年賀状の発行枚数も元日配達数も減っているという話題は以前から当ウェブサイトでしばしば取り上げてきたとおりですが、これに関し、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』に、これを「年賀状ビジネスの崩壊」と批判する記事が出てきました。ただ、一面では値上げで年賀状配達数が激減したことは事実ですが、これを日本郵便の「終わりの始まり」と断言するには少し早計かもしれません。新聞が消滅すれば主要ビジネスが消滅する新聞社と異なり、世の中から郵便に対する需要がなくなることはないからです。
年賀状は発行枚数、配達数ともに激減中
先日の『年賀状の元日配達数が昨年と比べて「3分の2」に減少』では、年賀状の当初発行枚数と元日の配達数が右肩下がりで減っているとする話題を取り上げました。図表は、日本郵便の過去の報道発表などを参考に、年賀状の当初発行枚数と元旦配達数をグラフ化したものです。
図表 年賀状の状況
(【出所】日本郵便ウェブサイト等の発表をもとに作成)
調べられたデータは、「当初発行枚数」については2003年以降分、「郵便物元旦配達物数」については2007年分以降で、少しデータの範囲に差異が生じている点につきましてはご了承ください。
それにしても、すごい減少速度です。
年賀はがきの発行枚数よりも元旦の配達数が少ないのはほぼ毎年の傾向ですが、2025年元旦の配達数は4.9億枚で、2024年の7.4億枚と比べ、じつに34%減りました。減少率はなんと3分の1(!)にも達しています。
なぜ3分の1も減ったのか…可能性が高いのは昨年の値上げ
著者自身としては、年に1回、旧友・知人から届く年賀状は楽しみですし、自身の近況を書状にしたためて送付することはやぶさかではありません。
しかし、やはり世の中的にはネット化が進み、連絡は書状、電話、FAXではなくLINEやiMessage、メールなどで取り交わされることが多くなっていること、個人情報保護法で住所などの交換が難しくなっていることなどの要因もあり、やはり年賀状が廃れる方向なのは仕方がないかもしれません。
ただ、さすがに1年で3分の1も年賀状が減るのは、少なくとも2007年以降で見て、最大です。
2025年の落ち込みが大きかった要因があるとしたら、その可能性が最も高いのはやはり、郵便料金の値上げでしょう。昨年10月以降、はがきの郵便代がそれまでの63円から、一気に85円に値上げされたのです。値上げ率は約35%です。
現代ビジネス「日本郵便の終わりの始まり」
料金を35%引き上げたら元日の配達料が34%減ったというのも印象的ですが、これに関し、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』にこんな記事が出ていました。
「年賀状」の”終焉”で見えた日本郵便の「終わりの始まり」…大幅値上げが「年賀状じまい」を招く空前の大失策に
―――2025/01/15 05:04付 Yahoo!ニュースより【現代ビジネス配信】
端的にいえば、日本郵便に対してかなり批判的な記事です。というのも、こんな一文で記事が始まるからです。
「日本郵便は『年賀状』をビジネスとして放棄することを決めたということなのだろうか」。
記事では「35%の値上げで元日配達数が34%減少したこと」を巡って、こう述べ間§。宇
「赤字の郵便事業を黒字にするための値上げという話だったが、それは、お役所仕事らしい机上の計算で、値上げした分と同率の売り上げ減が起きれば元も子もない」。
そのうえで、記事では日本郵便が「見事にサービスを劣化させながら値上げに踏み切った」として、郵便料金の大幅な値上げが「大失策」だったと結論付けている、ということです。「サービスの劣化」とは、年賀状の配達時間が遅くなった、ということを意味しているのだと思います。
はて、そうでしょうか。
著者自身は正直、この値上げは戦略的なものだったのではないかと思っています。
じつは、日本郵便が取り扱っているのは「郵便物」だけではありません。ゆうパックやゆうメールなど、「荷物」も取り扱っています。「ゆうパック」の2024年3月期の取扱物数は約100.9万個で、これは23年3月期の約98.9万個と比べて増えています(コロナ禍で急増した荷物が減るなどの要因もあったようですが)。
自然に考えてみると、Eコマースサイト、通販サイトなどの売上高が増えているなかで、郵便局としては荷物の配達事業に力を入れるのは自然な話でしょうし、人手不足が徐々に深刻化するとみられるなかで、配達員のリソースを郵便から小包などにシフトさせていくのも経営戦略としては非常に賢明です。
こうした観点からは、年賀状という日本郵便の事業のごく一分野に注目し、日本郵便の経営判断が誤っていたかのように記述することには、やはり違和感を禁じ得ません。
できるだけ多角的な視点が必要では?
とりわけ気になるのは、現代ビジネスの記事にある、こんな記述です。
「日本郵便のサービスの劣化を見ると、できるだけ早く届けることで年賀状を事業として育てる気概をもはや失っているように感じる」。
そもそもこの人手不足の時代、あるいは物価上昇の時代にあって、書状を物理的に届けることに「スピード」が問われる時代なのでしょうか?
なにより、正月に配達員を確保するのも大変な時代です。
いみじくも記事の中でも触れられている通り、最近では「年賀状じまい」という言葉が流行っており、それでも年賀状を送るという人は、ゆっくりとした時間感覚の中でのんびりと正月のひと時を楽しめれば、それでよいのではないかと思えてなりません。
いずれにせよ、年賀状ビジネスという日本郵便の事業のごく一部分を切り取れば、それが終焉に向かいつつあることは明らかですが、あくまでもそれはビジネスの一部に過ぎません。
そして、「紙を物理的に配達する」という意味では、年賀状も新聞と一見するとよく似ているのかもしれませんが、現実には新聞がなくなれば主要事業が事実上消滅する新聞社と異なり、年賀状がなくなっても日本郵便のビジネスは消滅しません。荷物があるからです。
その意味では、経済評論には、できるだけ多角的な視点があった方が望ましいといえるでしょう。
View Comments (1)
「郵便」を「新聞」に置き換えてもほぼ同じ文章が書ける不思議。
大幅値上げが「新聞じまい」を招く空前の大失策に?
○○新聞社は『新聞』をビジネスとして放棄することを決めたということなのだろうか。
赤字の新聞事業を黒字にするための値上げという話だったが、それは、お役所仕事らしい机上の計算で、値上げした分と同率の売り上げ減が起きれば元も子もない。
○○新聞社は、見事にサービスを劣化させながら値上げに踏み切った。