くの職場で自席でタバコを吸うことが許されていたのです。嫌煙家としては困った話ですが。)

余談ですが、著者自身は旅行が好きで、ときどき、会社に1週間程度の有給休暇を申請し、年末年始休暇などとつなげて海外旅行に出かける、といったことをやっていたのですが(円高で海外に行きやすかったという事情もあります)、そのときに当時の上司から、こんなことをチクッと言われたことがあります。

フツーの人は、そんな長い期間休んで海外に行かないんだけどね」。

あぁ、そうですかい。「フツーの人」じゃなくて、悪うございましたね。

思わずそう口に出てしまい、その上司との関係が険悪になったのですが、著者自身はその時点で、どうせその会社を半年後に辞めようと思っていたので、結果オーライだったというオチが付きました。

今から9年前の記事「なぜ新人は定時で帰ってしまうのか」

いずれにせよ、むかしは会社で働いている人は、「貰っている給料以上に働け」、「勤務時間が終わってもすぐに家に帰るな」、「有給休暇と年末年始休暇をつなげて長期休みを取ったりするな」、といった風潮にさらされていたことは間違いありません。

もっとも、そういう話をしても、最近の若い人から見れば、「信じられない」と思うかもしれませんが、これにはちゃんとした証拠もあります。ウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』に今から約9年前の2016年に掲載されたこんな記事が、それです。

なぜイマドキ新入社員は定時で即帰ってしまうのか

―――2016.8.10 5:00付 ダイヤモンドオンラインより

出オチですが、「なぜ定時で即帰ってしまうのか」といわれれば、「定時だから」、です。

また、「定時で即帰らない方がおかしい」、「タイムマネジメントひとつできていない上司・先輩が無能だ」、という話に過ぎません。ただ、この記事が公表された当時は、まさに「定時で即帰る」のは「非常識」であり「トンデモナイ行動」とみなされていた、ということなのでしょう。

ツッコミどころだらけで戸惑う

もちろん、現在の価値観で当時の記事を批判してもしかたがない側面はありますが、それでもこの記事にはツッコミどころだらけです。

たとえば『「何かやることはありますか?」の一言が言えない』の節にある、こんな記述がそれです。

決められた時間の中で、業務をこなす。こういったアルバイト感覚、学生感覚が抜けきっていないうちは、組織に所属しているという意識が根付くまでに時間がかかります。新入社員が『定時だから帰る』という行動は、まさにその意識の延長線上にあります」。

会社という組織の中で、自分自身のライフスタイルしか見えていない場合は当然定時という時間が来れば、帰り支度を始めることになります。場合によっては定時前に帰る支度が整っている場合もあるかもしれません」。

大変申し訳ないのですが、この記述を見るだけでも、当時の意識の異常さが垣間見えてしまいます。

当り前の話ですが、会社の従業員という立場は、(多くの場合は)単純に会社と労働契約を取り交わしているに過ぎず、その労働契約に定められた時間を超過してまで労働を提供する義務はありません。定時(あるいはその少し前)に帰り支度が整っていたからといって、批判されるべき話では全くありません。

それなのに、記事ではこんな記述が出てきます。

『何かやることはありますか?』『それ、お手伝いさせてもらえませんか?』という一言が言い出しにくい新入社員もいるでしょう。そんな葛藤から逃避しようと、定時で帰るケースも考えられます。この場合には、所属意識よりも社会人としての意識が低いと言えなくもありませんが」。

つまり、定時帰宅は「社会人としての意識が低い」、というのが、この記事の主張なのです。

ただ、驚くのはこの部分だけではありません。会社を「居場所」としてとらえるべき、などとも読める主張が出てくることです。

上司世代と若者世代の所属意識の違いは、『どこに』居場所を求めているかの違いでもあります。これは単純に自宅や実家という場所ではなく、どの居場所に所属意識を置いているかということです」。

しかしそれでは、いつまでも会社への所属意識は芽生えません。それによって人間関係が深まらず最悪の場合、居心地の悪さで仕事を辞めるリスクにつながります」。

逆に多くの時間を残業に費やしている中堅以上の社員は、所属意識だけでなく『居場所』を会社に求めている場合があります。<中略>これらは定時に帰るトンデモ新入社員とは、正反対だと言えます」。

…。

たしかにいますね、自宅に居場所がなく、会社を自分のよりどころとしている人が。

定年後に「濡れ落ち葉」と化す人は、たいていの場合、家庭を顧みず、結果的に自分の家庭に居場所を作るのに失敗しているのではないでしょうか。

記事では(会社以外に)自分のホームが存在する人は「当然、定時になれば本来のホームに帰ろうとする欲求が生まれ」、「いつまでも会社の中に残ることを良しとしない」、とする記述が出てくるのですが、それのいったい何が悪いことなのでしょうか?

「定時に帰るトンデモ新人」。

このパワーワード、現代社会で口にすれば、むしろその人こそ「トンデモビジネスマン」でしょう。

昭和は過去になりにけり

いずれにせよ、昭和は過去になりにけり、です。

土日も祝日も会社から電話が入り、平日は勤務後の飲み会で深夜まで連れ回され、社内旅行・社内運動会・社内バーベキューなどのイベントも多いという「昭和的な」職場を経験した者としては、そのようなものは「根絶すべき悪しき企業文化」としか思えません。

もちろん、仕事が楽しくてならないのであれば時間外も仕事をすれば良いと思いますし、家庭より会社の方が居心地が良いということであれば会社にいれば良いと思いますし、飲みに行きたければ飲みに行けばよいと思いますが、それを部下や後輩に強要するのはいかがなものかとおもいます。

なにより著者自身はそのような行動をとる人間について、「仕事ができる」とはみなしません。

くどいようですが、ダイヤモンドオンラインの記事自体は今から約9年前のものであり、当時はコロナ禍も発生しておらず、また、働き手不足も現在ほど顕在化していたわけではないため、現在の価値観で当時の記事を批評するのは適切ではないという点については十分に承知しているつもりです。

しかしながら、少なくとも新人を奴隷か何かのように見なして働かせることが許される時代ではないことに関してもまた間違いないといえるのではないか、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (12)

  • 私怨塗れで草
    毎度嫌味や当てこすりの質だけは毎回高いの
    性格悪いのが見えていいですね

    • あれかな?昔ブログ主さんに論破されて私怨で粘着してんのかな?可哀想に。

    • 匿名のコメント主様

      いまコメントに気付きました。

      >毎度嫌味や当てこすりの質だけは毎回高い

      過分なお褒めをいただき大変ありがとうございます。
      なんだか万が一、どこかで間違ってお会いしたならば、あなた様とは仲良くなれそうな気がします。
      といっても、実社会で接点が生じることは 絶 対 に なさそうですけどね。

      引き続きのご健筆を心の底よりお祈り申し上げておきます。

        • しかもその嫌みが多分通じてないよね、この匿名コメント主に。知的レベルが違い過ぎて。

  • 色んなことで「昭和の時代は、良かった」と言っている人がいるでしょう。

  •  1日36時間働けとか無茶をいう経営者がいたりして、しかもそういう人がもてはやされていた時代が確かにありました。

  • 昭和は過去になりにけり、のはずが現代アメリカがそうなってる気が・・・
    勤務後の飲みにケーションは無いものの上司のホームパーティで人事査定されるがアメリカ
    調べたら早く帰るために早朝から勤務開始で朝7時すぎからミーティングなど
    1995年にはとっくにアメリカの方が長時間労働になってる
    ベンチャー企業とか労働時間上限撤廃するホワイトカラーエグゼンプション制度の関係だろうか
    スティーブ・ジョブスが90時間労働を社員に求めていた話がちょくちょく出てたがこれか?

  • 20年前ならまぁ…と思って読んでいたが、9年前でこの意識という事に驚いた
    個人的に、日本の労働観はバブル崩壊、小泉政権や氷河期、つまり超絶買い手市場を経てかなり歪になったように思う

  • 私は昭和でも定時に帰っていました。従って残業時間はゼロ。ただ、定時とは就業規則に書いてある時刻でなく暗黙の定時=午後9時過ぎでした。今から考えれば超ブラックですが、昭和は外資系以外の企業はどこも同じようなものでしたね。サービス残業禁止が定着したのはつい最近のように思います。

    昭和のそのような時代を支え日本を経済大国に押し上げたのは団塊の世代であり、今になって団塊世代老人を邪魔もの扱いするのは考えものです。まぁ、本当に邪魔で手に負えない老人もいますが、大多数はコツコツと働いてきた人達ですから。

    • うちの切り替えタイミングはリーマンショックでした。
      まあ、会社に遅くまでいれば残業夕食が無料で食べれるなど
      独り者へのメリットもありました。
      ちゃんとシャワーもありましたし。