先日、当ウェブサイトでは「時事通信社の世論調査で若年層を中心に国民民主党が首位に立ちつつある」とする話題を取り上げました。こうしたなか、産経ニュースが24日に配信した記事でも同様に、夏の参院選の比例代表で投票する政党で、18歳から49歳までの層に限定すると、国民民主党がトップに立ちました。考えられる仮説は少なくとも3つありますが、国民民主支持層がSNS層で重税感を訴える層と重なっていることから、同党がさらに躍進するためには「年金の壁」を突破することが必要ではないでしょうか。
目次
時事通信調査で国民民主が若年層から圧倒的支持
まさに、「調査を見るたびに」、とは、こういうことをいうのでしょうか。
先日の『国民民主が時事通信の政党支持率で立憲民主に倍近い差』や『時事通信の世論調査で自民党が若年層から「総スカン」』でも取り上げましたが、時事通信社の直近世論調査(3月7日~10日実施)の政党支持率で、国民民主党が最大野党である立憲民主党を「ダブルスコア」で上回りました。
それだけではありません。
若年層に限った支持率では、18歳から29歳までの層では21.3%と自民党(6.5%)の3倍以上の支持を獲得しており(ちなみにこの年代だと立憲民主党の支持率は0.9%に過ぎません)、30代でも10.0%と自民党の8.4%、立憲民主党の1.6%を上回っているのです(図表1)。
図表1 年代別支持率(時事通信社・2025年3月分)
年代 | 国民 | 自民 | 立民 |
18~29歳 | 21.3% | 6.5% | 0.9% |
30歳代 | 10.0% | 8.4% | 1.6% |
40歳代 | 9.6% | 9.6% | 2.5% |
全体 | 8.0% | 17.9% | 4.2% |
(【出所】時事通信)
マスコミ調査は「信じられない」という不満もあるようだが…
なんとも印象的です。
とりわけ18歳から29歳までの層で、なぜここまで国民民主党の支持率が高く出ているのか、あるいは自民党に対する支持率が若年層で低くなるのはなぜか、そして立憲民主党に対する支持率がなぜここまで低いのか、といった点については、いろいろと突き詰めて考える価値がありそうな命題です。
ただし、当ウェブサイトで大手新聞社、大手テレビ局、通信社などのメディアが実施する世論調査に関する話題を取り上げると、まれに、こんな反応を見ることがあります。
「どうせマスゴミによる調査だから、偏ってるんでしょ?」
ちなみに「マスゴミ」とは「マスコミ」の「コミ」の部分を「ゴミ」に置き換えた一種のネットスラングであり、個人的にメディア報道の中には本当に「ゴミ」と呼ばれても仕方がないほどに酷いものがあることには同意しますが、すべてのメディアを十把一絡(じっぱひとから)げに「ゴミ」と決めつけるのは、いかがなものかと思います。
ただ、「マスゴミ」云々はともかくとして、メディアによる調査がときとして偏っているのではないかとの疑問を持たれるような調査結果を示すことがあることは、ある意味では仕方がない話です。
もちろん、当ウェブサイトでも一部の新聞社(敢えて名前は出しません)が実施する世論調査については敢えて意図的に話題に取り上げないようにしていたりしますが、その新聞社を除けば、基本的にはメディアが実施する世論調査については一律に否定すべきものでもないと考えています。
産経・FNNからも似たような調査結果が出てきた
では、メディア世論調査の正しさを、どうやって判断すれば良いのでしょうか。
一番簡単なやり方は、他メディアの調査も合わせて判断することです。
メディアによって世論調査の項目や報道内容が微妙に異なるため、一概に比較ができるとは限りませんが、似たような調査項目が出てくることもあります。
冒頭に取り上げた時事通信の世論調査の正確性に関していえば、産経ニュースが24日に配信したこんな記事が参考になるかもしれません。
参院選比例投票先、国民民主は18歳から40代まで首位 自民は全体首位も2割届かず
―――2025/03/24 13:00付 産経ニュースより
これは産経新聞社とFNNが22日から23日にかけて実施した世論調査で、今夏の参院選の比例代表の投票先を尋ねたところ、国民民主党が「18歳から40代までで首位に立った」、などとするものです。
記事では年代別に1位から3位までの投票先が紹介されているのですが、図表2でもわかるとおり、18歳から49歳までの層で国民民主党が投票先1位です。
図表2 参院選比例代表の投票先(産経・FNN・2025年3月分調査)
年代 | 国民 | 自民 | その他 |
18~29歳 | 19.5% | 13.1% | れ新8.2% |
30歳代 | 23.8% | 14.8% | 共産4.9% |
40歳代 | 14.8% | 12.5% | れ新11.5% |
50歳代 | 9.0% | 13.4% | れ新7.0% |
60歳代 | 8.9% | 25.8% | 立民11.1% |
70歳~ | 不明 | 28.5% | 立民16.6% |
(【出所】産経ニュース)
ちなみに70歳以上で国民民主党が「不明」となっているのは、70歳以上は3位が国民民主党ではなく日本共産党(5.6%)となっているためです。
なぜなのか―――考えられる3つの仮設
それにしても、じつに印象的な調査結果です。
こちらの産経・FNNの調査は「参院比例での投票先」であり、先ほど挙げた時事通信の「政党支持率」に関する調査とは設問そのものが異なるため、単純比較はできませんが、それでもだいたい似たような傾向が見えることは興味深い点です。
これに加え、自民党が50歳代以上で圧倒的な強さを誇っていること、最大野党であるはずの立憲民主党がもっぱら高齢層からの支持しか得ていないことも時事の調査結果と整合的です(※余談ですが、れいわ新選組や日本共産党などがジリジリと支持を伸ばしているように見受けられるのも、なんとも危機的です)。
あくまでも想像ベースですが、自民、立民といった政党が高齢層から根強い支持を得ているのと、国民民主党やれいわ新選組などが若年層を中心に支持を伸ばしているのは、大きく3つの要因があると思います。
1つめは、SNS層とオールドメディア層の対決。
2つめは、純粋な世代間対決。
3つめは、勤労層に蔓延する重税感です。
このうち一番わかりやすいのが、「世代間対決」というストーリーでしょう。
たとえば厚年にせよ健保にせよ、現在の社会保険制度は若年層から高齢層への所得移転(仕送り)という側面がありますが、現在の受益層である高齢層と現在の若年層を比べると、支払った保険料に対する「回収率」に大きな違いがあることは間違いありません。
やはり「SNS層が重税感に不満」と考えるとしっくりくる
ただ、個人的にはいたずらに世代間対決を煽るのはあまり好きではありません。
制度を作ってきたのはあくまでも政治家(と官僚)ですので、現在の受益者が払った保険料以上に不当に高額な年金などを得ているのだとしても、それを彼らの責任に帰するのは、やや酷でもあります(※といっても、もちろん、そのような政治家を選んできたという意味での責任はあるのかもしれませんが…)。
やはり当ウェブサイトで強く推したい仮説は、「SNS層仮説」と「重税感仮説」です。
昨年12月の『「税の取られ過ぎ」に気付いた国民がSNSを手にした』でも報告したとおり、昨年あたりから(オールドメディアの報道ではなく)SNSの情報が選挙の帰趨(きすう)を決めるようになり始め、こうした流れがほぼ決定的なものとなったのが11月の兵庫県知事選挙だったのだと思います。
そして、SNSには少数の「インフルエンサー」がいることも間違いない反面、SNS上の論調は誰か個人が決めているわけではなく、そこにいる無数のユーザーが総合的な意思表示の場としてSNSを利用している結果、あたかもSNSが何らかの意思を持っているかのように見えるのです。
すなわちSNSを突き動かしているものの正体とは、「国民世論」です。
ある人がインフルエンサーとなるのは、その人の主張を多くの人が支持しているからであり、逆に言えば、その人がインフルエンサーになるためには人々から支持されるような情報発信をしなければなりません。
つまり、たまたまその人の情報発信が多くの人に支持された結果、その人がインフルエンサーになるのであって、「インフルエンサー」が世論を作っているわけではないのです。
たとえば最近だと自らを「会計士だ」と名乗る怪しげなユーザーなどが、現在の税制や社会保険料率などをもとに、年収(額面や実質)と手取りの関係を計算してXなどに精力的に投稿しているようですが、こうした投稿を見て、「自分も税や社保の取られ過ぎに気付いた」と思う人が増えているのかもしれません。
SNSが高齢者に拡大すれば何が起こるか
しかし、これもその怪しい自称会計士が勝手にでっち上げた数値ではなく、一定の前提を置き、法令などに基づき、きちんと調べ上げて計算した数値です(細かい端数計算で多少、実際の数値とのズレはありますが、この点についてはご容赦ください)。
当然、SNSを使いこなす層は(現在のところは)若年層に多く、そして若年層の多くは勤労者であり、税、社保がゴッソリ奪われていることに強い不満を持っているであろうことは、容易に想像がつくところです。
逆にいえば、ネット・ユーザーが徐々に中高年層にも拡大していけば、減税を全面に押し出した政党に対する支持率が躍進することは容易に想像がつくところです。
もっとも、それと同時にすでに年金受給者になってしまっている層は、税、社保などに対する重税感がそこまでないため、(テレビが社会的影響力を失えば)立憲民主党支持者が激減していく可能性はそれなりに高い反面、自民党支持者は若年層と比べて案外減らない可能性はあります。
自民岩盤支持層は高齢層:国民民主躍進のカギでもある
ここで「重税感の壁は年金受給年齢である65歳にある」とする仮説を設けると、今後数年でSNS層は50歳代、60歳代にまで拡大すると考えられる反面、重税感に不満を持つ人は65歳を境に急激に減る可能性があり、このため、この「年金受給層」が自民党の岩盤支持層となる可能性はありそうです。
いずれにせよ、先般より議論している通り、個人的には今夏の参院選で国民民主党が比例代表で1000万票を獲得するかどうかがひとつの見どころだと考えています。
もし国民民主党が比例で1000万票を超える票を得るようであれば、改選後議席数で見ても自公がギリギリ過半数を割り込む可能性が出てきます(※この場合、議席を減らすのは自公だけでなく立憲民主党も同様です)。
しかし、「65歳の壁」、あるいは「年金の壁」仮説が正しければ、国民民主党が比例で1000万票を獲得するのは依然として難しい、と見るのが適切かもしれません。こうした仮説が正しければ、国民民主党が躍進するためには、同党が「年収の壁」を乗り越える公約を出せるかどうかにも依存することになりそうです。
いずれにせよ、今夏の参院選まで残すところあと4ヵ月ですが(※それまでの間に東京都議選もあります)、果たして自民党がどこまで盛り返せるか(あるいは盛り返せないか)も含め、注目すべき点はいろいろとありそうだと思う次第です。
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政治とは未来を選ぶこと。自民党では安心して歳をとることはできない。
そんな判断が引退予備軍たる中高齢層に広がったら、そんな政党は二度と立ち直れない。
社会制度が「より長く働く」「高収入高齢者」にとりわけ辛く当たるようになっているのは大問題と考えます。
>> すでに年金受給者になってしまっている層は、税、社保などに対する重税感がそこまでないため
→重税感が無いからこそ、現役世代が幾ら重税に喘ごうが俺達の知ったこっちゃない若い頃は沢山働いてきた年金寄越せ医療費下げろタダにしろの声が当該世代のSNSの主流を占めたりして。
逆ピラミッド形をしている人口構成が何を意味しているか。
職場が「逆椅子取りゲーム」になってしまうのです。
皆で分担し合いながら支え合いながらものごとを進めることは、昔は現実にできた。でも今はそうでなく「誰かがババ札を掴まされる」役回りになりがちである。勤労世代がうちに抱える怒りの本質はこうゆうことです。複業人生を可能にする職能開発、終身教育制度の充実で乗り切るほかないでしょう。伸びしろのある人材を人財化する社会体制社会構造のことを言っています。
年金:
たいして払っていないのにいっぱいもらってる人はそろそろいなくなってるんじゃないかな。
今もらってる人は払った分をかろうじて取り返せそうな人。
これからもらう人は払った分を取り返せない人。
私が若いころ年金は「払わない人(保険料を)はもらえない」「多く払った人、長く払った人は多くもらえる」と教えられた。
それが3号被保険者(専業主婦)の制度導入で「払わなくてももらえる人」が現れた。
一種の強制貯蓄だったのが「世代間の助け合い」などと言う政治家がちらほら現れた。
23日投開票の静岡市議選では、葵区で国民民主党の女性候補が2位にダブルスコア、清水区でも2位に1.5倍の差をつけてトップ当選しました。葵区の候補は最下位当選者の4倍の得票ですから、1人で4議席分の票を集めたという結果です。でも議席は1です。前回、衆院選では国民民主党は候補が足りずにせっかくの得票を無駄にしました。次回国政選挙(参院だけかダブル選挙か)で国民民主は得票に見合う候補を擁立できるでしょうか。かといって身元調査もせずに公認すると、当選しても党の足を引っ張るだけの人物も出てきそうです。注目しています。
国民民主党が積極的に選ばれている面はありますが、それだけでは躍進の説明がつきません。
敵失で、政策的に本来は刺さらない子育て主婦層などのアンチ与党の受け皿になり、そうは言っても弱小だから何も出来まいという、致命的な弱点を克服してしまったからではないでしょうか。
現役世代の、俺たちはお前らのATMじゃないんだぞという怒りを知ることになるでしょう。
国民民主専門ネタというわけではないですが、選挙関連の動画chのご紹介。
戸田市長選の頃から、リコメンドに入るようになって時々見ています。
ゆかいな議事録【選挙・政治ch】
https://youtu.be/ZFwvHZTyoR4
「選挙オタク」を自称する個人のchです。地方選など毎週毎週、夥しい数の選挙が行われていますが、ほとんど全ての選挙を対象に、事前の状況解説・結果解説を毎週発信しています。
地方選など選挙区特有の事情は様々で投票結果を見ただけではよくわかりませんが、これらの選挙区の事情を結構細かく取材・分析しているところ、そこから出てくる各党の思惑や内情などが透けて見えるところが面白いです。
年末年始頃までに傾向として明らかになったのは、国民民主も地方選は強いのだけど、他の野党と相乗りするとダメってあたりでした。
参院選などの国政選挙の分析に向けた補助線としては大いに役に立つと思います。
話は変わって最近の玉木氏、表現規制とか乳酸菌の効果とかで怪しい発言を続けてますが、世論とよく対話して方針を修正するサイクルを回せればいいんでしょうけどね。
「お調子者」の面が吉と出るように生かせるか。(笑)
国民民主は、立民、連合とともに、"King of パワハラ"を支援するらしい。
https://mainichi.jp/articles/20250324/k00/00m/010/237000c
投票者の熱量もばかにならないと思います。
最初にトランプ候補が大統領になった時も、
マイケルムーアは民主党と共和党の支持者で熱量の差を感じ
民主党が負けると予言していました。
候補者の数にもよりますが地滑り的大勝はあり得ると思います。自民党は文字通り「家で寝ていてくれ」状態でしょう。