衆議院議員総選挙の仕組みは、選挙区内で1人しか当選できない「小選挙区」に議席全体の6割超が配分されるというものであり、その意味で、選挙協力は選挙戦術としてはそれなりに有効です。しかし、参議院の場合、「一人区」は全国で32区しかなく、選挙協力をする意義は衆院選ほど高くありません。ましてや共通の政策もないのに野党が選挙協力をした場合、それは結果として有権者から選択肢を奪うことになりはしないでしょうか?
目次
小選挙区では第1党がズッコケたら第2党が躍進する
日本の選挙制度では、第1党と第2党が議席をほぼ分け合う、という傾向が強いです。
その理由は簡単で、衆議院は定数465議席のうち、全体の6割強に相当する289議席が小選挙区で選ばれるからです。
小選挙区はトップを獲得した候補者が1人だけ当選し、残りのすべての候補者が落選するという仕組みです。
たとえばある小選挙区で10万人が投票し、うち、自民党候補者に投票したのが4万人しかいなかったとしても、残り6万人が立憲民主党3万人、日本維新の会3万人に別れてしまえば、最多得票の自民党候補者が当選します。
極端な話、その小選挙区の有権者数が20万人(つまり投票率50%)だった場合、自民党候補者は20万人のうちの4万人、すなわちたった20%の支持しか得ていないのに、衆議院議員に当選してしまう、というわけです。
この選挙制度、「不公正だ」と思う人もいるでしょう。なにせ、過半数の票を得たわけでもない政党が、議席の3分の2、いや、多いときだと4分の3以上をかっさらってしまうからです。
過去の衆院選はどうだったのか
これについては、実際の数字を見ていただく方が早いでしょう。
2005年以降、小選挙区で第1党が獲得した議席と得票
- 2005年…自民 219議席(73.00%)/3252万票(47.77%)
- 2009年…民主 221議席(73.67%)/3348万票(47.43%)
- 2012年…自民 237議席(79.00%)/2564万票(43.01%)
- 2014年…自民 222議席(75.25%)/2546万票(48.10%)
- 2017年…自民 215議席(74.39%)/2650万票(47.82%)
- 2021年…自民 187議席(64.71%)/2763万票(48.08%)
- 2024年…自民 132議席(45.67%)/2087万票(38.46%)
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』等を参考に作成)
2005年以降で見ると、直近、2024年の選挙では、小選挙区での自民党の獲得議席は132議席と、小選挙区全体(289議席)の半数を割り込んでしまいましたが、それ以外の選挙では第1党が50%未満の票しか得ていないのに、圧倒的な議席を得ていることがわかります。
もちろん、こうした極端な差が付くのは小選挙区であり、衆院の場合は残り176議席を比例代表に配分していて、その比例代表では得票率と獲得議席率に小選挙区程の極端な差はつきません。
2005年以降、比例代表で第1党が獲得した議席と得票
- 2005年…自民 77議席(42.78%)/2589万票(38.18%)
- 2009年…民主 87議席(48.33%)/2984万票(42.41%)
- 2012年…自民 57議席(31.67%)/1662万票(27.62%)
- 2014年…自民 68議席(37.78%)/1766万票(33.11%)
- 2017年…自民 66議席(37.50%)/1856万票(33.28%)
- 2021年…自民 72議席(40.91%)/1991万票(34.66%)
- 2024年…自民 59議席(33.52%)/1458万票(26.73%)
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』等を参考に作成)
今回、2024年に関しても、自民党は「大敗した」といわれますが、それでも比例代表では「圧勝した」はずの2012年と議席数では変わりません(※実際には2012年と比べ獲得議席は2議席多いですが、この2議席は国民民主党から候補者不足で自民党に配分されたものです)。
選挙制度改革が必要?それとも二大政党制のために現行制度を残す?
このように考えると、やはり衆院の選挙制度は改革した方が良いのでは、といった声が出てくるのも自然な話かもしれません。
たとえば、小選挙区をやめて、参議院の一部都道府県のような「中選挙区」、つまり1つの選挙区から複数の候補者が当選する仕組みに戻してはどうか、といった意見がそのひとつかもしれません。また、人によっては「衆院に関しては無所属を禁止し、すべて政党に比例代表で議席を配分すべき」という意見もあるでしょう。
あるいはもっと単純に、日本全国をひとつの選挙区にして(いわゆる「大選挙区」)、その選挙区内ですべての候補者が票を争い、得票が多かった順に当選する、という仕組みにしてはどうか、などと思う人もいるかもしれません。
ただ、正直、どんな仕組みに変えても、必ず何らかの問題点が出てきます。
それに、日本の衆院総選挙の仕組みが中選挙区から小選挙区・比例代表並立制に改正された理由は、「二大政党制を日本にも根付かせたい」という狙いがあったからだとされていますが、今回、2024年の選挙に関しても自民党が勢力を減らし、その分、最大野党である立憲民主党が議席を伸ばしました。
その証拠に、立憲民主党は前回と比べ、小選挙区での獲得議席数を47議席も増やしていますが、得票については前回と比べ、むしろ147万票減っているのです。
立憲民主党・小選挙区における得票と獲得議席
- 2021年…立民 *57議席(19.72%)/1722万票(29.96%)
- 2024年…立民 104議席(35.99%)/1574万票(29.01%)
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』等を参考に作成)
得票が減ったのに議席が増えたのは、まさに小選挙区の特徴そのものです。第1党である自民党の得票が立憲民主党以上に減ったから、相対的に立憲民主党の議席が増えただけのことだからです。
実際、比例代表では投票総数の減少などの事情もあり、議席は前回より4議席(※)増えています、が立憲民主党は前回と比べ、得票を7万票ほど増やしたに過ぎません(※実際には5議席増えていますが、うち1議席は候補者不足だった国民民主党から配分されたものです)。
立憲民主党・比例代表における得票と獲得議席
- 2021年…立民 39議席(22.16%)/1149万票(20.00%)
- 2024年…立民 44議席(25.00%)/1156万票(21.20%)
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』等を参考に作成)
逆に、自民党が石破茂総裁のイニシアティブでここまで盛大にズッコケたのに、それでも立憲民主党が小選挙区、比例代表のいずれにおいても第1党になれなかったことは、まさに立憲民主党の限界そのものではないか、という気がしてなりません。
いずれにせよ、衆議院でトップに立つためには、まずは二大政党の一角を占める必要がある、ということであり、逆に私たち国民にとっても選択肢が限られてしまう、という話でもあります。
2021年衆院選では「立憲共産党」の選挙協力で自民が苦戦した
さて、先ほど示した「2005年以降の小選挙区における第1党の得票と獲得議席」を巡っては、2021年、つまり岸田文雄首相(当時)のころのものをもう1度確認しておくと、次の通りです。
- 2021年…自民 187議席(64.71%)/2763万票(48.08%)
つまり、自民党は得票では2763万票、全体の48.08%を占めていたのですが、これは2005年以降で見て自民党の得票率としては最高であり、それでも小選挙区で得た議席は187議席と全体の3分の2を下回りました。
これ、冷静に考えると不思議な現象にも見えますが、じつは、ちゃんとカラクリがあります。
2021年の総選挙では、立憲民主党が日本共産党と共闘し、候補者調整を行ったからです。口の悪い人はこれを「立憲共産党」などと揶揄していました(※それでも日本共産党は100人以上の候補を立てていましたが…)。
だからこそ、立憲民主党の側で、もし日本共産党との選挙協力がなければ落選していたであろう候補者がなんとか当選ラインに引っかかり、自民党に競り勝った事例が多かったのです。
「小選挙区で2位との得票差が2万票以内だった場合」を「ボーダー議員」と定義するならば、こうした「ボーダー議員」は2021年時点で自民党で58人、立憲民主党で41人いましたが、逆に「立憲共産党」が実現していなければ、立憲民主党の獲得議席はもっとずっと少なかった可能性があるのです。
これに対し、2024年の総選挙では、こうした「立憲共産党」状態は雲散霧消し、日本共産党は全国200を超える選挙区で候補を立て、野党票が割れました(※余談ですが、立憲民主党がこの状態でも50議席積み増したのは、よっぽど「石破自民」が間抜けだったという証拠でもあります)。
その意味では、「野党共闘」は野党(とくに最大野党)にとって選挙戦を有利に進めるうえで非常に魅力的な手法であるとともに、有権者の側から見ると、選択肢を奪う行為でもあるのです。
立憲と維新が「予備選」通じた選挙協力?
以上を踏まえて、第3政党である日本維新の会を巡る、こんな動きを確認してみたいと思います。
【速報】立憲・野田氏と維新・吉村氏が参院選の野党候補一本化方針で一致 予備選実施も含め模索へ
―――2024/12/08 09:37付 Yahoo!ニュースより【FNNプライムオンライン配信】
FNNが日曜日に報じた記事によると、立憲民主党の野田佳彦代表と日本維新の会の吉村洋文代表は8日、フジテレビの番組に揃って出演し、「2025年の参院選での野党の候補者一本化を進める方針で一致」したのだそうです。
なんでも、吉村氏は「予備選」を実施し、この予備選に参加する政党で候補を一本化することを提唱していたのだそうですが、FNNによると番組の中で野田氏も、とくに32ある一人区での野党一本化の必要性に言及したのだそうです。
はて、「予備選」、ですか。
誰を対象にどう実施するつもりなのでしょう?
立憲民主党や日本維新の会の党員やサポーターを対象に予備選を実施するなら、単純に両党の党員やサポーターの数でその予備選の勝敗が決まってしまいそうですし、これに国民民主党や日本共産党を加えるのかどうかを巡っても、両党の合意が取れるものなのでしょうか。
あるいは最近だとNHK党や参政党、れいわ新選組や日本保守党といった政党も存在しますが、これらの政党にも「予備選」とやらへの参加を呼び掛けるつもりなのでしょうか?
これ、冷静に考えてみると、前回の衆院選などで日本維新の会に票を投じた人たちに対する欺瞞ではないか、といった疑問ももちろんあるのですが、著者のような「実務家」にとっては、「予備選」というのは「言うは易し、行うは難し」の典型例であるように思えてなりません。
実務的に、どうやって野党候補を一本化するのでしょうか?
ちなみに番組内で吉村氏は、こう述べたそうです。
「来年の通常国会が始まるまでに維新としての予備選案をまとめる。それを野田さんに、また他の野党にも提示したいと思う。一人区での一本化は僕は絶対やるべきだと思っているから、そこは野田さんの意見と完全一致だ」。
「そうですか」、という感想しか思い浮かびません。
立憲民主党という政党自体がいったい何を目指しているのかよくわからないなかで、その「なんだかよくわからない政党」と積極的に組もうという吉村氏の戦略、吉と出るか、凶と出るか。
ただ、こうした議論を眺めていていつも思うのですが、共通の政策もないという状態で候補を一本化するのは、少し筋が違う気がしてなりませんし、また、それを行うことによる野党側のメリットはわかりますが、私たち有権者にとって何がメリットなのかが見えてきません。
細かい話も述べておくならば、「手取りを増やす」をキーワードに衆院選で大躍進した国民民主党にとっては、「野党候補一本化」という安易な手段に乗っかるインセンティブがどこまであるのかよくわかりません。
なにより、参院選は衆院選と異なり、一人区(衆院選でいう小選挙区と似た、当選者が1人しかいない選挙区)は全体の32区に過ぎず、選挙区の定数74人のうち42人は事実上の中選挙区でもありますし、50議席の比例代表は非拘束名簿方式です。
小選挙区が議席全体の60%以上を占めている衆院選と同じようなノリで、そこまで頑張って野党で候補を一本化するインセンティブがあるのか、なんだかよくわかりません。
いずれにせよ、来夏の参院選に向けた動きが野党間でも始まっていることだけは間違いないでしょう(それが有権者に支持されるものであるかどうかは別として)。
View Comments (17)
前原氏主導なのかな?
施策が近い国民民主ならともかく、寄りにも寄って立憲と合流とは・・・
維新の左傾化で「終わりの始まり」の予感。
前原か、と言われたら、ナルホドねと思いますな。
頭はよさげだけど、根が暗い。
他者とコミュニケートするより、黙ってルールの中でなんでもありの静かな殴り合いをしたがる風情。
口数の少ない小沢一郎みたいな雰囲気です。
吉村が対談動画などで言ってることと、維新が党としてやってることがチグハグなのですが、その乖離が拡大傾向ですねえ。
陽キャラでは、石丸や玉木や立花には勝てないから、陰キャラで通すことにしたのかなあ。
玉木は離党しないのかなぁ。
政治家は、不倫問題はじょがいされるのに、党首であれば甘々かな?
僕は匿名にはコメントしないので、自己レスの独り言。
不倫は、褒められたことではないけど、配偶者以外に問責する資格のある人は居らんと思いますね。
ペナルティも本質的に不要。
次の選挙で審判が下りますから。
例えば食中毒を出した店が保健所から営業停止をくらうのは、ペナルティなんかではなくて、再発防止の消毒殺菌に相応の時間をかけるための物理処置であって、社会的な制裁ではない。
あとは消費者にお任せ。
嫌なら誰も客は来ないし、気にしてないなら営業再開したら客は来るし。
玉木について僕はそう思うけど大多数の人がそう思わないなら、そういう結果がでるまでのこと。
あとは有権者にお任せ方式で。なんにも問題なかろうと。
野次馬が裁判官を気取るのは、なんかリンチみたいで気持ち悪いですな。
そんなことより、手取りを増やす!という公約を全力でしっかり実現させてほしい。
たのむぜ玉木。
>不倫は、褒められたことではないけど、配偶者以外に問責する資格のある人は居らんと思いますね。
御意。
というか、それを望んでいるのは主にオールドメディアだと思いますよ。
でないと、不倫発覚後に国民民主の支持率あがる理由が説明つきませんってw
まさにおっしゃる通りだと思います。
政治家は選ばれなくなればそれで終わり。全ては選挙区の有権者が決めることで、どこかのエライ人が制裁を課すようなことではありませんね。
もし立憲と維新が予備選で候補一本化するとして、その負けた方の候補の支持者が勝った方の候補に投票するとは限らないのではないでしょうか。例えば、自民党候補に投票することも出来るのではないでしょうか。(それより、どうやって票を掘り起こすかが需要ではないでしょうか)
蛇足ですが、多様化の現在、2大政党制自体が、合わないのではないでしょうか。
立憲が出てくる選挙区で
維新が出ないことは
自民へのサポートとなるのでは?
吉村氏の“迂闊なポピュリスト”面が前面展開されとる模様
まー「予備選」自体は以前から維新の主張にも有ったようにうろ覚えしとりますが、とりまどんな“ツッコミ所”満載な“ボケ(予備選案)”カマシてくるンか期待せんと見とこ~、なカンジっすかね??
例のイソジン騒動以来、個人的に吉村氏に対する信用は地の底に落ちた状態なのですが、何故維新内で未だに担がれるのか理解に苦しみます。
「てとう」連呼やガソリンプールやグーグルアース等等、類は友を呼ぶと言うべきか…
期待を裏切らぬ前原代表!
立憲共産との選挙協力は、
維新の威信を墜とす行為。
*ゆ党の「”や党化”表明!」
「自民党は勝ったけども、投票率を考えたら支持率は20%くらいしかない!こんな選挙民意じゃない!!!」とか言う野党が、同じ理屈だと支持率10%も無くてもっと民意じゃないのは毎度笑っちゃいます。
もう"選挙協力"という言葉だけでマイナスイメージがつきそうなものですけどね。同じ目標が無い限り「政策で勝負できないしするつもりもない。議席だけくれ。」って自白ですから。安倍総理の頃は、まだ"打倒アベ政治"に賛同する方が多かったのかもしれませんが。
立憲民主党の唯一にして絶対の強みは"野党第1党であること"、これのみです。ほんとこれだけです。なのに存在感を薄くする"協力"はどうかと思いますけど、まぁ好きにしたら良いんじゃないでしょうか。
私は、選挙区調整は反対です。
SNSからの情報が選挙に大き影響を持つことが明確になった今、選挙民の各政党の政策に対する理解はより深くなってきていると思います。
今時、維新の支持者が立憲民主党の候補者に投票するなどという事があるのでしょうか?立憲民主党よりも自民党に投票するか棄権する人が多いと思いますが。
得にSNSが情報源の若年層には、選挙区調整は嫌悪感を持たせるのではないでしょうか?
維新と立憲民主党が選挙区調整したところは、国民民主党にとっては候補者を優先的に立てるのが効果的かもしれません。
昔「機を見るに鈍」と言った方がいましたが、まさに今の前原はそんな感じでしょうね。
議席が欲しいのなら、立憲と選挙協力するのではなく、むしろ立憲とは対立軸で選挙に臨み、是々非々の方針を打ち出した方がよほど議席が伸びると思うのですが。
せっかく維新に行ったんだから、改革を前面に打ち出して、古い既得権(NHKとか学術会議とか)を壊す方向でアピールすればよくて、そうすれば自然と立憲共産とは対立する事になると思いますが、これからの時代はそれでいいと思います。
確か維新さんは『立憲民主党を叩きつぶす』とか言ってませんでしたか?
なんだかな~ いよいよますます信用できない政党に成り下がりましたね。
『終わりの始まり』ってことですかね。この連中はほっといて、私は益々
国民民主ガンバレですね。
都構想で立憲と共産を敵視していたはずなのに、野合ですね。少なくとも安全保障面での主張は全く相容れないはずだが。