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維新「社保引き下げ」主張するも…具体案はこれから?

「手取りを増やすためには(所得減税よりも)社保の引き下げの方が重要だ」。日本維新の会が、こんな見解を出してきました。これは、真理を突いています。社保の負担は低年収層にも重くのしかかるからです。ただ、意欲自体は良いのですが、その具体的な中身については首をかしげざるを得ません。医療費を年間で最低4兆円削減する、としながらも、その具体策については「6月末までに取りまとめる」とされており、現時点で具体策はほとんど示されていないからです。

社保?所得税?

税や社保の負担が重すぎる:低年収層には社保がキツい

【総論】我々は給料からどれだけ「引かれている」のか』などを含め、これまでに当ウェブサイトで何度も指摘してきた通り、私たち日本国民はずいぶんと多額の公租公課を引かれています。

高年収層になればなるほど所得税の税率などが跳ね上がるわけですが、低年収層も油断はできません。

社会保険料負担が重すぎるからです。

具体的には、社保については私たち労働者が支払わされているのと同額以上を雇用主も支払わされており、これらの「雇用主負担分」を人件費だと考えたならば、税・社保を合計した実質的な負担率は、低年収層でも優に30%を超えるからです。

たとえば年収240万円の人の場合、社保(政管健保)・扶養控除等なし・ボーナスなしの前提で社保が372,960円、諸税が122,477円、手取りが1,904,563円と計算されますが、この年収240万円の人を雇っている会社は、240万円とは別に380,160円の社保を負担しています。

このため、あなたは「自分は年収が240万円だ」と思っていたとしても、実質的にあなたを雇うために会社は2,780,160円を支払っている計算であり(つまり「実質年収」)、この「実質年収」2,780,160円と手取り1,904,563円の差額875,597円が、実質的な天引き額です。

手っ取り早く手取りを上げるには所得減税の方が合理的

ちなみにこの「実質的な天引き額」875,597円は、「実質年収」2,780,160円に対して31.49%(!)に達しており、したがって、年収240万円程度の人でも「三公七民」状態に陥っていたりするわけです。

このため、国民民主党が主張する「所得減税で手取りを増やす」を達成すること自体はもちろん必要かもしれませんが、(保障が薄いわりに)無駄に高い社会保険料についても、いずれ抜本的な制度改正と保険料の大幅な引き下げが必要であることは間違いありません。

ただし、そこに向けてのアプローチにはさまざまなものがあり得るところですが、著者自身の現時点での感覚を申し上げるならば、まずは国民民主党が主張する「手取りを増やす」を先行させること自体は、合理的な方法であることは間違いありません。

なぜなら、基礎控除を増やすだけであれば、所得税法と地方税法の条文を2つ変更するだけで実現できるからです(※技術的にはいわゆる月額甲欄表の修正も必要ですが、こちらは細かい技術的な話です)。

これに対し社保の改革は年金、保険、介護、雇用と広範囲に及ぶこと、給付水準の抑制で「割を食う」ことになる既得権益層に対する配慮が必要かもしれないことなどを考えると、(いずれ手を付けることは必要であるにせよ)そこそこに時間がかかります。

こうした事情もあり、著者自身は国民民主党の「手取りを増やす」、「ガソリン税を見直す」、「消費税を時限的に引き下げる」などの、おもに税制面からのアプローチが現実的には正しいやり方だと考えている次第です。

維新の動きが気になる!

維新が高校無償化と引き換えに予算案に賛成?それとも…

ただ、その「手取りを増やす」をめぐってはfさまざまな点で残念な動きがあることもまた事実でしょう。

あくまでも一部報道ベースですが、衆院の第3番目の会派でもある日本維新の会が、高校無償化などと引き換えに、政府の予算案に賛成する方向で調整を進めているとされるからです。

もちろん、これについては『維新で予算賛成方針への「異論」…執行部の調整力は?』でも取り上げたとおり、維新内部からは異論が噴出しているらしい、といった報道もあります(この場合は維新の現執行部の「調整能力のなさ」という意味で、また別の問題がありそうですが…)。

しかし、仮に―――あくまでも「仮に」、ですが―――、維新が高校無償化と引き換えに予算案に賛成する場合、(今年の予算案「だけ」を通す目的であれば、)与党側としては国民民主党との年収の壁をめぐる協議を終了させても構わない、という判断も成り立ちます。

この場合は国民民主が主張してきた「年収の壁引き上げ」は実現しない可能性が高くなります。

つまり、(少し短絡的な表現かもしれませんが)「維新が年収の壁引き上げを潰した」、ともいえるような状況が出現してしまう、というわけです。

正直なところ、高校無償化については、これにより恩恵を受ける人がいるであろうことを否定するつもりはありませんが、それと同時にこの政策自体、『効果不明?戦力を逐次投入するが如き経済政策の非効率』でも指摘した、「経済政策の逐次投入」のたぐいに見えてなりません。

果たして、外交安保の諸懸案であったり、年収の壁であったり、経済安全保障であったり、ウクライナ戦争への対処であったり、日本人拉致事件の解決であったり、といった喫緊性の高い政策課題と比べ、優先順位が高いといえるのでしょうか?

謎です。

維新が具体的な社保改革プランを出してきた…のか?

もっとも、維新は現在、社保の抜本的な引き下げを求めていることでも知られており、これが実現するなら、やはり「税と社保の取られ過ぎ問題」に対して、一定の成果があがるかもしれない、といった期待が生じるところでもあります。

「税と社保の取られ過ぎ」に不満を覚えている現役層にとっては、結果的には願ったりかなったり、です。

では、その「社保引き下げ」について、維新は具体的にどんな提案をしているのか―――。

これについてはその具体的な中身がいまひとつ見えなかったのですが、その内容の一部がようやく明らかになりました。維新が20日付で『社会保険料を下げる改革案(たたき台)』と称するPDFファイルを公表したからです。リリースは同会のX公式アカウントが発表しています。

さっそく読んでみたのだが…

PDFで3ページ物の資料ですが、いったいどんなことが掛かれているのでしょうか。

全文をこちらに転載することは控えますが、ポイントとしては、こんな具合です。

現状と課題
  • 国民医療費は年間46兆円に達し、毎年1兆円規模で増え続けている
  • 現役世代の社保負担は限界に達し、結婚や子育ての自信を奪い、少子化要因にもなっている
  • わが国では国民負担率は増え続け、これに物価高が追い打ちをかけている
  • 低年収世帯では所得税より社保の負担が重く、手取りで重要なのは社保の引き下げである

この「現状と課題」に関する着眼点は、大変良いと思います。

低年収層ではとりわけ社保の負担が重い、という点については、当ウェブサイトにおいても繰り返してきた論点でもあるからです(ただし、社保の雇用主負担という論点については触れられておらず、その意味では記載は不十分ですが…)。

では、維新としてはいかなる改革の方向性を打ち出しているのでしょうか。

これについてはこんな内容が提言されています。

  • 医療介護産業の生産性革命
  • 持続可能な水準の応能負担

このあたりについては、大変申し訳ないのですが、記述が抽象的かつ総花的であり、著者自身に適切な要約は難しいと思います。ご興味があれば直接、維新の提言を読んでみてください。

結局、具体策なし&引き下げ額もショボい

ただ、本稿で特に注目したいのが、これです。

国民医療費の総額を、年間で最低4兆円削減する。それによって、現役世代一人当たりの社会保険料負担を年間6万円引き下げる。<中略>この改革の方向性に沿って、合計で最低でも削減額が4兆円以上となる具体策を2025年6月末までに取りまとめる。

…。

つまり、維新側としては、その「4兆円を削減するための具体策」を「これから取りまとめる」と宣言しているのであり、現時点において、4兆円は具体的な積算によるものではない、ということなのです。

いや、具体的な積算根拠がまったくないわけではなく、たとえば「医療介護産業の生産性革命により、社会保障費の支出を減らす」、「社会保障制度が持続可能な水準まで応能負担を深化させることにより、社会保険

料の収入を平等性を担保しながら増やす」、といった提言はなされています。

また、「先行実施策」として、OTC(市販)類似医薬品の公的保険からの除外や窓口負担、高額療養費負担限度額の所得区分判定の見直し(金融所得の合算など)、電子カルテや個人健康記録体制の整備による生産性拡大なども提言しています。

ただ、社保の引き下げが年間6万円(しかも雇用主負担分と合わせた金額であるため、従業員個人の手取りへの貢献はその半額の3万円)というのは、自民党が現在出してきている「宮沢税調案」と比べ、正直、大差ない金額でもあります。

敢えて厳しい言葉で申し上げるならば、ちょっとお粗末です。国民民主党が示している「年収の壁上限引き上げ」などと比べると、非常に抽象的で総花的でもあります。

この点、当ウェブサイトとしては、国民民主党の政策が100%正しくて、それ以外の政党の政策が100%間違っている、などと申し上げるつもりはありません。どの政党にも提唱内容に大なり小なりツッコミどころはありますし、どんな政党・政治家であっても、何も考えずに妄信すべきものでもありません。

しかし、少なくとも年収の壁議論をめぐっては国民民主党の主張に理がありますし、国民民主党が主張する内容を(そのままやるかどうかは別として)基本的には実行に移すべきでしょうし、現在の財政状況に照らしてもそれは十分に可能です。

その意味では、個人的には国民民主案の「手取りを増やす」の実現可能性には注目したいと思う次第です。

年収の壁議論はどうなった?

余談①宮沢税調会長「国民民主が言うことに基づいて提示したつもり」

なお、少しだけ余談です。

自民党が出してきた「年収の壁」をめぐる案については『公平でも中立でも簡素でもない…自民党の複雑な減税案』でも取り上げましたが、この自民案をめぐって、日経電子版に19日付でこんな記事が掲載されていました。

国民民主、「103万円の壁」所得制限なしを要求 自民案に

―――2025年2月19日 20:30付 日本経済新聞電子版より

記事によると自民党の宮沢洋一税調会長は19日、記者団に対し、今回の自民党の提案をめぐって次のように述べたのだそうです。

国民民主が言うことに基づいて提示したつもりだったが、あまり評価されなかった」。

…。

正直、支離滅裂な「あの案」で「国民民主が言うことに基づいて提示したつもりだった」と言い張るならば、この宮沢洋一氏という人物は、読解力が相当に低いと断じざるを得ません。

そして、今回の自民案、財務省や「税調インナー」の世界では通用するのかもしれませんが、Xなどのオープンベースの世界ではまったく通用するものではなく、実際、Xやヤフコメなどを眺めていても、故・安倍晋三総理大臣のころに自民党を支持していたと思しき人たちから、怒りの意見が殺到している状況です。

もしかすると宮沢氏としては、「税調や財務省に逆らうとどうなるか、示してやろう」、といった気持であの案を出したのかもしれませんが、このSNS全盛の世の中において、税調や財務省が国民・有権者の意向に逆らうとどうなるか、むしろ国民の怒りを思い知るのは宮沢氏や財務省の側かもしれません。

余談②事項は与党内で協議・仕切り直しか?

なお、余談ついでにもうひとつ、こんな記事も紹介しておきましょう。

自公「年収の壁」修正案を調整 国民民主との協議延期

―――2025年2月20日 19:36付 日本経済新聞電子版より

日経によると与党側が「年収の壁」を巡る党内調整を優先するため、自公国3党が20日に開く予定だった協議を延期し、公明党が自民党に対し所得制限をかけないように修正を要望したのだそうです。改めて仕切り直し、ということでしょうか?

また、記事によれば国民民主幹部は21日にも3党で再び集まる見通しを示したのだそうですが、さて、どうなることでしょうか。

本件については引き続き目が離せない展開が続きそうです。

新宿会計士:

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  • なお、自民党現執行部の諸対応の件につきましては別途記事にするかもしれません、ちょっと腹に据えかねるところがありますんで。

  • >医療介護産業の生産性革命、持続可能な水準の応能負担

    大学時代、ある先輩に「麻雀絶対負けない方法教えてやろうか」と言われ「是非教えてください」と言ったら「それはね、なるべく振り込まないようにして人より多く上がることだよ」と言われた。
    「それができないから苦労してんだろ」と思ったが、維新の改革はこれかな。

  • >持続可能な水準の応能負担
    つまり社会保険料を減らすということだと思うけど、じゃあ今でも赤字の医療保険財政どうするの。そこで医療介護産業の生産性革命。
    野党って楽だね。

  • ≫社保の改革は年金、保険、介護、雇用と広範囲に及ぶこと、給付水準の抑制で「割を食う」ことになる既得権益層に対する配慮が必要かもしれない

    社保てそんなに周りに影響あるんですね。知らなかったそんな事。

  • 玉木ん氏ばかりがメディアに取り上げられることが悔しくて羨ましくて妬ましい前原氏。稀はかつての小沢一郎氏のように政局屋として玉木ん氏より目立ちたいだけなのでは?
    国会議員ではない吉村氏は国会に疎いので、ついつい独饅頭に手を出してしまったように思えます。公約である高校無償化法案を通して自画自賛する前原氏の影響で、維新は選挙で壊滅的敗北を喫し、そして前原氏は責任を取る形で維新から離党し、前原新党を立ち上げる、ことになりそうな予感。

  • 維新案>本案は「社会保険料を下げる改革会議」の初期的成果の取りまとめであり、最終案
    は 2025 年 6 月末に完成させる。

    6月末完成だったら、そもそも3月末の予算成立時に維新と自民は社保削減でバーターできないじゃん????

    余談2>公明党は所得制限をかけないように自民案の修正を要望した。そのうえで減税額の上乗せを定額にしたり、上積み額を基礎控除と給与所得控除の最低保障額に分けたりして財源を抑える工夫も提起した。

    「財源を抑える工夫」はすなわち減税幅を抑える工夫であるわけで。
    財源の話をするなら、中途半端に「抑える工夫」ではなくて、取りやめたり削減する歳出項目を挙げたり、税収弾性値を見直したり、そういう議論では無いのかと思うのですが。
    自民税調も「こんな議論が必要だからこれだけ時間が必要」と「提案」している形跡もないので、財源の議論を他者とはやりたくないんでしょう。だからバナナの叩き売りしかしようとしない。

    とはいえ、NHKの世論調査だと自民党支持率は12月以降緩く上昇しているんですよね。意外とこの3党交渉を注目している人は多くないのかも知れません。
    参院選は自民改選52議席、選挙区33、比例19。比例が19→14,15なんて下馬評が多いですが、自民執行部はその程度損害を覚悟して突進するつもりなのでしょうか。

    2025年2月(2月10日更新)
    内閣支持44%、不支持35%(NHK世論調査)
    https://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/

    世論調査と実際の選挙結果の関係は気になるところではあります。

  • まー大方大阪維新はじめ地方議員から突き上げ喰って慌てとんちゃうん?知らんけど
    所詮国政維新は未だ瞬間風速拾って膨らんだ紙風船の域やで知らんけど