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    Categories: 金融

またもや日本が「世界最大の債権国」に=国際与信統計

POLAND - 2020/04/04: In this photo illustration a one hundred US Dollar and a 10,000 Japanese yen banknotes. (Photo Illustration by Cezary Kowalski/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

国際決済銀行が四半期に1度公表する『国際与信統計(CBS)』によると、2024年9月末時点で日本の対外与信が5兆2700億ドルで、世界全体の国際与信総額(34兆6308億ドル)の15.22%を占め、世界トップだったことが明らかになりました。同統計上、日本が世界最大の債権国となるのは、2015年9月以降、およそ9年連続のことです。しかも、外貨建ての債務はGDPの12.33%に過ぎず、日本で通貨危機が生じる状況はまったく存在しません。

国際与信統計(CBS)とは?

相変わらず、というべきでしょうか。

国際決済銀行(BIS)が四半期に1回公表している国際金融に関する統計で、またしても、日本が世界最大の債権国だったことが判明しました。昨年の『邦銀対外与信は約9年連続世界一』などでも紹介した『国際与信統計』のデータがそれです。

この統計、英語では “Consolidated Banking Statistcs” と呼ばれるもので、BISのウェブサイトでは「CBS」などと略されたりすることもあるため、当ウェブサイトでも「国際与信統計」だけでなく、「CBS」という呼称を用いることがあります。

そして、このCBSが国際金融を眺めるうえで有益なのは、「所在地ベース」と「最終リスクベース」に分けて、どの国の金融機関からどの国に対して与信(エクスポージャー)があるかを統一的な尺度で概観することができる、という点にあります。

最終リスクベースとデータ提出国

このうち当ウェブサイトで特に重視しているのが「最終リスクベース」です。

たとえば日本の銀行のニューヨーク支店がフランスの銀行のロンドン支店におカネを貸していた場合、「所在地ベース」だと米国から英国への与信とみなされますが、「最終リスクベース」だと日本からフランスへの与信とみなされ、実態に合致した集計がなされるからです。

ただし、CBSには限界もあります。

それは、CBSのデータをBISに提出している国・地域が、最大でも31ヵ国・地域に限られている、という点であり、また、国・地域によってはデータを提出しているにせよ、データ自体が不完全なものだったりすることもある、という点です。

とりわけ、私たち日本人にとって気になるのは、たとえば北朝鮮やロシアが中国からどれだけおカネを借りているか、といった論点ですが、残念ながら、中国はBISに与信統計データを提出していないため、データの非提出国同士の資金のやりとりについては、BISデータから読み解くことができません。

ただ、データ非提出国であっても、データ提出国からのデータで間接的に、国際与信の状況の一部を垣間見ることができる場合もあります。たとえば「その国が外国に貸しているカネ」の額はわからなくても、「その国が外国から借りているカネ」の額は、その一部分を間接的に知ることができます。

中国に関しても同様で、「中国がどの国にいくらカネを貸しているか」をCBSにより知ることはできませんが、CBSを使って「BIS報告国(たとえば日本や米国、英国など)が中国にいくらカネを貸しているか」を知ることは可能です。

いずれにせよ、国境を越えたおカネの貸し借りを、債権国側と債務国側から見ることができるという意味では、このCBSは非常に良い基礎資料ではないかと思う次第です。

債権国トップがまたも日本!

さて、前置きが長くなりましたが、現時点における国際与信総額を、債権国側と債務国側から見ておきましょう。まずは債権国側です(図表1)。

図表1 最終リスクベース・債権【債権国側】(全報告国集計・2024年9月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:日本 5兆2700億ドル 15.22%
2位:英国 4兆7833億ドル 13.81%
3位:米国 4兆5908億ドル 13.26%
4位:フランス 4兆0663億ドル 11.74%
5位:カナダ 2兆7844億ドル 8.04%
6位:スペイン 2兆3584億ドル 6.81%
7位:ドイツ 2兆0384億ドル 5.89%
8位:オランダ 1兆7574億ドル 5.07%
9位:イタリア 1兆0487億ドル 3.03%
10位:スイス 8853億ドル 2.56%
その他 5兆0477億ドル 14.58%
報告国合計 34兆6308億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

トップは日本だが…上位は欧米が中心

これによると「最終リスクベース」で見た「国境を越えた資金貸借」の残高は34兆6308億ドル、仮に1ドル=150円だとすれば、5195兆円(!)という、日本のGDPの8倍以上の金額に達します。

なんと、2024年9月末時点では、日本が世界で唯一、5兆ドル台を記録し、2位の英国を突き放して1位を獲得しました。ちなみに日本が国際与信ランキングで債権国側の1位となるのは2015年9月末以来、じつに9年以上連続してのことでもあります。

このあたりは普段から当ウェブサイトにて指摘している、「日本国内では2200兆円を超える家計資産などが有り余っているにも関わらず、有力な投資先がないため、しかたがなく日本の資金が外国を目指している」とする資金循環上の分析とも、非常に整合しています。

ただ、本稿ではこの点についてはとりあえず脇に置くこととし、CBSの議論を続けましょう。

注目すべきは債権国側のトップが日本だという点もさることながら、上位10位までは米国か欧州の国ばかりで占められている、という点かもしれません。英国も米国も金融立国として知られていますが、4位にフランス、6位にスペイン、7位にドイツなど、欧州諸国の姿が目立ちます。

また、カナダが5位に入っていますが、これは隣国・米国への与信が圧倒的に多いことによるものと考えられます。

実際、カナダは対外与信2兆7075億ドルのうち米国向けが2兆0150億ドルと全体の約4分の3を占めており、国境を越えて米国に対する与信が多いという事情もあってか、図らずも「世界5番目の国際金融大国」の地位を獲得した格好だといえるでしょう。

債務国トップは米国

さて、上記は債権国側の状況ですが、債権国側のリストがあるということは、債務国側のリストも作れる、ということでもあります。

そこで作ってみたものが、次の図表2です。

図表2 最終リスクベース・債権【債務国側】(全世界分・2025年9月末時点・上位10ヵ国)
債務国 債務額 構成割合
1位:米国 9兆1615億ドル 26.45%
2位:英国 2兆4452億ドル 7.06%
3位:ドイツ 1兆7587億ドル 5.08%
4位:ケイマン諸島 1兆6603億ドル 4.79%
5位:フランス 1兆5678億ドル 4.53%
6位:日本 1兆3477億ドル 3.89%
7位:イタリア 9587億ドル 2.77%
8位:中国 9233億ドル 2.67%
9位:香港 8905億ドル 2.57%
10位:ルクセンブルク 8435億ドル 2.44%
その他 13兆0735億ドル 37.75%
合計 34兆6308億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

合計金額が図表1と同様、34兆6308億ドルとなっていることが確認できます。同じデータを債権国側ではなく債務国側で集計しなおしたものだから当たり前です。

なぜケイマン諸島が上位なのか

ただ、ランキングに登場する国が興味深いところです。

債権国側でもランキング上位に登場した米国と英国が、債務国側の1位と2位にランクインしており、とりわけ米国の借入額は9兆1615億ドルと、世界中でも群を抜いて多く、国際与信に占めるシェアは4分の1を優に超過します。

また、3位のドイツや5位のフランス、7位のイタリアは、いずれも債権国側の上位にも出てきていた国ですが、これらの国は自国が債権国であるとともに債務国である、という意味で、純粋に国境を越えてお互いの国におカネを貸している、という側面がありそうです。

一方、4位のケイマン諸島は租税回避地(タックス・ヘイブン)として知られていますが、これは純粋にケイマンを利用した投資スキームが多いという話であろうと考えられます。

実際、ケイマン諸島におカネを貸している国のリストを作ってみると、トップが日本、2番目が米国であることがわかりますが(図表3)、これは邦銀がケイマン諸島に巨額投資をしているというわけではなく、ケイマン諸島からさらに第三国(多くの場合は日本)におカネが流れ込んでいるものだと考えられます。

図表3 最終リスクベース・債権【債権国側】(債務国:ケイマン諸島・2024年9月末時点・上位10ヵ国)
債権国 債権額 構成割合
1位:日本 6676億ドル 40.21%
2位:米国 6122億ドル 36.87%
3位:フランス 1055億ドル 6.35%
4位:英国 585億ドル 3.52%
5位:ドイツ 500億ドル 3.01%
6位:カナダ 441億ドル 2.66%
7位:スイス 246億ドル 1.48%
8位:スペイン 202億ドル 1.22%
9位:台湾 144億ドル 0.86%
10位:スウェーデン 76億ドル 0.46%
その他 557億ドル 3.35%
報告国合計 1兆6603億ドル 100.00%

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

中国は世界第2位の経済大国なのに…?

ケイマンについては以上の通りですが、図表2にはほかにも、図表1に出てきていない国・地域があります。8位の中国、9位の香港がそれで、中国も香港も債権国側には名前が登場していませんでした。

香港については(なぜか知りませんが)最近は債権国側のデータが出てきておらず、また、中国はもとからBISに国際与信データを提出していないため、中国や香港から出た資金がどこの国に流れ込んでいるのかについての情報は、CBSではわかりません。

しかし、BISの報告国から中国、香港へのデータは判明していますので、それらを集計した結果、中国が9233億ドルで8位、香港が8905億ドルで9位、と集計されたものだと考えてよさそうです。もしも両者合わせると1兆8138億ドルで、ドイツを抜いて3位に浮上します。

ただ、香港向けの与信は、その全額が中国に向かっているとみるのは少し不自然です。香港はシンガポールと並び、アジアを代表する金融ハブであるとされ、香港向け与信のなかにはもちろん「香港経由の中国向け与信」もあると考えられる一方、それらのすべてが中国向けとみるべきではありません。

このように考えると、完全に中国本土向けの与信が9233億ドルで世界第8位というのは、やはり中国が世界2番目のGDP大国だといわれ、世界の工場を自負している製造大国であるとされていることを思えば、随分と少ない気がします。

日本は圧倒的な債権国

さて、図表1と図表2に戻りましょう。

債権国側では債権額が5兆2700億ドルで圧倒的なトップだった日本が、債務国側では1兆3477億ドルで第6位に入っていることがわかります。

これは、日本も外国からそれなりにカネを借りている(あるいは投資を受け入れている)ものの、外国から借りている以上に巨額のおカネを外国に貸している、ということを意味しています。

このアンバランスは、邦銀から外国に対する債権と、外国銀行の日本に対する債権を比較してみると、より明らかでしょう。データ分析の都合上、所在地ベースと最終リスクベースの双方でこれを見てみたいと思います(図表4)。

図表4 日本と外国の債権債務関係(2024年9月末時点)
区分 金額 備考
日本の銀行から外国への債権 5兆2700億ドル 最終リスクベース
日本の銀行から外国への債権 5兆4137億ドル 所在地ベース
外国の銀行から日本への債権 1兆3477億ドル 最終リスクベース
外国の銀行から日本への債権 1兆3848億ドル 所在地ベース
うち外国通貨建て 5194億ドル 所在地ベース
うち自国通貨建て 8654億ドル 所在地ベース

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics データをもとに作成)

最終リスクベースと所在地ベースで微妙に数値が異なるのは、冒頭に申し上げたとおり、両者は集計基準が異なっているからです。

それはともかく、どちらのベースで見ても、わが国の金融機関が外国に貸している金額と、わが国の企業などが外国の銀行から借り入れている額の間には、4倍近い差があります。もちろん、貸している金額の方が圧倒的に多いのです。

日本は通貨危機が発生する国ではなかった!

最後に、ちょっとした余談です。

ここで注目したいのが、外貨建ての債務(借金)です。

(所在地ベースでの)外国通貨建ての借金は5194億ドルで、ドル建て名目GDP(2023年でいえば4兆2129億ドル)に対し、12.33%に過ぎません。しかも、完全に外貨準備の範囲内にあります。

日本ほどの経済・金融大国でありながら、外国から借りている外貨建てのおカネは、GDPの10%少々。

普段から当ウェブサイトで指摘している通り、日本は通貨危機が生じる条件(自国通貨がソフト・カレンシーである、外貨建てでおカネをたくさん借りている、など)がまったく揃っていない、ということが、CBSのデータからも明らかでしょう。

ちなみに、本稿でいきなり「通貨危機」云々を言い出した理由は、ごく稀に、ですが、「悪い円安」論の一環として、「これ以上円安が進んだら日本が通貨危機に巻き込まれるかもしれない」、といった寝言を述べる論者が出てくる可能性があるからです(※いや、すでに出ていますが…笑)。

なお、「悪い円安」論については『円安の「資産効果」…令和6年の経常黒字は過去最大に』あたりでもやっつけていますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

新宿会計士:

View Comments (15)

  • 国内にカネを借りてくれる企業や個人が少ないということなのだろうか。

    • 2/8本日は18時〜ライブ!日米首脳会談・DeepSeek・道路陥没【藤井さん間に合わず】
      髙橋洋一チャンネル
      https://www.youtube.com/watch?v=b3bGvioXa8s

      需要が不足している時に投資すべき公共事業自体も利率が4%で固定。
      安定した需要を作り出せず、雇用も生まれなかった。
      髙橋氏は利率を国債利率に変えれば問題は解決と主張されています。

      しかし、失った三十年で、インフラ整備すべき人手が今後更に不足します。

  • 債権国と訊くと、個人的にはムカつきますね。

    商店に例えるなら、
    モノは納品した。
    代金は受け取ってない。
    ツケの累積だけは積み上がってる、みたいな。

    これまで恐る恐る、
    「ツケを返して」
    と申し入れたら、その都度為替レートを変更されて半額化。また半額化。

    本来は相殺できるよう程程になにか輸入すればよいのですが、原油以外に買うものがないならば、海外で投資に回すのも仕方ないのかな、と。

    もしかしたら、そんなことを何十年も続けてきたから、海外の生産性や賃金ばかり上がってるとかだと、日本は自分で自分の首を絞めてるようで、なんかヤですねえ。

  • 「これ以上円安が進んだら日本が通貨危機に巻き込まれるかもしれない」

    昔に比べると、もう全然見なくなった印象ですね、この手の主張。
    さすがに論破されまくり、指をさされまくるのが嫌になったと言う事でしょうか。

    それでもたまーに、思い出したかの様に(あるいはノルマを消化するかの様に)
    誰かが言い出すんですよね。”忠誠の証”でも立てているんでしょうかね?

    • >たまーに、思い出したかの様に(あるいはノルマを消化するかの様に)誰かが

      忠誠証しという見立てうまく言い当てたものと感服します。おそらくそのとおりですが、陰謀論のレッテルで封殺されるんでしょう、きっと。
      本当の実業家は日本経済新聞を信用しない。それと同じことです。

      • もし本当にそういう「忠誠を証明させるシステム」があるとしたら、
        絶対に証拠が残らない様になっているでしょうね。

        口頭の”雑談”でお偉いさんが部下に「いやー最近は円安通貨危機論を馬鹿にする
        ネットイナゴどもが多くて困るよなー」と言ったら、部下は「はい、
        その通りですね(はあ、またあの炎上確実の記事を書かないといけないのか)」
        と返答して、あくまでも部下が”自主的に書いた”事になる……とか?

    • 国会で財務省が議員に根拠を出されて論破されると、急にわけのわからない言い訳を始めますよね。日本は今後ハイパーインフレのリスクがあり・・・終戦直後の日本で実際に・・・バカかと思いました。

  • 「これ以上円安が進んだら日本が通貨危機に巻き込まれるかもしれない」
    ある意味正しいですよ。
    日本発の通貨危機は起こらないけど、 周辺自称先進国が自己通貨防衛に失敗 日本を災いに巻き込んで破綻ということが起こりそうです。
    日本は巻き込まれても軽傷で済むよう 切断面を事前に作っておくことが大事です。
    助けても重荷になり 永遠に恨まれる。
    切り捨てるのが 一番。
    歴史に学ばないといけません。

  • 個人と国家の資産は別です。イザとなれば個人から国家が収奪すればいいものではありません。

    TPP・RCEP・各種FTAでは、投資家保護条項もあります。それに外貨決済は許認可制なので、米ドルならFRB・ユーロならECBが許可しないとやらせてくれません。

    更にその上にいる国際決済銀行(BIS)がいます。日本の国家は破産しても、個人の外貨建て資産だけでなく、国家が持っている米国債等も好きにできないのです。

  • IMF「日本は財政再建を先送りせず いま始めるべき」
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250207/k10014715821000.html
    >繰り返し編成される補正予算のあり方の見直しや、ねらいが不明確な補助金を廃止することなどで財政健全化を進めるべき
    ってことで、日本版USAIDなんぞにお金を注ぎ込んで、左派団体だのプロ市民だの税金に群がる寄生虫のような連中に公金をチューチューさせてはならないってことですよね?

  • 「借りたもん勝ち!」がまかり通りかねない金融の世界。
    タンクトップの装いと喧嘩上等!の輩には貸さないこと。

    *居直りの常套句は「ない袖は振れぬ」と「敵国に返す義理無し」・・。

  • 英国が一番円キャリートレードを利用して投資運用してると聞いてます
    だから英国が第二位といっても実質的に貸してる金の何割かは日本の円じゃないかな