トランプ関税であらわになる「国が作り出した諸問題」

トランプ関税、米国にとっては「セルフ経済制裁」なのでしょうか?ドナルド・J・トランプ米大統領が2日に発表した「相互関税」、中国には34%、日本には24%が課せられるそうですが、早くも中国が米国に対し、34%の関税を報復で課すと発表しています。世界経済は大混乱に陥りかねませんが、その一方で日本政府も本来ならば、「国が作り出した問題」に向き合わねばなりません。

トランプ関税のインパクト

すでに大々的に報じられている通り、ドナルド・J・トランプ米大統領が日本など主要国に対し、貿易関税の導入を発表しました。

トランプ関税、狙いは世界経済秩序の再構築/2日発表の関税は、市場を動揺させたのみならず、米国など各国に景気後退をもたらす可能性も

―――2025年4月4日 07:48 JST付 WSJより

トランプ関税で市場大混乱、序章にすぎない可能性/高関税への回帰が景気後退を招くと考える投資家は、さらなる株価と債券利回りの急降下に備えよ

―――2025年4月4日 15:33 JST付 WSJより

トランプ政権が相互関税、日本24% EU20%・中国34%

―――2025年4月3日 5:32付 日本経済新聞電子版より

報道等によるとトランプ政権が課した相互関税率は▼中国34%、▼欧州連合(EU)20%、▼ベトナム46%、▼台湾32%、▼韓国25%―――などで、日本にも24%の関税が課されるそうです。

古臭い重商主義を現代社会で見ることができるとは、なんとも強烈です。

米国は世界最大の債務国…このことの意味は?

この点、経済学的にみて、米国の通貨・米ドルが基軸通貨とされ、世界中で流通しているのは、米国という国が慢性的な貿易赤字国であることとも関連しています。

貿易赤字は経済学的にみて国内の供給が需要に追い付いていないことを意味していますが、これを金融面から見たら、米国が外国からおカネを借りて外国のモノを買っている、という意味でもあります。

以前の『またもや日本が「世界最大の債権国」に=国際与信統計』でも取り上げましたが、国際決済銀行(BIS)の『国際与信統計』(CBS)によれば、米国は世界最大の債務国です(図表1)。

図表1 最終リスクベース・債権【債務国側】(全世界分・2025年9月末時点・上位10ヵ国)
債務国 債務額 構成割合
1位:米国 9兆1615億ドル 26.45%
2位:英国 2兆4452億ドル 7.06%
3位:ドイツ 1兆7587億ドル 5.08%
4位:ケイマン諸島 1兆6603億ドル 4.79%
5位:フランス 1兆5678億ドル 4.53%
6位:日本 1兆3477億ドル 3.89%
7位:イタリア 9587億ドル 2.77%
8位:中国 9233億ドル 2.67%
9位:香港 8905億ドル 2.57%
10位:ルクセンブルク 8435億ドル 2.44%
その他 13兆0735億ドル 37.75%
合計 34兆6308億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

図表1はBIS統計をもとに、国際与信、つまり国境をまたいだ銀行による資金貸付データについて、債権国側のデータを「逆引き」で集計したもので、これによると国際与信総額(34兆6308億ドル)のうちの26.45%、つまり4分の1超の9兆1615億ドルを、米国一国が借りています。

世界最大の債権国は日本だが…カナダも上位にランクイン

なお、図表2に示した元データからもわかるとおり、日本は世界最大の債権国でもあります。

図表2 最終リスクベース・債権【債権国側】(全報告国集計・2024年9月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:日本 5兆2700億ドル 15.22%
2位:英国 4兆7833億ドル 13.81%
3位:米国 4兆5908億ドル 13.26%
4位:フランス 4兆0663億ドル 11.74%
5位:カナダ 2兆7844億ドル 8.04%
6位:スペイン 2兆3584億ドル 6.81%
7位:ドイツ 2兆0384億ドル 5.89%
8位:オランダ 1兆7574億ドル 5.07%
9位:イタリア 1兆0487億ドル 3.03%
10位:スイス 8853億ドル 2.56%
その他 5兆0477億ドル 14.58%
報告国合計 34兆6308億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

ちなみに債権国側の5番目には米国の隣国であるカナダがランクインしています。

これは、いったいどういうことでしょうか。

じつは図表3に示すとおり、米国がおカネを借りている相手国のトップは日本ですが、2番目にカナダがきているのです(3番目が英国です)。カナダは金融機関の対外与信2兆7844億ドルのうち、じつに73.28%に相当する2兆0405億ドルを米国に貸し付けているわけです。

図表3 最終リスクベース・債権【債権国側】(債務国:米国・2024年9月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:日本 2兆4584億ドル 26.83%
2位:カナダ 2兆0405億ドル 22.27%
3位:英国 1兆5708億ドル 17.15%
4位:フランス 7488億ドル 8.17%
5位:スイス 4561億ドル 4.98%
6位:ドイツ 4387億ドル 4.79%
7位:オランダ 3316億ドル 3.62%
8位:スペイン 3201億ドル 3.49%
9位:豪州 1496億ドル 1.63%
10位:台湾 1215億ドル 1.33%
その他 5254億ドル 5.73%
報告国合計 9兆1615億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

これもカナダが米国と国境を接していて、カナダの銀行が米国の債務者に対しおカネを貸しやすいという事情でもあるのかもしれませんが、いずれにせよ、これが金融面から見た米国の実質的な姿なのです。

トランプ関税は明らかにセルフ経済制裁:為替ドル安もある意味当然

いずれにせよ、経済学的に見たら、米国の貿易赤字とは、「米国の国内で作れないものを米国が外国から輸入してきている」、という意味であり、それらに対して関税をかけるというのは、米国の市民が購入する外国製の生活物資の価格が上昇するという意味でもあります。

いわば、典型的なセルフ経済制裁です。

当然、米国が自分自身で米国経済を痛めつける行為を行うことの非合理性もさることながら、貨幣論的に見たら、「基軸通貨」としての米ドルの需要を押し下げることを意味しますので、トランプ関税発表後の外為市場でドルが主要国通貨に対し全面安となったのも当然のことでしょう。。

これについて経済紙であるウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が名物コラム『Heard on the Street』で、「トランプ関税が『予想外の』ドル安を招いた」として、外為市場の反応を意外視する記事を掲載しています。

トランプ関税が予想外のドル安招いた理由/関税の機械的影響より長期の成長鈍化懸念の方が重要

―――2025年4月4日 10:21 JST付 WSJより

これによるとウォールストリート関係者はトランプ関税発表のまさにその瞬間まで、「保護主義的な政策はドル相場を押し上げる」、つまり「輸入が減れば貿易赤字が縮小し、米国の外貨需要が機械的に減る」との見方を堅持していたようですが、ふたを開けてみたらドル安となり、泡を食ったようなのです。

いずれにせよ、2022年のロシアのウクライナ侵攻に続き、今度はトランプ関税という「米国発」のショックが、世界経済を再び揺さぶろうとしています。というのも、中国がさっそく、米国に対する同率の報復関税の導入を公表したからです。

China Retaliates With 34% Tariff on U.S. Goods

―――2025/04/04付 WSJより

こうした報復合戦が、世界中のそこここで発生すれば、世界のサプライチェーンは大混乱に陥りますし、場合によっては物価高騰にさらに拍車がかかるかもしれません(その最終的な影響を現時点で正確に予想するのはまだ困難ですが…)。

日本が抱える経済問題の多くは政府が作り出している

そうなってくると、日本政府としても、国民に対する経済支援が大きな課題となってくるはずです。

また、育児用の紙おむつや粉ミルクを含め、ただでさえ多くの生活用品全般に課せられる乱暴な税金である消費税の税率も高いうえに、値上がりした再エネ賦課金、高止まりするガソリン代など、私たち国民の生活を苦しめる、政府が作り出した問題は山積しています。

というよりも、現在の日本が抱える経済問題の多くは、日本国自身(日本の国会や政府など)が作り出したものだったりもします。

こうしたなかで、国民民主党の玉木雄一郎代表は4日、自公国3党の幹事長が会談を行い、「6月からガソリン価格を引き下げることで合意」したと述べました。

ただ、この玉木氏のポストから判断するに、自公国3党幹事長が合意したのは「6月からガソリン代を下げる」という方向性であって、その具体的なやり方については、おそらくは今後詳細を詰める、ということなのでしょう。

いずれにせよ、「石破自民党」は「178万円を目指して年収の壁を引き上げる」とする昨年12月の3党幹事長合意を事実上反故にした実績もあるため、正直、この合意をどこまで信頼して良いのか、という点については疑問でもあります。

その意味でも、石破自民党がどこまで国民負担の軽減に取り組むか(あるいはなにもしないか)については、今夏の参院選に向けた有権者の判断材料のひとつであることは間違いありません。

(※もっとも、宮沢洋一税調会長すら止められない石破茂首相の指導力がいかほどのものなのか、期待する価値があるといえるかどうかは別問題ですが…。)

新宿会計士:

View Comments (36)

  • 関税による米国内の物価上昇―>FRBは金利を下げにくくなるー>もしかしたら利上げも

    トランプ関税で日本国内の景気悪化―>日銀は利上げをしにくくなるー>少なくともしばらく様子見

    この2つで金利差拡大。円安というシナリオを考えていたが。

    • イギリスには10%、ブラジルも10% ヨーロッパは20% で日本は24%。そして韓国は25%。井川さんが言ってましたが、トランプさんの好き嫌いがよくわかるということです。

  • 重商主義の時代となりますと
     私掠船、敵対国船隊、武力攻撃勅許、海賊 ...
    などと不謹慎な妄想が湧いて出てしました。そしてもちろん BGM はアレです(♪)

  • トランプの頭の中では「アメリカが世界中からカモにされてる」と思ってるんだろうね。
    トランプ関税は実際に弊害があればすぐやめるだろう。
    次に何をやるかのほうが心配だ。
    NATO、日米、米韓安全保障に手をつけると言い出したら困るね。
    一期目は諫言する側近がいたけど二期目はイエスマンばかりじゃないかな。

    • 流石にこの過ちは認めて修正するでしょう。で、アメリカなり、国内の安くなったバーゲンセール中の優良株を買うべきなのだが、銭がない。今なら借金して株買っても儲かるかも。但しトランプが意固地になってると株価は戻らない。

  • >米国は世界最大の債務国…このことの意味は?

    ある意味、米国は「無敵の国」なんですよね。
    敵国条項に基づく「債務無効化!」とか・・。
    ・・・・・
    関税を原資とした補助金で、米国内での需給均衡は保持されるんじゃないのでしょうか?
    低付加価値体質の輸出過多国には厳しい状況ですね。「TPPに属さないアジアの国」とかね。

  • 例の関税率って、貿易赤字額÷輸入額÷2で、ピーター・ナヴァロが考えたと小耳に挟みました。
    クルーグマンは「報復関税じゃなく報復減税やるしかない」って言ってるそうですね。
    今後の対米交渉の方向性についての、元経産官僚の細川昌彦氏の寄稿がシンプルでよかったです。

    細川昌彦:トランプ相互関税、発動してからが交渉本番 石破首相に覚悟はあるか
    https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00142
    日本はトランプ大統領が何を戦利品としてアピールしたがるかを見定め、日米貿易協定の見直しも視野に置いた交渉に臨むべきだ。そうした決断はトップしかできない。石破首相は「下から積み上げて交渉を」と発言しているが、これでは今のトランプ政権の実態には全く意味をなさない。根本的に考えを改めるべきだ。
    ===
    *「トランプ政権なんだから、トップ同士で話すしかないんだよ。首脳会談でも逃げたろ」
    ゲル「だってできないんだもん」
    *「いいからやれ」

    自民の執行部は野党に呼びかけて救国戦線を演出しているようですが、どうせ「財源ガー」には抗えないので予備費1兆円を使ったワンショット対策がせいぜいじゃないでしょうか。

    直接関係ないですけど、安倍晋三回顧録からの引用ツイートがありましたので貼ります。
    ゼレンスキー会談の時にも思いましたけど、ご存命なら2期目トランプの"やり過ぎ"もだいぶ修正されていたのではと思います。
    https://x.com/mi2_yes/status/1908179342934556738

    • 何事も「決まるまでが交渉!」なんでしょうけどね。
      発揮されるのは石破氏の「実務・力」or「実・無力」?
      ・・・・・
      ゲル「だってできないんだもん」
      * 「You are ”Nigel” Ishiba.」
      ゲル「・・。」

      m(_ _)m

    • 買うべき喧嘩と買ってはならない喧嘩があると思います。
      劇場の経済"戦争"は買わずに済ませられるなら買わない方がマシ。トランプにお飾りのチャンピオンベルトを渡しといて実利を取ればよいのです。わざわざ進んでリングに上がる必要はないと思います。
      露の宇侵攻は買わなければならない喧嘩。
      トランプは人が尊厳を守るために命を賭けることの意味を理解できない、所詮はショーマンなのかと思いました。

      過ぎし日の日米首脳会談でのトランプ「日本にF-35を100機買わせた!」(元々中期防で買う予定だったけど)
      こういうのをやればいいんでしょうよ。だからトランプと直接よくよく話をしないと。

      • >だからトランプと直接よくよく話をしないと。

        その通りですね。
        杓子定規には、その例外たる理(コトワリ)を説けばいいのだと思うんですけどね。
        自身の器量がおぼつかなければ、代役(麻生氏)を立てるのも責任の果たし方。
        ・・・・・

        安倍氏の徳治は、八面六臂の整合力。導かれし最適解は「三方良し」
        石破氏の得治は、八方美人の迎合力。導かれし最低解は「四面楚歌」

        *比べるまでもなく・・。

    • 日本国民の心に湧き上がる映画ロッキーの旋律
       がんばれ首相、トランプに負けるな
       最終ランドまでリングで持ちこたえろ

    • 追い込まれてやるか、はじめから覚悟して機先を制して進んでやるか。
      大きな差ですね。
      どっちみちやるしかないのに。

  • 幸いなことに、自民党に報復関税を課す度胸は無いでしょうね。
    米国は世界の皇帝ということなんでしょう。
    こういう時こそ、EU、豪州、中国を除くアジア諸国と団結するチャンスです。
    各国に対米包囲網を敷く切迫した動機づけが存在するからです。
    報復関税で対抗せずに我慢比べで、マッドマン率いる米国が自滅するのを待つのいうのも一手です。
    まずは、お金を配るよりも減税で日本経済を支えることが肝要かと存じます。

  • 詳しい人がいれば、教えてください。
    トランプ大統領関税で、他国商品の米国内での競争力がなくなれば、その国は、わざわざアメリカに輸出しなくなるので、結果として、アメリカは当てにしていた関税収入がなるということでしょうか。
    蛇足ですが、今はトランプ大統領関税率が低い国でも、アメリカへの輸出が増えれば、関税率があがるということでしょうか。

    • 毎度、ばかばかしいお話を。
      トランプ大統領:「減税のために必要な金額から、関税率をきめよう」
      まさか。

    • トランプ大統領は、利害関係が矛盾する複数のビジネスを、同時にやったことがあるのでしょうか。

  • アメリカさん、つい最近まで「力に依る現状変更は許さん!」とか言ってたよね、どうしちゃったのよ。
    報復ヤッタラやり返すって、自分が先に手出しておいて理屈が通らんよね。
    アメリカさん、黙ってtppに加入し売れるモノ作って日本と共に儲けましょう。

  • 安全保障だけでなく食料や飼料などもアメリカ頼みという現状ですので、報復関税はやめたほうがいいでしょうね。トランプ大統領が譲歩する可能性があれば別ですが。セルフ経済制裁にもなりかねませんし。
    アメリカ産業の国内回帰といっても長い時間がかかります。
    アメリカ国内もトランプ関税に反対している人も多いようですので、当面様子見するしかないでしょうね。
    それよりも、中国がこの機に乗じて勢力拡大を狙っていますが、日本も勢力拡大のチャンスでもありますので、アメリカばかり気にしていないで途上国などへの外交に力を入れた頂きたいですね。

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