著者自身の理解に基づけば、飲食業の本質は、「おいしくて安全で栄養のある食品をリーズナブルな価格で消費者に届けること」にありますが、もしも「おいしくて」「安全で」「栄養のある」の部分に欠陥があったら、その店はおそらくあっという間に潰れてしまいます。メディアの役割も「正確な情報を迅速に提供すること」にあるはずですが、そのメディアが「有害な情報」を垂れ流していれば、ダメな飲食店と同じ末路をたどるように思えてなりません。
目次
安くておいしい弁当屋は専門性の塊
どうしてそんな簡単なこともわからないのか―――。
著者自身、いつも不思議に思うことがあるとしたら、「優れた製品を適正な価格で提供する企業は高く評価され、そうでない企業は評価されない」というごく基本的な原理を理解していない人たちが世の中には多すぎやしないか、という点です。
これについては、どの街にもあるであろう「名店」を思い浮かべると、何となくわかるかもしれません。
たとえば、著者自身が暮らしている街には、安くておいしい弁当屋があります。
この弁当屋、昨今の物価高の影響もあり、さすがに最近、多少の値上げを余儀なくされたものの、それでも「本日の弁当」が600円、「唐揚げ弁当」が550円、おにぎり1個130~160円、といった具合です。このご時世に照らし、価格設定は非常に良心的です。
(※というか、このように良質な店には潰れてほしくないので、むしろもう少し値上げしていただいても良いのではないか、とすら思う次第です。)
その一方で、「こだわりの弁当屋」、「こだわりのラーメン屋」といった具合に、ちょっと凝った店が出店することもあるのですが、多くの店は数年以内には撤退していきます。
これについてはさまざまな分析がありますが、著者自身はやはり、「専門性」が大事だと思います。
「専門性」というと、公認会計士や医師、弁護士といった「専門職」の人に関わるスキルだ、と思う人もいるかもしれませんが、それは正しくありません。くだんの「安くてうまい」弁当屋に関していえば、「弁当を安くてうまく作る専門家」だ、という言い方もできるからです。
凄い量の工夫とノウハウ…簡単にマネできない
じつは、この評判の良い弁当屋の関係者の方と話をしたことがあるのですが、話を聞けば聞くほど、「これはマネでいないなぁ…」と思わざるを得なくなりました。というのも、仕入れから調理、料理を店頭に並べるまでの流れに至るまで、工夫とノウハウの塊だからです。
この弁当屋、著者が知る限り、少なくとも同じ場所で30年以上事業を営んでおり、べつに宣伝などをしているわけでもないのに、昼休みの時間帯には自然と店の前に長蛇の列ができるなどの大繁盛ぶりです。
ですが、列は長いわりに会計をしてから商品を渡されるまでの時間が短いためか、すぐに自分の順番が回ってきます。注文を伝え、おカネを払ったら、すぐに商品が出てくるのですが、弁当は客の注文を受けてからご飯を盛り付けるため、ご飯はホカホカです。
おそらく店員さん同士の連携も手慣れたものなのでしょう。
唯一残念な点があるとしたら、このおいしい弁当屋が支店展開などを行っていない点ですが、これについては今後を期待したいところです。
趣味の蕎麦打ちとハンバーガーチェーン店の違い
いずれにせよ、レストランや弁当屋といった飲食関係の場合、「おいしく作る」ことと「安く作る」ことを、どうやって両立するかが大きな問題です。
よく、「蕎麦打ちを趣味とする会社員が家族や友人に自分で打った蕎麦を振る舞い、評判が良かったことに気を良くして会社を退職し、自分で蕎麦屋さんを始めてしまう」といった話を耳にしますが、そのような店の経営は、決してうまくいかないことが多いようです。
趣味で蕎麦打ちをしてそれを友人など知り合いに振る舞うのと、商売で蕎麦打ちし、それを不特定多数の客に有料で食べさせるのとでは、勝手が全く違うからです。
その意味では、当ウェブサイトの読者の皆様方も生涯で一度や二度は食べたことがあるであろう世界的な某ハンバーガーチェーン店の食事も、すごいノウハウの塊だと思わざるを得ません。通常、私たち個人がこうした料理を作ることはできないからです。
同チェーン店はハンバーガーに使うビーフパティ、あるいはポテトフライに使用するポテトなどを一貫して生産しており、厳密な品質管理の下で世界各地にそれらを輸出しているのだそうです。
世界中に届けられるポテトは広大な砂漠の丸い畑で育まれる
「マックフライポテト®」用のじゃがいもを作る、アメリカの農家さんにインタビュー
―――2023.1.30付 マクド・ナルド社ウェブサイトより
同ハンバーガーチェーン店で買えば数百円というレベルですが、私たち一般人がスーパーマーケットなどでこれらの材料を購入するなどし、自宅でこれを再現しようとしても、おそらく「数百円」でこれとまったく同じ味を実現することは難しいでしょう。ノウハウの塊だからです。
このように考えていくと、牛丼で有名な某チェーン店、フライドチキンで有名な某チェーン店、あるいは回転ずしチェーン店や某ファミリーレストランチェーン店などの事例は、いずれも「万人受けするおいしい料理」を「リーズナブルな価格で提供する」ということに特化していると断じて良いでしょう。
材料費、人件費、お店の賃料や水道光熱費、器具工具備品類の減価償却費などを負担しつつ、お客様に満足してもらいながらしっかり利益ををたたき出すというのは、並大抵の努力でできることではありません。
回転ずし大手が安全と衛生に拘った理由
すなわち(著者自身の理解に基づけば)飲食業の本質は、「おいしくて安全で栄養のある食品をリーズナブルな価格で消費者に届けること」にありますが、もしも「おいしくて」「安全で」「栄養のある」の部分に欠陥があったら、その店はおそらくあっという間に潰れてしまうでしょう。
数年前、著名回転ずしチェーン店において、醤油さしを鼻に突っ込んだり、レーン上を回っている寿司に唾液をつけたりするなどの悪戯を行う様子をSNSにアップロードしたとして、当時高校生だった人物が刑事、民事両面で厳しい責任を問われるという事件がありました。
実際、現在その回転ずしチェーン店にでかけるとわかりますが、その店では寿司はレーンを回っておらず、注文したら注文品だけが自席に届けられる、という仕組みに変わりました。悪戯がチェーン店全体の運営を大きく変えてしまったという事例でしょう。
なぜこのチェーン店がそこまでの対応をしたのかといえば、飲食業では「おいしくて安全で栄養のある食品」という要件を満たすことが大事であるだけでなく、その基本的な点で人々の信頼を損ねたら、チェーン店全体の風評にも関わるからではないでしょうか。
あれれ?オールドメディアは大丈夫ですか?
こうした文脈でとらえていくと、飲食業の「人々の胃袋を満足させつつ利益を出す」ことがいかに大変であるか、という点もさることながら、飲食業以外の産業では、こうした「人々を満足させつつ利益を出す」ことがまったくできていない産業というものも存在することに気づきます。
そのひとつが、メディアではないでしょうか。
ネット上でX(旧ツイッター)に代表されるSNS、ブログ、匿名掲示板、ニューズサイトなどが多数出現するなかで、旧態依然とした情報を垂れ流している新聞、テレビを眺めていると、なんとも疑問を抱かざるを得ません。
その典型例のひとつがあるとしたら、昨年11月の兵庫県知事選で斎藤元彦氏(※県知事に再選)を批判したオールドメディアかもしれません。これに関しては『神戸経済ニュース』編集長の山本学氏が、非常に本質を突いた内容を、Xにポストしています。
『神戸経済ニュース相場班』名義でポストされた内容ですが、「粗悪品を売りつけられた消費者の次の行動」のくだりに、現在のメディアの問題点が端的に凝縮されています。
新聞、テレビの「売り」といえば、そのひとつは、(これも著者の理解ですが)「正確な情報を迅速に提供すること」にあるはずです。
ところが、新聞やテレビの情報はときとして不正確であるだけでなく、私たち有権者の投票行動を不当にゆがめるという意味では、ときとして有害ですらあります。飲食店にたとえていえば、原材料または調理法がおかしく、明らかに人体に有害な料理が出てくるようなものです。
有害な情報を垂れ流す新聞社やテレビ局の存在意義
こうしたなかで紹介しておきたいのが、とある地方紙がXにポストした記事に対して提案されているコミュニティノートです。
現時点でノート内容は確定していないため、具体的なポストを特定するのは控えますが、福島県で甲状腺癌が増えている理由については(福島原発の事故が原因なのではなく)いわゆる「過剰診断」が原因であると指摘するものです。
つまり、某地方紙が東電福島原発事故を契機に甲状腺癌の発生が増えたかの記事を掲載したところ、その記事の誤りを指摘するノートが提案されている、ということですが、これも新聞、テレビといったオールドメディアの「権威」が日々、剥落していることを示すエピソードといえるかもしれません。
いずれにせよ、新聞、テレビを日常的に目にする人は、高齢層を中心に依然として多いのが実情であるとはいえ、スマートフォンがなければ生活が成り立たない世の中になりつつあることは、ごく近い将来、オールドメディアを愛好する層が社会から消滅することを示唆しています。
こうしたなかで、「有害な料理」を提供するレストランチェーン店の経営が成り立たないのとまったく同様、「有害な情報」を垂れ流すオールドメディアも、やがて「有害な料理」を提供するレストランとまったく同じ運命をたどるのではないか、などと思う次第です。
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某マクド社のポテトは、揚げる前にこれでもかと水にさらして中のデンプンやら何やらを洗い流すので、あんなにサクサクなのだと聞いたことがあります。
今朝五時に公開された読売新聞社説が香ばしい
「俺たちの言葉を盗むな」「高級なんだ」とでも言いたいんでしょうかね
マネを出来ない、していられない→お金を払って解決する、というのが商売の根本ですね。是非お金を払いたい!という状態が理想。そして新聞もTV放送も、素人にはとてもマネできない専門性の塊です。……かつては。
今では素人でも出来るどころか子どもにだって可能になってしまいました。これほどまでに"マネできない"が崩れ去った業種は他に無いのではないでしょうか。"していられない"にしたって、数多の人が暇つぶしに情報拡散する事で出来てしまっている部分すらある。
彼らが凋落したのは、毒を盛った事は大きいにせよ、誰でも出来てしまうようになった事と、それに気付きもせずに只々ふんぞりかえっていた事も大きいのではないかと思う次第です。せっかくのデータ通信の導入でやったことが「しょぼい4択」や「じゃんけん」とかねぇ……
というかこれらを業界揃って全部実行するって逆に難しそうなもんですが……それだけ圧倒的優位だったんでしょうね。