X

年収の壁引き上げる税法改正私案

現実問題、国民民主党が主張する「基礎控除を引き上げるだけ」ならば、条文を2ヵ所修正したうえで、甲欄のテーブルなどを修正すれば完了です。手間としてはさほど大きくありませんし、スケジュール的にも十分に間に合います(何でしたら本稿に示した条文案をそのまま使っていただいて構いません)。ただ、それ以上に困った話があるとすれば、このままだと自民党が来夏の参院選で、果たして本当に戦えるのか、という疑問です。

とあるXユーザーとのレスバトル…勝ってしまったのか?

昨日の『基礎控除引上は「制度が複雑過ぎて時間がかかる」のか』では、所得税法上の基礎控除の引き上げについて、「制度が複雑過ぎて、時間がかかる」とする、とあるXユーザーのポストを話題として取り上げました。

著者自身がこのユーザーに対し、「基礎控除を引き上げるだけなら、所得税法第86条第1項、地方税法第34条第2項、甲欄テーブルの3点を改正するだけですぐに実施できるのではないか」と問いかけたところ、罵詈雑言を浴びせられ、最後は「謎の勝利宣言」で「逃亡」してしまったのです。

どうやら、完全に勝ってしまったのでしょうか?

正直、Xなどの言論空間で、こちらが冷静な議論を心掛けたところで、相手が冷静にこちらの疑問点にひとつずつ答えてくれるとは限りませんし、また、この手の反応も「ありがち」なものであるため、ある程度は想定内だったことも事実です。

ただ、昨日も指摘しましたが、自分とは異なる意見、すなわち「異見」の持ち主との公開の場における議論については、大切にする価値があります。

それには少なくとも2つの理由があります。①異見から学べる(かもしれない)ということと、②公開の場で意見を問うことで、結果的に(自分の理論の方に説得力があれば)多くのギャラリーを味方に引き入れることができる(かもしれない)、という2点です。

このうち①については、常にその効果が得られるとは限りません。しかし、②についてはたいていの場合、こちらが誠意を持って議論をし続ければ、何らかの良いことが発生します。

まずは①について。

人間の知性にはおのずから限界がありますから、自分の意見に絶対の自信を持っていたとしても、その意見に思わぬ「穴」を発見するかもしれませんし、もっとすごい場合には、自分自身が「正しい」と信じていた内容が誤っていたことに気付けるかもしれません。

実際、著者自身もこの「異見」により、ずいぶんと助けられてきたという側面があります。「異見」を突き付けられることで、自分自身の議論の曖昧さ、論拠の不確かさを意識させられ、事実関係をしっかりと調べたところ、思っていたのと違う事実、意外な側面などを発見することができたことも多々あるからです。

ただ、X(旧ツイッター)の場合だと、ちょっと論理的主張力があまりにも違い過ぎるユーザーも多く、それらのユーザーからなにか興味深い「異見」が聞ける可能性は、正直、極めて低いです。

彼らの多くは無駄にプライドが高いからか、こちらからの問いかけ(たとえば「あなたの主張している内容の法的根拠は?」、など)には正面から答えず、何とかして議論を誤魔化し、こちらの人格を攻撃しつつ、とにかく議論を逸らそうと必死になってきます(そのちっぽけなプライド、守る価値があるのでしょうか?)。

(おそらくは)実務を知らない、なかなか強烈な方でした

昨日のユーザーの場合も、「基礎控除を引き上げる『だけ』なら、税法の2つの条文を改正し、合わせて源泉徴収テーブルを修正すれば済む」という著者自身の指摘に対し、「そんな単純なことではない」と頑なにそれを否定。

そのうえ、途中からは「システム対応が~」、「源泉徴収票のフォーマット変更が~」、「社会保険料の徴収額に影響が~」など、どんどんとゴールポストを動かし、最後は「気持ち悪い」だの、「頭に血が上り過ぎ」だのと人格を侮辱するなどしたうえで、こう言い捨てて逃亡して行ったのです。

お前、都合よく前の反論忘れるから、これ以上は無駄<改行><改行>議論したいなら、論点反らしたり都合よく忘れたりするなよな、もう相手にせんわ」(※ほぼ原文のまま)

今回のお相手(?)も、なかなかに強烈な方でした(笑)。

どうでも良い感想ですが、たかだか基礎控除を変更するくらいでシステム改修が必要になるほどに市販の給与計算パッケージは脆弱ではありません。給与計算の実務を知らなすぎです。

また、基礎控除の変更は社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料、雇用保険料)にはいっさい影響を与えません。これらの料率は基礎控除と無関係に決定されているからです(本稿では、詳しい説明は割愛します)。

いずれにせよ、こうした議論の態度から見ると、著者自身に罵詈雑言を吐いて逃げて行った論者が当初主張していた「基礎控除の変更は複雑な制度変更が必要になる」という内容、おそらくは誰かの受け売りで、ご自身で税法を読んだわけではないこと、給与計算の実務を知らないことは明らかでしょう。

その意味で、①の効果については、残念ながら、昨日の「レスバトル」から得られるものはほとんどなかったといえるでしょう。

減税反対派のロジックがわかった(かも?)

しかし、②については、なかなかに良い効果が得られました。

このポスト主氏のおかげで、またしてもXのフォロワーが増え、ついに昨日、15,000人の大台に達したからです(笑)。というよりも、この人物との議論を最初からすべてオープンベースにしたことで、世の中の「反減税派」の考えている内容の一部がわかってきたというのが大きな成果かもしれません。

「ネットは集合知」、とはよく言ったもので、さまざまな考え、あるいはさまざまな立場の人が集っています。こうしたなかで、「システム専門家」を名乗る複数の方々が、こんな趣旨のことを教えてくださいました。

現在の会計パッケージソフトは、制度変更があったとしても、必ずしも「システム改修」(?)とやらを求められるものではなく、多くの場合はベンダーがウェブサイト経由でオンライン・アップデートで対応してくれます。

また、社会保険料の料率などはわりと頻繁に変更されますし、一部ベンダーは社保の料率変更ではいちいちオンライン・アップデートなどを行わないケースもあります(この場合はユーザー側にて適切なタイミングで料率を変更することが必要です)。

このように、給与計算の実務に従事していると、法令の変更に伴い源泉徴収や社会保険料の料率などが変更されることは頻繁にありますし、どんな会社でもたいていは行われる年末調整で、徴収し過ぎた税額などの精算が実施されることが通例です。

このように考えたならば、「減税反対派」がいう、「システム対応が大変だ」、「条文変更が大変だ」、「周知徹底が大変だ」、といった言い分は、いずれも「減税ができない言い訳」に過ぎないことがわかります。

自民党は国民民主党の反対で予算案を通せるのか

それはともかくとして、減税に反対する人たちの言動、なんだかよくわからない、というのが正直な感想です。

これを財務省や総務省などの関係者が主張するならまだ話はわからなくもないのですが、Xなどで、自分で条文を調べたわけでもなく、給与計算の実務などに詳しいわけでもない人たちが、たとえば玉木雄一郎氏あたりを舌鋒鋭く攻撃しているのは、なんだか滑稽な気がします。

もちろん、玉木氏は不倫が報じられるなどしたため、現在、国民民主党の代表の役職停止処分中だそうですし、「もりかけ騒動」のときも含め、脇が甘いなど、何かと批判も強い人物ではあります(過去の失敗から学ぶことで人間は成長できるともいいますが…)。

ただ、玉木氏が過去に何をやってきたかという点はもちろん重要かもしれませんが、それ以上に、玉木氏が率いる国民民主党が「手取りを増やす」を掲げて勢力を4倍増させ、キャスティングボートを握ったわけですから、有権者の熱い視線が同党に注がれるのは、ある意味で当然といえます。

著者自身も国民民主党に全幅の信頼を置いているわけではありませんが、「年収の壁」問題に代表される、この日本社会の問題点を人々に意識させる「パンドラの箱」を開いてくれたことについては、素直に高く評価したいと考えています。

そして、自民党にとって非常に残念だったのは、この「手取りを増やす」という提案については、一部自民党議員が過去に何度か行っていた(らしい)にもかかわらず、それを国民民主党の手柄にされてしまったことといえるかもしれません。

その自民党は現在、衆院側では過半数割れしており、自民党非公認で当選した旧安倍派の重鎮議員らを足しても196人で、公明党(24人)を加えても、220議席であり、過半数(233人)ラインには13人足りません。

だからこそ、28議席を持つ国民民主党がキャスティングボートを握っているわけですが、もしも国民民主党が協力しなければ、極端な話、予算も法案も通らない可能性が出て来た、ということでもあります。

「自公+維」、あるいは「自立連立」!?

いや、もちろん、自公連立政権にとっては38議席を持つ日本維新の会と連携すれば、国民民主党なしでも十分に予算が通せますので、極端な話、「自公+維」連立政権が出来上がれば、「年収の壁」問題など気にする必要はなくなります。

あるいは、(個人的にはまずあり得ないとは思いますが)196議席の自民党が148議席の立憲民主党と組めば、衆院で圧倒的多数を持つ連立与党が出来上がりますので、国民民主党など「蹴散らす」ことが可能でしょう(実際、自民党は1994年に社会党と連立を組んだという前例があります)。

実際のところ、立憲民主党は国民民主党と異なり、減税には後ろ向きですから、現在の自民党執行部内で「国民民主党の減税案を飲むよりも立憲民主党と組んだ方が良い」という判断が出て来る可能性が、絶対にない、と断定することなどできません。

ただし、もしも減税が実現しなかった場合、一度は「実現するかも?」と国民を期待させた減税が潰えることになる可能性が高いため、そうなった場合は来夏の参院選で、少なくない国民が自民党(と自民党に協力した政党)を大敗させる選択を取るかもしれません。

なにせ、参院選は衆院と異なり、選挙区で選ばれる改選74議席のうち、「選挙区で1人しか当選できない区」(いわゆる一人区)は32区しかなく、残り42議席は中選挙区ですし、比例代表(改選50人)は全国非拘束名簿方式ですので、第1党が衆院選ほどに極端な議席を得ることはありません。

このままだと、本気で自民党が参院選でも大敗を喫し、2010年以来守り続けて来た「改選第1党」の地位を他党に明け渡す可能性だってあります。

著者自身はどこの政党を支持しているか、明言していませんが(普段の当ウェブサイトの文章からはバレバレですが)、正直、自民党が参院選で負けることは、日本にとって再び大きな混乱をもたらしかねない深刻な事態でもあります。

とりわけ参議院は解散がないため、自民党の「負けっぷり」次第では、石破首相が引責辞任したとしても、その後下手すると6年間は国政が停滞することになりかねません。

また、永田町の動向に詳しいとある人物(※名前は明かせません)は先日、「現在の石破政権は来年度予算が通り次第、辞任に追い込まれる(かも)」、との観測を教えてくれましたが、それが実現したとしても、政策次第では自民党大敗のシナリオが現実のものとなりかねません。

ただ、現実問題として、自民党は一枚岩ではないこともまた事実でしょう。

もしも石破首相が参院選前の来年6月頃までに辞意を表明し、今度こそ「高市早苗総理大臣」が実現するかもしれませんし(※これは希望的観測が過ぎるかもしれません)、そうでなくてもリフレ的な政策に理解を示す人物が次期総理に就任すれば、また空気が変わることもあるでしょう。

その意味では、これから数ヵ月の永田町は、ウォッチする価値が非常に高そうだと思う次第です。

税制改正私案を示しておきます:どうぞご自由に!

なお、オマケです。

平成30年度(2018年度)の税制改正で、所得税法第86条第1項と地方税法第34条第2項に、それぞれ次の通り、所得金額が2500万円を超えてしまった人に対する基礎控除がゼロになるとする趣旨の規定が入ってしまいました。

所得税法第86条第1項

合計所得金額が二千五百万円以下である居住者については、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。

一 その居住者の合計所得金額が二千四百万円以下である場合 四十八万円

二 その居住者の合計所得金額が二千四百万円を超え二千四百五十万円以下である場合 三十二万円

三 その居住者の合計所得金額が二千四百五十万円を超え二千五百万円以下である場合 十六万円

地方税法第34条第2項

道府県は、前年の合計所得金額が二千五百万円以下である所得割の納税義務者については、その者の前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める金額を控除するものとする。

一 当該納税義務者の前年の合計所得金額が二千四百万円以下である場合 四十三万円

二 当該納税義務者の前年の合計所得金額が二千四百万円を超え二千四百五十万円以下である場合 二十九万円

三 当該納税義務者の前年の合計所得金額が二千四百五十万円を超え二千五百万円以下である場合 十五万円

しかし、これを2018年度改正前の条文に戻したうえで、金額を128万円に増やす改正であれば、一瞬で作れます。

所得税法第86条第1項改正私案

居住者については、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から百二十八万円を控除する。

同じ要領で地方税法についても改正試案を示しておきます。

地方税法第34条第2項改正私案

道府県は、その者の前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、百十八万円を控除するものとする。

国会議員の皆さん。

この際、この条文を、そのまま使っていただいて結構です(笑)。

どうぞ、お納めください。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • 財務省には困ったもんだ。
    チャーハンを作るそぶりすらしないのだから。

    • とあるXのユーザーの方って財務省の仕込みでは無いですかね。

      頭が良いはずの東大卒であっても、その頭を利権とか既得権益をいかに得るかにフルに活用しているので、減税は悪なのでしょう。

      財務省は本当に腹黒い人の集まりという事がよくわかりました。

    • 高橋洋一チャンネルでも言っています
      1163回 補正予算に基礎控除引き上げなし!しれっと能登の復興予算を入れる 先ずは謝れ!財務省よ

  • 年収の壁引き上げの最大の問題は、どうやって財務省の反対を打ち破るかではないでしょうか。
    (というより、引き上げ反対の理由として「財務省が納得しない」をあげれば、はっきりするのでは)

  • >おそらくは誰かの受け売りで

    誰の受け売りかトレンドでわからないかな?
    会計士様のご指摘が事実なら「システム対応が大変な人」自体が存在しないことになってしまう。
    どんな素性の人が、何の目的でこんなことを言っているのか。

  • すっきりとした改正案だと思います♪
    まずは減税した上で、いつかは物価とかに応じて自動的に控除額が上がるようにして欲しいですね。
    >百二十八万円、前年度控除額、又は前年度控除額に物価上昇率をかけた額のうち最も高い額を控除する。
    みたいな・・・

  • まじめに、このところ立憲民主党の存在感ゼロですね。

    しみじみ面白い。

    顔を真っ赤にしてなにか叫んでる気がするけど、意味不明で理解できないからもはや関係者の全員からスルーされてるような。

    最後の皮一枚だけ残ってる矜持で
    なんでも反対!
    し続けてくれたらよいけど、血迷って自公への賛成に回ったりしなければよいけど。

  • この制度自体を時代遅れ(女性の社会進出を阻むとして)としたコメンテーターがおりました。
    誰かは忘れましたが。
    しかし女性の社会進出、といっても一息に叶うものではありません。
    まずは、こういった控除を変化させ長く働けるんだ、という意識改革を一歩一歩すべきではないかと思います。

  • >現在の会計パッケージソフトは、制度変更があったとしても、

    一応、例の氏のツイートによると「行政システムの改修」と言ってるんで、民間のシステムのことは言ってなさそうなんですよね。(笑)
    自治体と財務省のシステムがどうなってるかよくわかりませんが、どっちみち制度変更はなく係数の変更程度なので改修が必要だったとしても大した改修にはならないと思います。機能があれば運用レベル。
    年末調整までには間に合うんでないすかね。というか間に合わせろ。必要なら法令作るときにそう書いときゃいいわけですよね。

    別の方が指摘されてますけど、2020年の基礎控除額変更の時もシステムの話なんて聞いた覚えがないです。

    • >どっちみち制度変更はなく係数の変更程度なので

      引用中の言葉と被ったので、「ロジックの変更はなく」と訂正しておきます。
      係数の変更なんてしょっちゅうでしょう。それを想定しない行政のシステムなんてちょっと考えられない。

  • 今年の補正予算案の中に「減税」は無いそうです。
    なので、減税は早くて来年度、再来年の確定申告からと言ってました。

    一つだけ阻止する手があるとすれば、不信任案を突き付けて解散してしまえば、この予算案は破棄される、という事でした。

    今こそ野党は一致団結して、不信任案を提出する時でしょう。いつも下らん否決される前提のパフォーマンスじゃなくて。って言っても立憲は増税派だし、共産もれいわも腰砕けだし、無理なんだろうな・・・

    自民党はネットと若者の力を過小評価しているように思います。
    ここで減税通せないと本当に来年の参議院選は危ういと思います。どなたかが仰ってましたが、1度くらいの浮気は元鞘もあり得るが、2度目の浮気は、もう元には戻れない、という事でした。先の衆議院選挙で自民を選ばなかった人が、2度目の国政選挙で自民党を選ばない事があれば、岩盤支持層はかなり危ういように思います。

    自民党はしっかりと先の衆議院選挙を総括して反省して欲しいと思います。

  • 例えば、都知事選で立候補が多すぎてポスターを貼れなくなったら、
    「立候補しないで下さい」
    とか選挙管理委員会が言ってもいいのか?

    なんとかしろ!で、おしまいですよね。

    ほんと財務省に味方する人たちは、根本的に心得違いをしてますよ。

  • まーなんとなんと!絵に描いた様な「罵倒の言葉は自己紹介」サスガにザイム真理教本山の中の人ではアリマスマイて
    しっかし与党の補正予算案は“本来来年度本予算でヤルべき”モノを入れ込みスギやナイカイナ?
    知らんけど

1 2