X

保険料が高いほど保障が減る…日本の高額療養制度の謎

年収が高くなるほど多額の保険料を負担させられ、しかもいざというときにも大した保証が受けられない。これが日本の社会保険制度なのかもしれません。これについて考えさせられる事例のひとつが、高額療養費の自己負担上限引き上げとする話題かもしれません。年収1650万円の層は、いざというときに、最大月額44.4万円の自己負担が生じるのです。支払う保険料が多ければ多いほど受けられる保障が減る―――。すでに制度として破綻していないでしょうか?

高額療養費の自己負担分引上げ

ここ数日、SNSでは「高額療養費の自己負担額引上げ」が話題となっているようです。

高額療養費の自己負担上限額、来夏から段階的に引き上げ…「年収約510万~650万円」で月額3万3300円増

―――2024/12/24付 読売新聞医療・健康・介護サイトより

高額療養費改定案 年収650~770万円で基準額最大5万8千円増

―――2024年12月24日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より

この「高額療養費」制度は、医療機関や薬局の窓口で支払った1ヵ月の医療費が上限を超えた場合、その上限を支給するという仕組みで、現在の制度だと69歳以下・年収約770万円までの人は約8万円、最も高い年収1160万円の場合は約25万円とされています。

ところが、報道等によると、この上限がまず2025年8月以降引き上げられ、さらに27年8月以降は、年収1650万円以上の層は約44.4万円(!)にまで引き上げられるのだそうです。

そもそも高年収の人は高額な保険料を負担している!

これ、冷静に考えたら、凄惨な仕組みです。

当ウェブサイトで普段から議論している通り、そもそも給与所得者は多くの場合、給料からさまざまな公租公課が天引きされており、そのなかには健康保険料も含まれているからです。

年収1650万円の層について、単純に12ヵ月で割ると月収137.5万円ですが、このくらいの年収だと自己負担分のみで毎月約7万円弱(東京都政管健保・令和6年3月以降適用分の事例、ただし介護保険料除く)という金額の保険料を負担している計算です。

あるいは、ボーナスが4ヵ月分という給与所得者の事例だと、年収1650万円の人の月給は約103万円ですので、『手取りが「増えてしまう」発言に見る自民議員の勘違い』などでも説明した「試算の前提」に基づけば、毎月の手取りは691,912円です(ただしこの場合の保険料自己負担分は5万円前後です)。

年収1650万円といえば、世間では「おカネ持ち」と思われているかもしれませんが、決してそんなことはありません。ボーナスを除いた手取りはせいぜい691,912円であり、この金額で子育てなどをしていると、正直、毎月の生活はカツカツだからです(図表1)。

図表1 年収と月手取りの目安(ボーナス4ヵ月分の場合)
年収 月手取り 毎月の健保料
0万円~ 0円~ 0円~
98万円~ 60,883円~ 0円~
200万円~ 99,718円~ 6,238円~
260万円~ 127,088円~ 8,109円~
370万円~ 178,059円~ 11,539円~
510万円~ 241,791円~ 15,906円~
650万円~ 303,603円~ 20,272円~
770万円~ 354,435円~ 24,014円~
950万円~ 423,264円~ 29,628円~
1040万円~ 455,902円~ 32,435円~
1160万円~ 504,079円~ 36,178円~
1410万円~ 602,663円~ 43,974円~
1650万円~ 691,912円~ 51,459円~

(【注記】試算の前提については『手取りが「増えてしまう」発言に見る自民議員の勘違い』参照)

年収1650万円の人は、大病を患ったら「お終い」?

年収1650万円でボーナス4ヵ月分という前提だと毎月の手取りは70万円弱。

年収が上がるほどに保険料も上がるというのもおかしなシステムですが、話はそれだけではありません。ちなみにいくつかの報道、あるいはX(旧ツイッター)などで流れている画像によれば、2027年以降の高額療養費上限は全体的に引き上げられます(図表2

図表2 年収・月手取りと高額療養費上限の対応表(ボーナス4ヵ月分の場合)
年収 月手取り 高額療養費上限
0万円~ 0円~ 約3.6万円
98万円~ 60,883円~ 約6.1万円
200万円~ 99,718円~ 約7.0万円
260万円~ 127,088円~ 約7.9万円
370万円~ 178,059円~ 約8.8万円
510万円~ 241,791円~ 約11.3万円
650万円~ 303,603円~ 約13.8万円
770万円~ 354,435円~ 約18.8万円
950万円~ 423,264円~ 約22.0万円
1040万円~ 455,902円~ 約25.2万円
1160万円~ 504,079円~ 約29.0万円
1410万円~ 602,663円~ 約36.0万円
1650万円~ 691,912円~ 約44.4万円

(【注記】試算の前提については『手取りが「増えてしまう」発言に見る自民議員の勘違い』参照)

支払っている健康保険料は毎月5万円超という金額であるにも関わらず、また、手取りは70万円弱であるにも関わらず、もしも癌などの大病を患ってしまえば、毎月最大44.4万円という巨額の療養費を支払うこととなります。これだと下手をすると、治療を諦めざるを得ないレベルです。

つまり、(見かけ上の)年収が高い人は、高い保険料などを支払わされているためか、手取りも非常に少なく、大病を患ってもろくな保障が受けられないわけです。大病を患ったら働けなくなり、その人の人生は終了、となるかもしれません。

それともアレでしょうか?

厚生労働省の官僚は高年収者に対し、「癌になったら治療を諦めろ」、とでも言いたいのでしょうか?

あるいは、高い年収を稼げるような人に過度な負担を強いる一方で、たとえば住民税非課税世帯などを過度に優遇する結果になっていないでしょうか。日本はいつから共産主義国になってしまったのでしょうか?

謎です。

すでに制度として破綻している?

ちなみに著者自身の理解だと、公的保険制度はそもそも国民皆保険の精神のもと、わざわざ民間保険などに入らなくても、国民に平等に医療を行き渡らせることが制度の目的に含まれていたはずです(違っていたらすいません)。

しかし、少なくとも高年収者に「治療を諦めて死ね」とでもいわんばかりの現在のような制度は、保険システムとして破綻しているのではないか、といった疑いすら生じてきます。

しかも、サラリーマンの場合は給与明細に示されている保険料の天引き分(自己負担分)以外にも、雇用者が同額以上の保険料を負担していますので、実質的にサラリーマンが支払っている保険料は本稿に示した額の2倍以上です。

年収が高くなるほど多額の保険料を負担させられ、しかもいざというときにも大した保証が受けられない。

すでに制度として破綻している、という見方もできるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (15)

  • 日本人の負担を増やして、外国人の保障を手厚くしてほしいですね。
    戦犯国としての責任を果たしてほしいです。

    • 自由法曹団所属弁護士 様

      弁護士さんですから、おっしゃる「戦犯国」を、1945年当時有効であった国際法で、定義して頂けませんか?
      それとも、代々の韓国政府の振る舞いのように、強請集りを行なう意図のこもった用語でしょうか?

  • 「財源がーーー」と言って、官民の天下り先をキープして、そこそこの報酬を定年退職(定年の数年前の退職を含む)の後にもらおうとするキャリア官僚の人たちは、この高額療養費自己負担上限引き上げを、どう考えているのでしょうかね。自分で自分の首を絞めているように見えます。

    • 多分、この高額療養費制度は、元気に働いている人のためのものではなく、何らかの理由(大きな病気やけがをして)で働けなくなって収入が無くなり、その後発生する医療費を補助する、という目的だ、ということだと思います。働いている人は普通に生命保険に入れ、というメッセージかも(生命保険会社から献金をもらった?)。

      報酬などの一時的な収入は、次の年から無収入なら1年だけの問題でしょう。

  • 私の入っている健保組合のホームページをみると「自己負担限度額」という表現になっている。
    例えば標準報酬月額28~50万円の人の自己負担限度額は80.100+(医療費-267,000)x1%
    窓口で267,000円請求された場合、月額80,100円で済む。
    500,000万円請求された場合 80,100+(500,000-267,000)x1% = 82,430円

    標準報酬月額83万円以上の人(これが上限)の自己負担限度額は252,600 + (医療費-842,000)x1%
    窓口で842,000万円請求された場合の自己負担額は252,600円で済む。
    1,500,000万円請求された場合 252,600+(1500000-842000)x1% = 259,180円
    このプランだと大病しても月30万円以内で済みそうだね。

    私自身高額医療制度のお世話になったことがある。3食付きで1か月8万円は安いと思った。メシはまずいけど。

    • 多くの人は会社の健康保険や生命・医療保険(手術費用や継続治療の費用が出る)に入っているので、大病した場合の自己負担はあまりなかったりするんですよね。特に高収入の人で生命保険に入っていない人などいないでしょう。私自身、何度か入院、手術をしていますが、高額医療制度にお世話になったことはないです。生命保険料は年間20~30万円くらい払っているでしょうが。
      逆に、収入が少なければ高額医療制度の負担も少ないですし。
      老人になって生命保険を安くして、自己負担の減った高額医療制度にお世話になる、という流れは別に間違ってはない様におもいます。

      • 少し前までは負担率1割が今は3割という事は負担率が3倍になっているんですよ。

        歯医者に行っても以前は千円台か2千円台で済んでいましたが、今は5千円前後があたりまえです。

        虫歯を数本直しただけで10万円を超えました。こんな急激上がり方してもまだ足らないので高額医療費を見直す?

        厚労省は仕事していますか?天下り先確保のために税金を使ってないでしょうか?

        • 1割がやりすぎだっただけです。大昔の自己負担は5割でしたよ。

          老人の自己負担も増やして3割にするべきですが

  • 私は、税制よりも保険料が深刻だと考えてます。
    (もちろん、税制も大事です)

    知らなかったのですが、保険料の値上げには国会の承認がいらないそうで。
    こんな無茶苦茶な事してたんですね。厚生労働省。
    どおりで青天井で上がっていくわけですよ。

    本当に現役世代は社会保険料のせいで手取りも増えずに大変な思いをしてます。周りでも社会保険抜けたい・・・という人はたくさんいます。そろそろ本格的に議論して、現役世代の負担軽減に動いてほしいものです。まずは不正受給を無くせ、と思う。

  • 掛け金が高いほど保障が減る保険商品があったらイヤだな。
    なんで社会保険はこんなことがまかり通るのか。

    • そもそも健常者を対象にしていないからでは。

      障碍者支援のシステムを作るのは障碍者のためにやるものではなく自分や家族が障碍者になったときに困らないようにするためのもの。

      高額医療制度は貧しい人や老人のために用意する物ではなく、自分や家族が収入がなくなり病気になったときに困らないようにするためのもの。

      健康な人はそれに頼らず自分で生命保険に入れ、といいたいのだと思います。

  • 「金持ちを優遇しすぎても、貧乏人を優遇しすぎてもいけない」

    これは社会の永遠のテーマでしょうねえ。
    シミュレーションゲームと違って、”正解”なんてないのかも。

  • 健康保険の標準報酬月額には上限があり、国民健康保険税にも上限があるので、年収が相当に高くなると保険料負担は率としては下がって行きます。もっとも本件は率ではなく額を問題にしているので筋違いと言われればそれまでですが...

  • 大病して入院して「医療費って意外にかからない」と思ったことがある。高額医療制度のおかげだと思う。もうひとつ包括医療費請求制度。入院しているといろいろな検査や診察があるが一々医療費請求(出来高払い)しないで病気の種類に応じて1日いくらの医療費という計算方式。
    1か月8万円台の医療費が限度なら3食食べて1日3000円弱。独身の人なら入院してた方が金貯まるんじゃない?