一連の「年収の壁」騒動で明らかになったのは、SNSの社会的影響力の高まりです。自公国3党の協議は、おもに国民民主党側が議論の流れを随時SNSに流したことで、3党協議の内容はネットを通じて透明化したのではないでしょうか。こうしたなか、とある新聞記事が今国会の議論のあり方を批判しているようなのですが、基本的には同意できません。
メチャクチャな4枚の壁
今国会、少数政党である国民民主党が提唱した「年収の壁を引き上げる」、「手取りを増やす」が実現するのかと期待したものの、ふたを開けてみたら「新たな壁が4枚」という、ハチャメチャで支離滅裂な代物が出てきて脱力している有権者は多いのではないかと思います。
自公案の内容はすでに『基礎控除「4枚の壁」案に専門家も批判…維新は迷走か』などでも取り上げたとおり、減税効果は極めて低いだけでなく、基礎控除を年収階層に応じて複雑に分類するという代物で、公平、中立、簡素という税の3大原則からどれも著しく逸脱するものです。
こんなメチャクチャな案、「アベノミクス」を掲げた故・安倍晋三総理大臣がご存命なら、おそらくは激怒していたでしょうし、同じアベノミクスを掲げた政党がやることとも思えません。
自民党は伝統的に「改憲」、「小さな政府」などを是とする中間層、富裕層などから支持を集めてきたはずですが(※著者私見)、さすがに今回のメチャクチャな「4枚の壁」案を受け、「岩盤保守層」を中心に、自民党に失望する人が激増しても仕方がないでしょう。
議論がSNSで透明化
ただ、一連の「年収の壁」協議で良かったことがひとつあるとしたら、税制という私たち国民の生活にも極めて大きな影響を与える論点を巡って、議論が表面化したことにあります。
これにはもちろん、社会のSNS化、ネット化の進展に加え、オールドメディア、とりわけ新聞とテレビの社会的影響力の減退という背景は見逃せません。従来であれば新聞、テレビなどが「報道しない自由」を駆使して葬り去ることができていた官僚に対する反対意見も、SNSであっという間に拡散するようになったからです。
たとえば、今回の「宮沢案」を巡っても、国民民主側が投げた「年収の壁を103万円から178万円に拡大する」は、これに対し宮沢税調側が昨年12月時点で「(178万円ではなく)123万円」という球を投げ返してきたことが、SNSを通じて最初から拡散。
しかもネットの記憶効果も非常に高く、宮沢税調がこの案を2ヵ月たなざらしにしたうえで、あらたに150万円案を持ってきて、それに公明党が調整を加えてあの「4枚の壁」案が形成されるところまで、有権者はあますとこなくしっかりと見つめていました。
その意味では、まさに議論のオープン化が、昨年衆院選以降で大きく進んだところでしょう。
新聞記事が3党協議などを批判
こうしたなかで、ちょっとおもしろいと思ったのが、こんな記事です。
少数与党、最大関門を突破 野党へ譲歩重ね…財源後回し「完全なポピュリズム政治」
―――2025/03/05 12:42付 Yahoo!ニュースより【西日本新聞配信】
西日本新聞が5日付で配信した記事ですが、冒頭の記述が、これです。
「少数与党の石破茂政権は、2025年度予算案の衆院通過で今国会最大の関門をくぐり抜けた。高校授業料無償化や『年収の壁』引き上げを巡る日本維新の会や国民民主党との協議は泥縄状態。財源論は影を潜め、減税や歳出拡大で人気を競い合う『ポピュリズム』(大衆迎合主義)の様相に。非公開の協議は透明性も欠き、検証不能な『熟議の国会』となった」。
ほとんど同意できません。ここまで同意できない文章も珍しい、というくらいに、本当に正鵠を射ていないからです。
与党側の「年収の壁」や「高校無償化」(?)を巡る国民民主、日本維新の会両党との協議に関しては、少なくとも自公国のものについては先ほど述べたとおり、おもに国民民主党側がXなどにて随時、協議の模様を流していたため、透明性が極めて高かったことは間違いありません。
また、「財源論が影を潜め」、とありますが、これは自公維が合意した「高校無償化」という名の税負担化に関して述べているのであれば正しいといえるものの、その一方で、少なくとも国民民主党が主張した「年収の壁引き上げ」は単なる「税の過剰徴収の是正」であり、財源は関係ありません。
そして、議論という意味では、たとえば自公国3党協議に参加している当事者のうち、とりわけ国民民主党の玉木雄一郎代表あたりは、(※3党協議中は代表権限停止中でしたが、)SNSなどを通じて積極的に情報を発信し、有権者との対話に勤めているフシが見られます。
新聞・テレビもアップデートが必要な時代
このあたり、新聞記者の皆さんも、そろそろ、時代の変化に追いつくべく、情報のアップデートを行った方が良いのではないでしょうか。
先日発売されたオピニオン誌『月刊WiLL』2025年4月号でも指摘したとおり、フジテレビからCMを引き上げた会社の多くはSNSでの炎上を懸念していたとされるなか、テレビ局ですらネットに負ける時代が到来したわけだ、という言い方もできます。
新聞、テレビなどのオールドメディア側も、いい加減、官僚機構が垂れ流す言い分を盲信するのではなく、自分で経済理論に照らして日本政府が税金を取り過ぎていることを理解すべきではないか、などと思う次第です。
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今回の「壁」の変移について。
財務省内担当部署とカウンターパートの自民党インナーは、財務省にとっての影響度の少ないあわよくば焼け太り&国会で過半数を取れそうな対応策を何度も何度も何度も何度も検討していたと推察します。
この辺りのところは、中の人がオープンにしないので未だ闇の中。
そこまで踏み込めると良いのですが、まだ造反者は出てはいないですね。
ポピュリズムって別に一概に悪い意味だけの言葉ではないのですが。為政者と大衆とが向き合い熱心に参画する政治だってポピュリズムです。……あぁ、まぁ新聞屋さんはそんなモン望んじゃいませんわな?
ポピュリズムを衆愚政治のことだと言いたいのはわかりますが。SNS時代は、国民が賢ければ衆愚政治すら抑えられると思いますよ。……あぁ、まぁ新聞屋さんは大衆は常にバカだと思っているしバカでいてほしいんでしょうけどね?
現に、聞こえの良いだけの甘言を弄する政党は大きくは支持されずツッコまれたりしています。れいわや参政、保守など。勿論一定数は考え方が刺さったり、良い政策だと信じている方も居るでしょうが。発信も自由だが反論も自由という素晴らしい土台故の拮抗力が働いていますね。
そもそもそのポピュリズムを使って民主政権を誕生させたのは
誰だと突っ込みたくなりますね。
財務省が改革されてしまったら、「日本は借金だらけ!」論がいよいよ本当に
使えなくなってしまう。それはオールドメディアには何としても避けたい自体でしょう。
昔に比べれば随分マレになったとは言えど、どれほどボロボロになっても
捨てる訳にはいかない「伝家の宝刀」なのだから。
「そうでしたっけ?ウフフ」
事業仕分け、子ども手当、ガソリン値下げ隊、ミスター年金、コンクリートから人、ダムがどうたら、事故後の原発に突撃、直ちに影響は無い……(すごいなポンポン思いつく)尽く中身が無いなり法的根拠が無いなりの人気取り=彼らの言うポピュリズムでしたねぇ。発言した公明関係者とやらと嬉々として取り上げた西日本新聞の、当時の論調が残っていたら拝見したいものです。
今なら何も考えずに「財務省解体!!!!」って叫んで回れば、最高に人気が取れる素晴らしい提案型ポピュリズム政策なのにやらないの、フシギデスネ。
中身がないのに言葉は長く人気取りのためには仲間も撃ち抜く石破総理も、全く逆の言動ですし。むしろ眼の前で実った栄養満点の甘い果実に沸く人々に「苦い草だけが体に良いのだ」と押し付けて果実を叩き落として踏みにじる始末。
都合の良いものは「民意」、都合の悪いものは「ポピュリズム」。
民主主義は崇高で、
ボビュリズムはダメ。
これは、水はよいけどDHMOはダメ、と言い張るのと同じですわな。
(あ、言っちゃった。)
言い張るの奴も、それを真に受ける奴も、どちらもアホなのだと思います。
巨人大鳳卵焼き、みんなポピュリズム。
(笑)
何度も言ってやれ。
≫いい加減、官僚機構が垂れ流す言い分を盲信するのではなく、自分で経済理論に照らして
餌付けされたポチ職業、こんな文章では給料は稼げない
ダーウィンは言った。
「より環境に適応したものが、生存競争に勝って、生き残ってきた」
古い概念に凝り固まった変化に対応しきれない新聞記者は、果たして
泣き言もブンヤさんの断末魔? 知らんけど
新聞が終わりに近づいている。
事の証拠ですね
事実を見ることが出来ない。事実を認めることが出来ない
ならば読者に訴える記事は書けません
問題点は不明になり改善点はどこへやら