現在の衆院では、自公が過半数を制していないなかで、自民党・石破茂首相にとっては野党、現実的には38議席の日本維新の会か、28議席の国民民主党のいずれかとの連携が最も現実的です。しかし、そのわりには昨年の「年収の壁」協議を巡る宮沢洋一税調会長の不誠実な態度に見られるように、自民党に危機感は見られません。それどころか「大連立」という単語も出て来たようです。
少数与党という状態が何を意味するのか
衆議院では、自民党が公明党と合わせても過半数(233議席)に届かない状況に陥っています。
衆院ウェブサイト『会派名及び会派別所属議員数』によると、(統一会派ベースで)自民党の所属議員数は196人に留まっており、これに公明党の24人と合わせても勢力は220議席と、過半数には13議席ほど足りていません。
これに対し最大野党の立憲民主党は148議席、これに日本維新の会(38議席)、国民民主党(28議席)が続き、れいわ新選組(9議席)や日本共産党(8議席)、有志の会(4議席)、参政党と日本保守党(各3議席ずつ)、無所属(4議席)と、野党合計が245議席です。
立憲民主党と日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組、日本共産党の5政党が集まって連立政権を作るとなれば、議席数「だけ」で見たら231議席と自公のそれを上回ってしまいますし、過半数まであと2議席に過ぎません。
仮に―――あくまでも「仮に」、ですが―――、上位5政党が連立政権を作ろうと思えば、「数の上では」、それは可能だ、ということです。
野党連立政権の可能性は非常に低く、自公連立政権が最も現実的
もちろん、国民民主党と日本共産党は(おそらくは)相いれない政党同士であろうと考えられ、単なる数合わせで両党が手を組むとは考え辛いところですし、また、万が一「立維国れ共5党連立政権」のようなものができたとしても、国政の停滞が予想されるところです。
なぜなら、参議院側では自公が過半数を占めているからです。
予算については衆議院側で議決されれば、極端な話、参議院側で否決されても衆議院の議決をもって国会の議決とすることが可能ですが(憲法第60条第2項)、法案はそういうわけにもいきません。
憲法第59条によれば、①両院が可決した場合、②衆院で可決→参院で否決→衆院で3分の2以上で再可決、という2つのパターンがあるのですが、自公が参院を握っている以上、仮に野党連合政権ができたとしても、法案がすべてストップしてしまうわけです。
したがって、「野党連合政権」が発足する可能性自体が非常に低いだけでなく、万が一、それが発足したとしても、それで円滑な政権運営ができるというものではありません。
このように考えたら、現状で最も安定する政権の形態があるならば、やはり自公の少数与党が連立政権を組み、閣外で「足りない13議席」を補う、というパターンです。
維新か国民との連携が現実的
そして、この「13議席」を補うという意味では、その最有力候補は38議席の日本維新の会か28議席の国民民主党です。
それ以外だと、9議席のれいわ新選組や8議席の日本共産党が自公連立政権に協力するとも考え辛いところですし、また、自公が4議席の有志の会、3議席ずつの参政党と日本保守党などを味方に引き入れたとしても、過半数を制することはできないからです。
だからこそ、自民党は維新、国民の両党(かそのいずれか)と組まざるを得ず、そのためには両党(かそのいずれか)の主張する政策を「呑む」ことが必要なのです(現在の自民党にその危機感は見えてきませんが…)。
もちろん、現状だと維新と国民の両党がお互いに協力関係に立とうとしているのか、それとも対決を選ぶのかはよくわかりません(というか維新が前原誠司氏を共同代表に任命した時点で、国民民主党側の神経を逆撫でしているようなものかもしれませんが…)。
ただ、国民民主党と日本維新の会の因縁の関係はさておき、両党が全面的に協力し、両党がともに主張する政策を自民党に呑ませない限り、両党ともに自民党に協力しない、などと言い出せば、自民党としては困ってしまうことも事実です。
しかも、国民民主党が要求した「年収の壁を103万円から178万円」に対し、「178万円ではなく123万円(しかもうち10万円は給与所得控除の最低保障額)」という、不誠実かつ大変舐めた回答を出してきた昨年の宮沢洋一税調会長のように、現在の自民党にはその危機感は見られません。
大連立は観測気球?印象操作?それとも…
それどころか、自民党側では現在、とくに執行部を中心に、一種の「禁じ手」―――立憲民主党との大連立―――を視野に入れているフシすらあるのです。
これが杞憂ならば良いのだが、などと考えていたところ、新春早々、驚く話題がひとつでてきたようです。
石破首相、大連立は選択肢 「一歩間違えると大政翼賛会」
―――2025年1月1日 18:20付 日本経済新聞電子版より
石破首相「大連立も選択肢」
―――2025年01月01日17時24分付 時事通信より
いくつかのメディアん報道によれば、石破茂首相は1日、ラジオ番組に出演し、「大連立」を口にしたのだそうです。観測気球でしょうか?
といっても、石破氏は「一歩間違うと大政翼賛会になってしまう」などと述べたらしく、「石破氏は大連立を決断するに違いない」、などと安易に決めつけるわけにはいきません。
実際、石破首相の発言に限らず、メディア報道は得てして「切り取り」により、発言者の意図しない内容を報じてしまうことがあるからです。
石破首相がどういう文脈で「大連立」に言及したのかは、報道からは必ずしも明らかではありません。極端な話、インタビュワーから「大連立ってどうですかね?」と聞かれて、「その可能性は否定しない(がその可能性は非常に低いですけどね)」、というニュアンスだったかもしれません。
しかし、それと同時に「大連立」構想が首相本人の口から安易に出て来る(あるいは尋ねられて否定しない)ということ自体、慎重であるべきです。少なくない自民党支持層が自民党に失望しかねないからです。
立憲民主党が掲げている政策は、事実上のデフレ政策(いわゆる「0%超インフレ目標」)であったり、「低所得層に対する消費税の還付・給付」であったり、マイナ保険証の推進にブレーキを掛けるものであったり、と、少なくとも自民党支持層にとっては相いれないものが多いことを忘れてはなりません。
いずれにせよ、石破政権がダッチロール状態で続くことで、自民党が参院選でも苦戦しかねませんし、最悪の場合、内閣不信任案が可決されて衆参同日選ともなれば、こんどこそ自民党が政権を失う、といった可能性も懸念しなければなりません。
その意味で、石破首相を巡っては相変わらず、年初から国民を不安にさせるような話題に事欠かないようです(もっとも、本件についてはメディアによる印象操作という可能性は、完全には否定できませんが…)。
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大連立
立憲民主党が野党第一党から転落すればあり得るかもしれません。増税大連立。
自民党の危機感のなさと慢心は宮澤内閣の時を思い出します。下野しないと現実認識できないのかも知れません。
大連立発言の真意は何なのでしょうか?
課税最低限度額は123万円以上には絶対に譲らないという、国民民主党への牽制なのでしょうか?
石破首相は、課税最低限度額の引き上げが国民民主党の手を離れて、大多数の国民の関心事になっていることに未だに気が付いていないようです。
立憲民主党も、国民の大多数を敵に回すような大連立に乗るとは思えませんが。
あるいは、石破政権は財務省と国民との板挟みで進退窮まった末の発言というところでしょうか?
石破首相は、そろそろ財務省に引導を渡さないと、自民党に壊滅的な打撃を与えることになってしまうと思うのですが。
それにしても、自民党内の保守派の方々が静かなのは何故でしょうか?
今、国会議員は各々が地元後援者達と会合をしていることでしょう。
その場でほっぺたを引っ叩かれているか、先生よくやったとおだてられているか?どちらが多いかで今年の趨勢が決まることでしょう。
なんか、後者の方が多い予感(悪寒)がします…。
実現するとdie連立ですね。まあ立憲民主党は反対することと、破壊することしかできない悪夢の民主党政権時代の残滓のような存在なので、いくら陰謀論好きの自分でも可能性は低いと言わざるえませんね。
それよりは中国が突然ロシア侵攻を始めて、ロシアの東半分を切り取る未來のほうがまだありえそうです。
たしか大連立政権はナベツネの持論で、2000年代には読売新聞がそういう社説を書いていたと記憶しています。2009年の総選挙で、民主党が単独で過半数を取るほど勝ってしまったから、実現しませんでしたけど。
もしも当時、大連立政権ができていたら、悪夢どころじゃなかったと思います。民主党が出してくる売国法案に、連立パートナーの自民党は正面切って反対できなかっただろうし、オールドメディアは 「良い事は全て民主党の手柄、悪い事は全て自民党の落ち度」 のように報道しただろうし、まだ多くの国民がメディア報道を鵜呑みにしていただろうし。
今、これほどオールドメディアの凋落がハッキリしてきて、ナベツネもいなくなったのに・・・ネットで人気のある議員を公認から外したり、閑職に追いやったりしたから、今の自民党には、本当にネットの声が届かなくなっているのかも?
自民党支持者の皆様へ
損切りはお早めに。
なんだか、どことも連立を組まずグダグダ政権になりそうだなあ。
石破首相はとにかく首相であり続けたくて、その為に「何もしない」を選んでいるみたいだし、
「鬼の居ぬ間に洗濯」と言わんばかりに外務大臣とかが好き勝手やってるフシがあるし……
このままだと「鳩山クラス」の評価を受けかねないんだけど、石破首相はそれでも良いのかな?
インタビューアーの質問が会話を誘導している。
石破茂首相は、相手がヨロコビそうな言葉を口にすることで注目を集め続けるという得意の「議員人生遊泳法」を続けている。当方にはそう思えます。
結果を出すという発言も出ているそうですが、それはネバネバ論法の行使であって、実績が果たしてコトバについて来るか、判断基準はそれだけに絞るべきだと思います。
貴重な時間を浪費するだけに終わりそうなのは、みなさまも懸念しているとおりです。
追い込むと皆(自民党)を巻き添えに自爆に巻き込んでいきそうな破滅型のリーダーに見えます。
本人は取引のカードだと思っていそうです。
体力がないそうなので1年もせず疲れたら気力が萎えて辞めるのではないかと思います。
俺を追い詰め怒らせるとどうなるか、
党員や国民に向けて、立憲と組んでやるぞーという威嚇、牽制、恫喝の類いかもしれない。
火遊び型リーダーの可能性も捨てきれない。近年稀に見る政治的センスを持っているかもしれない。発言の意図が分からないので要チェックである。
某国の「非常戒厳」が思い浮かびました。