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簡単に「炎上」する時代…自民党も政策で情報発信を!

自民党出身のとある政治家の方が、X(旧ツイッター)で「炎上」したようです。物事には言い方というものがあるわけですが、児童手当の所得制限や一定以上の所得層に対する基礎控除を奪う税制などを巡って、少なくない国民から批判が殺到しているのです。自民党やその関連の議員らにとっても、政策を表に掲げなければ人々に刺さらない―――。そんな時代が到来してしまったようです。

昨年がターニングポイントと言える理由

昨年の『「税の取られ過ぎ」に気付いた国民がSNSを手にした』で指摘した通り、2024年はネットの社会的影響力がオールドメディア・官僚の連合軍を凌駕し始めたという意味で、後世に深く記憶される年となるだろう、というのが、著者自身の現時点の考え方です。

その際、重要な点があるとしたら、そもそも私たち国民が、税金や社会保険料を取られ過ぎているのではないかという点に、少なくない国民が気付き始めてしまったことにあると思われますが、それだけではありません。

いまや減税の最大級の「抵抗勢力」と化したフシがある財務省、あるいは高所得者ほど負担が高いわりに受けられる保障も低くなるという欠陥を持つ日本の社会保障制度を作ってきた厚労省らに対し、少なくない国民が反感を覚えるようになったのです。

しかも、この財務官僚や厚労官僚、総務官僚といった、「官僚」と呼ばれる存在は、あくまでも国家公務員採用試験に合格しただけの者たちであり、私たち日本国民からはただの1票たりとも信を得ていないにも関わらず、私たち国民の生活に多大な影響を与えているわけです。

そんな者たちが、私たち国民が選挙で選んだはずの国会議員をも時として上回るほどの巨大な実質的権力を持っているのもおかしな話ですし、そうした構造に異議を唱えない、新聞、テレビを中心とするオールドメディアに対しても、また、私たち国民は疑問を抱き始めているのでしょう。

そのことが可視化されたのがSNSを中心とするネット空間です。

昨年行われたいくつかの選挙では、オールドメディアの社会的影響力の凋落を象徴するできごとがいくつかありましたが、その最たるものが、兵庫県知事選でしょう。「不祥事」で辞めさせられた斎藤元彦氏が、SNSなどを通じて支持を集め、見事、兵庫県知事に返り咲いたのです。

その意味では、SNSの社会的影響力がオールドメディアのそれを上回ってしまったともいえるでしょう。

SNS規制論も出てきたが…それには少し無理がある

この流れをまとめたものが、次の①~④のような箇条書きです。

2024年が社会のターニング・ポイントといえる理由
  • ①国民は税や社会保険を取られ過ぎていると気付いてしまった
  • ②国民は官僚とメディアの腐敗と癒着構造に気付いてしまった
  • ③国民は不満を訴える手段としてSNSを手に入れてしまった
  • ④SNSの社会影響力がオールドメディアを上回ってしまった

こうしたなかで、昨年は「SNS規制」などの動きも出て来たようですが(『SNS収益剥奪するならオールドメディアも収益剥奪を』等参照)、正直、これも焼け石に水のようなものでしょう。

たとえば一般人に対してSNSを通じた情報発信規制をするにしても、表現の自由を謳う日本国憲法との整合性が問題となりますし、また、SNSの情報が誤りだらけで問題だというのならば、オールドメディアの情報だって誤りだらけで問題だと断じざるを得ません。

現時点までに報じられているSNS規制といえば、せいぜい、選挙期間中に「違法動画」がポストされた場合、その収益化を禁じるくらいが関の山であり、それにしたって「誰が」、「どうやって」、そのコンテンツが「違法である」と判断するのかがまったく見えてきません。

こうした状況を踏まえると、SNS規制といわれているものが簡単にできるというものでもないことは明らかであり、そういうしている間にも、SNSの社会的影響力は現在よりも高まることこそあれ、低下するとは少々考え辛いところです。

自公惨敗と国民民主躍進の「意味」

さて、こうしたなかで、本稿で改めて考えておきたいのが、昨年の衆院選で自公両党が過半数割れを起こしたこと、そして「手取りを増やす」を旗印に掲げた国民民主党が大躍進したことの意味です。これは、多くの人にとって衝撃を与えたのではないでしょうか。

実際、各種世論調査でも、最近だと国民民主党が立憲民主党のそれを上回る、という状況が生じています(『少なくとも5つの支持調査で国民民主が立憲民主上回る』等参照)し、調査によっては(SNSに抵抗感が少ないと思われる)若年層を中心に、国民民主党の支持率がトップに立つこともあるようです。

じつはこれ、先ほど挙げた「ターニングポイントとしての2024年」の箇条書きを思い出していただけると、非常に辻褄が合っているのです。

「①国民は税や社会保険を取られ過ぎていると気付いてしまった」に関しては、国民民主党が掲げた「手取りを増やす」が多くの国民に深く刺さったと考えられることと整合しています。

また、「②国民は官僚とメディアの腐敗と癒着構造に気付いてしまった」に関しては、高年齢層ほど立憲民主党の支持率が高く、国民民主党の支持率が低いこと、そしてこれが「若年層ほどネットを使いこなしている」という「普及率」の議論とも整合しています。

こうした文脈からは、「③国民は不満を訴える手段としてSNSを手に入れてしまった」ことや、「④SNSの社会影響力がオールドメディアを上回ってしまった」ことも、国民民主党の躍進と既存政党の後退、という現象をうまく説明している格好です。

小選挙区で立民躍進は当たり前…彼らが支持されたわけではない

なお、このようにいうと、「立憲民主党は昨年の選挙で勢力を50議席増やしたではないか」、といった反論をいただくこともありますが、これについては小選挙区比例代表並立制という衆院選の特徴に照らして、ある意味では当然の減少です。

小選挙区制度が「二大政党制」を念頭に置いた制度であるため、最大政党が後退すれば、第2党がなかば自動的に議席を伸ばす、という仕組みです。それを証拠に、立憲民主党は前回と比べ、比例代表での得票をほんの少し上積みしただけで、小選挙区での得票は前回比147万票も減らしているのです。

要するに、立憲民主党が議席を増やしたのは、最大政党である自民党が前回比679万票減るなど「勝手にズッコケた」だけの話です。立憲民主党が前回並みの票を得ていたならば、小選挙区であと10~20議席は上積みしていた可能性がありますが、結局、これが同党の限界なのでしょう。

翻って自民党についても同様に無事ではありません。

たとえば、財務省やインナーらにとっては、昨年、国民民主党が要求した減税に事実上のゼロ回答で応じた格好ですが、これについては彼ら自身が自分たちの流儀に従った回答をしたつもりが、じつはその「恐ろしさ」が大部分の国民にはまったく伝わらず、逆に財務省とインナーが「大炎上」する事態に陥ったのです。

しかも、SNSでは下手な官僚、マスコミ記者らを遥かに上回るレベルの専門知識を持つ「ノラ専門家」などの高度人材も多く、これらの「ノラ専門家」らが逐一、政府関係者らのツイートを監視していて、隙あらば鋭いツッコミを入れるという体制が出来上がってしまいました。

所得制限などを巡って新春早々「炎上」が…!

こうした流れで取り上げたいのが、(本稿では敢えて実名を挙げるのは控えておきますが)とある自民党出身の議員がX(旧ツイッター)に投稿した内容が、新春早々、良い感じで「炎上」してしまったらしい、という話題です。

この方がポストした内容のうち、「炎上」するきっかけになった部分を要約すると、こんな趣旨です。

  • 児童手当はこれまで1200万円の所得制限があったが、自民党政権時代に児童手当の所得制限を撤廃した
  • 所得制限を設けていた理由は、所得1200万円以上の世帯は日本で10%もなく、このレベルの所得制限は必要とする考えによるもの
  • ただ、5千万円や1億円の所得層まで手当や減税が必要かについては苦慮するし、基礎控除は所得2500万円超でゼロだ

日本全体で10%もいないからという理由で、子育ての所得制限を設けたり、基礎控除を奪ったりするのはさすがにおかしな発想です。そもそも基礎控除は「生存権」に基づく要請だとする立場からすれば、財務省式の「基礎控除ゼロ」は、まさに「高年収層には生存権を認めない」というメッセージだからです。

もちろん、この方も長く政権の中枢にいたという事情もあり、表立って現在の政策を批判することが難しい、といった事情もあるのかもしれませんが、だた、もしそうだとしても、「言い方」というものがあります。

国民民主は「箱」を開けただけ

そして、こうしたポストの炎上ぶりからは、日本の政治は、(衆院選があった)2024年10月27日をもってガラッと変わったと見た方が正確ではないか、と考えざるを得ません。税調のインナーが税制を勝手に決めていくという在り方が、許されなくなったからです。

もっと言えば、昨年の『国民民主が開いたパンドラの箱…国民対財務省の戦い?』でも指摘したとおり、「年収の壁引上げ」を言い始めたのは国民民主党ではありますが、それと同時にこの問題自体が政党の枠を超越して、まさに「国民的な関心事」に高まっているフシがあるのです。

もしも国民民主党が「年収の壁引上げ」をやり遂げれば、同党に対する支持率は飛躍的に高まるでしょうし、もしもそれが自公などの抵抗や立民・維新などの妨害で頓挫すれば、その分の国民の「恨み」はそのまま自公立維などに向かいかねません。

ただ、国民民主党が中途半端なところで妥協してしまったならば、今度は国民の「恨み」は国民民主党に向かいかねず、その意味で、「手取りを増やす」は、「言い出しっぺ」の国民民主党にすらコントロールできない状況にあると考えて良いでしょう。

そして、自民党も政権を失いたくないのなら、「SNS規制」などとくだらないことをやってないで、所属党員ひとりひとりがいかにSNSを駆使して政策を訴えかけるか、いかにSNSを駆使して情報を発信するか、といった点についての研修をした方が有意義ではないでしょうか。

いずれにせよ、石破政権の構成に対する最大の功績は、税制という国民生活の根幹部分を財務省や自民党税調といったインナーで好き勝手に決めて来たという実態を白日の下に晒したことであり、そして、財務省や自民党税調らを議論の表舞台に引きずり出したことです。

この流れがどこまで進むのかは現時点では予測が難しいところですが、少なくともこの流れが後退することは考え辛い、ということだけは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (16)

  • インナーというのは自民税調のなかでも税に関する問題で財務省と渡り合えるだけの知識のある議員という印象。
    議員は忙しいのでインナーの下にも税の専門スタッフがいるのではないか。
    でないとすべて財務省のいいなりで「こどもの使い」のようになってしまう。
    ただし今回は与党で過半数ないのだから国民民主の意向をくまなければ予算は成立しない。
    維新を抱き込むことを考えているとはしご外されかねない。
    維新は「減税つぶしの党」というレッテルを貼られることになるだろう。

    • 議員は官僚やマスコミを信用せずに「専門スタッフ」を選ばないと、「渡り合う」どころか「慣れ合う」だけになってしまう。

    • 維新は 「103万円の壁の打破」 と 「高校授業料の無償化」 の両方を求めていけばいい。少なくとも吉村代表は、そう言ってる。

      XユーザーのTokyo.Tweetさん:
      https://x.com/tweet_tokyo_web/status/1872858245632848007
      >「維新の吉村代表 「103万円の壁、178万円にするため、国民民主党と一緒にやる」 「一緒の天秤皿に乗る」 「178万円と高校授業料無償化が出来ないのなら、予算案には賛成しない」

      選挙対策としても、そのほうがマトモ。しかし自民は…だからこそ 「立民と大連立」 なんて言い出したのか。
      それにしても、自民は党内左翼の炙り出しでもやっているのか? そうでなければ、完全に 「大きな政府」 を掲げる左翼政党やん。

      • 前原議員の言ってる教育無償化はゼロ歳から大学までだそうだ。
        大学は奨学金の補助程度にしとかないと支持を失うんじゃないかな。
        大卒と高卒の生涯年収には大きな差がある。ネットで調べると6000万円と出ていた。
        つまり大学教育は投資、大学卒業証書は資産と言えるかもしれない。
        世の中には大学など行きたくない人もいる。そのような人が払う税金を使って大学に行く人の資産形成を助けていいものだろうか。
        高校授業料の無償化が支持されているのは大多数の人が高校に進学し、事実上義務教育のようになっているからだろう。

    • カネの掛からない政治を目指す日本で、議員が、財務省と渡り合えるだけの知識のある「税の専門スタッフ」をどうやって抱えてるんでしょうかね。秘書名目ですかね。
      本来の政治活動には、各方面の専門スタッフが必要だと思いますから、堂々と雇用できる道を設けるべきであると思います。
      議員や党が、良い政策を打ち出すためには、それなりのスタッフを抱えることが必要で、タダではできないと思います。
      政治はカネが掛かると思わないと、政治家は「こどもの使い」がちょうどよいということになると思います。

      • 思いつくのは自民党独自で世論調査をやっていてその結果を公表はしていないことです。
        外部の会社、組織などを使ってやっているみたいですね。
        新聞社、テレビ局がやるような「安上がり」なものではないようです。
        費用は党費でしょう。

        • オールドメディアでも政治評論家が、したり顔で 「自民党の独自調査では…」 とか言ってますが、とても精度が高そうには思えません。精度の高い調査なら、今の自民党のような体たらくには、なっていないわけで…。

      • >「税の専門スタッフ」をどうやって抱えてるんでしょうかね。秘書名目ですかね。

        これからはAIとSNSの活用が必須になると思っています。
        お金余りかかりませんし。

  • いつも話題の提供ありがとうございます。
    本文最後のほうの

    >そして、自民党も政権を失いたくないのなら、

    ですが、自分が感じているのは、既に現政権は「保守としての自民党」を捨てている気がします。
    そして、立民(?)と合流(?)して「新たなリベラル政党」設立を目指していると考えれば、現政権のやり方に合点がいきます。
    で、新たな政党のトップに立ちたいという願望のため、自民党を壊している。

    • 肌感覚としては、おおむね賛同です。

      かつて自由党と民主党が大連立したみたいに、今回は自民党と立憲民主党。

      とくに達成目標はなくて、政権維持する事だけが目標の集団。

      宮崎駿「ナウシカ」に兵器として人造された粘菌が出てきますが、あんなイメージですかね。
      自己増殖する事だけが目的のオートマトン。

      高市は、余計な成分をふるい落とすか、タンツボから抜け出すかしないと、力を吸い取られてるだけになりそうな。

      • CRUSH 様

        ご賛同ありがとうございます。

        >とくに達成目標はなくて、政権維持する事だけが目標の集団。

        この、目標がなく、自らの「権威維持」のための活動が、う~ん、何なのだろう、
        自分が納得がいかないぶちまけたい感情なのですが。
        どの様に説明していいのか自分でも消化不良のままです。

  • 自分たちの流儀に従った回答をしたら、じつはその「お粗末さ」を多くの国民が知ることとなった。彼らに逆らわず黙っていても、国民に何かいいことをしてくれるわけではない。正しい情報や根拠のある情報を発信できる能力がない人たちには寛容でない世の中になりつつあり、SNSを規制しろなどと騒いでいる。

  • (前にもコメントしましたが)ネットという新興メディアを使いこなすスキルをもった政治的リーダが台頭して、政治体制を一新するのでしょうか。

  • SNSを目の敵にして規制しろと言う岸田石破政権ではオールドメディアしか見ないでしょう。本格的に自民食堂以外のマシな店を考えるべき時期。

  • いったいインナーなる者は、国民の代表なのか財務省の代理人なのか。
    若い頃にいい歳をした大蔵省の官僚とお話しをしたことがあるのですが、「これは人間の言葉なのか?」と呆れかえってしまいました。
    彼は、分らないことを「分らない」、知らないことを「知らない」と言えないんです。
    そして最後に結んだ言葉が衝撃でした。
    「それは私の責任ではない。」と。
    「その優秀であろう頭をもっと他のことに、国民のために使いなさいよ。」と思ったことを覚えております。