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官庁と癒着している新聞業界に税制を論じる資格はない

倫理上、軽減税率の恩恵を受けながら税制について論じる資格はない―――。そう断じざるを得ません。一部の新聞が「プライマリ・バランス(PB)の黒字化先送り」に批判的な記事を掲載しているのを目撃するなかで、財務省の言い分に立つかのような新聞記事への違和感もさることながら、自分たちは軽減税率だ、記者クラブだ、再販価格の例外指定だといった特権を受けていながら、税制についての意見を表明することは、やはり問題が大いにあると言わざるを得ません。

会計監査とはなにか

公認会計士や監査法人といえば、もともとは会計監査などを専門とする職業(あるいは職業集団)です。

ここで、会計監査とは、ある主体(多くの場合は会社)が発表する決算などが、会計基準に照らして妥当といえるかどうかをたしかめ、それを意見として表明する行為を指します。

わかりやすくいえば、「今年度はものすごく儲かった」という決算を出した会社があったとして、その「今年度はものすごく儲かった」という決算が、本当にその会社のその事業年度の経営成績や財政状態を適正に示しているかどうかを、その会社の経理データなどをもとに調べる仕事だと思えば良いでしょう。

もちろん、会社というものは非常に巨大であり、これに対し公認会計士(やその補助者)らの人数は限られているため、多くの場合、会社のすべての取引データを精査することはできません。必然的に、サンプルチェックであったり、内部統制の整備・運用状況の検証であったり、と、間接的な検証手続を積み上げざるを得ません。

ときどき公認会計士や監査法人が企業の粉飾決算(※俗に、「儲かってもいないくせに儲かっているかのように装う決算」のこと)を見抜けなかった、といった不祥事が報じられることもありますが、監査業界だと、結局、この手の事故はつきものなのかもしれません。

かくいう著者自身は会計監査の現場から離れて久しいため、最近の会計監査の実務をあまり詳しく知らないのですが(※といっても、だいたい想像は付きますが)、少なくとも仕事が雑な著者自身は会計監査という仕事には決定的に向いていないことだけは間違いないと思う次第です。

独立性を保っていなければ社会から信頼されない

さて、本稿では会計監査について詳しく論じるつもりはありませんが、ひとつだけ、どうしても読者の皆様にお伝えしておきたいことがあります。

それは、公認会計士や監査法人は、被監査会社(監査を受ける会社)からは「独立性」を保っていなければならない、という大原則です。

その典型例が、株式保有です。

ある会社の監査を行っている公認会計士が、その会社の株式を保有していたら、どうなるでしょうか。

この公認会計士にとっては、非常に邪(よこしま)な目的で、自分の地位を悪用することができるかもしれません。具体的には、被監査会社と結託して、大して儲かってもいないくせに「非常に儲かっている」かのごとく装う決算を作成すれば良いのです。

テクニックは、いくらでもあります。資産の過大計上(減損処理が必要な資産を帳簿価額で計上し続ける)、負債の除外(いわゆる簿外債務)、収益の付け替え(本来ならば翌期の売上にしなければならない契約を、むりやり当期の契約にしてしまう、など)、費用の先送りなどがその代表例です。

当然、こうしたテクニックは、やり方によっては違法(※金融商品取引法違反)ですが、それでもこの公認会計士にとっては、こうしたテクニックを駆使して「儲かっている」かのごとく装い、決算発表で株価が上がったところで売り抜ける、といったことができてしまいます。

現在、監査先の株式保有は禁止されている

実際、過去には法律の規定上、公認会計士も少額であれば被監査会社の株式を保有することが認められていたので、その気になればそのような行為を行うこともできなくはありませんでした(※なお、現在のルールだと、これは違法です)。

つまり、監査業務に従事している公認会計士がその被監査会社の利害関係者だった場合には、監査意見が歪むことが懸念されるのです。

だからこそ、公認会計士監査の世界においては、被監査会社と何らかの利害関係(例えば株主になる、など)を持ってはならないということが定められており、日本公認会計士協会の倫理規則においても「独立性の保持に疑いを持たれるような関係や外観を呈しないよう留意しなければならない」ことが定められているのです。

ただ、公認会計士のなかに、ごく稀に何らかの不正行為を働く者が出現することは事実ですが、それでも公認会計士、監査法人などの世界においては、独立性の保持は比較的よく守られているのではないかと思います。

実際問題、日本公認会計士協会の研修会などにおいても、独立性の保持はしつこいくらいに強調されていますし、普段から厳しく自分たちを律していかなければ、世間からは独立性について厳しい疑義の目を持たれることは、監査業界では比較的よく理解されているといえるでしょう。

新聞業界の現状と先行き

こうした視点に立つと、やはり大いに違和感がある業界がひとつ存在します。

新聞業界です。

新聞業界といえば、年初の『新聞業界が衰亡を防ぐためには?』でも取り上げたとおり、衰亡の道をひた走っている業界でもあります。

新聞部数は右肩下がりで、一般社団法人日本新聞協会のデータによると、新聞部数(※セット部数を朝刊・夕刊1部ずつに分解した場合)は最盛期の1996年の7271万部から2024年には3053万部と、ざっと4割強に減ってしまったのです。

もっとも、新聞業界が衰亡への道をひた走っている理由も、著者自身に言わせれば「自業自得」です。

そもそも日々の情報を物理的に紙に印刷し、それを人海戦術で物理的に各家庭に届けるというモデル自体が、このネット化社会にそぐわないものです。通信環境が飛躍的に向上し、写真ひとつとってみても、紙に印刷した情報よりも遥かに精緻で美しいものが、ネット経由で手に入るからです。

ただ、問題は、それだけではありません。

新聞社は口を開けば「報道の自由がー」、などと口走るのですが、その新聞社はテレビ局や通信社などとともに、「記者クラブ」という特権的に情報入手の仕組みを独占したうえで、俗にいう「報道しない自由」などを駆使し、私たち一般人の「知る権利」をむしろ阻害して来た側でもあるからです。

それが、ネットの普及とSNSなどの発達により、オールドメディアの情報の不正確さが一気に露呈し、ここ最近、オールドメディアの権威が急激に失墜しているのにつながっている、というわけです。

官庁との癒着関係

ただ、新聞業界の問題点は、それだけではありません。

やはり最も深刻な問題点のひとつは、官庁との癒着関係にあります。

具体的には、オールドメディアは官庁から記者クラブなどを通じて情報を独占的に受け取るなどの特権的地位を与えられているわけですが、それだけではありません。新聞社は「一定要件」を満たした場合、消費税8%の軽減税率の恩恵を受けているのです(正確にいえば「消費税6.24%、地方消費税1.76%」)。

なお、「一定要件」とは、「定期購読契約が締結された週2回以上発行される、一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載するもの」(国税庁Q&A)であり、スポーツ紙なども軽減税率の対象となり得るのだそうです。

正直、この時点で、新聞業界の官庁(とくに財務省)からの独立性は「極めて疑わしい」ものです。

実際、一部の新聞は消費税の合計税率を10%に引き上げるタイミングを1年後に控えた2018年10月頃に、安倍政権に対し、「消費税を着実に10%に引上げよ」と要求する社説を掲載していますが、自分たちが軽減税率の恩恵を受けながら政権に税率引き上げを求めるのもおかしな話です。

こうしたなか、(敢えて新聞の実名を挙げることは控えますが、)一部の新聞が「プライマリー・バランス黒字化目標が先送りとなったこと」に対し、批判的な論調を取っているようです。

そんな記事を掲載するから、メディア人からは「財務省の植民地」などと揶揄されるのではないでしょうか?

独立性がなく官庁寄りの意見を出す新聞社の問題点

この点、日本には言論の自由がありますし、放送法で放送内容に制限が設けられているテレビ局と異なり、新聞社の場合は、新聞の報道の自由を規制する法律というものは、基本的には存在しません。

しかし、だからといって、新聞社が官庁からの独立性に問題を抱えたままで、官庁寄りの立場で税制に関する意見を表明することに、倫理上まったく問題がないというわけではありません。

というよりも、消費税の軽減税率だ、記者クラブだ、独禁法が定める価格統制の例外指定だといった各種の特権を官庁から受けている時点で、新聞社や新聞業界は官庁からの独立性に大きな問題があると断じざるを得ません。

そういえば、一部の新聞社はこれらに加え、総務省の外郭団体である「ふるさと財団」が運営する「ふるさと融資」という事実上の低廉融資を受け取っていたりするようですし、その意味では、新聞業界は「独立性」という観点からは官庁について意見表明する資格がないと考えた方が良さそうです。

実際、Xなどを眺めていても、新聞社に対し、「どうせ新聞は軽減税率の恩恵を受けているからね」、といったツッコミが付いているケースも多く、このことからもとくにSNS層を中心に、テレビと並んで新聞に対する信頼がすっかり地に堕ちているフシがあります。

新聞業界がここから挽回しようと思うのであれば、やはり、まずは税制について論じるならば、軽減税率の恩恵を返上してからにされてはいかがでしょうか?

新宿会計士:

View Comments (17)

  • もしかして「うそのしんぶん」
    語り継ごう「報道しない自由」
    合言葉は「さんごを大切に」

  • 会計監査の独立性について。会計監査のコストを誰が負担するのかという論点があります。現状は、会計監査を受ける企業が会計監査のコストを負担しています。この意味では、全く信頼性がないということになります。お金を支払ってくれる企業に対して会計士は強く言えない。このなかでどのように会計監査の信頼性を担保するのか。監査を受ける企業と監査を行う公認会計士の間の独立性(監査報酬以外)をことさらに制限しています。株主になっては独立性がなくなるので駄目です的に。これに加え、監査法人には、日本公認会計士協会のレビューや金融庁の検査が入り、会計監査の品質を維持しています。
    本題は、以下になります。

    • 続きは、今回のテレビ局の騒動です。以下は、報道が事実と仮定しての話です。
      会社側は、外部の弁護士を雇って、社内調査をさせているとのことです。調査結果は、会社側がお金を負担しますので、独立性がなく、信頼性に欠けることになり、お金の無駄になる可能性があります。
      また、ダルトンが第三者委員会を作れと提案しています。これも誰が調査のコストを負担するのかというポイントがあります。ダルトンは、大株主でありテレビ局の上場廃止を一番恐れている可能性があります。先行して第三者委員会と称する機関を作り、調査を行い、現役員の総退陣と損害賠償の請求を行い、しらーっと上場を維持し、電波オークション等の議論をさせないということがベストなのかもしれません。
      今回の騒動は、国民の共有財産である電波をあるテレビ局に割当しておいて良いのかという論点です。第三者委員会のコスト負担は、国が行うべきかもしれません。
      国としても日本の市場は、公正な市場というためにも忖度無しの調査結果で一罰百戒的に処分するということなのか、特別注意銘柄への指定替えでお茶を濁すだけなのか。
      第三者委員会の調査結果に加え、誰がコスト負担するのかも重要かもしれません。国民の共有財産である電波の帰趨についての話ですので。

    • 格付け受ける会社から報酬もらってる格付会社(S&P フィッチ)もそうだ。

    • 社長、隕石辞任へ
      次は小前田
      社長を辞めさせた芸能人の闇
      という Youtube 動画見出しが脳裏を横切りました。気のせいかも知れません

    • かつて、民生用途の電波帯域利用が概ね1GHz以下であった時代。FM放送やTV放送に割り当てられた帯域は1GHz以下帯域の実に半分弱に及びました。
      国民に周知する情報手段が限られた時代のことですが、実に恐るべき数値です。
      従って、この業界に「電波利権意識」が根強くあるのは当然必然のことなのでしょう。
      実際、交通安全のため自動車に路車間通信或いは車車通信などする目的で、世界基準の5.9GHz帯を使用する事を国内自動車業界や総務省が検討した際、放送業界は一部業務で使うこともあるという事で極めて強く反発してきました。協議には数年要し、帯域移動費用は税金が投入される事になったはずです。
      既得権益。それを代表する業界の一つが放送業界だと思っています。

  • 毎度、ばかばかしいお話を。
    新聞:「某会計士が新聞の信頼性を論じること自体、けしからん」
    これって、笑い話ですか。

  • まー“新聞”業界の「主たる業態」が情報流通技術の進展により『立ち位置の異動』をヨギ無くされているのは疑いようもアリマセンが、ソモソモ“瓦版屋”の伸展にスギナイ“新聞屋”にヤレ『社会のボクタク』だの『コーキ』だのセン称させておく時間は終わったト、ココイラで往年のPL花火芸術フィナーレばりのスターマイン連爆ニテ…

  • 某地方紙、韓国の政変を連日大きく取り上げる傍らで「海外進出先を探している多くの日本企業が今、韓国に熱視線を送っている」だそうです。
    最早自分のところで出している記事すらまともに読んでいないんじゃないかと疑わしくなるレベルです。

    • 掲載記事の執筆を、金主にアウトソーシングしてんじゃないのだろうか?
      製作費の枯渇にあえぐテレビ局における「通販番組」のようにですね・・。

    • 滑稽なのが隣が国際社会の面で韓国の荒れっぷりをさんざん書き立ててるところ(笑)
      刷る前に一通り目を通してないのかよって呆れ果てたわ。
      まあ、かの国の立場からすればいつだって外貨欲しくてたまらないのはそうなんだろうけど、いちいち太鼓持ちする極一部の日本人の気が知れん。

  • >倫理上、軽減税率の恩恵を受けながら税制について論じる資格はない

    見出しがいい。いうことなし。
    今でも新聞を購読しているが、ほとんど読んでいない、っていうか読むとこなし。強いて読んでいるとすれば健康に関してぐらい。最も時間を割いているのがちらし。ちらしだけ配達してくれればそれでいい。

  • そりゃそうだな。
    元新聞記者がいる「日本ファクトチェックセンター」に新聞のファクトがチェックできないのと同じ。

    • フリーのジャーナリストってのも怪しいですよね。

      給料の出所を明らかにしてない訳ですが、資産家が道楽でやってるのでない限りボスに急所を握られてないはずないですから。