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自公維3党「合意文書案」を読む

自公維3党合意が明らかになりました。原文はA4サイズで3枚、全部で2000文字少々の文書ですが、書かれている内容は、「維新もよくこのレベルで合意したな」、と思えるようなものでもあります。昨年秋の衆院選で顕在化した「選挙のSNS化」の流れを踏まえると、今回の自公維3党合意が、おもにSNS層の目にどう映るのか、それが世論調査や現実の選挙結果にいかなる影響を与えていくのかについては、何となく先が読めてしまうような気がしてなりません。

自公維3党合意文書

テレビ東京報道局『WBS』デスクで前官邸キャップの篠原裕明氏が25日、自身のXを更新し、自民党、公明党、日本維新の会の3党による合意文書を投稿しました。

A4サイズにして3枚、文字数でカウントすれば2000文字少々、といったところでしょうか。

正直、著者自身としては、この手の投稿が最も「ありがたい」と思います。

新聞、テレビなどのオールドメディアによる報道は妙に文書を端折っていて、正確性に欠けることが多いのですが、それならばいっそのこと、ビジネス文書を読むのに慣れている立場からすれば、原文をそのまま投稿してもらえると助かるからです。

そういうわけで、本稿でも議論に入る前に、(少々冗長ではありますが)原文をそのまま文字起こししておきます(※ただし、転記ミスにはちゅういをはらったつもりではありますが、「画像からテキストをコピー」機能を使用しているため、ところどころ不正確な部分があるかもしれません。ご了承ください)。

自由民主党、公明党、日本維新の会合意(案)

Ⅰ 教育無償化

全ての若い世代に対して多様で質の高い教育を実現するとともに、経済的事情による教育格差を是正し、子育て世帯への支援を強化する観点から、論点の十分な検討を行い、以下の改革を実現する。

①いわゆる高校無償化

  • 「骨太方針2025」の策定までに大枠を示した上で、令和8年度予算編成過程において成案を得て、実現する。
  • 令和8年度から、収入要件を撤廃し、私立加算額を45.7万円に引き上げる。低中所得層への高校生等奨学給付金の拡充や公立高校などへの支援の拡充を行う。
  • 先行措置として、令和7年度分について、全世帯を対象とする支援金(11.88万円)の支給について収入要件を事実上撤廃する。高校生等奨学給付金や公立の専門高校の施設整備に対する支援の拡充を行う。

②いわゆる給食無償化

  • まずは小学校を念頭に、地方の実情等を踏まえ、令和8年度に実現する。
  • その上で、中学校への拡大についても、できる限り速やかに実現する。

③0~2歳を含む幼児教育・保育の支援

更なる負担軽減・支援の拡充について、地方の実情等を踏まえ、令和8年度から実施する。

④高等教育の支援

更なる負担軽減・支援の拡充について、十分な検討を行い、成案を得ていく。

Ⅱ現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減

社会保障改革による国民負担の軽減を実現するため、主要な政策決定が可能なレベルの代表者によって構成される3党の協議体を設置する。

以下の点を含む、現役世代の増加する保険料負担を含む国民負担を軽減するための具体策について、令和7年末までの予算編成過程(診療報酬改定を含む)で論点の十分な検討を行い、早期に実現が可能なものについて、令和8年度から実行に移す。

  • OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し
  • 現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底
  • 医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現
  • 医療介護産業の成長産業化

上記の検討に当たっては、

  • 政府与党として、令和5年12月22日に「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」等を決定し、2023年度から2028年度にかけて、歳出改革等によって実質的な社会保険負担軽減の効果を1.0兆円程度生じさせるとされていること
  • 公明党として、令和6年9月20日に「公明党2040ビジョン(中間とりまとめ)」を公表し、生活習慣病等の予防・重症化予防、健康づくりの推進、がん検診等の充実による早期発見・早期治療、多剤重複投薬対策や重複検査対策などを進めることで医療費適正化の効果も得られるとされていること
  • 日本維新の会として、令和7年2月20日に「社会保険料を下げる改革案(たたき台)」を公表し、国民医療費の総額を、年間で最低4兆円削減することによって、現役世代一人当たりの社会保険料負担を年間6万円引き下げるとされていること

を念頭に置く。

Ⅲ働き控えの解消

社会保険に係るいわゆる年収の壁による働き控えの解消に向けて、「年収130万円の壁」について、手取りの減による働き控えの解消を図るため、被用者保険への移行を促し、壁を意識せず働くことができるよう、賃上げや就業時間の延長等を通じて労働者の収入を増加させる事業主を支援する措置を令和7年度中から実施する。従来、「年収106万円の壁」への対応として実施しているキャリアアップ助成金による措置を拡充することとし、その際、中小・小規模事業者への支援強化や使い勝手の更なる向上等を行う。この措置は、労働保険特別会計において臨時に行う時限的措置とし、第三号被保険者制度のあり方を含めた「年収130万円の壁」に関する制度的な対応のあり方について更に検討を進める。

Ⅳ教育無償化に関する論点等
  1. いわゆる高校無償化について、義務教育との関係、公立高校儂業高校、水産高校、工業高校、商業高校等の専門高校を含む)などへの支援の拡充を含む教育の質の確保、多様な人材育成の実現、収入要件の撤廃を前提とした支援対象者の範囲の考え方、私立加算金額の水準の考え方(令和8年度は45.7万円)、支給方法の考え方(代理受領か直接支給か、DX化による効率化の推進)、高校間での単位互換、国と地方の関係、公立と私立の関係、現場レベルの負担といった論点について、十分な検討を行う。
  2. いわゆる給食無償化については、地方自治体に対して、物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金を活用した対応を促すとともに、「学校給食法」との関係、児童生徒間の公平性、支援対象者の範囲の考え方、地産地消の推進を含む給食の質の向上、国と地方の関係、効果検証といった論点について、十分な検討を行う。
  3. 0~2歳を含む幼児教育・保育の支援については、更なる負担軽減・支援の拡充について、論点を整理した上で十分な検討を行い、その結果に基づき、成案を得る。
  4. 高等教育の支援については、更なる負担軽減・支援の拡充について、論点を整理した上で十分な検討を行い、その結果に基づき、成案を得ていく。
  5. 上記の各施策の実現に当たっては、政府全体で徹底した行財政改革を行うことなどにより安定財源を確保する。

上記Ⅰ~Ⅳを前提に、令和7年度予算及び令和7年度税制改正法について、所要の修正を行った上で、年度内の早期に成立させる。令和8年度以降の措置については「骨太方針2025」に記載し、令和8年度以降の予算に反映させる。記載のない共通理解について、国会における政府答弁によって可能な限り確認を行う。

合意後も引き続き、自由民主党、公明党、日本維新の会の3党の枠組みで、合意事項の実現に責任と誠意をもって取り組む。

(【出所】テレビ東京・篠原裕明氏がポストした画像を参考に作成)

「よくこんなレベルで合意したな」

…。

著者自身の感想を述べておくならば、「日本維新の会も、よくこんなレベルで合意したな」、というものです。

そもそも論ですが、高校無償化、給食無償化、保育園無償化は、いずれも該当するお子さんをお持ちの世帯にとっては経済的に助かる、といった側面がある一方で、そうでない世帯にとっては単なる「税金化」です。

いつも不思議に思うのですが、国民民主党が主張した「年収の壁の178万円への引き上げ」に対しては、「財源はどうする」などとツッコミを加える人も多い反面、今回の自公維3党合意に盛り込まれた高校無償化(あるいは高校税金化)に「財源は?」とツッコミを入れる人はいるのでしょうか?

さらには『維新「社保引き下げ」主張するも…具体案はこれから?』でも取り上げたとおり、維新が主張する「国民医療費の4兆円削減」については、現時点でその具体案は断片的にしか提案されていません。

よくこの状態で、維新としても合意しようと思ったものです。

本当に不思議ですし、謎です。

※余談ですが、過去最高の税収を毎年のように記録し、巨額の剰余金を毎年のように計上している状況(『財源論者に不都合な事実…来年度税収見通しは過去最高』等参照)を考えると、「現在の日本に減税のための財源はない」は明確なウソですし、減税すれば乗数効果すら生じます。

最近、減税反対派は「減税派は財源を示していない」、とする主張に終始しているようです。減税に反対する理由がひとつひとつ論破されたためでしょうか。ただ、この「財源論者」にとって、またしても不都合な事実が出てきました。一般会計では毎年のように巨額の剰余金が計上されています(しかも毎年のように、公債の発行が中断されていながら、です)が、それだけではありません。先日の補正予算で2024年の税収見通しが上方修正されたばかりですが、報道等によると、27日にも閣議決定される来年の税収見積もりが70兆円台後半と過去最...
財源論者に不都合な事実…来年度税収見通しは過去最高 - 新宿会計士の政治経済評論

前原誠司氏の「1年半前の主張」

ただ、それ以上に印象的なのは、こんな記事です。

玉木・前原氏、政権構想巡り対決 国民民主代表選が告示

―――2023年8月21日 17:30付 日本経済新聞電子版より

リンク先記事は、日経新聞が2023年8月21日付で配信した、同年9月2日の国民民主党代表選に出馬した玉木雄一郎氏(※現代表、役職停止中)と前原誠司氏が共同記者会見を開いた、とする話題を取り上げたものです。

このなかで、こんな記述があります。

両氏の主張で最も違いがあるのが政権構想の考え方だ。玉木氏は政策実現のために自民党と手を組む可能性を否定していない。前原氏は『非自民・非共産』の野党結集による政権交代を目標とする」。

この記述、じつに味があります。

およそ1年半経過して、国民民主党を離党して独自浸透を立ち上げたのちに維新に合流し、共同代表に就任した前原氏が、現実には「非自民・非共産」ではなく自公と手を結ぶ道を選んだ一方、玉木氏及び同氏が率いる国民民主党は、政策実現のためなら自民党と手を組む可能性をいまでも否定していません。

もちろん、今回の自公維合意により、国民民主党は自公両党との政策合意に至らない可能性が高くなってきたわけですが、それはあくまで結果論であって、むしろ客観的事実でいえば、直前まで自公に対し、「年収の壁」撤廃を要求し続けています。

このように考えると、「首尾一貫性」という観点で、国民からどう見えるかという点は、気になるところです。

客観的にみると「減税案は維新が潰した」?

いずれにせよ、昨日の『自民公明維新はついに減税抵抗勢力と化してしまうのか』でも取り上げたとおり、現時点では予算案の採決は行われておらず、維新から大規模な造反が生じるなどすれば、予算案が通らない可能性もゼロではありません(※もっとも、維新からの大量造反の可能性が高いとも思えませんが…)。

また、国民民主党は「年収の壁」をめぐる自公案を「容認しない」との姿勢をすでに明らかにしており(下記記事等参照)、国民民主が自公の予算案に賛成しない可能性も高いものの、これについても現時点ではまだ確定事項ではありません。

国民民主、「年収の壁」自公案容認せず 年収制限に難色

―――2025年2月25日 11:54付 日本経済新聞電子版より

ただ、あくまでも客観的な状況だけを眺めると、「年収の壁上限引き上げ」や「ガソリン減税」については、(維新にその意図があったかどうかは別として)結果としては維新の行動で潰えた格好となったことに関しては、間違いありません。

昨年秋の衆院選で顕在化した「選挙のSNS化」の流れを踏まえると、今回の自公維3党合意が、おもにSNS層の目にどう映るのか、それが世論調査や現実の選挙結果にいかなる影響を与えていくのかについては、何となく先が読めてしまうような気がしてならないのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (10)

  • 財源論がポイントですねえ。

    逆累進なども含めて国民民主党の提案に反対してきた人たちの論旨が、そのまま維新の提案にも当てはまるのに、誰も何も言わない。
    不思議。

    前原の風見鶏は、前からそうなので驚きやしませんが。

  • 昭和の時代に、政党を壊し続ける方がいました。
    令和に新たなクラッシャー候補がでるとは。

  • >高校無償化、給食無償化、保育園無償化は、いずれも該当するお子さんをお持ちの世帯にとっては経済的に助かる、といった側面がある一方で、そうでない世帯にとっては単なる「税金化」です。
    このように国民の分断を図りながら、高校無償化、給食無償化、保育園無償化は、そのサービスを提供する事業者およびその従業員には恒久的に税金が流れる仕組み(既得権益)づくりがされていくのです。
    こうした既得権益は政党支持に繋がります(組織票)。投票率が低ければ低いほど有利に働く。
    また、リスク管理のために、既得権益を小さな集団でたくさん作り、1つ2つ潰されても困らないようにする。
    こうゆう既得権益が、日本の経済・社会を不安定にしていくのでしょうね。

  • 平成の“壊し屋”小沢一郎氏は云うて政権中枢でガタガタイワシトったことも複数度あったが、前原氏は「偽メール」と「ダム止める止めない」で本人がガタガタシトった印象…あー民進党バラかしたっけか
    まー結局『日本維新の会』はアイデンティティー勘違いの中二病のまま退場…まで行く前に退潮かネ
    “風”孕んで膨らんだダケなのを自力と勘違いして地力無いまま自民党にノセラレテ使い捨て、自民党的にはついでに『大阪維新の会』も道連れに沈んでくれたら万々歳てなもんやろナァ
    日本維新の会はスクナクトモ関西広域連合圏内で“維新系”が大阪府下並みの地力をつけるまでは『国政に於ける梃子』に徹しておりゃまだ芽もあったろーに“風”孕んで膨らんだダケなのを自力と勘違いして…(以外ループw)
    日本維新の会の国会議員、特に大阪地盤の国会議員は浮き上がってンと地元ちゃんと視たほうがエエで
    知らんけど

  • 「この程度」で合意したのには「裏」があるんじゃないかと勘繰りますね。
    大阪万博に不安がある維新は、政府に『貸し』を作ったんじゃないかと。

    いずれにしても、減税を潰したのは維新である、とSNS上では認識されてますし、維新は完全に納税者の敵に回ったことは間違いないでしょう。維新はさっさと前原をクビにするべきですね。

    ただ、今回の合意が、政府に貸しを作るならまだしも、橋下が言っていた、「キャスティングボードを握るのは国民民主だけじゃない、思い知らせてやる」の延長線上なら目も当てられません。立憲民主と同じくらいクズ政党という事になります。

  • 子持ちの家庭にすれば、小学校の給食無償化と高校教育無償化が決まったので、次は課税最低限度額の引き上げだと言うことになると思います。
    つまり、維新は用済みで次は国民民主党の出番です。
    維新の今回の同意は、贔屓目に見てもこの夏の参議院選挙にはプラスにならないと思うのですが。

  • >それが世論調査や現実の選挙結果にいかなる影響を与えていくのかについては、何となく先が読めてしまうような気がしてならないのですが、いかがでしょうか。

    総論としては、減税を潰すことのマイナスが大きいのでは?と思います
    一方で、選挙結果については、どうなんだろうかと不安にも思うのです♪

    自公維の3党は、国民の大多数に減税の恩恵をもたらすよりも、特定の方にそれ以上の恩恵をもたらす方が、自らへの支持や選挙結果に繋がるって考えてるんだろうなって思うのです♪

    ぶっちゃけ、あたしも減税以上の恩恵がある政策をぶら下げられたら、一時的なものであってもそっちを支持しないって自信はないのです♪

    だからこそ、壁をなくした先に、単に納税額が下がるってだけでなく、そのお金が回り回って国民生活が良くなるってストーリーが欲しい気がするのです♪

  • いやぁ、SNSでは維新は公約を実現した実行力がある、選挙しか考えてない国民民主とは雲泥の差だと、褒める褒める。
    て事で、お望みの様なので次からも投票は国民民主にしようと決めました。

  • 私学助成金は外国人教師を増やす足場作り?とかいう考察もSNSにはありました。まあ三党とも入れることは無いですね