新聞、テレビを中心とするオールドメディア、あるいは官僚機構など、「国民から信を得たわけではない人たち」の社会的影響力が、SNSによって急降下しつつあります。こうしたなかで出てきたのが、SNS規制という動きでしょう。驚いたことに、与党・自民党の国会議員から、事実上の言論統制ではないかと懸念されるような主張が出てきました。当ウェブサイトとしては、政府、あるいは権力者によるネット規制には、断固として反対します。
目次
インチキ論説のインパクト
当ウェブサイトでは昨年の『【インチキ論説】ネット規制と補助金でマスコミを守れ』や『【インチキ論説】新聞版「特殊負担金」で民主主義守れ』などで、新聞、テレビを中心とするオールドメディアの立場を擁護する立場から論説を書いてみたことがあります。
手前味噌ですが、どちらもなかなかに良くできた駄文(?)です。どこかの某新聞の社説に掲載された文章だ、などと言われれば、それっぽく見えるのではないでしょうか。
結論からいえば、新聞、テレビを擁護するのにも、かなりの無理があります。現在のオールドメディアの報道があまりにも酷過ぎるからであり、また、オールドメディア業界から出てきている自己弁護も、ほとんど弁護になっていないからです。
これまでに何度となく指摘してきた通り、オールドメディアはこれまで、「報道」という名前の実質的な権力を握ってきました。自分たちのことを「第四の権力」などと自称している時点で、その驕り・高ぶりはあきらかでしょう。
それが、ネット・SNSの出現と普及により、証拠付きで批判され、論破される時代が実現してしまったのです。
昨年のいくつかの選挙で示されたSNSの威力
そして、こうした動きや変化は、とても急速です。実際、これらの記事を当ウェブサイトに掲載した時点では、まさか新聞、テレビといったオールドメディアが、たった半年やそこらで、ここまで急速に劣化するとも思っていなかった人も多いのではないかと思います。
たとえば、昨年は7月の都知事選で、一部オールドメディアが強く推した某候補者が「2位にすらなれずに」敗北しましたし、10月の衆院選では(大方の予測に反して)自民党が惨敗する一方、「手取りを増やす」を旗印に掲げた国民民主党が躍進。
11月の衆院選では、オールドメディアが軒並み「パワハラ疑惑」を報じまくった斎藤元彦氏がSNSなどを中心にジリジリと支持を伸ばし、最終的にはやはり一部オールドメディアが強く推した候補者らを退け、斎藤氏が再選を決めるなどしているのです。
これらの現象、著者自身としては、「オールドメディア」という「国民に選ばれていない者たち」が権力を喪失する過程という意味で、一貫していると考えています。
オールドメディア不信
というよりも、そもそも、当ウェブサイト自体を開設する大きなきっかけのひとつが、著者自身の新聞、テレビに対する強い不信感にあったということについては、改めて申し上げておく必要があるでしょう。
新聞、テレビは、シャレにならないレベルの誤報や不祥事を繰り返しています。
有名どころでいえば福島原発の吉田所長の証言に関する「誤報」であったり、日韓関係を破壊した自称元慰安婦関連報道であったり、オウム真理教の関係者による犯罪の不正確な報道または冤罪報道などであったり、と、報道機関の不祥事は列挙すればキリがありません。
SNSが普及する以前であれば、新聞、テレビに対する社会的な批判がここまで強くなることもなかったでしょう。
なにせ、オールドメディア自身が情報の流通を握っていたわけですから、新聞、テレビに対する批判的意見を新聞、テレビがろくに取り上げることもなかったのです。
日本の新聞社は大手全国紙5社、そして在京民放キー局5社が、それぞれ同一資本(または事実上の密接な関係)で結びついており、これに共同通信・時事通信・NHKを足した事実上8つのグループで、日本の主要メディアがほぼ支配されてしまっていたことを忘れてはなりません。
当然、業界同士のかばい合いもあってか、メディアは他社を批判するのにも及び腰であり、したがって、メディアの不祥事が生じても、それらが社会的に十分に非難されることはなかったのです。
フジ騒動で示されたSNSの社会的影響力の増大
ところが、こうした流れが、大きく変わりました。
最近だと、フジテレビをめぐる事例がわかりやすいでしょう。
組織的な「性上納」などの反社会的な行為、人権を無視した行為などが一部週刊誌により報じられており、これに関する社長会見の失敗もあり、スポンサーによるCM差し止めラッシュが生じてしまっているのです(『フジ異例の長時間会見もCMが戻るかどうかは見通せず』等参照)。
いわば、SNSを中心にテレビ業界に「火が付いた」格好であり、このフジ騒動は「社会的影響力」という観点で、オールドメディアとネットの完全な逆転が生じた事例として記憶されるべきものともいえるのです。
なにせ、スポンサー側としては、昨今の人権意識の高まりだけでなく、一説によるとSNSなどを通じた不買運動なども警戒しているフシがあるからです。
これについては『週刊誌「シレッと記事訂正」か…フジ問題への影響は?』でも取り上げたとおり、そもそももととなった週刊誌の報道自体が正しくなかったとの疑惑も出現するなど、現時点でフジテレビを「クロ」だと判断するには少し材料が不足していることも事実でしょう。
ただ、それでも多くのスポンサーとしては、現時点においては同社の第三者委員会などによる調査を待つというスタンスであり、たとえばキリンホールディングス株式会社は、企業の社会的責任としての国連『ビジネスと人権に関する指導原則』を挙げ、それを念頭にこう述べています。
「今回、同社の記者会見における説明等を踏まえ、必要な調査が十分に行われ、事実が明らかにされた上で、適切な対応がなされるまで同社に対する広告出稿を停止します」。
当社広告の一部出稿停止について
―――2025/01/20付 キリンホールディングス株式会社HPより
そして、今回の騒動、テレビ業界に激変をもたらす可能性があります。こんな具合です。
CM出稿会社のなかにはテレビCMを出さなくても業績に大きな変動がないことが判明するなどすれば、今後数年以内にテレビCM自体を完全にやめてしまうケースが出てくるかもしれない
今回のフジテレビ問題と同様か、それ以上のスキャンダルが他局からも出てくれば、他局でもCMボイコットラッシュが生じるかもしれない
フジ問題自体を契機に、CMの高コスト構造が問題となり、スポンサー側からテレビ業界に対してCM料金引き下げ圧力が強まるかもしれない
…。
余談ですが、そうなると、ますますテレビのコンテンツがおもしろくなくなるかもしれません。
ただでさえ、「製作費が減る」→「つまらなくなる」→「視聴者が離れる」、といった負のスパイラルが生じているなかで、今回のフジ騒動は、ごく近い未来において、民放テレビ局というビジネスモデル自体の崩壊につながる契機のひとつとなる可能性は、それなりに高いといえるのではないかと思う次第です。
崩壊し始めた腐敗トライアングル
いずれにせよ、社会がSNS化しつつある大きなメリットのひとつは、デマに対し、「エビデンス付きで」即時、反論が付くようになったことではないかと思います。
そして、こうしたデマを垂れ流しているのが、意外なことに、オールドメディアであったり、官僚組織だったりするわけです。
個人的に、これらのデマの中でもとくに酷いものは、やはり官僚が流してきたもの―――とりわけ、「日本は国の借金が大変なことになっている」といったおもに財務省系の虚偽情報や、「年金はお得な制度だ」といったおもに厚生労働省系の虚偽情報です。
これらについては『【総論】我々は給料からどれだけ「引かれている」のか』や『年収の壁巡って自公が国民民主案に少しだけ歩み寄りか』などでも指摘してきた通りですし、また、当ウェブサイトでは今後も何度でも繰り返す予定です。
そして、こうした構造を突き詰めていけば、結局のところ突き当たるのが、当ウェブサイトの用語でいう「腐敗トライアングル」―――選挙で国民の信を得たわけでもないくせに、やたらと大きな権力を握り、デマなどを振りまく者たちの存在ではないかと思います。
腐敗トライアングルの基本構造
「野党議員やメディアの問題を官僚機構は処分しない」。
「官僚機構や野党議員の問題をメディアは報道しない」。
「官僚機構やメディアの問題を野党議員は追及しない」。
©新宿会計士の政治経済評論(https://shinjukuacc.com/)
最近だと野党議員だけでなく、一部の自民党議員の間でも、利権を守る側に立つ事例が散見されます。
こうした者たちは、想像するに、SNSが邪魔で仕方がないのではないでしょうか。
このあたり、世の中の「SNS規制論」などを眺めていると、おもに官僚やメディア、野党(や最近だと与党)の政治家らから、こうした規制論が出てきているのです。
自民党政治化によるSNS規制論
こうしたなかでひとつ気になったのが、自民党の松川るい参議院議員のオフィシャルブログです。
誹謗中傷大国ニッポン~そろそろいい加減にしよう~
―――2025年01月26日 08時47分06秒付 『松川るいが行く! 自民党参議院議員松川るいオフィシャルブログ』より
松川氏は『誹謗中傷大国ニッポン~そろそろいい加減にしよう~』と題した1月26日付のブログ・エントリーのなかで、「わが日本、そろそろ誹謗中傷社会の度が過ぎるのではないでしょうか」と問題提起したうえで、いくつかの事例を列挙。
そのうえで、SNSをめぐって、こんな趣旨のことを述べているのです。
①誹謗中傷したら、即座に発信した個人が特定できるようにする(現在の開示請求は時間がかかりすぎる。開設条件も緩すぎ。アカウントがフェイクなのか日本人なのかすらわからない)
②PV数を稼ぐビジネスモデルをやめる、または、PV数を稼ぐビジネスモデルを許容するのであれば、本人に取材もしていないような「こたつ記事」については、本人から申し出があれば即刻削除することを義務付ける
③オールドメディア(紙媒体、地上波放送局)は、ネット上の言説について、自身の独自取材や判断を厳正に行い、盲目的な後追い記事を書かない矜持を持つ
④ネット上の誹謗中傷を浴び続けた場合にどのような心理的経過を辿って闇に堕ちていくのか(その結果自殺に追い込まれることも含め)、精神病や心理学などの専門家による解説を広く世の中に知らしめ、世の中の常識とする
…。
参議院議員という権力者の立場で、さすがにこれは一線を超えています。
「誹謗中傷」の定義もよくわかりませんが、開示プロセスなどをすっ飛ばして即、本人を特定して罰するというのは、日本の近所でも、たとえば中華人民共和国などの全体主義国家がやっていることと非常によく似ています。
また、「PVを稼ぐビジネスモデルを禁止しろ」、「本人が要求した記事は即時削除させろ」、も、言論統制そのものです。PVを稼ぐのは問題だとでもおっしゃるのならば、インターネットよりも先に、新聞記事やテレビ局のコンテンツを規制すべきでしょう。
さらに、新聞・テレビがネット上の言説を取り上げるべきではない、といった言い分も「検閲」そのものですし、松川氏自身が考える「精神病や心理学の専門家による解説を世の中に知らしめる」云々も、思想統制そのものでしょう。
権力者によるSNS規制に反対します
そういえば、松川氏といえば、2023年夏に自民党の党としての研修でパリに出かけ、ネット上などで強く批判されたことでも知られています。
その問題点については当ウェブサイトでも『保守層を激怒させる?松川るい氏「ディナークルーズ」』などで具体的な根拠を挙げて指摘したつもりですが、まさか松川氏は当ウェブサイトの該当する記事なども、「誹謗中傷」とでもいうのでしょうか?
言論の府に属する国会議員という立場で、しかも故・安倍晋三総理大臣らを含めた自民党政治家らがオールドメディアから誹謗中傷を受けているのを間近で見ていたであろう立場で、この一連の主張は、さすがに一線を超えています。
くどいようですが、松川氏は国会議員という「権力者」であり、しかも与党である自民党に所属している人物です。
そのような人物が言論統制に類する主張を始めたというのは、非常に危険な兆候です。
なにより、安倍政権や菅政権など自民党政権を必死に支えていたのがSNSを中心としたネット勢であることを思い出しておくと、自分たちが批判される側になったとたんにSNS規制を言い出すというご都合主義にはあきれるしかありません。
もちろん、行き過ぎた誹謗中傷、妙な陰謀論などは問題ですが、これらも政治家が介入する問題ではありません。
それに、誹謗中傷は適切な開示適切な開示請求手続で対応可能ですし、権力者による不適切な研修旅行に対する論拠を挙げた批判に対し、開示請求など通るわけがありません。松川氏自身が国会議員という「権力者」だからです。
さらにいえば、Xではすでにコミュニティ・ノートなどの仕組みが実装されており、こうした仕組みはフェイスブックなどにも広がる兆しを見せているなど、ネット上の誤った情報についてはネット空間で自発的に訂正を促す仕組みが普及しつつあります。
いずれにせよ、当ウェブサイトとしては、政府、あるいは権力者によるあらゆるネット規制には、断固として反対します。
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売り上げを失っていく斜陽産業が断末魔を上げて既得権益集団を巻き込んで暴れる。
俺たちにカネをよこせ、チカラを奪うな。
彼らの横柄、彼らの横暴を監視するのは誰の役目なのか。
「人 の 口 に 戸 は 立て られ ぬ」という。
SNSは口コミのこと。それも光速の口コミ。しかも動画、引用も付けられ、感想、反論も。
そんなもの規制してどうすんの。
誹謗中傷も「本人が不快だと感じれば」なんて定義では、
社会通念上のものを超えて捉えられ兼ねないんですよね。
https://shinjukuacc.com/20230808-01/#comment-280978
⤴端的に言えば、
こんなたわいのない書き込みでも開示請求され兼ねないってこと。
SNSには「匿名だからこその自浄作用」もあるんだと思っています。
・・・・・
安易なSNS規制で、『とにかくあか(ん?)るい松川』さん なんて揶揄させないで欲しいですね。