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生活保護費を労働で稼ぐための必要年収を逆算してみた

一説によると生活保護費は(条件にもよりますが)最低でも13万円、事例によっては30万円を超えることもあるとの指摘があります。こうしたなか、当ウェブサイトでは以前から「年収と手取りの関係」を研究しているのですが、少し視点を変えて、「(非課税の)生活保護費と同額を(課税される)勤労収入で稼ぐために必要な年収はいくらか」、を考えてみたいと思います。ちなみに毎月の手取り30万円の場合、必要年収は標準ケースで642万円です。

年収1000万円の人は毎月100万円使える…わけではありません!

先日の『国民民主が開いたパンドラの箱…国民対財務省の戦い?』などでも取り上げたとおり、年収と手取りの関係には、注意が必要です。

たとえば「年収1000万円」と聞くと、「年間1000万円もらっている人だ」、という印象を持つかもしれません。年収1000万円が10年続けば1億円です。あるいはこの人が新卒から定年まで勤務する期間が40年だとすれば、毎年1000万円ずつもらえば生涯の収入は4億円、というカウントです。

あるいは逆に、「年収1000万円」の人は、毎月100万円近いおカネをもらっている人、というイメージを持つ人もいるでしょう(そもそも1000万円を12ヵ月で割ると約83万円であり、100万円にはならない、という点については、敢えて突っ込まないことにしましょう)。

世間一般の人が抱きがちな年収のイメージ
  • 年収*500万円…月収*50万円、生涯収入2億円
  • 年収1000万円…月収100万円、生涯収入4億円
  • 年収1500万円…月収150万円、生涯収入6億円
  • 年収2000万円…月収200万円、生涯収入8億円

非常に雑なイメージですが、年収2000万円もあれば、毎月200万円近く自由になるカネがあり、家賃30~50万円の家に住み、月給10万円でお手伝いさんを雇ったり、豪華な食事を楽しんだり、年に何回か家族で海外旅行に行けたりする、といった生活ぶりです。

ボーナスが年4ヵ月分の人は、月収は年収の16分の1

しかし、こうした理解は正しくありません。

多くの場合、「年収」と「月収」、「年手取り」と「月手取り」などには、大きなズレがあるからです。

当ウェブサイトの読者の皆さまのなかにも、会社や役所など組織で働いている(あるいは働いていた)という方はいらっしゃるのではないかと思いますが、多くの場合、これらの企業・役所では年2回、「ボーナス」が支給されます(期末手当、勤勉手当、賞与など、名称はさまざまです)。

もちろん、このボーナスの額は企業・役所によっても、また、業績などにい負っても変動するものと考えられますし、とくに若手の方などの場合だと、残業代などで「稼ぐ」と、月給がボーナスと等しくなる、というケースもあるようです(著者自身、監査法人勤務時代にそういうことがよくありました)。

ただ、議論を非常に単純化するために、先般より当ウェブサイトにて置いている前提が、こんなものです。

試算の前提①
  • この人の所得は給与所得のみであり、不動産所得、配当所得、利子所得、一時所得、雑所得などは発生していないものとする
  • ボーナスは年2回・2ヵ月分ずつ(つまり合計4ヵ月分)発生するものとし、毎月の給与に残業代などは発生しないものとする(つまり月収は年収の16分の1であるとする)

賞与は生活費とは別

こうした前提を置くと、年収と月収の関係は、次のように書き換える必要があります。

  • 年収*500万円→月収**312,500円
  • 年収1000万円→月収**625,000円
  • 年収1500万円→月収**937,500円
  • 年収2000万円→月収1,250,000円

年収500万円で月収は30万円ちょっと、年収1000万円でも月収だと60万円少々、というわけです。また、年収2000万円になれば月収は100万円を超えますが、この場合でも200万円どころか、それより遥かに低い125万円です。

どうしてこうなってしまうのかといえば、「賞与が4ヵ月分」という前提を置いているからです。

ということは、これらの年収以外にも、4ヵ月分の賞与が別にもらえる、ということですが、そもそも子育て世代などの場合、賞与は子供の教育ローン返済や住宅ローンの賞与弁済などに消えてしまうことも多く、また、財形貯蓄などで積み立てているというケースも多いでしょう。

給与天引き:社保、所得税、住民税

必然的に、この人はそれぞれの年収の範囲内で生活しなければならないわけですが、ここでもうひとつの罠が、給与天引きです。

先ほどの事例に、こういう前提条件を追加してみましょう。

試算の前提②
  • 年収約106万円を超えた場合には厚生年金・健保に加入するものとし、その際には政管健保(東京都)・令和6年4月以降納入分の料率が適用されるものとする
  • 所得税・住民税の控除は給与所得控除、社会保険控除に加え、本人に対する基礎控除のみが適用されるものとし、配偶者控除、扶養控除などについては考慮しない
  • 住民税は本来ならば前年の年所得を基礎として算出されるが、簡便のため、その年の年収を基礎として計算された額の12分の1が毎月の給与から特別徴収されるものとする

こうした前提条件を適用したうえで、年収階層別に毎月の給与所得のみの手取り額を試算してみると、こんな結果が出てきます。

年収階層別・給与部分のみの毎月の手取り額
  • *200万円→月手取り*99,718円
  • *300万円→月手取り145,728円
  • *400万円→月手取り191,713円
  • *500万円→月手取り237,259円
  • *600万円→月手取り282,095円
  • *700万円→月手取り324,768円
  • *800万円→月手取り366,788円
  • *900万円→月手取り405,181円
  • 1000万円→月手取り441,338円
  • 1100万円→月手取り479,725円
  • 1200万円→月手取り519,951円
  • 1300万円→月手取り559,636円
  • 1400万円→月手取り598,787円
  • 1500万円→月手取り636,376円
  • 1600万円→月手取り673,342円
  • 1700万円→月手取り710,154円
  • 1800万円→月手取り742,184円
  • 1900万円→月手取り772,694円
  • 2000万円→月手取り803,204円
  • 2100万円→月手取り833,715円
  • 2200万円→月手取り863,649円
  • 2300万円→月手取り896,559円
  • 2400万円→月手取り929,469円

(【注記】試算の前提①、②を参照)

なんとも、驚く話です。

しかも、この前提条件に基づく試算だと、毎月の手取りが100万円を超えるのは2700万円程度以降の話です。冒頭に示した、「年収2000万円で毎月200万円近いおカネが自由になるに違いない」、といったイメージとはかけ離れた値です。

その手取りに必要な年収はいくら?

もちろん、この試算は、かなりアバウトなものでもあります。

現実には、子供1人あたり毎月10,000円(3歳以上高校生年代まで、3歳未満は~15,000円、第3子以降は30,000円)の児童手当がもらえるため(しかも今年10月以降は所得制限がなくなりました)、お子様がいらっしゃれば、手取りは上記よりも少し増えます。

また、結婚されている方の場合、合計所得金額が1000万円以下であれば、配偶者の方の給与収入が年間103万円以下であるなどの条件を満たしている場合に配偶者控除を受けることができます(ほかに配偶者特別控除などもあります)。

このため、とくに年収が低い人に関しては、上記で示したものよりも多少、手取りが多くなることが考えられますのでご注意ください。

こうした点についてはとりあえず脇に置くとして、ここではもうひとつ、興味深い計算も示しておきましょう。

それは、「逆算して毎月の手取りがいくらになるためには、いくらの年収が必要か」、というものです。その結果が、これです。

月手取りと年収の対応表
  • 月手取り10万円以上→年収*202万円(月手取り100,683円)
  • 月手取り20万円以上→年収*420万円(月手取り200,837円)
  • 月手取り30万円以上→年収*644万円(月手取り300,998円)
  • 月手取り40万円以上→年収*888万円(月手取り400,762円)
  • 月手取り50万円以上→年収1152万円(月手取り500,572円)
  • 月手取り60万円以上→年収1405万円(月手取り600,725円)
  • 月手取り70万円以上→年収1674万円(月手取り700,668円)
  • 月手取り80万円以上→年収1992万円(月手取り800,764円)
  • 月手取り90万円以上→年収2313万円(月手取り900,838円)

(【注記】試算の前提①、②を参照)

つまり、「ボーナス4ヵ月分」などの前提の下で、毎月20万円以上の可処分所得が欲しければ、実際に必要な年収は240万円(=10万円×12ヵ月)ではなく、420万円だ、ということです。

生活保護費のイメージ

こうしたなかで、ちょっと考えておきたいのが、生活保護を受けた場合の実際の支給額です。

念のためお断りしておきますが、著者自身は「生活保護という制度など、廃止してしまえ」、などと主張するつもりはなく、必要な人が生活保護を受給することができる社会体制は必要だと考えている人間のひとりです。何らかの事情で働けなくなった人に対する生存権は、憲法が保障しているからです。

ただ、その受給可能な生活保護費を巡っては、普通に働いた場合と比べて、かなり異なっているのではないか、といった指摘があることも事実でしょう。

生活保護診断・生活保護受給者向け賃貸情報 ほゴリラ』というウェブサイトにある『生活保護で支給される金額は東京ではいくら?市区町村ごとに解説!』というページで調べてみると、たとえば東京都の場合、都心部の「1級地-1」という級地区分に該当する場合の保護費は、こんな具合だそうです。

東京23区内の生活保護費のイメージ
  • 1人世帯の場合…130,010円
  • 2人世帯の場合…187,490円
  • 母子家庭の場合…216,770円

(【出所】『生活保護で支給される金額は東京ではいくら?市区町村ごとに解説!』。ただし、詳細条件については同サイトを参照)

これにはもちろん、さまざまな適用条件もあるため、一律に上記の金額が適用されるというものではありません。

ただ、一般に生活保護費は非課税であり、国民年金の保険料も免除されるらしく(日本年金機構『国民年金保険料の法定免除制度』等参照)、医療費については医療扶助が受けられるため、健保についても被保険者から除外されます。

したがって、上記金額が認定された場合は、基本的にはこれららの金額そのまま可処分所得になると考えられます(ただし住宅扶助には条件があります)。

生活保護と同等の手取りに必要な年収

そして、生活保護によらず、同額以上の手取りを実現しようと思った場合の年収のイメージが、これです(試算条件は先ほどと同じです)。

生活保護の手取りを達成するために必要な年収
  • 月手取り13万円以上→年収268万円(月手取り130,818円)
  • 月手取り19万円以上→年収389万円(月手取り186,718円)
  • 月手取り22万円以上→年収454万円(月手取り216,308円)

(【注記】試算の前提①、②を参照)

また、ネット上では、条件によっては生活保護費が毎月30万円近くに達する、という事例もあると紹介されていますが、月手取り30万円以上を達成するために必要な年収は、なんと642万円です(そのときの月手取りは300,050円)。

この点、上記年収は「年間4ヵ月分のボーナスを含めた額」でもあるため、やや誇張されているのではないか、といった批判があることは間違いありません。しかし、生活保護の受給者は医療費が全面的にタダになることなど、通常の勤労者と比べて優遇を受けていることなども踏まえておく必要はあります。

いずれにせよ、「真面目に働いて社会保険料を納めて納税した人」の手取りが生活保護費のそれを下回るようなことがあってはなりません。

そして先の衆院選で国民民主党は「手取りを増やす」を合言葉に勢力を躍進させたことも、現在のわが国の税制や社会保障制度を巡り、年収と手取りの関係に疑問を感じている人が多いことの裏返しでもあるといえるのではないか、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (16)

  •  税金が高くて働く気力を無くした場合でも生活保護は受けられますでしょうか?

    • “生保ビジネス”業者間にカマしたらワンチャン在るンちゃいます?
      もっともほぼほぼ搾取されて終いな可能性高そうやけど
      ソーイヤ公安監視対象の某とかプロらしいでっせ!?
      知らんけど

      •  知り合いの共〇党員に相談してみます。

         冗談です。m(_ _)m.

         会社の若者に国民の3大義務は?と、問うてみました。
        食う。寝る。ヤル。だそうです。明るくて、とても良い子です。

  • こりゃあ、確かに働いたら負けかも

    と思う新入社員は大勢のいるだろう

  • 10年ほど前に亡くなった母親は、昭和30年代に本屋をやってた大正生まれの父親に嫁いで
    50年間ほど本屋を続け(途中で父親は死亡)、その間社会保険をかけ続けておりました。
    そして受け取っていた年金(国民年金)は一月6万5千円程度であったと記憶しております。
    隣家のおばさんは(別におばさんを非難するつもりはございません)は生活保護で1月13万円
    以上もらっておりました。父と共働きでこつこつと社会保険を支払ってきた母と「そんな制度(社会保険)は知らなかった」と言って一切、社会保険料を支払わなかった隣家のおばさん。なんだか、おかしくないですか?

  • そういえば、以前に母子加算のニュースが大きく燃えていましたね。

    給付支援を物価スライドさせるための原資は、ステルス増税(課税基準点の据置き)で賄れてたんだろうか?

  • これは今まで有りそうで見無かった情報ですね。ありがとうございます。
    この頃日本海の向こうの国では、政府にとって隠蔽したいであろうヤケクソ系の他人を書き込む事件が多発しています。もともと社会的弱者に対するセーフネットが脆弱なうえ、COVID-19抑え込みでの強制的社会活動抑制、監視行動、そして不況で鬱屈が溜まりすぎた為だろうと推察します。
    一方で日本。働かない人や外国籍人の味方である立憲民主党や共産党、れいわ新選組は、現システムでも不満があるようで、甘い汁を吸える対象者をより多く、更に汁の量も増やそうとしていると。
    でもこっそりと進めたいので、この種の自身にとって都合の悪い情報は絶対に拡散してほしくないでしょう。
    ブログ主様におかれましては、Xにて拡散くださること期待しております。

  • 都営アパートに住んで生活保護貰って、車に乗ってパチンコ三昧。
    ホントに身近にあった(まだ生きてる?)不公平な話です。

  • 生活保護費って、見方を変えると、

    町中にいるホームレスの数を減らして
    町中のごみを減らして
    無敵の人の発生を防いで
    治安の悪化を防ぐための費用

    ともとれるんですよね。

    どのくらいが適正な金額かは議論の余地があるでしょうが。

    • ついでに言うと、パチンコ屋は町中にたむろする無目的の変な人間を
      隔離しておいて治安を向上してくれる施設とも取れます。

      • 警察がパチンコの景品の買取りを黙認している理由なのかもしれません。

      • 当方の最寄り駅、ぱっとしない私鉄駅です。パチンコ屋が駅すぐに数軒固まって立っています。子供の時から半世紀以上ずっとです。そして今なお盛業中。
        パチンコ屋の裏手に赤い灯青い灯の看板を掲げる雑居ビルがぱらぱら建っていて、そこだけ局所的なスナック街を成している。景品交換所からは徒歩数十メートルの距離です。つまり、あぶく銭をゲットしたその夜たまたま幸運な人たちは、するっとそっちビルに吸い込まれて散在する経済圏が出来上がっているのでした。
        いつだったか、生活に苦労している母子家庭のまだ若い母親が言っていました。親は離婚しており、母親は遠くないところ暮らしている。娘は母親をひどく悪く言っていた。生活保護費を受け取る生活をしているのに無業を続けパチンコ屋通いをしていると。自分は子供ふたりを抱えてこんなにカネに困っているのに。とのことでした。

    • 私が生活保護を担当していた時(10年以上前)は
      ざっと200万世帯が受給し年間4兆円でした。

      うち半分が医療扶助(医療費のことで現物給付。つまり無料)なので
      世帯当たり生活扶助などが年間平均200万円くらい支給されていました。

  • 「おカネ配ります」議員
    「おカネ配ります」政党
    「おカネ配ります」総理大臣
    こんな連中を許しておいていいはずがありません。

  • 生活保護は金銭と言うのがダメ。
    パチンコ行ったり不正受給したりとなる。

    国民年金額と同じだけ現金にして、残りはお米券とか物と交換できる商品券とかにするべきだと思う。制度を見直すべきじゃないかな。

  • 国民民主の基礎控除上げの根拠は生存権で、物差しとして最低賃金を持ち込んでいますが生活保護費も同じ生存権ベースの数値ですよね。
    そもそも年間103万円では文化的で最低限の生活を営むのはムリです。
    生活保護費受給世帯よりも収入の少ない世帯に課税をするべきかどうか。こっちも物差しの一つになりそうな気がしますね。

    生活保護の受給世帯は5割強が65歳以上なのだそうです。下の資料によると高齢者の生活保護世帯は90年代半ばから上昇の一途です。増加に転じたのが生産年齢人口のピークアウトと同時期なので、退職→生活保護のケースが増えてんでしょうかね。
    もう一つ、立憲共産公明が給付金を配りたがる住民税非課税世帯。住民税非課税世帯の8割は高齢世帯だそうです(下の資料から読み取れるらしいですが裏取りしていません)。住民税非課税の高齢世帯には収入ないけど資産持ちがいると聞いたことがありますが、この辺調べるとわかるかもしれませんね。

    厚労省:生活保護制度の現状について
    https://www.mhlw.go.jp/content/12002000/000977977.pdf?utm_source=chatgpt.com

    厚労省:国民生活基礎調査の概況
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa23/index.html