自民党の小野寺五典衆議院議員がテレビ番組で「納税している国民が4割しかいない」とする趣旨の発言をした、とする話題は、当ウェブサイトで昨日触れたとおりですが、もうひとつ、別の発言もあったようです。それは、(年収の壁を178万円に引き上げるなどの減税により高所得者層の)「年収が増えてしまう」、とする趣旨のものです。なかなかに国民を舐めた発言ではないでしょうか。というよりも、たとえば年収2000万円クラスであっても、毎月の手取りは思いのほか少ないことを忘れてはなりません。
目次
年収と手取りは別物
高年収?「年収1000~2000万円」のイメージ
当ウェブサイトでは普段から指摘している通り、わが国では、「年収いくら」といわれて頭に思い浮かべるイメージと、実際の可処分所得(手取り)には、大変に大きな落差があります。
たとえば婚活(こんかつ)パーティーに参加する際、多くの場合、男性側が年収を申告する必要があるようですが、その際に「年収1000万円です」、などと申告すると、女性からは大人気だと聞きます(※年収1000万円を超えているということは、それなりの年齢の方なのかもしれませんが…)。
「年収1000万円」と聞くと、単純に1ヵ月あたりに換算すれば100万円近くが自由になる、というイメージでしょうか(「1年は10ヵ月ではなく12ヵ月なので、1000万円を単純に12で割ったら100万円ではなく約83万円じゃないの?」、というツッコミについては、とりあえず脇に置きましょう)。
世間で考えられている「何となくのイメージ」でいえば、こんな感じではないでしょうか?
年収と手取りの関係について人々が抱くイメージの例
- 年収*500~*600万円→毎月*50万円前後が自由になる
- 年収*800~*900万円→毎月*75万円前後が自由になる
- 年収1000~1200万円→毎月100万円前後が自由になる
- 年収1500~1800万円→毎月150万円前後が自由になる
- 年収2000~2400万円→毎月200万円前後が自由になる
年収2000万円は決して富裕層ではない
そういえば、以前の『高年収なのに生活破綻も…!金遣いに油断できない理由』では、こんな話題を取り上げたことがあります。
「年収2000万円の男性が結婚したところ、奥様が事前の相談なく仕事を辞めてきてしまい、勝手に専業主婦になったうえで平日は家事代行を頻繁に依頼しているらしく、休日の家事手伝いを要求され、さらには『お小遣い』制まで提案された。この男性は『離婚したい』と愚痴っている」。
ご自宅での家事の分担であったり、あるいは「お小遣い制」を提案されていることであったり…、といった点については当ウェブサイトにおける論評は控えたいと思います。「ご夫婦で話し合ってください」、としか言いようがないからです。
もちろん、この限られた文章だけだと、ご夫婦が結婚何年目なのか、お子様がいらっしゃるのかどうか、男性の年収がボーナス込みなのかどうか、など、細かい条件についてはよくわかりませんが、ただ、私たち一般人の想像と比べ、年収2000万円が決して「富裕層」でもないこともまた間違いありません。
普段からときどき提示している通り、次のような「試算の前提」を置いたうえで、年収別の手取り額を試算してみると、驚くほど少ないことがわかります。
試算の前提
- 被用者は40歳以上で東京都内に居住し、東京都内の企業に勤務しているものとし、給与所得以外に課税される所得はなく、また、ボーナスは年間4ヵ月分、月給は年収を単純に16で割った値とし、配偶者控除、扶養控除、ふるさと納税、生命保険料控除、配当控除、住宅ローン控除などは一切勘案しない
- 年収が約106万円以上である場合、厚年、健保、介護保険に加入するものとし、その場合は東京都内の政管健保の令和6年3月分以降の料率を使用するものとする(ただし計算の都合上、「標準報酬」を使用していないため、端数処理などで現実の数値と合致しない可能性がある)
- 雇用保険の料率は1000分の6とし、「社保」とは厚年、健保、介護保険、雇用保険の従業員負担分合計、「税金」とは所得税、復興税、住民税の合計とし、住民税の均等割は5,000円、住民税の所得割は10%とする
- 本来、住民税の所得割は前年の確定所得に基づき翌年6月以降に課税されるが、本稿では当年の所得に連動し、年初から課税されているものと仮定する
- 現行の基礎控除は合計所得金額が2400万円までの場合、所得税が48万円、住民税が43万円とし、以降2450万円まで、2500万円まででそれぞれ基礎控除が逓減し、2500万円超の場合はゼロとする(減税後の基礎控除については各図表参照)
年収と月手取りの関係の実際
イメージ的には都内の会社に勤めるビジネスパーソンで、配偶者(奥様または旦那様)も共働きで(つまり配偶者控除、配偶者特別控除が受けられない)、お子様も15歳以下(つまり年少扶養控除が適用されない)、という事例です。
また、とても細かい話ですが、本来はこれらに加えて世帯主などに対しては児童手当や「東京サポート018」などの地方自治体からの給付金などが存在する可能性はありますが、これらについては本稿では考慮しません(したがって現実にはもう少し手取りが多いかもしれません)。
こうした前提を置いたうえで、年収と月給、月手取り、そして月給に対する月手取りの割合(月手取り率)を一覧にしておくと、図表の通りです。
図表 年収と月手取りの関係
年収 | 月給 | 月手取り | 月手取り率 |
250万円 | 156,250円 | 122,513円 | 78.41% |
500万円 | 312,500円 | 237,259円 | 75.92% |
750万円 | 468,750円 | 345,859円 | 73.78% |
1000万円 | 625,000円 | 441,338円 | 70.61% |
1500万円 | 937,500円 | 636,376円 | 67.88% |
2000万円 | 1,250,000円 | 803,204円 | 64.26% |
2500万円 | 1,562,500円 | 962,379円 | 61.59% |
3000万円 | 1,875,000円 | 1,121,642円 | 59.82% |
4000万円 | 2,500,000円 | 1,390,020円 | 55.60% |
5000万円 | 3,125,000円 | 1,674,718円 | 53.59% |
(【注記】計算条件は上記『試算の前提』参照)
重税国家・日本
年収によっては実質「七公三民」も?
年収750万円の人は、1ヵ月の手取りは345,859円。
年収1000万円の人は、1ヵ月の手取りは441,338円。
年収2000万円の人は、1ヵ月の手取りは803,204円。
配偶者特別控除であったり、扶養控除であったり、といった各種控除が効けば、もう少し手取りは増えるのかもしれませんが、少なくとも「配偶者も働いていて子供たちが15歳未満」などの条件を満たしているなどの場合は、上記図表の手取りで家族を養わなければなりません。
なかなかに、強烈です。そして、いつ見ても、なかなかに衝撃的な事実です。
もちろん、上記は「ボーナス4ヵ月分が別に支給される」という設例を置いているため、現実には年間を通じて「自由になるカネ」はもう少し多いのですが、それでも年収2000万円の人は、自由になるカネは月収の65%未満というのは、なかなかに印象的です。
しかも、上記計算では社会保険料の会社負担分をカウントしていないため、現実に会社が負担している人件費は上記よりも多いことに注意しましょう。つまり、実質的な手取り率は、さらに下がります。年収によっては、江戸時代もびっくりの「六公四民」です。
もっといえば、私たちはこの手取りで生活するため、ここからさらに消費税を負担し、ガソリン税を負担し、酒税を負担しているわけですので、年収によっては「七公三民」、というケースすらあるでしょう。
税の亡者・財務省
日本は一体いつからここまでの重税国家となったのか。
これは財務省という「税の亡者」を野放しにしていた結果だと著者自身は考えています。
財務官僚は国家のサイフの入口と出口(国税庁と主計局)を一手に握り、事実上、国会議員をも上回る権力を握っているわりに、私たち日本国民から直接選挙で選ばれたわけではなく、しかも乗数効果をはじめとする正しい経済理論を理解していないという、大変困った者たちだからです。
しかも官僚機構は記者クラブや税制優遇、許認可権などを通じて新聞、テレビなどのオールドメディアを「コントロール」し、そのオールドメディアが長らく国民世論を支配しているという構図にもあったため、政治家としてはますます、官僚(≒オールドメディア)には逆らえない、という構図です。
したがって、この「重税国家」という構図を自民党のせいにするのは少し筋が違います。
やはり、批判すべき対象は自民党というよりも財務省であり、財務省を含めた官僚機構であり、官僚機構の横暴を報道の力で止めようとせず、むしろ加勢したオールドメディアであり、オールドメディアと結託して与党の足を引っ張ってきた特定野党であるのです。
小野寺氏の発言の続報
ただし、自民党内にも、やはりおかしな言い分を繰り返す政治家はいます。
『納税者は国民のたった4割?それでも減税が必要な理由』でも紹介したとおり、自民党の小野寺五典衆議院議員は日曜日、出演したテレビ番組で「(所得税の?)納税者は国民の4割しかいない」などと述べ、減税に後ろ向きな姿勢を示しました。
小野寺氏の言い分を再掲しておくと、こんな具合です(一部細かい「てにをは」が正しくない可能性もありますが、文意は変えていないと考えています)。
- ここで玉木さんのお話を見ると『納税者の方を向いた』と言っていますが、私たちは国民の方を向いた政策を行うべきだと思っています
- ですから今回、たとえば税制で7兆円、8兆円が失われてですね、その代わり、仮に所得が上がる層があるかもしれません
- ですが、日本国民の6割は、じつは納税をしていない人ですから、この低所得者の人は、直接この物価高に大きな影響を受けているわけです
- この人たちに支援する予算も、じつはなくなってしまう
- そういう意味では、やはり大切なのは、たしかに納税者ですが、もっと国民を見て、どの人にどういう手当をすべきか、そのためにどんな財源が必要なのか
- ですから私たちは123万(円)を上げることは否定しませんが、そこで出る大きな税の欠損に関して何でそれを埋めるのか、あるいは逆にいうと何を切りますか、それも合わせて提案をするのが、私は健全な政党政治だと思う
- そのことについて、税のチームがいま、3党でやりあっているんじゃないかと思います
…。
「納税者は国民の4割(だから減税しても国民の4割にしか恩恵が及ばない)」、とするロジック自体もおかしな話ですが(一馬力で働いている家庭の場合、減税の恩恵は非納税者である扶養家族にも及ぶからです)、それ以上におかしいのは、小野寺氏が財務省あたりの屁理屈に騙されていることでしょう。
小野寺氏の発言要旨
こうしたなか、当ウェブサイトでまだ取り上げていなかった話題が、もうひとつ出てきました。
「手取りが増えてしまう」急上昇!自民政調会長の発言映像が拡散、ネット「これが本音」「悪いんですか?」
―――2024/12/23 12:55付 Yahoo!ニュースより【スポニチアネックス】
スポニチによると、小野寺氏は同番組で、(年収の壁を178万円に引き上げた場合)、「年収2000万円以上の世帯に恩恵が大きくなる」としたうえで、こうも述べたのだそうです。
「手取りが増えてしまう」。
高年収層の手取りが「増えてしまう」、というのは、いったいどういう了見でしょうか。
小野寺氏のロジックを著者なりに解釈するならば、おそらくは「年収が高い人たちは減税して、それを消費に回す割合は高くなく、低年収の人を減税した方が良い」、という文脈で出て来たものだとは思いますが、それにしてもなかなかに国民を舐めた発言です。
冒頭に示した「年収と手取りの関係」のイメージと現実を改めて示しておくと、こんな具合です。
年収と手取りの関係について人々が抱くイメージの例
- 年収*500~*600万円→毎月*50万円前後が自由になる
- 年収*800~*900万円→毎月*75万円前後が自由になる
- 年収1000~1200万円→毎月100万円前後が自由になる
- 年収1500~1800万円→毎月150万円前後が自由になる
- 年収2000~2400万円→毎月200万円前後が自由になる
年収と手取りの現実の関係
- 年収*500~*600万円→毎月25万円前後が自由になる
- 年収*800~*900万円→毎月40万円前後が自由になる
- 年収1000~1200万円→毎月50万円前後が自由になる
- 年収1500~1800万円→毎月70万円前後が自由になる
- 年収2000~2400万円→毎月90万円前後が自由になる
むしろ自民党議員こそ奮起せよ
つまり、上述の通り、年収2000万円レベルでも、(計算方法にもよりますが)毎月の手取りはせいぜい80万円少々であり、正直、「年収2000万円は超高年収だ」、などと言われても、戸惑う限りです。
もちろん、低年収層に対しては生活苦に対する配慮が必要であることはいうまでもありませんが、だからといって、高年収層を冷遇して良い、という話ではありません。
だいいち、所得2350万円以上の層に対する基礎控除が段階的に消滅するという自公案(≒財務省案?)自体も、なかなかに意味が不明です。基礎控除は「生存権」に基づく要請だとする立場からすれば、自公案(≒財務省案?)の考え方は、まさに高年収層には生存権を認めないというメッセージではないでしょうか。
いずれにせよ、自民党は2010年以降のすべての大型国政選挙で第1党となり続けた政党であり、べつに国民から選挙で選ばれていない財務省ごときに配慮すべき筋合いはありません。
(あくまでも個人的には)自民党の奮起を期待したい、などと思う次第です。
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国民が貧困に苦むまで増税して、搾り取った税金を第三セクターに流し、そこに天下りして官僚OBは市井を遥かに上回る報酬を得ている。働かない年収2億越えの天下り官僚がいる一方で、実際にその企業で働く現役層は薄給に抑え込まれている。もう官僚が日本の害悪。日本でも法律上天下りは禁止されている。が多くの腐敗した天下り官僚がおり、誰も逮捕されない。個人的には死刑にすべきと思う。かの独裁者ヒトラー氏でさえ、軍人、官僚、政治家の天下りは国民への反逆として絶対に許さなかった。戦後日本の税率はそろそろ、生かさず殺さずの江戸時代並み。間違いなくドイツ国家労働党の率いたナチス以下の生活を国民に強いている。国民民主の改革が抵抗勢力によって頓挫すれば、あとは一揆でも無い限り国民は未来永劫腐敗官僚の奴隷として一生を終えることになる。まだ立憲君主制民主国家だった大日本帝国やナチスの方が国民生活はマシだな。
小野寺のデタラメな4割論も統計的根拠は示していません。実は非課税者は3割未満というではないですか。(子供、老人、病人を含む非動労者)
そもそも今の国会議員で与党はいつも根拠を示さずに精神論で話をしてきます。
小野寺も東大卒の超エリートですが、この説明ではとても本当に大学出た?と思うレベルだと思いますね。
この発言で、むしろ腑に落ちました。
私の想像する財務省の論理は以下です。
景気を浮揚する必要がある
景気を浮揚するには市中に存在する資金を増やす必要がある
日本人は貯蓄性が高く、手取りを増やすと貯金に回してしまう。特に高所得者。
ところが、日本には良い投資先が無く銀行が投資する先が少ない
ならば、税金を増やし、国民の手元資金を減らし、その分を国が使ってやるのが良い
→国民の所得が増えてしまうとまずい
副作用として子供を持つ世代の貯金が減りすぎて少子化まっしぐら。
小野寺さんは税務省の広報担当者になってしまった感があります。
国家安全保障を語る小野寺さんは大変信頼できる人であり、将来総理大臣或いは準ずる人になってほしいと思っていたので残念です。
それ程に自民党の(脱退したようだが)宏池会の組織の力は強いのでしょうか。
それとも、地盤である宮城県に何か大きな力が働いているのでしょうか。宮城県知事を不審な動きをしていて気になります。
誤:税務省 正:財務省
税務省で間違ってないと思いますよ。
税務省でいいでしょう。
いえいえ罪務省が良いと思います。
まー小野寺氏もココに来て馬脚を顕したってトコスか…学生が「働かざるをえない現実」についての発信に対して論破王()西村某氏にもレスる毎に連撃喰ってるみたいなし、見方は変わりますたワ
云うてサキの総裁選で名前を売ったコバホーク氏も財務省の立法実働隊自民党税調メンバーの様デスし、この間の発信も特に見るべきトコロも無さそうなから“「手取りを増やす」ツモリは無いズ”の一員と観ておくのが妥当なトコか…
『失われた30年』の内、“自由民主党が与党であった期間”がハテサテ何%であったのかを鑑みるに、イイカゲン自民党を「信頼する」のも「期待を寄せる」のも国民の幸せにはツナガって来なかったと自省する時が来たンやもシレマヘナ…
…鬱る
今後は所得税、法人税のような直接税ではなく消費税のような間接税を柱にしようという構想があって1989年に消費税3%が導入された。その後5%、8%、10%と上がっていき今や最も税収の多い税目になっている。103万円の壁は1995年から変わっていないというが、1995年の消費税率は3%だった。
最初の構想通り消費税が柱になったんだから所得税は下げるべきだ。
当時は 「直間比率の是正」 とか言ってましたね。
今は全然聞かないけど、是正されたんでしょうか?
そもそも是正する必要があったんでしょうか?
元々、10-8-6とか9-7-5とかいう言葉があって、
サラリーマンの10割、自営業者の8割、農家の6割しかちゃんと税金を納めていない、という話があります。(道端の無人市の売り上げ、税金を払っているでしょうか?)
そういう払っていない人、および反社会的な企業やそこに勤めている人からも税金を取るために間接税、ということだったと思っています。
小野寺議員と言えば、地元東北の震災の際に、当時の政権の不甲斐なさに、涙ながらに窮状を訴えていた政治家だった記憶があります。安全保障に精通し穏やかな語り口は日本の政治をリードする一人だと思っていましたが、少々買いかぶりしていたのかもしれません。
最近は加齢のせいか人相が悪くなってきたなと思っていたところのこの発言です。特に若者からは、自民党も立憲やオールドメディアと同じ立ち位置だと思われるでしょうね。
>日本国民の6割は、じつは納税をしていない人ですから、この低所得者の人は、直接この物価高に大きな影響を受けているわけです
103万円で働くのをやめている人はこの「納税をしていない人」に含まれているはず。
いまその人たちの手取りを増やすことを議論している。
>「納税者は国民の4割」
おそらく民間給与調査の数字を使っているのだろう。
1年勤続者のうち4,382万人が納税している。人数は出ていないが1年未満勤続者にも納税者がいる。この合計で国民の4割と言っているのだろう。
国民は給与から税金を払うだけでなく消費に対しても税金を払っている。消費しない国民などいないからほぼ100%が税金を払っていることになる。
自民党は次の選挙で勝ちたくないのでしょう(呆)。
>小野寺氏のロジックを著者なりに解釈するならば、・・・
真意は新宿会計士様の推測のとおりかもだけど・・・、それでも「増えてしまう」という発言のインパクトは大きいですよね。
まるで「民は生かさず殺さず治めるべし」みたいな意思を感じてしまうのです♪