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納税者は国民のたった4割?それでも減税が必要な理由

自民党の小野寺五典政調会長が22日、地上波のテレビ番組で「国民の6割は(所得税を)納税していない」と述べ、国民民主党が主張する減税案に否定的な発言をしたとして、話題となっています。ただ、ネットで話題となっている部分を確認するとわかるのですが、小野寺氏には初歩的な事実誤認がいくつかあります。そもそも「7~8兆円の税収減」も誤りですし、「4割の納税者への配慮」とする趣旨の主張もロジックが誤っているのです。

小野寺氏が「炎上」

自民党の小野寺五典政調会長が22日、出演したテレビ番組で述べた内容が、Xなどでかなり大きな話題となっているようです。

「103万円の壁」見直し、自民・小野寺政調会長が国民民主に「税源穴埋めの提案を」

―――2024/12/22 12:39付 Yahoo!ニュースより【読売新聞配信】

年収103万円の壁問題 自民・小野寺氏「財源の議論を」

―――2024/12/22 12:05付 日本経済新聞電子版より

年収の壁巡り与野党応酬 自民、財源明示要求―国民民主は予算材料にけん制

―――2024年12月22日16時12分付 時事通信より

いや、「炎上」、と述べた方が正確でしょうか。

小野寺氏の発言要旨

ちなみに報道等によると小野寺氏が出演したのはNHKの討論番組なのだそうですが、Xに投稿されていた動画などをもとに小野寺氏の発言を文字起こしすると、だいたいこんな具合です(一部細かい「てにをは」が正しくない可能性もありますが、文意は変えていないと考えています)。

  • ここで玉木さんのお話を見ると『納税者の方を向いた』と言っていますが、私たちは国民の方を向いた政策を行うべきだと思っています
  • ですから今回、たとえば税制で7兆円、8兆円が失われてですね、その代わり、仮に所得が上がる層があるかもしれません
  • ですが、日本国民の6割は、じつは納税をしていない人ですから、この低所得者の人は、直接この物価高に大きな影響を受けているわけです
  • この人たちに支援する予算も、じつはなくなってしまう
  • そういう意味では、やはり大切なのは、たしかに納税者ですが、もっと国民を見て、どの人にどういう手当をすべきか、そのためにどんな財源が必要なのか
  • ですから私たちは123万(円)を上げることは否定しませんが、そこで出る大きな税の欠損に関して何でそれを埋めるのか、あるいは逆にいうと何を切りますか、それも合わせて提案をするのが、私は健全な政党政治だと思う
  • そのことについて、税のチームがいま、3党でやりあっているんじゃないかと思います

その「税収減」、何が根拠ですか?

何とも、驚く認識です。

「驚くべき」というよりも、事実誤認やペテンなどが多く含まれている、と述べた方が良いでしょうか。

そもそも『根拠薄弱…ペラペラの「7~8兆円の税収減」説明資料』などでも述べたとおり、「国民民主党の原案通りに減税をしたら税収が7~8兆円減る」というのは、極めて根拠薄弱、というか、端的にいえば誤った試算です。

現行の基礎控除(国税48万円、地方税43万円)でそれぞれ約2.5兆円程度の減収と「されている」(根拠不詳)、という前提で、基礎控除を国税、地方税でそれぞれ75万円拡大したら、その減収が国税と地方税でそれぞれ4兆円ずつになる、という、極めて乱暴な計算がその根拠です。

そもそも「現在の基礎控除のせいで国税と地方税が約2.5兆円ずつ失われている」とする論拠も不明ですが、それ以上に減税による乗数効果を無視しているうえに、財務省は税収弾性値(名目GDPの拡大に対し、税収がどれだけ拡大するかの倍率)も「1.1倍」という現実離れした虚偽の数値使っています。

「8兆円減税」でも8兆円税収増でチャラに?

ここでは、少し粗いなりにも、具体的な試算を行ってみましょう。

百歩譲って減税額が8兆円だったとしても、仮に現在の名目GDPを600兆円、限界消費性向を0.6、乗数を2.5倍(=1÷(1-0.6))、税収弾性値を3.0と置くと、8兆円の減税に対し経済は20兆円拡大します。

これは、名目GDPの約3.3%に相当し、これに税収弾性値3.0を乗じれば、税収はざっと10%増える計算です。ちなみに税収は2024年見込みベースで76兆円程度で、現実にはさらに上振れして80兆円程度に達する可能性もありますが、現実的に増える税収は7~8兆円、といったところです。

つまり、乗数効果が2.5倍なら、減税により減る税収は、乗数効果でチャラになり、そのまま回収できる計算であり、その分、国民経済が大幅に好転するというオマケまで付きます。

もちろん、現実の日本は「開放経済」であり、乗数効果がうまく2.5倍も生じてくれるという保証はありませんが(現実にはそれより小さな値になるうえ、金利上昇や円高などの副作用ももたらします)、それでも財務省や総務省が述べるほどに単純なものではないこともまた事実です。

ツッコミどころは他にも…納税者以外にも恩恵が及ぶという事実

したがって、「税の欠損」云々は大きな認識間違いであると考えられ、正直、「てんで話にならない」というレベルの認識ですが、ツッコミどころはそれだけではありません。

小野寺氏の発言に出て来た「国民の約6割は納税をしていない」、「だからこそその4割の人のために減税をすべきではない」、とする趣旨の部分については、明らかな詭弁だからです。

この「国民4割しか納税をしておらず、6割は納税していない」のくだり、おそらくは内閣府税制調査会の資料『納税者の分布』(※PDFファイル)の「納税者総計5080万人」の部分を指しているのだと思いますが、やはり相当に認識が歪んでいると言わざるを得ません。

この点、内閣府の資料が正しければ、「国民の4割しか納税していない」、とする主張は正しいといえます。

「5080万人しか納税していない」というのは、裏を返せば日本の人口(約1.24億人)のうちの7160万人が納税していない、という意味だと思われますが、これには年金生活者や生活保護世帯だけでなく、たとえば生まれたばかりの赤ちゃんや乳幼児、児童、生徒、専業主夫・主婦などが含まれているはずです。

(なお、細かいツッコミどころですが、消費税、地方消費税、預金利息に対する分離課税、株式配当に係る配当所得など、働いていない人でも負担している税金はいくらでもあります。揚げ足取りになるのはいやなので、このあたりで留めておきたいと思いますが…。)

つまり、たとえば「お父さん、お母さん、こども2人」という4人家族で、お父さんが働いていて、お母さんが専業主婦、こども2人が小学生、といった事例だと、「所得税を支払っている人」はこの4人のなかでお父さん1人ですが、この4人はお父さん1人の稼ぎで生活をしているのです。

ですから、お父さん1人に対する減税の恩恵は、ほかの3人(お母さん、こども2人)にも及ぶはずであり、したがって、小野寺氏のいう「減税は6割に恩恵が及ばない」とする趣旨の発言は大間違いだ、ということです。

いずれにせよ、ちょっとお粗末すぎます。

インナーの議論を見えるところに引き出したのが国民民主党の功績

ただ、SNSの時代になり、減税反対派の詭弁に満ちた言い分が世に知られるようになってくると、その分、SNSで専門家らによる猛烈な反論が加えられるようになります。

案の定、小野寺氏に対しても経済学者や経済評論家などを含めた多くの人々がネット上で反論を加えているようです(たとえば山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士のポストもそのひとつかもしれません)。

つまり、税収減が7~8兆円とする根拠もあやふやだし、納税者が国民の4割に留まっているのが事実だとしても、それは減税をしない理由にはならない、といった趣旨の指摘でしょう。

そして、国民民主党の最大の功績は、まさに今までは税調インナーで国民から見えない部分で決まってしまっていた税制設計の議論を公の場に引きずり出したことにあり、非論理的な主張を炙り出すとともに、本当の意味での国民のための税制議論が行われるようになる(かもしれない)、という変化をもたらしたことにあります。

今までであれば財務省の内部(と彼らと密接に結びついている自民党税調)だけで税制が決定されていたのかもしれませんが、これからは、おそらくまた違った光景が見えて来るのではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (35)

  •  「脚の大怪我はあるけど、患者の全身を見れば損傷が無いところがほとんどだから、頼まれた手術はせずに消毒液だけつけとくね。これから腕のマッサージしなくちゃだから……」と。
     脚ほっといたら失血なり壊死なりで患者そのものがどうなるやらですけどね。少なくとも立てなくなる。歩けない動物は死を待つしかない。脚を治せば、体全体も動けて状況を打破できるって言っているのに。

     あの小野寺氏の発案とはとても思えない言い草です。まぁどうせかなりの数を占めるであろう[所得税非課税+福祉受益]層に損を感じさせて輿論に揺さぶりをかけるとか、どこぞからの要請だろうと思いますが。
     結局は"自民党他と財務省が国民を見ていない"事になってしまうかな。国民を人格としてではなく票・数字としては見ているようだけど。

    • 嘘や誇大表現をしてもまったく気にしてないどころか。堂々としているなんて、もやは人間の心を失ったのかとさえ思いますね。

  • 各役所も予算を財務省に説明するのではなく、SNS税調に説明した方が良い。SNSが政策の司令塔。今回の件で危惧するのは、財務省が何も考えていない可能性があるということ。防衛とか、縮小経済のこととか、人口減少とか。減税で経済成長させようという意思が財務省や自公政権からは感じられない。政調会長自体も考えていない、理解していない可能性。集めた税金の使途のポートフォリオの組み替えが至急必要と思います。各役所の概算要求をSNS税調に行った方が良い。財務省や自公政権に任せていると不味いことになりそう。SNSで選挙の業界構造も変わってきたので、国の予算の在り方もSNS税調で議論した方が良いですね。

  • 年収の壁の是正は、「非課税労働人口のマンパワー」を有効活用するための施策なのにね・・。

      • 働き方改革なども併せて
        日本人を抑え込もう、稼がせない様にしよう
        という意図、もっと言えば悪意すら感じさせます。
        気のせいなら良いのですが・・

        • 資源がない日本の唯一の資源が人。それが働かなくてどうして国が成り立つのか。働き方改革は亡国の第一手。収入が減れば結婚も子作りもできなくなり 少子化を招き 国は滅びる。

  • 「国民の6割は納税していない」この小野寺政調会長の炎上必死のインパクトある発言はリンクが張られている3件のマスコミ記事には全く出てきませんね。
    時事の「小野寺氏は、178万円に引き上げたとしても非課税世帯に恩恵は及ばないと指摘」が、やや発言に相当するかなという部分ですが実際の発言から大幅に変えられてニュアンスしか判りません。
    オールドメディアしか見ない有権者は、こうしたマスコミの匙加減で今まで誘導・洗脳されていたのだろうと思うとSNSの意義は大きいと言わざる得ないですね。

  • 「手取りを増やす」話をしているのだから、働いていない(税金を払わない)人の話をしても意味ない。
    生産年齢人口(15才―64才)が7300万人弱なのだから、それと比べれば70%の人が税金を払っていることになる。
    小野寺さんの言ってるのは;
    「税金を払っている人は税金を払えない人のことも考えて減税を声高に言うな」ということかな? 語るに落ちた。

    •  「高齢者福祉政策は約30%※の国民にしか恩恵が無く、70%の世代には負担増で不公平だからやりません。」  ※令和6年65歳以上人口
       
       なんて聞いたことないですし、口が裂けても言えないでしょうしね。"それはそれ"で必要だとされるから皆負担しているのに。
       喧嘩を売っても良い国民と喧嘩を売ってはならない国民を識別しているのだと感じます。国が衰退しても省が残っていれば良いというような人たちと、国が衰退しても議席が残っていれば良いというような人たちかなとも。

    • 今回は高齢者からもツッコミが・・・
      ・年金にも税金はかかっているぞ
      ・家や車を持っていれば、固定資産税やガソリン税を払っているぞ
      ・消費税は、ほぼ全国民が払っているぞ
      ・・・で、大炎上。

  • ほんと、小野寺はどうしちゃったんでしょうねえ。

    おかしい。

    安倍が射殺されたのをみて、地動説から天動説に転向したかのような。
    (あとはノヴァクさん、よろしく。)

  • 納税していない方(国民の6割もの人)が、納税しない範囲でもっと働けるようになる。(w)
    乗数効果なんか目じゃない経済効果(ひいては税収増)がありますという指摘ですね。
    他にも、人手不足解消してしまう効果があるんじゃないでしょうか。
    五典さん、素晴らしい目の付け所ですね。

  •  私は自民党支持者ですが、今回の減税に関しては、自民党はきちんと国民の声に耳を傾けるべき、と考えます。今回の減税で、新宿会計士さんの試算のように「8兆円減税でも8兆円税収増でチャラに」なるのか、はたまた財政に大きな穴が開くのか、は私には確信が持てません。また、財政赤字を続ければ、孫や子の世代にツケ回しすることになるのか、通貨発行権を持つ政府が破綻することはないので何の問題もないのか、も判断がつきません。であるなら、自民党は、主権者たる国民の減税を渇望する声に、寄り添うべき、と考えます。
     あるべき論とは別に、国民民主党の古川代表代行は、財源策として「地価税」を提案したとのこと。玉木代表(役職停止中)とはすり合わせ出来ているのかな?どこでどう着地するのかな?本予算は通るのか?純粋な興味の対象としても、面白そうな展開ですね。
     

  • 財務省とその共犯者である自民党のプロパガンダであることが、白日の下に曝されたわけです。
    未だに、両者とも「国民なんて簡単に騙せる。」、「際限なく増税できる。」と思い込んでいるのでしょう。
    つまり、「我々の票田にばら蒔くお金は無尽蔵である。」「退官後も我々を養い続けるお金は無尽蔵である。」と。
    彼らには国民の顔がお札(さつ)に見えているのでしょう。

    これと同じようなことを言ったら、今まで選挙で投票したことが無いという兵庫県民2人が兵庫県知事選の投票に行くに至りました。
    民主主義の理念も大切ですが、具体的な利害を突きつけると投票という行動につながるのでしょう(つまり、あなた当事者なんですよと)。

    弛みきっている自民党、誠実な対応をしないければ、夏の参議院議員選挙で「この国を統治する者が誰なのか」を思い知ることになるでしょう。
    みんな、投票に行こう。

    • 財務省と自民党の関係って首謀者と実行犯ですよね。
      闇バイトにおける高額報酬に釣られた情弱が自民党で指示役が財務省だと思ってましたが、最近は他人の人生を潰してでも自分たちの利益の事しか考えない、犯罪を犯している首謀者と実行犯の関係のがしっくり来る気がしてならない。

  • 明らかに炎上してますね。(笑)

    ツッコミどころはたくさんありますが細かいところはおいといて。
    根拠薄弱と指摘済みの「7兆円減収」を壊れたレコードのようにを繰り返し、減収になれば物価高給付金がなくなる(ようなこと)など欺瞞の数々を言ってみる。
    すでにこの1,2ヶ月で反論しまくられた抵抗勢力の言説を煎じて煮詰めたようなことを、「働く世代」として覚醒した人々が増えてしまったこの時期になってよく言えるなーと、ちょっと驚きました。ロジックが安易で雑すぎますし。

    憲法に勤労の義務が定められていますが、国家は国民に働いてもらってなんぼです。近代国家成立後は特にそうですが、勤労を敬うのは日本の古来からの文化でもあります。
    小野寺氏って防衛相や安保調査会長の印象で国家を語れる数少ない政治家の可能性を感じていただけに、なかなかに残念な発言でした。

    財務省の請け売りを安易に語る政治家には、厳しい批判の声を届けるべきでしょうね。

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