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「年収の壁は再来年1月から適用」報道…国民民主は?

年収の壁引上げを巡り、政府・与党内では(※「2025年」ではなく)「2026年」1月からの適用を軸に検討していると、共同通信が3日に報じました。玉木雄一郎・国民民主党代表が日曜日のテレビ番組で、壁引上げを「年度内に実現したい」と述べていたのを踏まえると、なんだか遅い気がします。その国民民主党が反対すれば、予算が通らないことも事実です。報道が事実だったとしたら、国民民主党がどう出るかは見ものです。

年収の壁問題、思ったよりも深刻

いわゆる「年収の壁」の上限引き上げ問題を巡っては、国民の期待が否が応でも高まりつつあるのを、私たち一般人も、ひしひしと感じているのではないでしょうか。

いうまでもなく、この「年収の壁問題」のひとつは、所得税法上、年収が103万円を超えると所得税が発生してしまう、というものです。

また、この103万円を超えると、いわゆる「配偶者控除」や「扶養控除」などの適用対象からも外れてしまいますので、一家で税金が跳ね上がってしまう、という現象も発生します。

たとえば「夫婦のうち片方がフルタイムで働き、もう片方がパートタイムで仕事をしている」という夫妻のケースだと、パートタイムで働いている人の年収が103万円以内であれば、フルタイムで働いている人の側に(その人の所得などにもよりますが)基本的には配偶者控除の適用が認められます。

同様に、「親がフルタイムで働き、同居している子供(※16歳以上)がアルバイトをしている」、といったケースでも、やはりお子様のアルバイトによる給与収入が103万円以内であれば、親御さんが(各種条件はあるにせよ)基本的には扶養控除の適用を受けることができます。

ところが、こうしたケースで103万円を超えて給与を稼いでしまうと、扶養などから外れ、家族全員が支払う所得税の額が跳ね上がってしまう、という不都合が生じるのです。

もし178万円に引き上げたら恩恵が広範囲に及ぶ:財務省は困る

国民民主党の主張は、物価水準の変化なども勘案し、これを現行の103万円から178万円に引き上げよ、というものですが、この引上げが実現した場合には、今度はなかなかに凄いことが発生します。

働いている人の基礎控除がすべて178万円に引き上げられれば、低所得者層のみならず、中所得者層、高所得者層にもあまねく恩恵が及ぶのです。

先日の『国民民主党が減税法案提出…なぜか減税に乗らない他党』でも取り上げたとおり、国民民主党が提出しているとされる法案では、同党の玉木雄一郎代表らの説明によれば、この「103万円の壁引上げ」は基礎控除を48万円から123万円へと75万円引き上げることで実現させるつもりのようです。

もちろん、現行の基礎控除は、所得が2400万円を超えたら減額され、2500万円を超えたらゼロになってしまうという、ある意味でとんでもない代物ですが(まるで高所得者層には生存権を認めないとでも言いたいかのようです)、それでも所得が2400万円までであれば、こうした恩恵が広く及ぶことになります。

これで焦るのは、なんといっても財務省でしょう。

これまで官僚・公務員の分際で、事実上、国会議員を凌駕するほどの巨大な権力を握り、ひたすら増税を繰り返してきた財務省ですが、もしもここで大幅な減税が実現しようものなら、これまでの「国の借金」論を中心とする自分たちの垂れ流してきた内容がウソだとバレてしまうからです。

「財務官僚は議論を嫌う」?なぜ初歩的論点を誤るのか』などでも指摘したとおり、財務省が出してくるさまざまな試算値は、乗数効果をまともに反映させていない時点で話にならないものばかりです。税収弾性値を(経済実態に合致した3~4ではなく)頑なに1.1に設定し続けているのがその典型例でしょう。

そして、財務省は現在、おそらくはこうした減税の動きに対し、時間を稼ぎながら、どこかで別の増税をねじ込もうと画策しているフシがあります。高所得層に対する特定扶養控除の限度額圧縮を含めた姑息なやり方がその典型例でしょう。

壁引上げは来年ではなく再来年1月から?

こうしたなかで確認しておきたいのが、共同通信が3日夕刻に配信した、こんな記事です。

年収の壁引き上げ26年1月適用開始検討

―――2024/12/03 15:40付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】

たった1行で終わる、大変に短い記事ですが、「政府・与党が」、その適用時期として2026年(つまり再来年)1月からを軸に検討している、とするものです。

アレでしょうか、来年ではなく再来年1月からの適用とすることで時間を稼ぎ、その間に各種控除に年収制限を設定したり、基礎控除を所得2400万円ではなく2000万円程度でゼロにしたりするなどして、ステルス増税を画策するつもりでしょうか。

この記事を盲信するには若干慎重であるべきかもしれませんが、いずれにせよ、とにかく減税には抵抗したいという(財務省や総務省あたりの)意向が見えてくる、何とも味わいのある話題です。

日曜日の番組で玉木氏は「年末の大綱に金額織り込むべき」

では、国民民主党の側は、それを容認するのでしょうか。

結論的にはおそらく「NO」です。先日の『玉木氏がテレビ出演…年収の壁問題「年末年始返上で」』でも取り上げたとおり、玉木代表自身は出演したフジテレビの番組で、「来年度の税制改正大綱に明記することが必要だ」、との認識を示しているからです。

玉木氏の発言の概要は、こうです。

年末の税制改正大綱に金額を盛り込まないと所得税法の改正案作れないですし、歳入が固まりませんから、どこまで上げるか金額は年末までに書き込まないといけない」。

間に合わなければ年末年始を返上するぐらいの気持ちで臨まないといけない。来年度から是非実施したい」。

要するに、玉木氏としては、まずは年内に金額を固めろ、というのが同党としての方針だ、ということです。

ということは、臨時国会で補正予算とともに年収の壁が修正され、最速だと来年1月から新たな月額甲欄表などが適用される、ということでしょうか。あるいは所得税法改正案は来年の通常国会で議論され、6月までに公布・施行されて、年の途中から新たな源泉徴収税額が適用されることになるのでしょうか。

年の途中から税率が変わると、いろいろと不便ではないでしょうか?

技術的にはまったく問題なく前倒しでの実施可能

じつは、これについては実務的な話でいえば、大してハードルは高くありません。ちょうど今年6月以降には、岸田文雄・前首相のイニシアティブにより実施された定額減税という前例がありますし、日本には年末調整という仕組みもあるからです。

実際、現在の日本では、所得税の税率をいじること自体、技術的にはさほど難しいことではありません。給与所得は毎月、勤め先で所得税などが源泉徴収され、翌月、税務署に納付されているからです(納期特例の場合は毎月ではなく半年に1回)。

基礎控除が変わったとしても、技術的には、たとえば2025年7月以降の給与所得で適用される源泉徴収税率を変更し、1月から6月までの源泉徴収税額については2025年12月の年末調整で精算する、といった対応も可能です(というか、毎年各事業所が行っている年末調整事務の範囲内です)。

そして、くどいようですが、現在の国会では、国民民主党が賛成しなければ予算も法案も通りません。

もしも自公側が年収の壁引上げを再来年にズレ込ませようとするのであれば、国民民主党としては自公との協力をさっさと解消してしまえば良い、ということです(そうすれば少なくとも衆議院側で予算を通すことが不可能になります)。

こうした状況を国民民主党がどう活かすか(あるいは活かさないか)については、これから1~2週間の動きを見ていれば見えてくるかもしれない、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (10)

  • まあ再来年までに玉木氏が不倫問題で失脚するのを見込んでるんでしょうなぁ。

  • 社員にとっても企業側にとっても給与変えずに手取りが増えるならwinwinでは。
    財務省?知らんがな。

  • 現実問題として2025年1月から毎月何時間パートやるか決めなければならない。
    政治家はそのへんのところわかってんのかね?

    自民党としても「ぐずぐず先延ばししてる人たち」と思われるとそこを突かれて次の選挙大負けするよ。

  • >年収の壁引き上げ26年1月適用開始検討

    記事からじゃよくわかんないけど、これって26年1月〜12月の所得で計算して27年3月までに納税するときの税率の計算に適用するってことなのかな?
    ・・・26年1月〜3月に確定申告すれば、適用後の控除額で計算しなおすよってことかもって思ったけど、そうじゃないですよね♪

    • 肝心な情報が欠落しているのが共同通信なので、共同の報道だけじゃよくわからないのです♪
      ですが、確定申告しない人にとっては2025年12月の年末調整で課税関係が終了するのです♪

  • “虚報”の共同通信を使って観測気球のつもりか知らんけどソノ与党仕草が財務省悪玉論とリンクして来夏参院選に影響する可能性を過小に見積り過ぎとるげなトコロが直近の衆院選惨敗に通底しよるっちゃないと?
    知らんけど

  • >政府、与党が、年収103万円を超えると所得税が発生する「年収の壁」の引き上げ時期について、2026年1月からの適用開始を軸に検討していることが3日、分かった。

    「・・・3日、分かった」
    分かった報道。誰が分かったのか、誰から聞いたのか、まったくわからないやつですね。
    「自民党本部の清掃員のおばちゃんから聞いた」「週刊誌を読んで分かった」「ウチのコタツがそう言っていた」、いろいろあり得る。
    最近の流れで言うと「時事通信記者が言っていた」「NHK記者が言っていた」ですかね。

    この記事では対象外でしょうが「世間一般は分かっていたけど唯一分かっていなかった共同通信の記者だけが、今回分かった」なんて場合にも使われるようです。

    「共同通信の自民党担当記者がそう言っていた」のかもですね。
    これが誤報だったとすると釈明文はこんな感じでしょうか。
    「共同通信の自民党担当記者からの情報を裏付けを取らないままうのみにしてしまった」

  • 所得税だけ103万の壁超えさせて社会保険料をかっさらっていくのは勘弁してください
    ちゃんと一体改革するんだろうか