勇者＊＊＊＊は苦難に満ちた旅の末に、ついに魔王を討伐し、王様から報奨金を支払われたのだが、受け取ったのは約束された50,000,000円ではなく、27,156,665円だった！そして、祝いの宴が終わると勇者＊＊＊＊の姿はどこにもなかった。追徴課税を恐れた勇者＊＊＊＊が雲隠れしたのである―――。某国民的ＲＰＧにおいて、勇者が姿を消した本当の理由は、案外そんなところにあったのかもしれません。

Ｘがますます面白い！

ＳＮＳの社会的影響力が日増しに高まっていることは、いまさら指摘するまでもありません。

その魅力のひとつは、「多様性」にあると思います。

新聞、テレビといったオールドメディアなどとは異なり、情報の発信者が多様であり、本当にさまざまな種類の情報に接することができるのです。

こうしたなかで興味深いのが、税制についてやたらとリアルなＲＰＧです。

『確定申告を頑張るＲＰＧ』と題したサイトがそれなのですが、これにインスピレーションを得て、当ウェブサイトとしてもちょっとした会話集を作成してみました。

勇者＊＊＊＊のぼうけん

プロローグ

王様「おお、よくぞ来た勇者＊＊＊＊よ。そなたのような若者が現れるのを待っておったぞ。

王様「父の遺志を継いで魔王討伐に出たいとするそなたの願い、聞き入れたぞ。

王様「人々はまだ魔王の存在には気づいておらぬが、このままだとやがて世界は魔王に滅ぼされよう。

王様「街の酒場で仲間を見つけるがよい。また、この50,000円で装備を整えてくれい。

ナレ「＊＊＊＊は王様から仲間のための武器と防具、軍資金としての48,468円を手に入れた。

王様「ではまた会おう、勇者＊＊＊＊よ！

街の武器屋で

店員「いらっしゃい、ここは武器と防具の店だ。なにか買っていくかい？

店員「何を買うかい？

どうのつるぎ…5,000円

かわのよろい…4,500円

かわのぼうし…4,000円

店員「銅の剣だね？5,000円だけど良いかい？

勇者＊＊＊＊は店員に5,500円を支払い、銅の剣を装備させてもらった。

店員「また来てくれよな！

魔王討伐戦

魔王「勇者＊＊＊＊よ、よく我のもとに来た。我を倒してみよ！

（戦闘画面）

ナレ「勇者＊＊＊＊は苦闘の末、魔王を倒した

精霊「勇者＊＊＊＊よ、よくぞ魔王を倒しました。さぁ、王様のもとに帰りなさい。

王様との謁見

王様「おお！勇者＊＊＊＊よ、よくぞ魔王を倒した！ほめて遣わすぞ！

王様「皆の者！今宵は宴じゃ！

王様「勇者＊＊＊＊よ、そなたにはわが国に伝わる勇者の称号を与えるぞ！

王様「そして勇者＊＊＊＊よ、褒美を取らすぞ！約束の報奨金50,000,000円だ！

ナレ「勇者＊＊＊＊は王様から27,156,665円を受け取った！

勇者の違和感

勇者「あの…、なんだか違和感があるんですけど…

勇者「なんで最初に50,000円くれると言いながら48,482円しかなかったんですか？

勇者「なんで店で5,000円の銅の剣を買ったら5,500円を払わされるんですか？

勇者「なにより、なんで報奨金は27,156,665円なんですか？

源泉徴収所得・復興税と消費税

世知辛い世の中

最近だと、ファンタジーの世界にも税制の影響が及んでいるのかもしれません。

「勇者＊＊＊＊」が冒険の開始時点で王様からもらった軍資金50,000円、魔王討伐後にもらった報奨金5000万円には、それぞれ、所得税法上の源泉徴収が徴収されています（ここでは『給与所得の源泉徴収税額表（令和５年分）』の乙欄が適用されるものとします）。

たとえば、乙欄では受け取る給与が88,000円だった場合には3.063％、つまり1,531円が源泉徴収税額とされており、これを控除した48,469円が支給額です（本文中だと王様が１円誤魔化しているように見えるのは気のせいかもしれません）。

また、その月の支給額が3,500,000円を超える場合は、次の計算式で源泉徴収税額が計算されます。

源泉徴収税額＝（50,000,000円－1,700,000円）×45.945＋651,900円＝22,843,335円

したがって、王様が勇者＊＊＊＊に支払う報奨金は、50,000,000円ではなく、ここから所得税・復興税の合計額22,843,335円を源泉徴収した残額の27,156,665円、というわけです。興味深いですね。

また、街では当然のこととして、買い物をすると消費税と地方消費税が合計10％かかります。「銅の剣」は食品や新聞ではありませんので、現行の税制上は軽減税率ではなく10％の合計税率が適用されるものと考えられます。

この点、「魔王を討伐し世界を救おうとする勇者からも容赦なく税が徴収されるのはおかしいではないか」、といった疑問が生じるかもしれませんが、残念ながら、消費税というものはそういう性質の税金ではありません。

私たちが住む現実世界においても、たとえば紙おむつや乳児石鹸、お尻ふきといった子育て必需品、あるいは生理用品や台所洗剤といった衛生用品・生活必需品に対しても、10％の税率が容赦なく適用されているわけです。

したがって、勇者＊＊＊＊が魔王を討伐するための銅の剣は本体価格5,000円、消費税390円、地方消費税110円の合計5,500円でなければ買い求めることができません。

なかなか世知辛い世の中ですね。

（ちなみに冒頭に紹介したゲームの場合は、王様から提供される報奨金は所得税法第204条第１項第４号に規定する事業報酬として、100万円を超える部分に対し20.42％、100万円以下の部分に対しては10.21％の源泉徴収がなされていとありますが、このあたりは解釈の違いでしょう。）

「年収の壁」でモンスター退治をやめる？勇者

ちなみにこの世界線だと、モンスターをやっつけることで得られる収入にも、逐一、所得税と復興税が源泉徴収されているのだと思います（給与所得なのか事業所得なのかわかりませんし、また、誰がどうやって徴収しているのかは知りませんが…）。

ただ、そうなってくると、やはり魔王よりも怖いのは「年収の壁」です。

魔物をやっつけたらもらえる報酬も、103万円を超えてしまうと、「働き控え」が生じるのかもしれません。

村人「勇者様、お願い！村を救って！

勇者「今年は103万円を超えてしまったので、これ以上働けません

なんてやり取りがあったのかどうかは知りませんが、「年収の壁」のせいで救われない村があったとしても不思議ではないでしょう。多分。

勇者の姿が見えなくなった理由とは？

さて、某ＲＰＧの場合、最後にこんなメッセージが表示されます。

ナレ「大魔王を倒して祝いの宴が終わった時、勇者＊＊＊＊の姿はもはやどこにもなかったという

…。

この「なぜ勇者＊＊＊＊はせっかく大魔王を倒し、真の勇者の称号を得たのにひっそりと姿を消してしまったのか」について、個人的には長年謎だったのですが、今となってはその理由はよくわかります。

魔王討伐の旅の末に目的を達成した勇者は、その副産物として、決して少なくない経験値とおカネを稼ぎました。

ところが、王様に魔王討伐を報告した勇者は、その稼いだおカネに対し追徴課税されることをおそれ、ひっそりと姿を消したのです。たぶん。

ちなみにこれを現代日本では「夜逃げ」と呼んだりするようですが。

せっかく苦労して魔王を倒したものの、所得税を課税されることを恐れて夜逃げする勇者。ここに、あの某国民的ＲＰＧの、「なぜ祝いの宴が終わったときに勇者＊＊＊＊がひっそり姿を消したのか」の謎は解明された、のです！

たぶん。