昨今のSNS化の進展は、政治にも「水面下の政治」の可視化という変革をもたらしています。旧来型の国対政治が行き詰まるなかで、今回の「年収の壁」騒動も、こうしたネット世論を自公維が「読み誤った」ものだと総括することもできるかもしれません。そのことを(逆説的に)示した記事がありました。国民民主党の玉木氏をして「事実に反する内容に呆れる」と言わしめた記事、いったいどんな内容なのでしょうか。
国民民主・玉木氏のポスト
世の中がインターネット化して良かったことがあるとすれば、政治家などにとって、「この報道はおかしい!」と思えるような記事などが出てきても、当事者が即座に否定することができるようになったことではないかと思います。
国民民主党の玉木雄一郎代表(※3月3日まで役職停止中)が27日夜、こんな内容をポストしました。
「関係者に聞くと、国民民主党の悪口を書けとの依頼が出ている」。
問題の東洋経済の記事とは?
正直、この点についての事実関係はわかりませんが、ただ、玉木氏は東洋経済オンラインに掲載された記事を引用したうえで、それを「この記事もその一環だと思われる」としたうえで、「あまりにも事実に反する内容に呆れている」、「私と古川代表代行との関係は、榛葉幹事長と同様、磐石」などとしています。
ずいぶんと舌鋒鋭い批判ですが、では、東洋経済の記事、いったい何が書かれているのでしょうか。
「103万円の壁」自公国協議打ち切りの舞台裏/玉木氏が「理想とは程遠い」と抵抗の狙いは
―――2025/02/27 18:00付 東洋経済オンラインより
3000文字弱の文章ですが、「年収の壁」を178万円に引き上げるとする自公両党と国民民主側の協議が事実上打ち切りとなったことなどを踏まえ、その「舞台裏」を探る、という趣旨の記事でしょう。
それはともかく、玉木氏が反発した原因となったのは、想像するに、こんな記載ではないでしょうか。
- (年収の壁を巡り)玉木氏が「理想とは程遠い」などと抵抗するのは、「わが党への国民の支持は高く、『要求貫徹』の姿勢を堅持すれば、次期参院選でも躍進が可能との読みに基づく」(側近)とされる
- 玉木氏について、与党は「これまで主張してきた『対決より解決』ではなく、『解決より対決』という真逆の対応」(自民税調幹部)と反発し、「現時点で実現可能な税制改正修正案を突き付けることで、圧力をかける」(同)ことに踏み切った格好だ
- 他野党から「玉木氏の“政局優先”の態度はおかしい」(維新幹部)との声も出るなど、「今後の展開次第では、与野党攻防に絡めた“玉木潰し”の動きが顕在化することも想定される状況」(政治ジャーナリスト)となりつつある
…。
「国民民主の主導権争い」?初めて聞いたが…
なるほど。
この記事の著者の方も、「自民税調幹部」、「維新幹部」、「政治ジャーナリスト」らの話を聞いて記事を書いているのだとは思う反面、とくに玉木氏自身が「わが党への国民の支持は高く~」、というくだりは、玉木氏自身の内心の話でもありますので、もし取材せずに書いているのであれば、本人から否定されても当然でしょう。
(※もっとも、本人の内心というものは、意外と普段の言動から表にポロっと出るものなので、もしかしたら玉木氏自身がそう思っているという可能性を無碍に否定するつもりはありませんが…。)
ただ、今回の東洋経済の記事を眺めていて、やはり違和感はいくつかあります。その最たるものが、これです。
「関係者は『3党それぞれに『党内の主導権争い』があり、とくに、国民民主内で交渉担当者となった古川元久代表代行(党税調会長)と玉木氏サイドとのあつれきが協議迷走の原因』(自民税調幹部)と指摘する」。
「4カ月近くが経過した『壁』引き上げ協議での最大の『ボタンの掛け違い』は、昨年11月の玉木氏の不倫問題発覚による『失脚』で、国民民主の交渉担当者が古川氏に代わった後の迷走ぶりだ。『古川氏は旧大蔵省入省年次で玉木氏の5期先輩で、強いライバル意識を持っており、あえて玉木氏に相談せず宮沢氏との交渉を進めたため、国民民主内で主導権争いが表面化したのが原因』(自民税調幹部)とされる」。
はて?
年収の壁議論が停滞した原因が、国民民主党内の主導権争いにあったとは、初耳です。
いや、もちろん、我々国民の目からは見えない国民民主党内の人間模様というものはあろうかと思いますし、そこを無碍に否定するつもりはありません。
しかし、さすがに年収の壁騒動に関しては、国民民主党が(玉木氏の役職停止前後から一貫して)「178万円」を主張し続けており、これに対して自民側が維新、国民民主を両天秤にかけるかのような動きをしていたことは、私たち国民側からみても明らかでしょう。
また、玉木氏が自身のXで強く反発した「古川元久氏が玉木氏にライバル心を抱いている」などとする部分についても、(古川氏の内面はわかりませんが)少なくとも年収の壁協議を破談させるほどの実害をもたらすまでに至った、などとする見方には、さすがに無理があります。
社会のSNS化は水面下の政治の可視化をもたらした
ちなみに、そうした点もさることながら、もうひとつ興味深いのが、こんな記述です。
「宮沢氏は森山氏の了解も得て『実質協議を当分棚上げとし、通常国会開幕後もすべてを予算委など表舞台での協議の結果に委ねる戦略に変更した』(自民税調幹部)とされる」。
これ自体、いわゆる古い国対政治の考え方そのものでしょう。
政治を追いかける主体が新聞、テレビなどのオールドメディア、あるいはせいぜいフリーランスの記者などに限られていた時代ならば、政治側も、こうした「水面下の交渉」を、メディアを巻き込んだ形で展開するなどできていたかもしれません。
しかし、時代はもう完全に変わったのです。
ネット、とりわけSNSの発達がもたらしたものは、こうした「水面下の政治」の可視化です。
そして、東洋経済の記事の執筆者の方が大きく見落としている視点があるとしたら、国民民主党、とりわけ玉木氏自身が、XなどのSNS、YouTubeなどのネットツールを使いこなし、有権者に向けてうまく情報発信をしている、という事実です。
実際のところ、日本維新の会が「高校無償化」などを自公から勝ち取ったことは事実ですが、少なくともXやYahoo!ニュースなどで見える範囲においては、「ネット世論」は自公維3党に対し、きわめて批判的であり、国民民主党には「ブレなかったこと」を支持する意見が殺到しています。
その意味では、ネット世論を「読み誤った」のは、むしろ自公維の側でしょう。
もちろん、中には国民民主党を「構ってちゃん」、「駄々っ子」などと揶揄する人もいるようですが、こうした意見はごく少数派であり、ネット上では(少なくとも目に見える範囲においては)「自公維」vs「国民民主」という構図で見れば、国民民主側の圧勝、といったところではないでしょうか。
その意味では、昨今のネット化の進展は、こうした旧態依然とした国対政治に対し、違和感を訴える人を増やすだけでなく、政治ジャーナリストの皆様にとっても、ネットの視点を取り入れないと、記事が支離滅裂になってしまうという危険性を突き付けているのかもしれない、などと思う次第です。
View Comments (6)
いわゆる「怪文書」のたぐいかな。
次の選挙に関して気をもんでる証拠かもしれない。
自ら私たちはマスゴミですと言っているような内容ですね。そういえば最近、ヤフーニュースで財務省批判の記事を見かけなくなりました。
これも財務省が圧力かけているのでしょう。こんな事をすればするほど財務省批判は高まるんですが・・・
直近の衆院選挙も、情勢を見誤ってやっちゃったようですし、鈍感なのでしょう。
中身はないのに、機だけは掴んで躍進した小泉政権の逆をやってる感じだな。
個人的には、自民党に肯定的な意味では期待していないが、できればとことんやらかして、財務省とか古い体制と共倒れしてくれたほうが嬉しいので、このままもうしばらくダラダラ続く展開を期待する。
自公が潰れるのは結構なのですが、立憲民主党に乗り換えるだけだとなあ・・・。
>「関係者に聞くと、国民民主党の悪口を書けとの依頼が出ている」
これが本当だとすると、この東洋経済の記事を書かれた筆者のジャーナリスト氏は取材もしないで事実無根の記事を書いたということになります。
つまり、「ジャーナリストとしての風上にも置けない」「ジャーナリストしての魂を売った」そう言われても仕方がないということになりますが。いいんでしょうかね。(笑)
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泉 宏(いずみ ひろし) Hiroshi Izumi
政治ジャーナリスト
1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。
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「「生涯一記者」がモットー」
ですって。
今年で78歳になるお方ですか。
「いざとなったら責任を取らせてすぐにクビにしてもいい」タイプに
見えるのは勘ぐり過ぎでしょうかね……?