X

毎月の手取り額から見る「生活実態と合致しない年収」

年収400万円なら、191,713円。年収500万円なら、237,259円。そして年収600万円ならば282,095円―――。これは何の数値かといえば、額面年収と毎月の生活実感の対応です。多くの会社・役所では、ボーナスは年4ヵ月分程度支給されているはずです。ボーナスはいざというときのために取っておくという人が多いと考えられるなか、多くの人は年収を16で割り、社保や所得税・住民税を差し引いた月手取りベースで生活しているのではないかと思います。こうした実態に照らすと、住民税非課税世帯などに偏重した支援は、多くの勤労世帯の反発を買う可能性が濃厚です。

額面と手取りの関係

先日の『年収一千万はおカネ持ちなのか?』を含め、以前から当ウェブサイトにおいてしばしば指摘している通り、年収1000万円の層は、じつは私たちが思っているほどリッチではない、という可能性が高そうです。

というのも、年収1000万円の人にとっての手取りは(試算条件にもよりますが)下記の「試算の前提(現行の手取り額)に従った場合、ここから社保(厚年、健保、介護、雇用)と税金(所得、復興、住民)を差し引くと、手取りは7,182,475円(71.82%)になってしまうからです。

試算の前提(現行の手取り額)
  • 被用者は40歳以上で東京都内に居住し、東京都内の企業に勤務しているものとし、給与所得以外に課税される所得はなく、また、ボーナスはないものとし、月給は年収を単純に12で割った値とし、配偶者控除、扶養控除、ふるさと納税、生命保険料控除、配当控除、住宅ローン控除などは一切勘案しない
  • 年収を12で割った額が88,000円以上の場合、厚年、健保、介護保険に加入するものとし、その場合は東京都内の政管健保の令和6年3月分以降の料率を使用するものとする(ただし計算の都合上、端数処理などで現実の数値と合致しない可能性がある)
  • 雇用保険の料率は1000分の6とし、「社保」とは厚年、健保、介護保険、雇用保険の従業員負担分合計、税金とは所得税、復興税、住民税の合計とし、住民税の均等割は5,000円、所得割は10%とする
  • 本来、住民税の所得割は前年の確定所得に基づき翌年6月以降に課税されるが、本稿では当年の所得に連動するものと仮定する
  • 基礎控除は合計所得金額が2400万円までの場合、所得税が48万円、住民税が43万円とし、以降2450万円まで、2500万円まででそれぞれ基礎控除が逓減し、2500万円超の場合はゼロとする

年収と手取りの関係図(再掲)

これについては『【資料集】給与の年収と手取りの関係表(1億円まで)』において、ある程度は精緻な試算をお示ししていますが、ダイジェスト版にしておくと、こんな具合です(図表1)。

図表1-1 年収と手取りの関係図(ダイジェスト版、~1000万円)
年収 社保 税金 手取り額
100万円 6,000円 6,400円 987,600円(98.76%)
200万円 310,800円 89,936円 1,599,264円(79.96%)
300万円 466,200円 172,197円 2,361,603円(78.72%)
400万円 621,600円 260,501円 3,117,899円(77.95%)
500万円 777,000円 375,889円 3,847,111円(76.94%)
600万円 932,400円 506,162円 4,561,438円(76.02%)
700万円 1,087,800円 678,438円 5,233,762円(74.77%)
800万円 1,224,900円 910,512円 5,864,588円(73.31%)
900万円 1,288,800円 1,180,064円 6,531,136円(72.57%)
1000万円 1,352,700円 1,464,825円 7,182,475円(71.82%)
図表1-2 年収と手取りの関係図(ダイジェスト版、~1000万円)
年収 社保 税金 手取り額
1100万円 1,416,600円 1,755,817円 7,827,583円(71.16%)
1200万円 1,480,500円 2,069,251円 8,450,249円(70.42%)
1300万円 1,544,400円 2,385,299円 9,070,301円(69.77%)
1400万円 1,608,300円 2,794,310円 9,597,390円(68.55%)
1500万円 1,672,200円 3,203,320円 10,124,480円(67.50%)
1600万円 1,736,100円 3,612,330円 10,651,570円(66.57%)
1700万円 1,781,472円 4,029,436円 11,189,092円(65.82%)
1800万円 1,787,472円 4,463,744円 11,748,784円(65.27%)
1900万円 1,793,472円 4,898,052円 12,308,476円(64.78%)
2000万円 1,799,472円 5,332,361円 12,868,167円(64.34%)

(【注記】試算方法は上記「試算の前提(現行の手取り額)」参照)

これについてはお住まいの場所、勤務地、お勤め先の企業の年金や加入する健保、被用者の年齢、扶養人数などにより年収と手取りの関係は変わってきますが、一番ベーシックなパターンとしては、だいたい上記の通りと考えておけば良いでしょう。

驚くのは、年収1000万円の部分だけではありません。

たとえば、年収2000万円の場合は手取り額が12,868,167円で、手取り率(手取り額÷年収)は64.34%、すなわち約35%が税金や公的保険で持っていかれてしまっている、という点です。

社保会社負担という「見えない負担金」

そして、もうひとつ指摘しておきたいのが、サラリーマンの「社保会社負担」という論点です。

厚年資金を国民年金に「活用」?「流用」の間違いです』でも指摘しましたが、これはあくまでも従業員から「目に見える」部分の負担に過ぎず、現実には厚年、健保、介護、雇用の4つの保険には事業主負担分も隠れています。

このため、年収1000万円の人に実際に会社が支払っている広い意味での人件費(給与+社保の会社負担分)は1000万円ではなく1139万円であり、この人の手取り7,182,475円は、この1139万円に対して63.07%に過ぎないのです。

同様に、年収2000万円になると会社の負担額は2187万円ですので、この人の実質的な人件費2180万円に対する手取り12,868,167円の割合は、なんと58.84%にまで下がります。

社保会社負担分を含めた実質的な年収と手取りの関係も示しておきましょう(図表2)。

図表2-1 年収と手取りの関係図(ダイジェスト版、~1000万円:社保の会社負担分を含める場合)
実質年収 実質社保 税金 手取り額
101万円 15,500円 6,400円 987,600円(97.83%)
232万円 628,600円 89,936円 1,599,264円(69.00%)
348万円 942,900円 172,197円 2,361,603円(67.93%)
464万円 1,257,200円 260,501円 3,117,899円(67.26%)
579万円 1,571,500円 375,889円 3,847,111円(66.39%)
695万円 1,885,800円 506,162円 4,561,438円(65.60%)
811万円 2,200,100円 678,438円 5,233,762円(64.52%)
925万円 2,477,800円 910,512円 5,864,588円(63.38%)
1032万円 2,609,100円 1,180,064円 6,531,136円(63.28%)
1139万円 2,740,400円 1,464,825円 7,182,475円(63.07%)
図表2-2 年収と手取りの関係図(ダイジェスト版、~2000万円:社保の会社負担分を含める場合)
実質年収 実質社保 税金 手取り額
1246万円 2,871,700円 1,755,817円 7,827,583円(62.85%)
1352万円 3,003,000円 2,069,251円 8,450,249円(62.49%)
1459万円 3,134,300円 2,385,299円 9,070,301円(62.17%)
1566万円 3,265,600円 2,794,310円 9,597,390円(61.30%)
1672万円 3,396,900円 3,203,320円 10,124,480円(60.54%)
1779万円 3,528,200円 3,612,330円 10,651,570円(59.87%)
1884万円 3,622,444円 4,029,436円 11,189,092円(59.39%)
1985万円 3,637,944円 4,463,744円 11,748,784円(59.19%)
2086万円 3,653,444円 4,898,052円 12,308,476円(59.01%)
2187万円 3,668,944円 5,332,361円 12,868,167円(58.84%)

(【注記】試算方法は上記「試算の前提(現行の手取り額)」参照)

このように考えていくと、サラリーマン諸氏はもっと怒って良いのではないか、という気がしてなりません。

年収と月収、そして「月手取り」の関係

さて、それはともかくとして、本稿では年収と手取りの関係を、もう少し精緻に把握してみたいと思います。

多くの企業・役所では、毎月の給料は年収の12分の1ではなく、16分の1、17分の1といった具合に、単純に12で割った数値よりも少なくなる傾向があるはずです。その理由は簡単で、多くの職場では賞与やボーナス、期末手当などと呼ばれる臨時賞与があるからです(呼び方は職場により異なります)。

ここで、月額給与が年収の16分の1である(つまり年2回、給料の2ヵ月分の賞与がある)、という事例だと、年収と月給の関係は、また少し変わってきます。

これを示したものが、次の図表3です。

図表3 年収と月給と月手取りの対応表
年収 月給 月手取り 月手取り率
200万円 125,000円 99,718円 79.77%
400万円 250,000円 191,713円 76.69%
600万円 375,000円 282,095円 75.23%
800万円 500,000円 366,788円 73.36%
1000万円 625,000円 441,338円 70.61%
1200万円 750,000円 519,951円 69.33%
1400万円 875,000円 598,787円 68.43%
1600万円 1,000,000円 673,342円 67.33%
1800万円 1,125,000円 742,184円 65.97%
2000万円 1,250,000円 803,204円 64.26%

(【注記】試算方法は上記「試算の前提(現行の手取り額)」に加え、所得税については月額甲欄を適用するものとし、住民税特別徴収税額についてはその年収に対応する金額を単純に12で割った数値とする)

年収400万円でも生活はカツカツ

これまた、なかなかに強烈な図表が出来上がりました。

年収400万円の人は、毎月の額面給料が25万円、手取りは191,713円です東京都内で独り暮らしをしている若い人で年収400~500万円、という人も多いかもしれませんが、東京の家賃の高さ、生活費の高さなどを踏まえると、年収400万円でも生活は案外カツカツです。

また、年収600万円の層でも毎月の手取りは30万円に満たず、800万円でようやく366,788円、1000万円でも441,338円です。年収2000万円の人に至ってすら、手取りが803,204円と、100万円の水準に届かないわけです。

もちろん、この図表3は、あくまでも「毎年2回、月給の2ヵ月分のボーナスをもらう」という前提が付されたものですので、年収が本当にこれっきり、というわけではありません。とくに合計所得金額が1000万円以下の既婚者であれば、条件によって配偶者控除が適用されることもあるからです。

ただ、私たち日本人の感覚からすれば、ボーナスはなにか特別な支出に備えるためにとっておく、あるいは財産形成のための原資にする、といった使い方をするケースが多いのではないでしょうか(もちろん、なかにはパーッと使ってしまう、という人もいるかもしれませんが…)。

そうなると必然的に、この月給の範囲で生活する、ということとならざるを得ず、したがって、「年収」と「生活実感」はまったくリンクしないものとなりがちなのです。

野党議員「年収500~600万への減税はやり過ぎ」

こうしたなかで、とあるインターネット番組で、某最大野党の某議員の方が、こんな趣旨の発言をされていました。

年収500万円、600万円という人たちを減税するのはやり過ぎじゃないか」。

この発言が確認できる動画、著作権の問題で当ウェブサイトに転載して良いのかどうか、すこし判断が微妙ですので、とりあえず本稿の段階ではリンクは紹介しません。

ただ、(賞与を別とすれば)年収500万円の人の毎月の手取りは237,259円ですし、年収600万円でも毎月の手取りは282,095円に過ぎないわけですから、こうした層の人たちが年間10万円なり、20万円なりと減税されれば、手取りは大きく増えます。

やはり「年収500~600万円の層に減税をするのはやり過ぎ」という発言が出てきてしまうのは、野党議員がこのような生活実感を持っていないからこそ、なのかもしれません(あるいは単純に有権者との対話が足りていないだけでしょうか)。

参院選で自民と立民「ダブル敗北」も!?

なにより、著者自身が危惧するのは、最近相次いで出て来ている、「低所得層」ないし「住民税非課税世帯」というパワーワードに対し、反感を覚える人が増えてしまわないか、という点です。

最近になって、この「低所得層」や「住民税非課税世帯」に対する優遇措置として、おカネを配るだの、各種支援を行うだのといった報道が相次いでいるのですが、ここまで「103万円の壁」が話題となる中で、これらの政策は勤労世帯、中間層に対し、強い反発をもたらす可能性があります。

下手をすると来年夏の参院選では、今回の衆院選に続いて自民党が再び惨敗することにもなりかねませんし、低所得者層への給付を同様に叫び続けている立憲民主党も同様に、議席を減らす可能性を考えておくべきでしょう。

なにせ、参議院議員通常選挙は、衆議院議員総選挙とは仕組みが全く異なるからです。

改選議席が1議席である一人区については衆院の小選挙区と似ていますが、全国で32区しか存在せず、選挙区の42議席は中選挙区であり、また、比例代表に50議席が配分されていて、しかも比例は衆院と違って重複立候補の仕組みもなく、全国区かつ非拘束名簿方式です。

とりわけ比例代表では、全国に基盤を持つとは限らない少数政党(たとえば国民民主党)が「風」を得て一気に議席を増やす可能性がある、というのが衆議院との大きな違いであり、その分、減税を巡るスタンス次第では、比例で自民、立憲民主両党が議席を大きく減らすという可能性も否定できないでしょう。

とりわけ立憲民主党に関しては、かつてとは異なり、もうマスコミが全面的に守ってくれる時代ではないことを知るべきでしょう。X(旧ツイッター)などのSNS上でここまで財務省が炎上している姿を見せつけられると、財務省や特定野党を擁護し続けて来たマスコミの社会的影響力の低下は明らかだからです。

その意味では、まずは各政党ともに、年収に応じた生活実感を、もういちどちゃんと学び直した方が良いのではないか、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (7)

  •  財務官僚もサラリーマンなのに。何故、増税したがるのか?自身の為?
    ご子息は皆、財務官僚になるのですか?

     私利、私欲の為に民を苦しめてはいけません!

     生意気言ってすみません。m(_ _)m

     

    • 国民皆「今だけ、金だけ、自分だけ」精神に堕落して来ているのだと思います、だからGDP30年間上がらなくても、物価高で苦しんで居ても、注意深く見守ってるだけ(多分能力が無い)で給料貰えるからだと思います。
      >私利、私欲の為に民を苦しめてはいけません!
      上位の者が下位の者から搾取する事は世の常じゃぁ無いですかね。

  • >「年収500~600万円の層に減税をするのはやり過ぎ」という発言

    独身ならそうかもしれないけど、子供がいて年収500~600万円の層はキツイだろうね。

  • もう現役世代のこれ以上の負担は無理ですよ。
    月1万円昇給しても手取り2千円くらいしか増えない。

    今までは給料から自動に引かれてて、納税についてあまり意識して無かったけれど、これだけ情報が多様化すれば、当然この理不尽さに気付く若者が増えると思います。いや、マジで若者は暴動起こすレベルまで搾取されていると思いますよ。

    そんな中、非課税世帯に給付でお茶を濁すとかホント舐めてますよね。
    別に非課税に給付してもいいけれど、減税はきっちりやれって感じです。

  • >最近になって、この「低所得層」や「住民税非課税世帯」に対する優遇措置として、おカネを配るだの、各種支援を行うだのといった報道が相次いでいる

    これって、政権与党が率先して、「働いたら負け」って煽ってますよね。まさに、

    >これらの政策は勤労世帯、中間層に対し、強い反発をもたらす可能性があります。

    ということで、「なんで億万長者でもない俺たちが必死で働いて稼いで納めた税金が、稼ぎがない奴の食い扶持に回ってんだよ」っていう怒りに直結する話だと思います。

    憲法にも確か、「勤労の義務」っていうのがあったと思います(すみませんが本当にうろ覚えで申し訳ございません。)。「稼ぎがなくても恩恵に授かれる」というインセンティブより、「働いて稼いだら稼いだだけ恩恵に授かれる」というインセンティブを設けた方が、憲法の趣旨にも合致するように思います。
    (無論、億万長者並みに稼ぐ人に対しては、それなりに社会貢献しましょうよということで、税金を多めにとるのは妥当だと思います。)

    「低所得層」や「住民税非課税世帯」に対する優遇措置を考える前に、彼らがちゃんと働いて稼げる方向に誘導してやるのが本来の姿なんじゃないかなぁと思います。

    • 国民の三大義務(こくみんのさんだいぎむ)とは、日本国憲法に定められた「教育の義務(26条2項)」「勤労の義務(27条1項)」「納税の義務(30条)」の日本国民の3つの義務を指す

  • なんでみんな、そんなに「逆累進」に大騒ぎするのかなあ。

    もともと払わなくてよい人が、物価スライドを適用してないから壁を越えて払わせられてるのと同じで、
    もともと払わなくてよい税率の人が、物価スライドを適用してないから、より高い税率で無駄に余計に払わせられてる訳なのに。

    納税してない人に恩恵無いじゃん、てのはもうすでに最低賃金や生活保護は物価スライドを適用されてる気がするんですけど。

    どちらにしても、トレードオフでどちらか選ぶ話やなくて、必要ならどちらもやればエエ話なので、反対する理由になってない。

    とにかく反論してくる人たちの言い分がおしなべて
    「ロジックが雑」
    ですねえ。

    「しまった、バレちゃう」
    という付け焼き刃にしか見えないんですわ。