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与党税制改正大綱きょう決定も…国民と対決する財務省

自公は年収の壁を20万円引き上げるとする与党税制改正大綱を20日に決定するとの報道が出てきました。国民民主党が唱えた「年収の壁引上げ」に期待していた有権者は自民党や公明党、日本維新の会に対し、「減税してくれてありがとう」ではなく、「178万円を潰したこと」に対する恨みをぶつけることになりはしないでしょうか?そして、国民民主党と自公との協議は、いまや国民と財務省の代理戦争になっているフシがあることを、もう少し、各党の皆さまも強く意識すべきではないでしょうか?

与党税制改正大綱は20日に決定か

報道等によれば、いわゆる「年収103万円の壁」を巡っては、与党側は20万円引き上げて123万円とすることで突っ切るようです。与党税制改正大綱は20日に決定されるとのことです。

【速報】自公・来年度税制改正大綱に「123万円」明記決定

―――2024/12/19 17:35付 Yahoo!ニュースより【TBS NEWS DIG Powered by JNN配信】

なんだか、印象的です。

良いか悪いかは別として、状況証拠だけでいうと、有権者の多くは国民民主党の「年収の壁引上げ」を概ね好感し、支持していることは、どうやら間違いなさそうです。

実際、国民民主党は今年10月の衆院選で勢力を一気に4倍に増やしました。また、各メディアの調査によると、国民民主党は若年層を中心に支持を伸ばしており、一部調査だと年代によっては自民党を上回り、トップの支持を獲得しているからです。

こうした状況で、「年収の壁が178万円に引き上げられる(かも?)」、などと期待していた人たちは、この「123万円」という報道でズッコケたのではないでしょうか。

国民民主案だと年収500万円で年手取りは13万円増える

ちなみに基礎控除を48万円から123万円に引き上げるとする国民民主党案だと、年収250万円の人は113,288円、500万円の人は131,308円、750万円だと223,504円、そして1000万円ならば228,150円、それぞれ手取りが増えます(図表1)。

図表1 基礎控除引上と手取りの変化(48万円→123万円の場合)
年収 手取りの変化(48万円→123万円の場合) 増加額・率
250万円 1,980,433円→2,093,721円 113,288円(5.72%)
500万円 3,847,111円→3,978,419円 131,308円(3.41%)
750万円 5,542,809円→5,766,313円 223,504円(4.03%)
1000万円 7,182,475円→7,410,625円 228,150円(3.18%)
1250万円 8,761,582円→9,012,704円 251,123円(2.87%)
1500万円 10,124,480円→10,452,178円 327,698円(3.24%)

(【注記】本稿末尾の『試算の前提』参照)

基礎控除が68万円なら年収500万円の手取りは4万円しか増えない

これに対し、引き上げ後の基礎控除が68万円だった場合、年収250万円の人の手取り増加額は30,210円に留まりますし、500万円だと40,420円、750万円と1000万円の人にとっても60,840円に過ぎません(図表2)。

図表2 基礎控除引上と手取りの変化(48万円→68万円の場合)
年収 手取りの変化(48万円→68万円の場合) 増加額・率
250万円 1,980,433円→2,010,643円 30,210円(1.53%)
500万円 3,847,111円→3,887,531円 40,420円(1.05%)
750万円 5,542,809円→5,603,649円 60,840円(1.10%)
1000万円 7,182,475円→7,243,315円 60,840円(0.85%)
1250万円 8,761,582円→8,828,548円 66,966円(0.76%)
1500万円 10,124,480円→10,211,866円 87,386円(0.86%)

(【注記】本稿末尾の『試算の前提』参照)

基礎控除が123万円から68万円に引き下げられた場合

あるいは、「基礎控除が123万円から68万円に引き下げられた場合」、と置くと、もう少しリアリティがあるかもしれません(図表3)。

図表3 基礎控除引上と手取りの変化(123万円→68万円の場合)
年収 手取りの変化(123万円→68万円の場合) 増加額・率
250万円 2,093,721円→2,010,643円 -83,078円(-3.97%)
500万円 3,978,419円→3,887,531円 -90,888円(-2.28%)
750万円 5,766,313円→5,603,649円 -162,664円(-2.82%)
1000万円 7,410,625円→7,243,315円 -167,310円(-2.26%)
1250万円 9,012,704円→8,828,548円 -184,157円(-2.04%)
1500万円 10,452,178円→10,211,866円 -240,312円(-2.30%)

(【注記】本稿末尾の『試算の前提』参照)

年収250万円のひとにとってはマイナス83,078円、年収500万円の人にとってはマイナス90,888円、年収750万円の人にとってはマイナス162,664円、そして年収1000万円の人にとってはマイナス167,310円です。

「国民vs財務省の代理戦争」を意識すべきでは?

ちなみに、著者自身は国民民主党の支持者であるかどうかについては伏せますが(少なくとも国民民主党の「年収の壁引上げ」や「消費税の減税」については支持しています)、国民民主党が手取り増を掲げて議席を増やしたこと、そのことにより少なくない国民が手取り増を期待したことは間違いありません。

そして、「増えるかも?」と思った手取りが、宮沢洋一税調会長(というよりも、その裏にいる財務省)のせいで思ったほど増えないという事態になれば、そのこと自体、これらの国民を失望させるには十分です。

与党の中途半端な減税案(※正確に言えば給与所得控除と基礎控除を10万円ずつ引き上げるというものなので、上記とは多少、試算結果が変わってくる可能性があります)に対しては、「こんなに減税してくれてありがとう」、ではなく、「減税してくれるはずだった金額が減ってしまった」という恨みが向かうのではないでしょうか。

自民党は、果たして本当にそれで良いのでしょうか。

あるいは自公側は現在、「教育無償化」という、一種の「餌」で日本維新の会を釣ろうとしているフシがありますが、維新もこの「バラマキ」に喰いつく形で自公に協力してしまい、結果的に「年収の壁178万円」が潰えた場合、有権者の恨みが自公のみならず、維新にも向かうことにならないでしょうか。

なにより、現在の国民民主党と自公のやり取りは、国民と財務省の「代理戦争」と化しているフシがあります。

各政党の皆さまは、財務官僚という「国民に選ばれてもいないくせに事実上の権力を握り、日本経済を悪化させている者たち」の存在をそろそろ強く意識した方が良いのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

試算の前提

なお、図表1~3に示した試算の前提は次の通りです。

試算の前提
  • 被用者は40歳以上で東京都内に居住し、東京都内の企業に勤務しているものとし、給与所得以外に課税される所得はなく、また、ボーナスはないものとし、月給は年収を単純に12で割った値とし、配偶者控除、扶養控除、ふるさと納税、生命保険料控除、配当控除、住宅ローン控除などは一切勘案しない
  • 年収を12で割った額が88,000円以上の場合、厚年、健保、介護保険に加入するものとし、その場合は東京都内の政管健保の令和6年3月分以降の料率を使用するものとする(ただし計算の都合上、端数処理などで現実の数値と合致しない可能性がある)
  • 雇用保険の料率は1000分の6とし、「社保」とは厚年、健保、介護保険、雇用保険の従業員負担分合計、税金とは所得税、復興税、住民税の合計とし、住民税の均等割は5,000円、所得割は10%とする
  • 本来、住民税の所得割は前年の確定所得に基づき翌年6月以降に課税されるが、本稿では当年の所得に連動するものと仮定する
  • 基礎控除は合計所得金額が2400万円までの場合、所得税が48万円、住民税が43万円とし、以降2450万円まで、2500万円まででそれぞれ基礎控除が逓減し、2500万円超の場合はゼロとする
新宿会計士:

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    • はい。もちろん存じ上げております。試算の都合上、基礎控除側に寄せているのは計算式の便宜上の都合です(それにより計算結果が変わる可能性がありますが)。

  • 一報だけで詳しくはわかりませんけど。

    【速報】自公国幹事長 103万円の壁「引き続き誠実に協議進める」で合意 24日に政調・税調で6者協議へ
    https://www.fnn.jp/articles/-/804933
    自民党、公明党、国民民主党の3党の幹事長が20日、国会内で会談し、年収103万円の壁について「178万円を目指して来年から引き上げる」などとした、先の幹事長合意の内容について、「実現に向け引き続き関係者間で誠実に協議を進める」との合意書に署名した。
    ===

    「自民執行部はリーダーシップを発揮するのか?」を見ていましたが、党内をまとめて回答するのではなく、「うちの党内で異論のある人を交えて3党でお話しましょう」と来たのでしょうか。
    しかも政調を入れるって、小野寺頼みとは・・・(笑)
    石破・森山体制では本予算成立まで交渉窓口をつなぎ止める程度で精一杯ってとこでしょうかねー。この時点では国民民主は呑むでしょうけど、本予算まで持つかな。

    韓国政府がよくやる「日本政府は韓国国民を説得せよ」を連想しました。(笑)

  • 昼食時にたまたまリコメンドに入ってきた動画。

    榛葉幹事長ぶら下がり
    https://youtu.be/9Zk2DbugU78

    ・森山氏から「税制改正大綱には178万円という数字と国民民主との合意にも言及する。予算を組むがこれから国民民主の意向も入る」。暫定予算のようなもの。協議はこれからという認識。
    ・24日に予定されている3党政調会談に税調も出席して6者会談として再協議を開始する。我々も提案をするし与党から新たな提案があると信じている。

    大綱で決定した後も修正のための協議をする、そんな意味合いですかね。
    税調から幹事長ラインにエスカレして仕切り直し、というところでしょうかね。

    • 改めて思いますけど、マスコミ報道じゃ微妙なニュアンスがわからんですね。

  • 政治には、原理原則を守るとか、筋を通すってことが必要だと思うのです。
    当初、玉木氏は、以前は控除額を最低賃金で算出していた、それは憲法上の生存権によるものだ、よって最低賃金の上昇分、引き上げるべきだ、と主張されていました。
    また、ガソリンの暫定税率もしかりです。何十年暫定なんだ、と。
    この主張って筋が通っていますよね。
    しかし、現在の与党は、税収が減るからとか、地方から悲鳴があがっているとか理屈をつけて、歳出を最低賃金を物価上昇率に置き換えて控除額を算出する、それだけだと働き控えが収まらないので、学生さんは150万まで良いですよ、配偶者特別控除も10万円アップして160万まで良いですよ、ってやってる。これっって原理原則もなく誰かが勝手に決めてるってことですよね。全く筋が通っていません。
    こんな奴らに政(まつりごと)を任せる訳にはいかないなぁ、と思う、今日この頃です・・・

  • 財務省は、ここ30年以上日本経済(日本需要)の敵(増税等特に消費税による家計消費抑制、緊縮財政による公共投資の抑制)であったと思います。
    これは、対外純資産の増加に表れるように、国内資金需要の少なさ、金利低下に示されています。
    官僚組織は、一旦方向性を与えられると、永遠に無批判にその方向に進み続けるものです。
    この方向性を変えられるのは、政治(民意)の力だけではないかと思います。
    バブル叩き以降の、この方向性が変わらなければ、「年収103万円の壁」崩し(減税)を、国民が一時的に勝ち取ったとしても、財務省の"底意地の悪さ"を考えると、別の"きつい増税"で国民に仕返ししてくるでしょう。
    方向を変えるには、「民意に従わなければならない」と繰り返し何回も、できの悪い子供相手のように教え込むことが必要で、しばらくに間、馬鹿らしいことですが、国会・内閣はこれに力を注がねばならないという現状です。
    今の財務省は、上下関係にうるさい体育会気質の脳筋ばかりなので、人が入れ替わる30年くらいは掛かると国民は覚悟すべきでしょう。
    目先で一喜一憂している場合ではないと思います。

  • 「教育無償化」は国民民主党の政策にもあります。
    それをばら撒きと批判するのは片手落ちです。

    自民公明の「留学生30万人計画」も同様にばら撒きであると批判すべきでしょう。
    しかも自民公明のこの計画は本当に質が悪い。

    中国人留学生を優遇し、日本人を追い込む矛盾
    https://toyokeizai.net/articles/-/16625

    中国人留学生を優遇しておきながら、日本国の子供に対しては手当程度で済ませてしまう
    自民公明はどこの国の政党かと。

    自民公明が維新に対して餌に使ったのならば、それはそれ。
    来年の参院選で自民公明を叩き落とすまでのこと。

  • 日本は、暫く大減税で行政の効率化が必要。AIの話もありますが、取って配る行政の配り方の是正が急務。東京オリンピックのような配り方では、税金が足りなくなるのは当たり前。汐留あたりの会社が相当抜いたような報道がありましたが、このようなことは是正しないと。公のビジネスは、儲からないようにして、皆さんが民間で儲けるための知恵を絞るように世の中を変える必要があるかもしれません。何と言っても人口減少で需要縮小経済ですから、頑張らないと。

  • 年収の壁「123万円」で決着?協議再開で新たな提示額は?
    https://news.yahoo.co.jp/articles/848b4b969357fcae848a03baff1a10617393413f
     税調会長+政調会長の6者協議で再開するようです。しかもどちらから持ち掛けたか、判明しない。まあ素直に読めば、与党側の維新を使った牽制が功を奏したのでしょうね。
     でもどうなんだろう。仮にこうした小手先の策で、123万円プラスアルファで決着したとしても、自民党は来夏の参院選挙で勝てると、思っているのかな?
     正月には、国会議員の先生たちも地元に帰るでしょう。減税を望む国民は、先生方に会う機会があれば、その生の声を直接届けて欲しい。それが一番大事、です。