森山裕・自民党幹事長が、「減税には財源が必要だ」といった周回遅れの主張をしたようです。なかなかに呆れる話です。ただ、減税を旗印に、国民の「税、社保を取られ過ぎている」とする意識に議論の火を付けたのは国民民主党、これから絶賛炎上するであろう対象は財務省など官僚機構であろうと考えられますが、このSNS時代、その火を消すことは、おそらく国民民主党にも、自民党にも、できません。火を消そうとしたら引火する可能性すらあります。
目次
自公国3党は昨年、合意を交わしたはずなのに…
国民民主党が主張する、いわゆる「年収の壁」を103万円から178万円へと引き上げるという論点を巡っては、昨年12月、自民、公明、国民の3党の幹事長が「協議を継続する」とする趣旨の合意文書を取り交わしました。
経緯としては、国民民主党の玉木雄一郎代表(※役職停止中)が自身のXにポストした通り、12月11日時点で、まずは「国民民主党の主張する178万円を目指して、来年から引き上げる」とする合意書が取り交わされています。
合意書の内容を文字起こししておくと、こんな具合です。
合意書
自民党、公明党及び国民民主党は、以下に合意する。
いわゆる「103万円の壁」は、国民民主党の主張する178万円を目指して、来年から引き上げる。
いわゆる「ガソリンの暫定税率」は、廃止する。
上記の各項目の具体的な実施方法等については、引き続き関係者間で誠実に協議を進める。
令和6年12月11日
自由民主党 幹事長
公明党 幹事長
国民民主党 幹事長
国民民主が席を蹴った→ショボすぎる減税案
しかし、こうした合意文書にもかかわらず、自公はこの「年収の壁」を巡って、まずは現行の48万円の基礎控除を(国民民主が主張する123万円ではなく)58万円への10万円の増額に留めるという、あまりにもショボすぎる税制改正をまとめました(『減税巡るショボすぎる自公案…国民に喧嘩売った財務省』参照)。
国民民主党が自公との6回目の協議で、国民民主党が主張する103万円から178万円への引き上げを巡って、自民党の宮沢洋一税調会長が「123万円」を提示し、古川元久税制調査会長は「話にならない」として席を蹴って立ってしまったからです。
しかも、この税制改正で引き上げられるのは所得税の基礎控除のみであり、地方税の基礎控除については43万円のままで据え置かれる、という代物で、ほかにも給与所得控除の最低保障額を10万円だけ引き上げることが盛り込まれたものの、これも年収190万円を超える人には何も恩恵がありません(図表)。
図表 国民民主党と自民党税調の案の比較
国民民主党が求めている減税案 | 自民党税調が出してきた減税案 | |
基礎控除(所得税) | 現行48万円→123万円 (75万円の増額) | 現行48万円→58万円 (10万円の増額) |
基礎控除(地方税) | 現行43万円→98万円 (75万円の増額) | 現行43万円→43万円 (増額なし) |
給与所得控除の最低保障額 | (言及なし) | 現行55万円→65万円 (10万円の増額) ※ただし給与収入190万円以上の人には減税なし |
あまりにも有権者・国民を愚弄した案と断じざるを得ませんし、国民民主党が猛反発するのも無理はありません。
議論自体は継続で合意したはずなのに…危機意識低い石破執行部
ただ、これに対して榛葉賀津也幹事長は12月20日に再び自公との3党幹事長会談に臨み、とりあえず協議自体は継続することで合意したのです。
すなわち、議論は今年に持ち越された格好ですが、榛葉氏らの一連の発言から判断する限り、もしも自公がこのまま「123万円」(※厳密には「実質的な113万円」)で突っ切ろうとすれば、国民民主党は予算案に賛成せず、それどころか立憲民主党あたりが不信任案を提出すると、賛成するかもしれません。
こうした状況に対し、自民党は危機感を持っているのでしょうか。
これについては『自民党現執行部はSNSで議論沸騰の手取り問題軽視か』などでも述べたとおり、どうも自民党(というか、現在の自民党執行部)には、あまり危機意識が見られないのではないか、といった気がしてなりません。
とりわけジャーナリストの須田慎一郎氏の7日付のレポートによれば、自民党有力議員の発言を引用する形で、自民党の森山裕幹事長ら執行部が「年収の壁」問題を巡り、これ以上の譲歩をしない方針を固めた、などとあります。
通常国会、自民党が反転攻勢の情報 キーマンは森山幹事長、国民民主党との「年収103万円の壁」協議でこれ以上の譲歩しない方針
―――2025/01/07 06:30付 zakzakより
森山裕氏の周回遅れっぷり
このレポートの内容が正しいかどうかはわからないのですが、少なくとも現在の自民党執行部が減税には極端に後ろ向きではないか、という状況証拠はいくつかあります。
そのひとつが、これかもしれません。
「財源の裏付けのない話はしてはいけない」103万円の壁引き上げ協議めぐり、自民・森山幹事長が国民民主をけん制
―――2025年1月8日 16:17付 TBS NEWS DIGより
(※記事タイトルの「けん制」とは「牽制」の意だと思われますが、タイトルに関しては原文のままです。この手の漢字表現を勝手にひらがなに変える方式は政府やマスメディアが大好きなようですが、個人的には強い違和感を覚える次第です。)
TBSによると自民党の森山裕幹事長は8日、熊本市で開かれた党の会合で、いわゆる「103万円の壁」を巡り、国民民主党側が財源を示していないことを巡って「財源の裏付けのない話はしてはいけない」と述べた、というのです。
議論、いったい何周遅れなのでしょうか。
少なくとも当ウェブサイトにおいては『財源論者に不都合な事実…来年度税収見通しは過去最高』などでも論じたとおり、たとえば▼一般会計では少なくとも2009年以降、毎年剰余金を計上している、▼減税で乗数効果により経済成長し税収も増える、といった点に加え、次のような問題点も指摘しています。
- そもそも「国民民主案で7~8兆円の税収減」とする主張に根拠がほとんどない
- これまで財務官僚が使ってきた「税収弾性値1.1」は実証的に見て明らかな間違い
このあたりはSNSなどでも活発に日々議論されているようですが、残念ながら数量的に信頼できる主張のなかで、財務省の言い分を裏付けるようなものは見当たりません。
というよりも、現在の自民党執行部にアベノミクスの考え方を正しく理解している人物はいるのでしょうか?
色々と謎です。
SNSで燎原の火のごとく広がる議論
なお、大事なことなので改めて指摘しておきますが、著者自身はべつに国民民主党を支持しているというわけではありませんし、選挙で国民民主党への投票を呼び掛けるつもりもありません(というか、当ウェブサイトでは特定政党への投票を呼び掛けたつもりはありません)。
あくまで「結果論として」、所得税の減税(基礎控除の引き上げ)や消費税の時限的な減税などの論点に関しては、とりあえず国民民主党の主張には正しい部分が多いと考えているというだけの話であり、国民民主党を全面的に支持する、というものでもありません。
また、現実的に見て、「政権担当能力」が最もあるのは自民党であり、自民党が今すぐ下野した場合には、2009年の大混乱が訪れかねない、という点についても警戒している次第です。
なにより恐ろしいのが、国民民主党は「税・社保を取られ過ぎている」という議論に火を点けただけであって、燎原の火のように広がったその議論を消すことは、おそらくは国民民主党にも、自民党にも、そして当然、オールドメディアにもできない、ということです。
というよりも、このSNS全盛時代にあって、下手に火を消そうとしたら引火します。
これから絶賛炎上を開始するのは、おそらくはSNSからは「悪の総本山」と認定されつつある財務省に加え、どうしようもない社会保障制度を作ってきた厚生労働省、さらに地方税利権を持つ総務省あたりでしょう。
そして、これらの官庁などを下手に擁護しようものなら、SNS空間では大量のエビデンスで殴りつけられるのではないでしょうか(※もっとも、とりわけ「財務省炎上」に関しては、これまでの行いに照らして、まったく同情も擁護もできないのですが…)。
こうした観点からは、やはり自民党には内部から変わっていただきたいと思いますし、是々非々で良い政策については前向きに推進していただきたいと思うのですが、これは果たして贅沢な願いなのでしょうか?それとも…。
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新聞記者と政治家、経済音痴はどちらか
そんな見出しの Youtube 動画が量産されそうです
主要政党の中で、現状に対する認識がまともで主張も(ほぼ)まともなのは国民民主党のみという恐ろしさ…国民民主党が特段凄いのではなく、他があまりにも酷すぎるだけです。
Before-SNS、政治家になるにはジバン、カンバン、カバンが重要だった。After-SNS、政治家になるには、まともな経済政策を主張できるかどうかが重要になった。
現状の日本の状況に照らして、どのような経済政策を行うべきか。SNSで国民と議論できるかどうかがAfter-SNSでは、政治家の要件になるのかもしれません。
かつては官僚を激しくバッシングしていたメディアや、民主党政権の頃には 「政治主導」 「脱官僚政治」 を唱えていた立憲民主党の議員たちが、ことごとく財務官僚の代弁者になっているのは、本当に不思議。いったい財務省に、どんな弱みを握られているんだろう? もっとも、彼らは安倍政権の 「官邸主導」 の政治も批判していたけど。
一部の議員がSNSで 「国民民主党の主張はポピュリズムだ」 と発信して炎上しているけど、国民を愚民だと思っていなければ出てこない発想で、本当に醜悪。日本人はモラルも情報リテラシーも高いから 「日本国は決して破綻しない」 ことは解かっていて、減税を支持している。
麻生内閣のとき立て続けに経済対策やったけど、あの時財源議論はあったのか。
政権失うのイヤでばらまいたという印象だったが、結局民主党に政権交代した。
年末年始に地元に帰った自民党の国会議員の皆さんは、有権者から切実な「取られすぎ感」を聞かなかったのでしょうか。このままでは、本予算の成立もさることながら、都議選、今夏の参院選挙での大敗は必至でしょうに。
とりあえずの減税(そうでないと自民党は政権を失う)は支持しますが、根源的には既得権益者である高齢者・リタイア世代から、特権(少額の健康保険料で多額の医療費を使う)を剥奪(といっても段階的にしか出来ませんが)していかないと、現役世代・子育て世代の「取られすぎ感」は解消しません。そのための一歩を踏み出すべきです。
国民民主党は、エッジを効かすためにも、「現役世代・子育て世代のための党」であることを標榜しないかな。そしたら立ち位置も明確になり、支持もより集まるのではないかな。
私の自民党支持は変わらないでしょうが。
takuさま
主義主張は尊重できますが、問題は制度設計の話であって世代間格差ではありません。
世代間格差を生み出したのは制度設計が異常だからです。
例えば、社会保障は保険の衣を纏っており、保険である以上は相互扶助が基本です。
生命保険であれば生命表から性別・年齢ごとに保険料が決まり、それを予定利率や死亡率などで調整されます。
医療費も年金も若ければ若いほど保険料は安くなるのが基本です。
そうなっていないのであれば制度設計がおかしい、制度設計が破綻しているからです。
そして不公平感を生み出す原因は制度設計であり制度設計を行ったのは官僚です。
あなたが「既得権益」「特権」「剥奪」などと殊更煽る高齢者・リタイア世代ではありません。
その点を理解いただいて主張された方が相互理解が進んで議論できると思います。
ちなみに当方も現役世代です。
あなたより年上かもしれませんが。
転勤族さま
コメントありがとうございます。
「医療費は若ければ若いほど保険料は安くなるのが基本」であるべき、という考えには、全面的に同意します(年金はちょっと違うと思いますが)。
そのうえで、その制度を作った官僚が悪いという考えはどうかな、と思います。国会の議決により制定された法律に基づいているし、その国会議員を選んだのは、国民だからです。当時は「現役世代が、お年寄り世代を助けるのは、当たり前」と多数の方々が考えていたのだと思います。ただもう現役世代・子育て世代が、高齢者・リタイア世代を、助けきれない。時代の変わり目だと、思うのです。
付言すれば、今回の年収の壁で、財務省バッシングが激しいですが、これにも少なからず違和感を持っています。財務官僚が財政均衡主義を掲げるのは本分の仕事をしているだけであって、国民の「取られすぎ感」を政治に反映できないのは、政権与党である自民党がさぼっているだけ、と考えるからです(私は自民党支持者ではありますが)。
言葉が激しいと言われれば、反省しますが、高齢者・リタイア世代が悪いと思っているわけではありません。ただ「特権」(だと思うのですが)を享受していることは、確かだと思う次第です。
「病気しやすい高齢者は既存の保険から排除」これ75才以上については後期高齢者医療制度というのを作って2008年からやってるよね。
理由は後期高齢者にかかる医療費はハンパない額で保険がもたないから。
sqsqさま
コメントありがとうございます。
確かに、「後期高齢者医療制度」を作っていますが、収入の40%を現役世代からの交付金、同じく49%を現役世代が大半を負担していると見られる「国・都道府県・市町村からの支出金・負担金」で賄っており、「保険」という名に値する代物ではありません。
https://www.mhlw.go.jp/content/12403500/001283120.pdf
いわば「朝三暮四」。現役世代・子育て世代が、高齢者・リタイア世代に、一方的に貢いでいる構造は、何も変わりません。
思うにXのコミュニティノートの対応、イーロン氏の中の人達改革でSNSの流れが一気に変わりましたよね、もう何かあると専門家がひょいと現れて既存の勢力をぶっ倒して行きますし、正直、情報の量も質も新鮮度も自分の中では処理しきれないし。
森山さんとかの認識がズレちゃってるのも仕方ない部分もありそうですしね、古い政治家やら古い官僚体制か限界に来てるんでしょう。
大抵の組織体には、リーダーになる資質のある人、リーダーを支える資質のある人、普通の人、嫌々だが従う人、まるで役に立たない人みたいな層別ができるものです。
今の自民党執行部。ホントのホントにこれら最後の2つの層の吹き溜まりのように見えます。よくぞここまで澱んだもんだなと。あの集合写真からしてゾンビ集団のようではありました。
こういう連中が自民党執行部になるようにマスコミ・メディアはけしかけ、SNSの声よりマスコミ・メディアの声を真に受けてしまったのか周辺自民党議員が今の自民党執行部の連中の背中を押したのかと。。
5月中に最初の2つの層が決起して参院選までに体制を一新させないと、ゾンビ集団によって「保守有権者」が望む自民党は本当に崩壊しちゃう予感がします。
>国民民主党は「税・社保を取られ過ぎている」という議論に火を点けただけであって・・・
>国民民主党は「税・社保を取られ過ぎている」という議論に火を点けただけであって・・・
森山氏の発言も、此の取られ過ぎていると言う(税制)現実から国民の意識を逸らすための方言で、財源論で俺が言えば簡単に説得できるだろうと言う思い上がりだと思われます。
今迄とった分を返せと言っている訳で無く、取るの辞めろですから財源は必要無いですね。