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「予算成立でも協議を継続する」国民民主党の現実路線

自公維の合意により、国民民主党が掲げた「手取りを増やす」が頓挫しそうになっているとみられているなかで、古川元久代表代行がある意味で完璧な方針を示しました。同党の「年収の壁引き上げ」や「ガソリン暫定税率廃止」などを巡っては、少なくとも今回の予算案では実現しないことがほぼ確実とみられるなか、古川氏は26日の会見で、仮に予算が成立したとしても、同党側から協議を決裂させるのではなく、これらの協議を続ける意向を示したのです。

「維新が潰した減税案」

今朝の『自公維3党「合意文書案」を読む』などでも触れたとおり、日本維新の会が来年度予算案に賛成する公算が非常に高くなりました。自公維3党で、高校無償化などを柱とする維新案での折り合いがつきそうな見通しが立ったためです。

ただ、その一方で、国民民主党が主張してきた「手取りを増やす」―――具体的には基礎控除を所得税、地方税ともに現行よりも一律で75万円引き上げる政策―――については、実現する可能性が読めなくなってしまったことも事実です。

現在の衆院では、統一会派ベースでは自民党が196議席、公明党が24議席を保持していて、両党合計だと220議席で過半数(233議席)を制していませんが、38議席の維新を取り込んだことで、過半数ラインを25議席も上回ることができるからです。

自公両党としては、28議席の国民民主党と連携する、という道もあったわけですが、とりあえず維新との合意が成立したことで、(維新からよっぽど大量の造反でも出ない限りは)予算案が国会を通ることはほぼ確実となったわけですから、無理をして国民民主と政策をすり合わせる必要もありません。

いわば、「維新が潰した減税案」、といったところでしょうか。

古川氏の会見

それはともかくとして、国民民主党が協議を打ち切るという可能性はあるのでしょうか?

実際、基礎控除等の引き上げに年収制限を設ける自公案を巡っては、国民民主党側としては「容認できない」とする立場を明確にしており(たとえば日経電子版の下記記事など参照)、自公側がこの案を撤回しない限りは、国民民主党は予算案に賛成しない可能性が高そうです。

国民民主、「年収の壁」自公案容認せず 年収制限に難色

―――2025年2月25日 11:54付 日本経済新聞電子版より

これに関して興味深いのが、26日に行われた、同党の古川元久代表代行の記者会見でしょう。

古川氏は冒頭、「3党協議はまだ継続している」としつつも、「予算審議は大詰めを迎えている」、「我々としても予算への対応を決めなければならない時期が来ている」などと述べ、「到底賛成できるものじゃない」、などと断言。

ただ、記者との質疑の中で、こうも述べています(動画の7:20~)。

  • 我々から決裂するつもりはありません
  • 協議は向こう(※自公)が「やろう」って限りは続けていく
  • 向こうが(予算を)採決して来たとして、我々に採決を止める力はありませんから、採決されるのだったらその時点での予算に対する賛否は決めなきゃいけないですけども、それで終わりじゃないです
  • 予算(の採決)が終わったあとも我々は(103万円の壁引き上げとガソリン暫定税率に関する)協議(は続けていきたい)

現実的な案

なかなかに、現実的な考えです。

古川氏の考えでは、自公両党が衆院側で過半数を取れていないなかで、国民民主党側としては予算案などについてはその時点で判断することとしつつ、引き続き年収の壁やガソリン減税などの実現を粘り強く訴えかけていく、ということなのでしょう。

いずれにせよ、こうした古川氏の発言も踏まえるならば、とりあえず現時点で「年収の壁引き上げ」が「完全二頓挫した」などと現時点で決めつけるのは少し尚早でしょう。

また、有権者の目から見ても、国民民主党が党を挙げて維新に責任転嫁するでもなく、また、協議を打ち切るでもなく、(ポーズかもしれないにせよ)協議を続ける意向を示すことは、同党の一貫性という観点からは、決して悪いことではありません。

今夏には参院選も控えていることですし、また今後、自公と維新の関係がどうなるかもわかりません。

こうした状況を踏まえるなら、古川氏のいう「予算が成立しても(自公との)協議を続ける」というのは、現時点における完璧な回答ではないか、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (4)

  • いつも楽しみに拝読しております。

    自民から見たら予算の成立は一時的なディールで、年収の壁引上げは恒久的な措置なので、大阪万博が人質の維新の方が与し易い相手だったんでしょう。
    良いですね、古川さんのこのいなし方。ますます好きになりました。一回政権やらせてみたい、かもです。

  • 元の片割れの立憲民主党が「戦闘モードだ、予算日程を遅らせる事もある」と言っているのと比べると、
    国民民主党は責任という物を身に付けておりあの民主党から随分と成長したのだなと感慨深い物があります。

  • 今回の政局により、自公は、国民の方を向いて政治をするのではなく、国民が塗炭の苦しみの中にあっても、何が何でも減税したくないという認識が、国民に浸透してきたと思います。

    国民民主党が夏の参院選で良い候補を擁立させることができれば、大きな風が吹きそうですが。

  • 「手取りを増やす」は国民民主党の錦の御旗になりました。決して降ろしてはいけないと思います。
    手取りを増やす政策は課税最低限度額の引き上げだけではありません。保険や年金の見直しに加えて数々の税金が正当なものであるのか検証するためにも「手取りを増やす」政策が必要です。また、経済活性化による所得向上策へと繋がっていく可能性もあります。
    国民民主党はこの「手取りを増やす」という解りやすい言葉で利権集団ではなく国民の側に立つ政党であるという事を訴え続けることにより、今後の選挙で有利な立場に立てると思います。