北欧の宅配事業者である「ポストノルド」社が7日までに、2025年12月30日をもってデンマーク国内における手紙の配達事業を終了すると発表したようです。デンマークでは2000年と比べ、手紙の郵便量が10分の1以下に減ったのだそうですが、それにしても思い切った変革です。そういえば、日本でも年賀状は年々急減していますし、企業間の手紙(請求書など)も電子化が進み、いわゆる「日本版ペポル」の規格策定作業も進行しているようです。
目次
年賀状の激減:はがき代値上げと「年賀状じまい」
年初の『年賀状の元日配達数が昨年と比べて「3分の2」に減少』でも取り上げたとおり、日本郵政が1月1日に公表した『2025(令和7)年年賀郵便物元日配達物数』と題する資料によると、2025年元日に配られた年賀郵便物数は4.91億通と、昨年の7.43億通からさらに激減しました。
減少率でいえば34%、つまり粗い計算ですが、ざっと3分の1が「年賀状じまい」をした、ということです。
なぜここまで急激に年賀状配達数が落ち込んだのでしょうか。
これも繰り返しになりますが、大きな理由として指摘されているのは昨年10月1日の郵便料金の値上げです。
84円ないし94円だった定形郵便物は110円に、63円だったはがきは85円に、それぞれ値上げされたほか、レターパックプラスは520円から600円に、レターパックライトは370円から430円に改定されるなどしています。
ただ、それと同時にもうひとつ忘れてはならないのが、たとえば年賀はがきの当初発行枚数や元日の配達数は、すでに右肩下がりで減り続けている、ということでしょう。
年賀状発行枚数は最盛期比4分の1以下に!
図表は、日本郵政のウェブサイト等のデータをもとに、年賀状などの発行枚数(2003年以降)や元日の配達物数(2007年以降)についてグラフ化したものです。
図表 年賀はがきの当初発行枚数や年賀郵便物元日配達物数の状況
(【出所】日本郵便ウェブサイト等の発表をもとに作成)
データの範囲が少し異なっていて、若干ヘンテコなグラフですが、ご容赦ください。
このうち当初発行枚数については、2004年の44.5億枚をピークに(年による若干の変動はありつつも)おおむね減り続けていて、とくに2021年は19.4億枚で前年比4.1億枚減、2025年は10.7億枚で前年比3.7億枚減、と、それぞれ前年比4億枚前後減っています。
いまや、最盛期の2004年と比べて4分の1以下にまで減ってしまったわけですが、それだけではありません。
2021年はコロナ禍、2025年は郵便料金値上げという要因があったのかもしれませんが、ただ、2017年以降は2020年を除いて毎年1億枚以上のペースで減少が続いている事実は見逃せません。ということは、もしも来年以降も2億枚ずつ減っていけば、5年後に年賀はがきは消滅してしまうかもしれません。
また、年賀郵便物の元日配達数が年賀はがき当初発行枚数よりも少ない理由は、単純に、年賀はがきは元日以外にも配達されるから、ということだと思います。年賀状については、自分から積極的に送る場合と、相手から届いたら返信する場合とがあるはずです。
このままだとあと5年後に「元日の年賀状」は消滅か?
ただ、この元日配達数についても、とくに2018年以降は毎年1億枚以上ずつ減っており、4.9億枚だった2025年から、翌年以降も毎年1億枚ずつ減り続ければ、やはり5年以内に年賀状という慣習は廃れてしまう、という可能性が出てきます。
もちろん、世の中には(まだ少数ながら)スマートフォンを持っていない人もいますし、年1回の年賀状のやり取りを楽しみにしているという人もいるでしょうから、年賀状の配達数が毎年1億枚ずつ減るに違いない、などときめつけるのは少し尚早かもしれません。
ただ、それと同時に、現代社会においてメール、LINE、iMessageなどのネット・コミュニケーション・ツールを今までまったく使ったことがない、という人は、かなりの少数派になりつつあるでしょう。
たとえば今から5年後も、年賀状配達が終了してしまうかもしれません。
いや、正確にいえば、年賀状という名目に限らず、手紙のやり取り自体は続くかもしれませんが、少なくとも「元日に年賀状をガサっと届ける」、といった習慣はなくなってしまうかもしれません。郵便局自体もそんなサービスをやめてしまうかもしれないからです。
見過ごせない個人情報保護法の影響
ちなみになぜ、年賀状については発行枚数、配達数ともに減っているのか、に関しては、いちばんわかりやすい説明が「社会のネット化」ですが、著者自身はこの「社会のネット化」だけではなく、ほかにいくつかの要因があると考えています。
その最たるものが、2003年に成立した個人情報保護法です。
この法律の施行により、個人情報の取り扱いは、きわめて機微なものとなりました。
かつては学校のクラス名簿、卒業生名簿、サークルの名簿、ゼミの名簿、職場の部署の名簿などが作成・配布され、そこには住所、氏名、電話番号、ときとして保護者氏名や家族構成など、本当にさまざまな情報が掲載されていました。
シンガーソングライターの嘉門タツオさんの1991年の楽曲『バイバイスクールデイズ』には、「生徒名簿」で「君の住所に電話」し、「お父さんの名前まで覚えてた」、といった歌詞が出てきますが、逆にいえば、1991年当時は小・中・高等学校で保護者氏名入りの全校生徒の名簿が一般に作成・配布されていた、ということです。
今だと考えられません。
小学校のPTA活動もLINEやアプリなどでの連絡が通常の世の中ですし、少なくとも(子供同士がよっぽど仲良しで、お互いの自宅に行き来している、などの事情でもない限りは)相手の住所を知らないことが一般的でしょう。
また、多くの会社では同僚、上司、部下などの自宅住所などを知らない、というケースが多いはずであり、知っていてもせいぜい相手の携帯番号くらいでしょう(というか、近年はそもそも固定電話を持たない家庭も増えています)。
つまり、現代人は、進学、進級、就職、人事異動などに伴い、新たに人間関係が出来上がったとしても、その新たに知り合いとなった相手の住所を知らないことが一般化しており、必然的に、年賀状を送る相手も減ってくるのです。
年賀状は、相手の住所を知らなければ送れないからです。
敢えて住所交換するとしたら、「結婚して親戚になった」、「結婚式に呼べるほど仲良くなり、招待状を送るために相手の住所を交換した」、「職場の上司・同僚・部下が急病死して通夜や葬儀に参列した」、といった事例に限られてくるのではないでしょうか。
いずれにせよ、個人情報保護の観点から、現代人は滅多なことでは相手の住所を知ることがなく、したがって、「住所を知っている相手」というものが年々減っていくわけです。年賀状のやり取りが減るのは必然ともいえるのかもしれません。
企業間での請求書のやり取りも減少…日本版ペポルの動向も気になる
ただ、それだけではありません。
ビジネスを営んでいる方ならばおわかりかもしれませんが、近年は請求書、領収書のたぐいについても、書面でのやり取りが急減しています。著者自身の体感だと、紙ベースで請求書を発行する事例は全体の3割程度であり、7割程度は請求書をPDF化したものをメールで送る、というパターンに移行しています。
さらに、近年だとペポル(Peppol)と呼ばれるデジタルインボイスの世界規格の存在が知られており、わが国でもデジタル庁などで、電子インボイスないし電子請求書(いわゆる日本版ペポル)の策定作業が進んでいて、ゆくゆくは請求書のやり取り等はすべてこの日本版ペポルでなされるとの予測もあるようです。
もちろん、日本版ペポルについてはその利便性なども重要であろうと考えられますが、ペポルインボイスが消費税法上の適格インボイスとして認められるなどすれば、ケースによっては一気にこれが普及し、紙ベースの請求書ないし領収書が消滅するかもしれません。
デンマークではついに手紙配達事業が終了
そして、こうした社会のデジタル化がさらに進んだ社会では、もっと衝撃的な「事件」も生じたようです。
PostNord will deliver its final letter at the end of 2025: Here’s what it means for you
PostNord will deliver its final letter in Denmark at the end of 2025 and focus its business on one core service from 2026: Parcels. Our goal is to become the Danes’ preferred parcel courier. We want to be the very best where Danes need us – and that’s in parcels.<<…続きを読む>>
―――PostNordウェブサイトより(公表日時不明)
北欧のスウェーデン、デンマーク両政府が保有する宅配業者『ポストノルド』は3月7日までに、同社が2025年末をもってデンマークにおける手紙配達事業を終了すると発表しました。
同社によると2024年におけるデンマーク国内の手紙配達数量が2000年と比べ90%以上減少したとしており、事業を整理・統合する観点から、国内の1500箇所の「メールボックス」(「郵便ポスト」の意味でしょうか?)については今年6月から12月にかけて順次撤去される、としています。
これに加えて2024年から25年までに販売された「郵便ラベル」(切手のようなものでしょうか?)についても、使用されなかった場合は2026年中に返金に応じるとし、最後の配達は2025年12月30日におこなわれる、などと記載されています。
なんだか、他人事には思えません。
一抹の寂しさも…これも時代の流れか
もちろん、現在の日本にデンマークと同じことができるわけではありません。上述の通り、現状ではまだ紙ベースでの請求書等のやり取りが残っているからです。
しかし、将来的に日本版ペポル規格が完成・普及してデジタルインボイス化していけば、そもそも物理的に紙を送るという必要性は削減されていきますし、年賀状の減少にもみられるとおり、近況を手紙にしたためて相手に送るという文化自体が廃れていく可能性が濃厚です。
このあたり、1990年代前半からメールを使用するなど、インターネットの恩恵をフルに享受してきた著者からすれば、紙媒体を人海戦術で全国津々浦々に送るという行為自体がいずれなくなるだろうという思いもある一方で、一抹の寂しさもあります。
年1回くらい、手書きの文字で相手に近況を報告し合う文化があっても良いとは思うものの、やはり時代の流れには逆らえないものなのかもしれません。
ただ、年賀状を送るのをやめたとしても、旧友や高齢の親戚などとは、年1回くらい、近所に住んでいるならば飲み会をしても良いでしょうし、遠方に暮らしているなら電話の1本でも入れてみてもよいのかもしれない、などと思う次第です。
View Comments (6)
手紙配達事業が終了したデンマークで、今後、形を変えてかもしれませんが、手紙配達事業が復活するかどうかで、この事業が必要とされていたかが、分かるのではないでしょうか。(もちろん、これまで惰性で、この事業が続いてきたという結果になるかもしれませんが)
>デンマークにおける手紙配達事業を終了すると発表しました
おそらく今後は民間の業者(あのあたりだとDHLかな)がやるんだろうね。内容証明、送達証明などはどうするんだろう。
ロイヤルメールがチェコの富豪に買収されてしまいました、南無
>紙ベースでの請求書等のやり取り
我が家庭での郵便で来る請求書は何だろうと考えてみました。
税金→自動引き落としの連絡(郵便)→自動引き落とし
水道→検針員による直接メーター検針(検針票がポストに投函)→銀行引き落とし
電気も・・・じゃなく、これ自動検針になって明細はネットで確認、自動引き落とし
スマフォ→明細はネット、自動引き落とし
各種card払い→明細はネット、自動引き落とし
あれ?いつの間にか、紙ベースでの請求書が届いているのが少ないです。
もしかして税金関係くらいかも。
北欧は率先して社会実験やってくれるから助かるな。
民間業者が配達を実施するのかしらん。
郵便配達は近代国家のマストアイテム。
裁判所に出頭しろとか徴兵のお知らせとか徴税のお知らせをやるために必要な側面があって捨てられない。
スマホで代わりになるかな。老眼の人はスマホなんて捨てちゃうけど。