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一部メディアのSNS規制論は焦りの裏返しではないか

「SNSのせいで選挙結果が歪められる」のではなく、「SNSのせいで世論誘導ができなくなる」、という方が本音ではないでしょうか?先日の兵庫県知事選で、斎藤元彦氏の陣営がSNSを悪用し、不正確なデマを拡散したことで当選した、などとする印象操作が見られますが、その本質は急速に社会的影響力を失いつつあるオールドメディア側の焦りではないでしょうか?

オールドメディアから相次ぐSNS規制論

先日の『メディアはそのうち「ネット規制」を言い出すのでは?』では、テレビ関係者などから「ネット規制」、「SNS規制」などの発言が出始めている、とする話題を取り上げました。

著者自身が5月、パロディのつもりで適当に書いた、「国は国民の代表者であるジャーナリストとマスコミ(とくに新聞とテレビ)を守るために、ネット規制をしたうえで、新聞社やテレビ局に対し、補助金で支援しろ」といったインチキ論説、どうもただの「インチキ論説」とは言い切れなくなりつつあるのかもしれません。テレビ局関係者から、SNS規制という本心をのぞかせるかのような発言がチラホラと出ているからです。「ネット規制をしろ、新聞やテレビに補助金を出せ」当ウェブサイトに今年5月頃に掲載した、『【インチキ論説】ネ...
メディアはそのうち「ネット規制」を言い出すのでは? - 新宿会計士の政治経済評論

その直接のきっかけのひとつが、今月17日の兵庫県知事選です。

県議会が全会一致で不信任を突きつけ失職した斎藤元彦氏が「ゼロ打ち」でまさかの再選を果たしたのですが、これを受けて「SNSで不正確なデマが拡散された」ことが斎藤氏の再選につながった、などとする主張が、新聞、テレビを中心とするオールドメディアから出ているのです。

なかには『「新聞のSNS批判」もSNSで直接反論される時代に』などでも触れたとおり、「これらの情報はYouTuberらが広告収入を目当てに拡散している」、といった主張も見られます(ただし、記事に取り上げられた人物が即時、SNSで反論していたりもしますが…)。

SNSにデマが多いのは事実:大事なのはそれを自分で検証すること

印象操作の極みであり、端的にいえば、どれも片腹痛い話です。

ただ、これについて述べる前に、いちおう、ネット上のデマについても簡単に確認しておきましょう。

この点、SNS上で、正しくない情報、あるいはデマが流れていることについては間違いありません。

なにせ、SNSはべつに政府の許可がなくてもアカウントを開設することができるわけですし、極端な話、外国のスパイ組織(?)が虚偽の情報を垂れ流し、紛争当事国の一方的言い分を広めようとしてくるかもしれません(そういう実例がつい最近もありましたね)。

ただ、だからといって「SNSを規制しろ」、は、少し極論が過ぎます。

もちろん、情報の発信の仕方によっては「炎上」することだってありますので、ネット上のリテラシーを高めておくことは重要ですが、それと同時に現実社会を生きるうえで、感染症などに罹患するリスクがあるのと同様、ネットは「デマも流れている空間だ」と理解したうえで、上手にお付き合いすれば済む話ではないでしょうか。

大事なのは、SNSの情報を自分で検証することなのです。

幸いなことに、ネット空間だと、その気になれば自分自身で情報を検証することができます。

デマの検証手段がないという意味ではオールドメディアの方が問題

そして、とても重要なことを申し上げておくと、「SNSがデマばかり」が事実だったとして、新聞やテレビの情報が正確であるということにはなりません。いや、むしろ新聞、テレビを中心とするオールドメディアの方こそ、誤情報が流れたときに訂正する手段、情報の受け手が検証する手段などがない分、悪質です。

ネットが出現する以前であれば、私たち一般人は、オールドメディアから流れてくる情報を、無条件に正しいものとして、ただ受け取るのみでした。いわば、オールドメディアは報道という天の声を、いつしか事実上の権力として振りかざすようになってきたのです。

そして、オールドメディアは報道という「事実上の権力」を悪用し、有権者に対し、結果的に特定政党への投票を働きかけるなどの不適切な報道を繰り返して来ました。椿事件や2009年の政権交代選挙が、その典型例でしょう(『椿事件から玉川事件へと連綿と続くテレビ業界の問題点』等参照)。

とある参議院議員が1993年に発生した「椿事件」を「テレビ局に対する政治介入を許した痛恨事」、などと述べたそうですが、この「玉川事件」は歪んだ事実関係が大々的に報じられたという意味で、椿事件と本質的にはまったく同じです。「椿事件」と比べると、今回の「玉川事件」、正直、大したインパクトがあるとも思えませんが、この問題が連日のように炎上しているという事実は、インターネットとテレビ業界の力関係が完全に逆転しつつあるという状況を示すものでもあるのです。玉川事件と放送法玉川事件のインパクト:テレ朝の処分に...
椿事件から玉川事件へと連綿と続くテレビ業界の問題点 - 新宿会計士の政治経済評論

問題は、それだけではありません。

新聞、テレビはときとして、不正確・非科学的な情報を拡散してきました。

たとえば福島原発処理水の海洋放出などを巡り、「科学を振りかざすな」だ、「科学を隠れ蓑にするな」だのと煽る報道も繰り返して来ましたし、いわゆる「国の借金」論では、不要不急の増税を煽るかのような報道を続けて来ました。

さらには、いわゆる子宮頸癌ワクチンの接種を巡って、新聞、テレビが風評被害をばら撒いたことの責任(『子宮頸癌ワクチン巡りNHKがSNSに責任押し付ける』等参照)も、決して無視することはできません。

このように考えていくと、SNSのデマを問題視するならば、新聞、テレビのデマについても同様に問題視する必要があるように思えてなりません。

斎藤氏がPR会社に約70万円支払い…何が問題なのですか?

こうしたなかで、一部メディアが喧伝し始めている、斎藤氏の選挙違反疑惑について、こんな「続報」がありました。

斎藤元彦氏PR会社に71・5万支払う…チラシやポスターのデザインで、請求書に「SNS」はなし

―――2024/11/25 21:39付 読売新聞オンラインより

読売新聞によると、斎藤氏は25日、県内のPR会社の経営者が知事選で斎藤氏に「広報全般を任された」などとネットで投稿したことを巡り、会社側にポスター制作費用などとして約70万円を支払ったとしつつも、記者団には「公選法に違反するような事実はない」と述べた、などとしています。

選挙でPR会社にポスター制作などを依頼するのはごく一般的な話でしょうし、また、約70万円といわれても、それもごく常識的な範囲の金額ではないでしょうか。読売新聞がなにを問題視しているのか、いまひとつよくわかりません。

いちおう、読売新聞の記事では、話題のPR会社の経営者を巡って、このような記載があります。

20日付の投稿では、同社が斎藤氏のキャッチコピーを考案し、SNSの公式応援アカウントの開設・運用を手がけたとされていた。SNSなどでは、選挙運動の対価として報酬を支払うことを禁じた公職選挙法に抵触するとの指摘が相次いでいる」。

かなり苦しい言い分です。

選挙ポスターに加え、キャッチコピーの考案やSNSの運営までを請け負ったとしても、約70万円の範囲の話であり、一般社会通念に照らし、公選法が禁止する選挙運動の対価と見るには、やや無理があります。

そういえば、今年7月の東京都知事選では明らかに事前運動を行った候補、戸別訪問を行った支持者らのように、明確で露骨な選挙違反が横行していましたが、その際にも新聞業界は選挙違反を堂々と指摘していたのでしょうか?

なんだか、「メディアが推す候補者の選挙違反には目をつぶる」、「そうでない候補者の行動については針小棒大にあげつらう」というのも、ダブル・スタンダードそのものです。

SNS規制論の本質はオールドメディア側の焦り

ただ、最近になってオールドメディアからSNS規制論などが飛び出してくる本当の理由とは、おそらくは、SNSのせいで選挙結果が歪められるからではなく、SNSのせいで世論誘導ができなくなっているから、といったところではないでしょうか?

これに関しては山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士が、こんな「デマツイート(?)」をしていたようです。

これが正しいかどうかは別として、新聞、テレビなどのオールドメディアが常に正しい情報を流していて、SNSが常に誤った情報を流している、といった決めつけは、このネット化した社会では通用しなくなりつつあることは間違いありません。

そして、オールドメディアから相次ぐ「SNS規制論」の本質は、急速に社会的影響力を失いつつあるオールドメディア側の焦りではないでしょうか?

その意味で、2024年は、オールドメディアとネットの社会的影響力の逆転を印象付ける「事件」が多く発生した年として、強く記憶されるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (23)

  • 注文書なり、納品書、請求書なり、領収書に対価の内訳が記載されているでしょうから、近いうちに真相は明らかになるでしょう。
    真面目に取材すれば容易にわかることですし、県警なら簡単に調べることができます。
    新聞、テレビの程度が知れる好例となるでしょうね。

  • 垂れ流すだけで事後の責任に無関心なマスコミ報道と、
    コミュニティーノートで「真偽が視える化した」SNS。

    *比べるまでもないよね。

  • 早速共同通信がやらかしましたね。本人に確認取材すらしていなかったという体たらく。
    国際問題を惹起しておきながら、小さな訂正お詫び記事だけで済むとでも本気で思っているのでしょうか?

    • 共同通信から記事の配信を受けている各紙も 報道時と同じスペースで 訂正と謝罪を!

  • 当該通信社のサイトには、私が探した限りではプレスリリースは見つからず。産経新聞のニュースサイトに載っている「発表全文」の検証できやしない。
    https://www.sankei.com/article/20241125-7JXSGDASYNJ4HK6EMJHQXE4Z7I/

    通信社のサイトに無ければこちらかと飛んでみた、よんななニュースとかいうサイト、11月23日付けの地元新聞社の記事は一応あたまだけ残っていましたが「記事全文を読む」を押しても続きは出てこない。記事の頭に外務政務官の画像を載せたのは何でだろう。事件事故の記事で警察署の建物画像を貼るのと同じノリなんだろうか。
    https://www.47news.jp/11808032.html

    • >靖国神社への国会議員の出入りを取材する過程で生稲氏が境内に入るのを見たとの報告がありましたが
      >当初の報告が見間違えだったと判断しました

      これって靖国神社の前で共同通信の記者が張り込んでるということ? ヒマだね。

  • 本日の朝日新聞によれば「共同通信が「外務政務官が靖国神社を参拝した」という捏造記事を書いたとして、謝罪、訂正した」とのことですが、これが共同通信ではなく、朝日新聞の捏造記事なら、朝日新聞はきちんと報道したでしょうか。
    蛇足ですが、共同通信自身は、外交問題に発展しかけない今回の件を、国内外に謝罪を拡散したのでしょうか。そして、そのための費用は誰が払うのでしょうか。(朝日新聞が、共同通信に全面謝罪広告を出すように求めたりして)
    今回の兵庫知事選でオールドメディアの記事の信頼性が問われているなか面子や社内での責任問題で、できれば有耶無耶にしたいのではないでしょうか。
    外交問題にもなりかねないので、「フェイクニュースだ」のトランプ次期大統領のアメリカでも、きちんと謝罪できるのでしょうか。(案外、トランプ次期大統領が喜んだりして)

    • 兵庫知事選でオールドメディアの信頼性が問われているなか、ワイドショーは、今回の共同通信の捏造記事の件を放送するのでしょうか。

    • アメリカでも左派系で虚偽報道が増えているそうです。
      >https://www.afpbb.com/articles/-/3550714?cx_part=top_category&cx_position=1

    • 毎度、ばかばかしいお話を。
      アメリカ:「リベラル派メディアが、トランプ次期大統領に発狂」
      日本:「オールドメディアが兵庫知事選で発狂」
      日米で同じでしょうか。

      • 同感です。人間誰しも現状に不満を感じるものですが 従来政権に其の不満が向けられていましたが どうもマスコミにミスリードされてきたと気づく人たちが増えてきたものと思っています。どうも政権そのものもマスコミを国民の意識を代表していると誤解している。名古屋市長選挙もドイツの政権崩壊も 民意を正確に捉えていない。サイレントマジョリティを無視してノイジーマイノリティー(≒マスコミ)に寄り添いすぎた結果と思っています。

    • 「2年前に当該議員が『参拝していない』と明言してくれれば今更こんなことにならなかった(別途炎上させたけどw)。我が通信社様が恥をかかされた。悪いのは当該議員!!当該外務政務官!!!!」程度の認識だったりして...

  •  一般論として、対立構造になると、「相手側の言うことは全て間違っている」「こちら側の言うことは全て正しい」という錯覚に陥りやすくなると、言われます。韓国の左右対立なぞは、その典型です。マスコミ含めて、ほぼ全ての事柄を、陣営対立の観点から、判断します。
     斉藤知事の問題を、「オールドマスコミVSネット」といった対立構造から、判断することには、反対します。あくまで公選法違反があったかどうか、です。
     その意味では、捜査の進展を見守りましょう。ただ、①PR会社の代表が自ら発信していること②ポスター印刷なら、印刷会社に発注すればよいこと③会社ぐるみであること、から相応の疑義が残るのは事実です。
     対立構造に誘導することは、個別事案の是非判断を、誤らせます。

    • 赤信号をみんなで渡っているときに、ある人だけ責めて、ある人のは無視するのは報道機関として正しいのか?

      がこの記事の主旨では?

      • CRUSHさま
        コメントありがとうございます。
        「赤信号をみんなで渡っている」=「みんなが公選法違反をしている」との趣旨でしょうが、必ずしもそうではないと思います。
        そして、みんなが渡っていようと、赤信号は渡ってはいけません。
        本件を、「マスコミの印象操作」と決めつけるのは、対立構造の弊害に陥っていると、私は考えます。
        いずれにしても、捜査の進展を待ちましょう。

        • 赤信号~は単なるアナロジーですから、別に僕も咎める重みは無いと考えています。

          ここでは、進展を待たずに意図的な悪意ある勇み足でメディアが報じてるから、新宿さんが記事にしてるのだと思いますが。

          なんでいつも、フェーズの次元でボタンがずれるのですかね。

          つか、誰のために言い訳弁護してるのか動機がよくわからないです。

          チョンボした奴は、かばいたてする必要はないでしょ。

  • オールドメディアがSNS規制を叫ぶ陰で自身もまたネット工作していたこともありませんでしたかね?
    桜ういろうとか

  • 例えばこのサイト。
    あるテーマに関していろいろなこと言う人、貴重なデータを引用してくれる人、全く違う視点からの意見を披露してくれる人がいるから読む気になる。
    オールドメディアにはそれがないね。
    EVに関して「日本は周回遅れ」という記事は嬉々として伝えるけど、今のEVの苦境をみて自分たちの報道が間違っていたとは決して言わない。

    • EVについてはホントそう
      ただ走るだけなら時速100km超も100年以上前にに(達成はたしか内燃機関直接駆動車より先だったような)クリアしてたがソノ当時からネックは“車載電源”だった
      使い勝手で液体燃料を超えるかセメテ並ぶくらいに到達しないと完全互換は無いと業界人は判ってたが政治的なイニシアチブ争いに丸乗りした報道のクソかったコト…
      物理的には車輪は内燃機関で直接駆動するより電動機で駆動する方がイロイロ良いコトが多いので長期的視点に立てば電動駆動がデフォルトになってくだろーがマダマダ技術的に過渡期、
      モリゾーのココまでの対応が一番現実的やったス

      • EVが100km/hを達成したのは19世紀ですね。
        当時の鉄道車両の速度については知識がありませんが、当時は動力飛行機は存在もしなかったので、少なくとも操縦者の意志で自由に向きを変えられる乗り物で100km/hを最初に達成したのはEVということになります。
        それを考えると、電池の性能の伸びは期待したものには程遠い状態ですね。
        トヨタ自動車の企業創始者である豊田佐吉が大正時代に出した蓄電池の懸賞で求めたスペック(100馬力を36時間継続)は、現在のリチウムイオン電池のエネルギー密度の2桁も上という話もあります。
        ちなみにその懸賞の賞金(100万円)は現在の価値で数百億円とも。

  • 昨晩のプライムニュースの冒頭で若狭弁護士登場でこの件を扱っていました。
    番組では斉藤知事のぶら下がり映像が流れていたんですが、取り囲んで質問(というか詰問)する記者達の雰囲気、私の受け取った印象としては「嬉しそう」でした。(youtubeダイジェスト版からはカットされてました)
    兵庫県知事選後のお通夜状態から公選法違反にのフェーズに移行した途端、マスコミは「嬉々として報じている」。そんな印象。(笑)

    個人的には中身はどうでもいいんですよね。公選法違反が明らかになれば厳正に対処してもらいたい。それだけですね。
    現時点で事実確認が曖昧なまま、また「公選法違反」の断定・心証形成報道をするようだと同じことの繰り返しになるんですけどね。(まあ多分、同じ過ちを繰り返す)
    若狭弁護士は司直が対応する可能性は高いとし、裁判になれば数年単位だと言ってました。そもそも起訴されないかもしれないし、結論が出ない間、ずーっと心証形成報道続けるんでしょうかね。(多分そうするんだろうな)

    • 「心証形成報道」
      素晴らしい表現ですね。直感的に理解できます。
      「印象操作」とか邪悪な感じが無くて品がある表現、裁判時の「心証形成」の対極にある「心証形成報道」と言う意味でも面白いです。

  • 会計士さんのご指摘は、私もそう思っていました。
    先日の日テレで、兵庫県知事選の言い訳を垂れ流した後、「SNSもパーフェクトではないということを肝に命じて利用すべきです」と、上から目線のアナウンサーからの発言がありました。
    もともと日テレは、読売グループ総帥の渡辺恒雄が、記者でありながら政治に関わるというスタンスでした。最近のSNSは、ナベツネにしてみれば、自らの権力が削がれる思いなのでしょう。

    ミヤネ屋の「マスコミの敗北」発言にしても、マスコミが反斉藤だったことを自白しているようなもの。新聞とテレビの資本を分離し、記者クラブを解散しないと、この国のマスコミはまともにならないでしょう。その前に新聞とテレビの絶滅が来そうですが。